「お前はほんと、分かりやすい奴だね」
決して寝坊の懲罰と言うわけではなかったのだが、ジェネルはあの朝からしばらくして、7番へ打順を降ろされていた。
攻撃的なバッティングをするジェネルを下げ、ここのところ調子が上がっていた出塁率の高い選手を2番に置くことによって初回から海が積極的にタイムリーを狙い、後ろの4・5・6・7番と続く重量級打線を生かす――という作戦に今野は突然路線変更をした。
弱冠23歳にして、早くもその打撃には目を見張るものが出始めているジェネル。まして、ただ振り回すだけではなく今季はしばらくの間、特に不振に陥ることなく打率3割前半を常にうろついていたため、どちらかというと力任せに振り回して長打を狙うタイプの今季の打線の中ではむしろ5番、6番を任されていてもおかしくない――若くしてその潜在能力を発揮しつつあるその姿を海は素直に羨ましく思った。
長打を打てと言われれば長打を打つだけでなく、考えて振れと言われればジェネルはそのうち自分のようなバッティングが可能になるセンスを秘めている。
自分が23歳の頃というと、どれほど自分の調子が上がっていてもスタメンではなかなか使ってもらえなかったし、結果的に代打中心で打率.375を記録したものの、打点はわずかに1。前にランナーがいない場面が圧倒的に多かったとはいえ、打点1で代打のベストナインを受賞した苦いシーズンを送っていた頃だ。
自分が23歳だったときは、前に自分のイメージするようなボールを飛ばすことだけで精一杯だったし、周囲――特に、当時の監督だった前野から長打を求められれば求められるほど、自分のバッティングが崩れていった。
結局、前野に言われるがままに翌年長打ばかり意識してしまい調子を大きく崩し、メディアなんかからも深く失望された――。20代前半は自分らしさを否定され続け、無様な結果を残し続けた海にとって、23歳だった頃の自分というものは思い返すと、苦しい場面ばかりが思い浮かんでくる。
だが、ジェネルは違う。
その動機がどれほど歪んでいようが、3番を打つ自分の前――2番としての起用に見事に応えてみせた。フリースインガー気味であることを周囲にやや馬鹿にされてはいたものの、試合では飛距離だって十分出しているし、今のチーターズの面々の中では状況に応じてフルスイングすべきかどうかをしっかり使い分けられる器用さは自分の次くらいにあるだろう。
23歳にして、自分のバッティングが何なのか――自分の将来的な打撃像がなんなのか、そして今の自分との理想の打撃とのズレがなんなのか――それらの軸が当時の自分よりはるかにしっかりしている。結果を残してとにかく試合に出なければと思っていた自分なんかより、のびのびとプレーできている――。
だからこそ、海は怒らずにはいられなかった。
「7番に落とされたとたん、ホームランも打点も安打も急にシケるなんてな。そんなに打順が俺と近くなきゃ嫌なのか?」
「だってぇ……」
「お前が本当に15年早く生まれてきてくれていたら、俺はお前をぶっ飛ばしているところだよ。そんな露骨に打撃の調子を落とされたら、たまったもんじゃない、ってね」
海は苛立った様子でジェネルを睨み、握った拳を落ち着かない様子で開きなおしたり握りなおしたりを繰り返した。
「そんなこと言ったって私、2番から降ろされる意味が分かりませんもん。不調に陥ったから落とされるならまだしも、何かしたわけでもないのに理由も告げられずに7番打てって言われたら、誰だってやってられなくなりますよ」
ジェネルはふてくされたようにしながら海を睨み返した。自分だってそうしたままならない日々を送ってきたんじゃないのか――と見透かしたような目だった。
「……お前が俺の前に立ってると、お前が容赦なくバカスカ打って打点を荒稼ぎするから、俺が3年連続打点王争いしてるもんだから監督が俺に気を遣ったんじゃないの」
海は半分くらいは思ってもないことを言って、夏本番が近づいた甲子園の色濃い青空に向かって高くボールを放り投げる。
