一応今回の投稿を持って、今作は一旦終了です。
とはいえ、Wがフォーマットとしてメチャクチャ優秀なので、話思い付いたらまた投稿すると思います
毎回、誤字脱字の指摘、感想・批評ありがとうございます。
浅い川の岸辺をガサガサしている芹沢あさひ。辺りにカメラやスタッフの姿はなく、ポータブルチェアに座る黛冬優子と和泉愛依の姿があるだけ。その2人も楽しそうにしているあさひを呆れと苦笑を交えながら見守っているだけで、カメラを回していない。それはつまりこれが仕事ではなく、純然たる趣味であることを示している。
ガサガサしては網を引き上げ、何か面白いものが入っていないかと覗き込む。因みに生き物に限った話ではなく、本当に何か面白いものが入っていないかと期待していた。
「何に影響されたのか知らないけど、折角の休日に何やってるのかしらね冬は」
「ここ最近動画サイトでこういうのばっか見てるみたいだよ」
「何が面白いのか、全く理解できないわ……」
「まあ流石にうちも分からないかな」
しかし理解できずとも、あさひの行動を否定しないことが彼女らの人柄を示していた。
網に掛かっている生き物を2人に見せては何て虫っすかと眼前に掲げられ、逃げ回る2人。午前中いっぱいをそんな男子校生みたいなノリで過ごした3人。
浅いとは言え水の中を歩き続けたあさひも流石に疲れたのか、このガサガサで終わりにすると言った。そして網を引き上げると、奇妙な物体が入っていることにすぐ気がついた。
それは凝った装飾の直方体。表面にはGのアルファベット、下部にはコネクタが付いている。近似の物としてすぐにUSBメモリが思い浮かぶが、それにしては随分と大きかった。
「……」
機械ものが長時間水に浸かっていれば壊れて当たり前であり、そうでなくとも拾ったメモリをPCに挿そうとは流石に思えない。褒められたことではないが、また捨てればいい。それだけのはずなのに。縫い付けられたように、そのメモリから目が離れなかった。
「あさひー。もう帰るんでしょ」
「ーー! あ、置いてかない欲しいっす!」
帰路に着こうとしていた冬優子に声を掛けられ、慌てて岸に上がる。手に持ったメモリを無意識に網にしまい込んで。
・
「あ、円香ちゃん!」
数日後。事務所にて円香を見つけたあさひは珍しく自ら絡みにいった。今まであいさつこそすれど、自発的に話に行くことはなく、完全に油断していた2人は何か失礼をしないかと焦る。
「……円香ちゃん仮面ライダーに会ったってホントっすか?」
周囲を頻りに気にしながら、声のボリュームを落とし手を口に添えて尋ねた。
円香自身が、怖い目にあった訳ではなく精神的な不調もありませんから、と言い、実際検査入院以外で仕事に穴を開けたことはないが、流石に詳細を聞こうとする者はいなかった。
そんな地雷かどうか判断できない話題提供に、2人は慌てて口を塞ごうとする。
「会ったよ。黒いのと赤いのに」
「え、仮面ライダーって2色じゃないんすか」
「使い分けてるんだって」
「どんな人だったすか」
「……カッコ付けたがりで痩せ我慢する人。バレても素知らぬ顔するし、それが男の美学だって言うようなタイプ」
意外にも全く意に介さず話し始めたので、本当に何ともなかったんだと安心した矢先、中の人への評論で湿気を感知。あさひは気付いていないが、冬優子と愛依は彼女の中にある割と重めな感情に気付いていた。深掘りすると面倒なことになるぞ、とも。
「ほらあさひちゃん。レッスンもあるし、樋口さんにも予定があるんだから行くわよ」
「えー必殺技とかもうちょっと聞きたいっす」
「また時間のある時にね。ほらいこ」
背負っているカバンを引っ張られ強引に連れて行かれるあさひ。ようやく観念したのか、バイバイと手を振って振り返る。その時、冬優子に引っ張られて開いた口から、目を疑うものが見えた。
素人の自分が今ここで問い詰めるのはただの愚行でしかない。携帯を取り出し、履歴から彼に連絡を取る。
・
「うーん」
「何1人で睨めっこしてるのよ」
「黒1色の仮面ライダーの画像が出てこないっす」
「あっそう」
「確かにいるってのはSNSでも見たことあるけど、写真はないよね。どんな感じなんだろ」
夕日に照らされ伸びる影を、誰かが踏んだ。
「そこのあなた」