大きなもくもくとした雲がところどころに広がっているが、どこまでも空が繋がっていて、全てを飲み込むような、深い淵にすら感じる青がまぶしかった。
「あー、それって今野監督がもう今季は優勝を無理に狙わずにAクラス入りだけしておいて、ポストシーズンに気持ちを切り替えちゃってるって言いたいんですか。よくないですよ。ゲーム差だってまだたった10くらいじゃないですか。去年はその倍離されてたんですから、今年はもっとイケそう感出さないと」
ジェネルのそんな前向きな言葉を、海は鼻で笑った。
「お前一人が活躍して10ゲーム差縮まるのかよ。俺、おかげさまで3年連続首位打者めがけてまっしぐらなんだけど、それでもこれだけゲーム差が縮まらないんだ。お前が俺くらい打っても、きっと10ゲーム差は、10ゲーム差だよ。たった一人二人が打つだけでゲーム差が縮まるほど、野球ってのはそんな甘くない」
「だから私がもっともっと打つって言ってるんじゃないですかー」
「バカ言え。お前、ここんとこ不調じゃないか。何か不調から脱するきっかけか根拠があるのか?気持ちの強さだとか、イケそう感だけじゃ、ヒットは生まれないんだよ。お前みたいに俺から打順離されただけで露骨に打撃不調に陥ってなかなか3割に戻れないようじゃ、お前もそのうち俺みたいに口だけの選手みたいな扱いになるぞ」
「うう~~っ」
ジェネルは海の辛辣な言葉に思わずボールの落下地点を見誤りそうになるが、ボールをしっかり捕球してから足をじたばたさせた。
「わっっっかりましたよ!!結果で示せばいいんでしょう、結果で示せば!!どーせ今日も勝ちさえすれば海さんがヒロイン呼ばれる可能性高いでしょうから、じゃあ私、打順落とされたなりにかっこいいとこ見せてやりますから!!」
「そんなでまかせの気迫だけでヒットが打てたら、俺は4割どころか6割打者になってるだろうね。悔しさをそのデカい胸に秘めるのはいいけど、それでこの2、3週間かっこいいところは俺には一向に見せてくれないじゃないか。お前が俺を楽にさせてくれる日は、いつになることやらね」
「今日です!!」
「……今日じゃなくてな、毎日じゃなきゃ困るんだよ。俺だって毎日ヒット打つの……大変なんだからな」
海がふと見せた辛そうな顔は、いきり立ったジェネルにとっては逆光でいまいち見えなかったし、海の独り言も、聞こえてなどいなかった。
試合が始まり、今日最初の打席に立った海。今日も外野、内野ともに守りは深い。ランナーが二塁にいることもあり、決して怠ってきたわけではないバント練習をこんなときに見せて初回から確実に1点を取りに行くという展開も相手に見せ付けてやりたいものだが――
『分かってるな?お前。どれだけバントで奇襲したらチャンスが広がる場面だったとしても、ファンは金を払ってお前の何を見に来ているかを考えろ。俺たちがバントを指示したとき以外は、どれだけ内野が後ろに下がってたとしてもお前はバントに逃げるんじゃないぞ。野球ってのは、興業なんだ。お前だってそんなセコいマネしてまで勝ちたいガラじゃないだろ?ファンを自分から失望させるようなことはするなよ、分かったな』
――などと打撃コーチの生駒からも言われてしまっている。
勝つための野球をしたいのか、あくまでも自分に興業をさせたいのか――。
もちろん、自分はバントがとびきりうまいわけではない。かといって、こうした極端な守備シフトを敷かれていてなお、勝利にこだわりながらも、どんな状況だろうがあくまでも『佳井海』としての打撃を徹底させ続けるようでは、ゲーム差なんてものは一生縮まらないだろう――と海は思った。
カウント、1ボール1ストライク。ランナーが二塁にいることから、ゲッツーをとりに行くというよりは内野ゴロか弾道のごく低いライナーが放たれようものなら、うまくそれを捌いて二塁ランナーの進塁を防ぎつつ、可能であればタッチアウトかもしくは二塁でのフォースアウトにしたい――そんな意図が見えている。意識的に高めの弾道のライナーを守備の隙間を縫うような所に打つか、ライン際あたりに速度のあるフライを打たなければ、先制点は挙げられないだろう。
内角を突きたかったのであろうそのボールは手元で少しだけ変化する。カットボールだ。
この場面、何が何でも芯を外したいだろうから、海は最初からストレートを選択肢から外し、速球に近い速度の少し変化させる球が来ると推測していた。
カコン!とバットから具合のいい音を響かせ、ボールは風に流されながら、ライトからセンター側に巻くようにして深めを守っていたつもりだったセンターの頭上を越える。二塁ランナーは悠々とホームに戻ってきて、1回裏からスコアボードに数字が灯った。
初回から先制点を挙げたチーターズの応援団が得点テーマを演奏しながら、早くもそのボルテージを上げる。
「さて、ジェネル。お前の気合ってものを、見せてもらおうかな」
二塁ベースでうっすらと手を振った海は、ベンチから身を乗り出す勢いで腕を振っているジェネルを鼻で笑った。
――♪
――憧れに いざ挑めジェネル
無限の空に 想い描け――♪
2回裏、ジェネルに回ってきた打席。随分と息を巻き、まるで初めて甲子園の地に立ったばかりの高校球児のようなたたずまいでジェネルは打席に向かっていた。
よく言うと気合十分、悪く言うと入れ込みすぎ――。とてもこれまで何度もレギュラーとして試合に出ているとは思えないほどのフレッシュな気迫がそこにはあった。
「あれでは、今日も駄目ですね。大爺くんのいいところでもあり、悪い癖です。あの気迫にもう少しだけでもあれがでまかせではないという実力が伴ってくればいいのですが」
守備コーチの小室が微笑ましそうにジェネルを遠くから眺めていた。
「あれが数年続くようなら、一生2番か7番以外には置かせられないな」
「それは、あなたをはじめ、我々の指導が行き届いていないからではないですかね。僕は彼女に、しっかり守備を叩き込んだつもりです。彼女は、この一年……いえ、実質半年ほどで守備をモノにして見せました。彼女がこれから一人前になるかどうかは、我々にかかっていると僕は思いますよ」
「でも、佳井は球界を代表する選手になったじゃないか」
「佳井くんは君一人が育てたわけではないでしょう。自惚れるのはお止めになったほうがいいですよ。きっと、彼に近づいた誰しもが、彼を育てたのは自分だとお思いでしょうけれども」
「あぁ?」
「君たち、試合中だというのにずいぶん楽しそうじゃないの」
生駒が小室の言葉に食って掛かるのを今野が制止した。
もっとも、いまいちつかみどころのないこの監督がもう少しピリっとしてくれれば、こっちだってこんな苦労をしないものを――と生駒は思ったし、小室もまた生駒と同じような感情を今野に対して抱いたが、二人が向いているのはまったく別の方向だった。
「ああ……」
そんな一連の流れをまるで見ていなかった海は、嘆くようにして打球の行方を見つめた。
弾道そのものは文句なし――いや、打ち上げたにしては高すぎるのだ。それがもう少しパワーで押せればよかったのだろうけれど、高く高く打ち上げた白球は、甲子園の浜風に乗って――やや追い風のそれは外野の深くまで押されたが、ゆっくりとセンターのグラブに収まった。
それなりに手ごたえがあったのだろう、一塁ベース近くへと足を進めていたジェネルは悔しそうにしながらベンチへと戻ってきた。
「今日ずっとあんな感じでいくつもりなのか、お前」
海がベンチに戻ってきたジェネルを呼び止めた。
「試合の中でもうちょっとアジャストしてきますよ。今日は一発狙うつもりで打席立ってるんですから、そりゃ1打席くらいはちょっと調整しますよ。今の自分がどうなのか、って」
「それができたら誰だってヒットもホームランも打てるんだよ」
「でも、海さんは同じようなことして打ってみせるじゃないですか。どんな球でも来た球をスパン!と打って見せますし、前の打席でダメだったところを次の打席で修正しにかかるじゃないですか」