前方からの声掛けに、3人は足を止める。パンツスーツに身を包んだ女性がいた。一見すればただのキャリアウーマンだが、芸能界に住む3人だから子そ彼女の内にある強烈な自信と野心に気付いた。
「あなた、こういうもの持ってないかしら」
指差されたあさひは、彼女がもう一方の手に持っている物体を見て、すぐに思い至った。
「この間川で拾ったやつ! あれ、でもその後どうしたっけ」
「今も持ってると思うわ」
再び捨てたのか拾ったのか判然としないが、学校用のカバンに入れていないことだけは確かだ。しかし何故かあるかもしれないという、不安と確信めいたものがあった。口を開くと、真っ先にそれが目に入った。
「あの、うちのあさひが勝手に持っていってしまったなら謝罪します。申し訳ありません」
冬優子が即座に深いお辞儀と共に謝罪の言葉を口にした。
「いいえ、怒ってるわけではないの。むしろ拾ってくれたことにお礼を言いたいの。だってそれは相手を選ぶから」
窃盗だと難癖付けられるよりヤバい状況は、年長者とはいえ未成年である冬優子のキャパを容易くオーバーした。
「ねえ。付いて来てくれないかしら」
「ふ、冬優子ちゃん……」
掴まれた袖から伝わる震えが、年長者としての意地を奮い立たせた。
「申し訳ありませんけど付いていく理由がありません。こちらはお返ししますので、お引き取りお願いします」
真っ向からの拒絶に、女は少しキョトンとした顔をすると突然笑い始めた。口元を手で隠しているが、人を徹底的にバカにする嘲笑に品性はない。
「ごめんなさいね。これはお願いじゃないの。ついて来いって言ってるの」
フィンガースナップの音と共に5人の黒服の男が現れた。
ーーマスカレイド!
黒い皮膚。口から頸まで伸びる体節の骨に添えられる節足の骨。マスカレイド・ドーパント。
「お、お化けっす!」
「逃げるわよ!」
咄嗟に細い路地に逃げ込んだのは英断と言えるだろう。3人とMドーパントでは体格が大きく異なり、Mドーパントではスムーズに走ることが難しかった。
路地を抜けるが、遠回りしたはずのMドーパントが姿を見せたことで僅かな息継ぎさえできずにまた走り出す。どこに逃げればいいのかなど、全く考えていない。否、考えることさえできない。取り敢えず人気のあるところまで逃げなくては。
「冬優子ちゃん! 何か、何か横にいる!」
言われた瞬間に、視界の隅の存在に気付く。確認するよりも先にそれは眼前に移動した。
「空飛ぶ機械の、クワガタ??」
それは何度も冬優子の周りをグルグルと回り自身を認識させると、少し先行しては振り返るを繰り返す。
「ついて来いって言ってるっす!」
背後から来る明確な害意か、目の前の正体不明の物体か。
「ええい! 行ってやろうじゃない! アンタ達気合い入れなさいよ!」
ヒールが高く、走ることに適していない靴を脱ぎ捨て、愛依とあさひの手を取る。必ず逃げ切ってみせる。恐怖を闘志で上書きし、走る。
しかしどれだけ気合を入れようと、身体能力の差は子供と成人男性の比ではない。1分近く逃げ続けたことは殊勲ものである。
「あう!」
「あさひ!」
「あさひちゃん!」
足が縺れたあさひが転倒。一度止まってしまえば、体が疲労を認識してしまう。ライブ後にも感じたことのない疲労感に、上体を持ち上げることさえ億劫になっている。しかしそれでも必死に顔を持ち上げ口を開く。
「2人とも、逃げて……くださいっす」
逃げて助けを呼ぶべきなのか。いや警察に言ってどうにかなるのか。そもそも逃げられるのか。
様々な言葉が冬優子の脳裏を一瞬で駆け抜けていった。しかしそれらは彼女の行動に何ら影響を与えなかった。
「ちゅー坊が何言ってんのよ」
「見捨てて逃げられるわけないじゃん」
だが現実として、動けないあさひを抱え逃げ切ることはできない。既に彼我の距離は5mを切っている。
「2人とも……わたしのせいで、ごめんなさいっす」
ドーパントが足を緩める。恐怖心を煽るようにゆっくりと2体のMドーパントが近付く。手子摺らされたことへの意趣返し。しかしその余裕が自らの破滅を招き寄せた。
獣の咆哮のようなエキゾースト音を知覚した瞬間、Mドーパントは文字通り撥ね飛ばされた。
「3人とも無事か?」
「こ、今度はだれ」
「そいつの飼い主さ。遅くなっちまって悪かった。そこで待ってろ」
ーージョーカー!
「変身!」
黒いボディ。真っ赤な眼。
「1色の仮面ライダー!!」
疲労を加速させる興奮具合のあさひが指差しながら言う。
「仮面ライダージョーカーだ」
撥ねられたMドーパントが立て直し、5人がジリジリと距離を詰め始める。
「お前らどこの連中だ? まあ聞いても答えちゃくれねえか!」
地面を蹴り一息に間合いを詰め、勢いのままに順突きを胴体に叩き込む。
右からの拳を払い落とし、同時に左横蹴り。もう1体を巻き込みながら吹き飛ぶ。
上段順突き、鉤突き、中段膝蹴りと高さを散らした攻撃が連続で放たれる。
順突きを手のひらで流し、肘を軸に回転させ相手の二の腕を叩き鉤突きを止め、膝蹴りに膝蹴りをぶつけ押し勝つ。バランスを崩したところに、下突きを叩き込み、浮き上がった体を更に殴り飛ばす。
「うしろ!」
上体を下げると同時に後ろ蹴りを放つ。息を詰まらせ、動きが止まったMドーパントを容赦のない上段回し蹴りが襲う。地面をバウンドし動かなくなる。その後ろに控えていたもう1体が攻撃の終わりを狙い距離を詰めるが、ジョーカーは片足だけで跳躍、背後に回り込む。落下速度を加えた肘の下ろし打ち。
「助かったぜ」
「おお〜。今わたし仮面ライダーのお手伝いしてるっす!」
「アンタねえ……」
あまりに一方的な展開にいつもの調子を取り戻しているあさひに少し呆れるが、それは冬優子も同じであり、それ以上咎めることはできなかった。
5体でさえ一方的な展開だったのだ。数が減れば減るほどそれは加速する。
「あっという間に倒しちゃった……」
「さて、と。お嬢ちゃん、えーと芹沢あさひ。まず持ってるガイアメモリを渡してくれ」
ジョーカーの言葉で事の発端を思い出す2人。ガイアメモリ犯罪。そう、ガイアメモリの使用は犯罪なのだ。
「ちょちょちょっと待ってください! この子がガイアメモリを持ってるのは何かの間違いで!」
「そうです! こんなのを誰かから買ったり使ったりなんて絶対にしない子なんです!」
「あー待て待て。俺もその子が使ってないことは分かる。フィルターなしに使えば、普通はまともじゃいられない。ガイアメモリの厄介な所はな」
「適合率の高い者と惹かれ合う。そのメモリはあなたを選んだの。そのメモリは気難しくて、起動さえできなかったの。だからいやでも協力してもらうわ」
女が環状の機械を取り出し、それに腕を通す。配線や基盤が剥き出しで、ハンドメイドの未完成品であることが分かる。その中で最も目を引くものは、周囲に配置された3つのスロット。
「……!! まさか?!」
言うや否や走り出すジョーカー。
「流石は仮面ライダー。だが遅い」
ーーパワー!
ーーストレングス!