「今のお前にそれができるって言うのか」
「出来なきゃ、一生海さんを勝たせてあげられませんから」
自信というよりは単なる虚勢に見えたジェネルの笑顔を、海は仕方なさそうな表情で見つめた。
3回裏、前の回から少し荒れ始めた相手先発の調子がなかなか定まらず、早くもジェネルに次の打席が回ってきた。
相変わらず気合十分のたたずまいのまま再び打席に向かったジェネルは、バットを素振りしてみせた。
1……2……3……4。
最初は全力で、徐々に弱めながら――スイングの微調整をはかっていることは海にはしっかり見えていた。5度目のスイングは、2度目と3度目のスイングの中間くらいだっただろうか。何度か手首と腕の様子を気にしながら、ジェネルは打席についた。
イメージトレーニングや素振りでのスイングの感覚と、打席でボールを打つときの感覚というものは、微妙に違うものだ。生きたボールというものは、自分の中でベストだと思ったスイングよりももっと力強いスイングだったり、あるいは、少しだけ弱いスイングのほうがかえってバットとうまく噛み合って打球を捉えることがたびたび起きる。
そういった感覚がジェネルの中にあるかどうかは分からないが――海はジェネルの打席の行方をしっかりと見つめていた。
2球続けて変化球がボールになり、バッテリーはストレートでカウントを整えなければならなくなった。前のイニングからどうにもこうして自滅するような投球が続いていて、コーチたちは「先発がああだとブルペンが大変だ」「何回まで引っ張るか悩むところだ」なんてことを言いながらむしろ相手投手の調子に注目していた。
狙うとすれば、ボールカウントが先行している間のこの1、2球だろう――と海はその様子を見つめていた。
3球目――ストレートがやや上ずった。高い。見送ればボールとされるだろう球に思わずジェネルは手が出てしまった。ジェネルもまた大きく空振りした際、悔しさを滲ませた顔をこちらに見せた。
「あぁ……あれではいけないね」
思わず勿体無いと言わんばかりの声を今野が漏らす。生駒も同じようにして頷いた。
誰しもが勿体無いことをしたと思っただろう一球。ジェネル自身も少しまずいと思ったのか――一旦打席を外れて素振りをした際、舌をぺろりと出し、こちらに苦笑いを向けたように海には見えた。
それでも笑顔を作ってこの状況を楽しむ余裕があるのは、2点リードしてるからなのか、それとも、単純にそんなことよりも、今はこの打席に立っていることが楽しくてたまらないのか――海にはジェネルの考えていることはよく分からなかった。
それでも、高めに投げたストレートで空振りを取れるということに自信を得たバッテリーが、次もストレートを投げ込んでくるであろうという読みと、それを自分は間違いなく捉えられる――捉えてみせる、というジェネルの自信が海にはよく伝わっていた。
自分の打撃を本当に参考にしようとしているならば――の話だが。
4球目――同じ高めのストレートだ。先ほどよりも少しだけ低く、見送ればストライクにはなるが、いかんせん無理に変化球を投げずとも、とりあえず高めのストレートを投げればさっきのように振ってくれると思って投げた球だ。完全に直前の大きなスイングを見て、ジェネルの本来の打撃能力を甘く見た一球だった。
ジェネルはとても前の打席でぶんぶんと力任せに振っていた人間と同じ者がしたスイングとは思えない、豪快ではあるが、すっ――と、力むべきポイントを分かっているような剛と柔とがしっかりと分かれているスイングでその白球を捉えた。
「いったな――」
バットがボールを捉えた瞬間に、それが特大アーチだと誰もが判断できるような弾道だった。
決して減衰することのなさそうなほどの勢いを持った、ホームランを狙うとするならば誰もが理想にするような高い弾道の白球はぐんぐんと伸びていく。インパクトの瞬間、その打球の行方を確信したジェネルもまた、バットを豪快にぶん投げた。
両手を万歳しながらグラウンドを回り――流行らせたいのだろう、両手でウサ耳ポーズをとりながらホームベースめがけてジャンプし、ベンチ側で待機しているカメラに向けてもぴょこぴょこと両手を畳んだりしながらやや長めにウサ耳ポーズをとった。
「今の、何点ですか?海さん」
「パフォーマンスがなければ75点。パフォーマンス込みで36点」
「えぇ~」
ウサ耳ポーズのまま海に向かって話しかけるジェネルを鬱陶しそうにしながら、海はジェネルへ今の打席のダメ出しをしていた。
8回裏、出塁していた海は三塁からジェネルの打席を見つめていた。一応、自分が出塁しているときにジェネルの打席が回ってくることもあるにはあるのだが、いかんせん打順が離れている分、ずいぶんと珍しいことのような気がして少しだけ笑いそうになった。
2対8。もう今日の試合は勝ったも同然だが、ジェネルにとっては、ここで一打あるかどうかできょうのお立ち台が決まるであろう大事な場面だ。先ほどまでの打席とは打って変わって、真剣な面持ちでバッターボックスでそのバットをじっと構えている。
2ボール2ストライクと追い込まれて、ジェネルは再び高めのストレートに手が出た。
『お前、打てそうなボールが全てストライクだと思うなよ』
先ほどベンチで言ったことを思い出したのか、ジェネルはしまった――という顔をしながらボールの行く末を見つめた。バットにかすったボールはキャッチャーの頭上を越えてファールグラウンドを転々とした。よくもまあ今の一球をファールにしたものだ――と海は胸をなでおろした。
次の一球は――外れると思ったが、きわどいコースだったのだろう。やや振り遅れてバットになんとか当てる形で続けてファールとなった。
2ボール2ストライクの形が続いた中で、しばらくバッテリーのサインが定まらずにいる。
ようやく決まったサインは――ふわっと浮いた変化球――カーブだろうか。ジェネルはそれを振らずにじっと見送った。
先ほどから――先ほどどころか、今日一日ずっと高めのストレートに釣られておいて、よくもあれを振らなかったものだ――海は一球一球、心臓がきゅっと締まる思いだった。
フルカウントとなったバッテリーは再びサインが決まらず――五度ほど首を振った後、ようやくミットを構えた。
状況に合わせた打撃こそできる打者でこそあるが、何かと感情的になると大きく振ってしまう癖があるジェネルのことだから、それでもやはりこのコースで釣れると思ったのだろう。再び高めのストレートが投げ込まれる。
わざわざ今日当たっているコースに投げ込むということはバッテリーも、さっきのホームランはまぐれであって、あれをもう一度は打てないはずだという賭けに出たのだとしたら、それはあまりにジェネルという打者を見くびっている――。
「こういう球だぞ、お前――」
そんな海のゲキが届いたかどうかは分からなかったが、ジェネルの叩いた打球は、今度は思い切り引っぱたかれる形でレフトスタンドめがけて勢いよく弾かれていった。
その一球は、海が普段打つような――ぎゅんと鋭く、外野を射抜くようにしてぐんぐんと伸び続けるライナー性の弾道だった。海の一打が完全に憑依したかの打球は、この試合を完全に決定付けるかのようにして応援席へと着弾した。
先ほど以上の手ごたえがあったのだろう、今度は打球の行方も見ずにバットを放り投げたジェネルは、ホームベースへ向かって走り出した海に向かって勝ち誇ったような笑顔を向かって指差した。それ見たことかと言わんばかりの表情のまま、海に向けた指を今度はライトの黄色一色に染まった応援団に向かって高く突き刺し、その手を今度は握りこぶしに変えた。
「お前はほんと、分かりやすい奴だね」
海は無意識にそんな言葉を口走りながらホームベースをしっかりと踏み――もうすぐホームへと戻ってくるジェネルを待ち構え、さて、どうからかってやろうか――とばかり考えていた。