メモリから解放され、女の周囲を暴風のように渦巻くエネルギーが、内部から歪な剛腕に振り払われた。
「な、何よあれ」
「ひっ」
「や、やばいってあれ……」
力と言う概念を突き詰めた、あまりに醜悪な姿。肥大化し、破壊の権化となった筋肉。筋繊維1つ1つが邪悪な意志を持っているように、不気味に蠢いていた。
「パワーとストレングスを併せ持つドーパント。そうね、ツイン・ドーパントと名乗らせてもらおうかしら」
「逃げろ!!」
「これからはガイアメモリの2本挿しは仮面ライダーの専売特許じゃなくなるのよ!」
地面に手を突き刺し、地面そのものを投げ飛ばす。回避はできない。それが敵の狙いだと理解しつつ、殴り砕く。その向こうにいるドーパント。一撃必殺の拳が粉塵を掻き消しながら迫る。食らうまでもなく、圧倒的なスピードと威力を持つと分かる。
メモリにより神経を走るパルスは極限にまで加速し、体を叩き、視界の中で舞い、拳に砕かれる礫の1つ1つを認識させる。
眼前に迫る拳に対し、敢えて飛び込む。空気を殴る音に圧倒的な威力を感じながらも、それを回避。
互いに背を向けながら、そこにいる敵を確実に認識している。振り返る最中、視線が交錯する。
裏拳を跳躍で回避、頭部へ回し蹴り。分厚いゴムを叩いたような感触。打撃でマトモなダメージを入れることは不可能と判断。掴まる前に足を引き、離脱。
追撃。外見とは裏腹な速度。ガードした腕の上からでも響く胴体に威力。非常に厄介なドーパントだ。ユーザーに格闘術の覚えがないことが不幸中の幸いか。
空気を殴り飛ばすように唸る剛腕を避け、脇腹に下突き。脇腹には筋肉が付きにくい、という人体の特徴を期待しての攻撃だがやはりそこも分厚い肉の鎧を覆われていた。
反撃の裏拳。上体を限界までバックスウェーさせながら、軸足の膝裏を蹴り、刈り取ろうとするが、尋常ではない膂力で耐えられる。深く蹴り込んだ分戻すのに時間が掛かり、その僅かな時間が相手にチャンスを与える。
迫る拳を回避できないと判断し、後方を跳躍。加えて両腕のクロスガードをして尚、ジョーカーを10m近く吹き飛ばした。地面を削り、車に激突しようやく止まる。
揺れる視界の中、跳躍するT・ドーパントを見た。上空より振り下ろされるダブルスレッジハンマー。紙一重で回避こそするが、ひしゃげ圧壊していく車体はジョーカーを巻き込み爆発を起こした。
爆発そのものによるダメージはないが、首を絞められ地面に押し付けられ窮地にいた。顔を握り潰そうと迫る手を両腕で抑えているが、力の差は歴然であり、徐々に押し込まれていた。
「終わりだ仮面ライダー! ーーっ何?!」
間一髪! ジョーカーの脳波を検知したハードボイルダーに、時速400kmの速度で撥ね飛ばされるドーパント。
どうにか仕切り直した、と考えた直後、背後より悲鳴が上がる。
「マスカレード! まだいたのか!」
走る。幸い1人だけだ。あさひを掴む腕を踵落としで切り、もう一度地面を蹴り、中段蹴りを見舞う。
「後ろ!」
燃え盛る車体が宙を舞っていた。
3人を抱え、身を投げ出し回避。火の粉が掛からぬよう自分達に覆い被さるジョーカーの背後に、T・ドーパントを見た。
今度は言葉を投げる間も無く、無防備な脇腹に拳が突き刺さる。
骨の軋む音を自覚しながら、まるで射出されるように殴り飛ばされるジョーカー。壁をぶち抜き、それでも勢いは止まらず建物を貫通する。
「さて、邪魔者はいなくなった。今度こそついて来てもらおうか」
隆起した肉により極端に細い目が3人をじっと見据え、手が伸ばされた。
その時、建物に新しくできた入口から、何かが飛んでいくのが見えた。それを目で追おうとした瞬間
ーージョーカー!
ーーマキシマムドライブ!
暗闇から飛び出すジョーカー。
「悪あがきを!」
技術を持たぬ純粋なパワーのみで形成された拳が放たれ、僅かに遅れエネルギーを纏った拳が放たれた。
破城槌の如く撃ち出される拳と、曲線を描き遠心力と共に威力を上げていく拳。
爆音のような衝突音に、思わず目を閉じてしまう3人。
倒れる音。軽く小さな音は、それだけでどちらが倒れたのか明白であった。
「……やってくれるわね」
しかし勝者である女は苦々しい言葉を放った。
目を開くと、ガントレット型の機械から火花が散っており、メモリを抜かずに人間態へと戻った。そう、翔太郎は初めからメモリブレイクを狙わず、その機械に狙いを定めていたのだ。
「まあいいわ。仮面ライダーが持つダブルドライバーを解析すれば、完成させられる。全員連れて行くわよ」
黒服に促され大型バンに乗せられる3人と、投げ込まれる翔太郎。
破壊の痕跡に満ちた場所に、足音が響いた。走り去った車を見て何事かと口にすると、踵を返し走り出した。