海の彼方で   作:錫樹トシアキ

138 / 238
135・選ばれたかった者と選ばれてしまった者(前)

「ごめんね、ジェネルちゃん。面倒かけさせちゃって」

「いいんです。琉美ちゃんと諒斗くんが揃ってインフルエンザなんて、大変ですよね。お大事にしてください」

「ごめんねー。ほんとにありがとう。海くんのこと、よろしくね」

「任せてください。私こう見えて、まあまあママみがあるんで」

袋いっぱいにお菓子やスポーツドリンク、そして果物やその缶詰といった見舞いの品を華耶はジェネルから受け取り、玄関で海を見送った。

 

「俺を子ども扱いするなよ。40だぞ」

「だって、一人だと絶対何かと理由つけて欠席するでしょ、海くん」

「……」

不機嫌そうな顔で海は『余計なことを言うな』とジェネルを睨んだ後、華耶に対しても『なんでこいつなんか呼んだんだよ』といった表情を向けたが、華耶に軽くあしらわれてしまった海は言葉が続かなくなってしまった。

 

話は昨日の夜に遡る。

華耶は常備菜やつくりおきの料理を朝から準備し始め、今日のタイトル授賞式に海を連れて行くつもりでいた。授賞式が土日を挟むこともあり、かといって子供たち全員を連れてくるわけにもいかないため、授賞式のための一泊二日の間、本来は叔母の美樹夫婦が泊り込みで家の面倒を見てくれることになっていた――はずだった。

 

「やだよ。あんだけ成績が下がっておいてベストナインなんて、笑われに行くようなもんじゃないか」

シーズンが終わり、各々の去就発表が世間を賑わせ始めた頃、海は今年もまた電話でベストナイン受賞を告げられた。

電話を切られてすぐ、不機嫌そうにソファに座って海は出席を辞退したいと言い出し始めた。足をガタガタと震わせて貧乏ゆすりをし続け、あからさまに苛立っている様子を見せながら海は腕を組み、ハァーと深いため息をつき――そのうちうなだれてしまった。

 

「でも、今年一番よかったサードは海くんだって、みんなが選んだんだから」

華耶はまたいつものやつが始まった――と海をなだめていたのだが、確かに、これまで経験したことのない打率を残した海があまり賞をうれしく思っていないということ自体は一応理解はできた。

もちろん、成績が落ちたからといって決して周りに引けを取っている成績ではないし、年齢のことを考えたら今年の不調に終わった成績だって十分すぎるくらいなのだが、常に規格外を求められてき続けた海にとっては、こんな成績で喜んでいられるか――という思いが顔に出ていた。

 

「消去法で選んでるようなもんだろ。これであと1、2分くらい打ってたなら別にいいけど、3割中盤しか打てなかった俺を、いったい誰が祝福するんだよ。どうせ行ったら行ったで、また4割のこと言われるんだろ。皆、俺に興味があるんじゃなくて、4割にしか興味がないんだ」

「だーかーらー。それは海くんが考え込みすぎなんだって。誰も笑ってないよ。不調に苦しみながらも、よく頑張りました、ってみんなが思ってるってこと。それを否定するようじゃ、来年からベストナインに選んでなんかもらえなくなるよ?」

華耶は海の隣に寄り添い、手を握りながら海を何とかして励まそうとしたが、海は首を横に振った。

 

「……別にさ、選ばれたくなかったわけじゃないんだよ。ただ、今年の俺というくくりで見たら、本当に喜んでいいのかどうか……分からないんだよ。俺より打ってる内野だっていただろ。他のチームのことなんか、よくは知らないけどさ……俺のこれまでの功績ありきでなぁなぁで選んでもらったような気がして」

「他の選手のことよく知りもしないなら、それはそれ、ってことで黙って受け取ればいいじゃん。そういう、なんだろう……1割あるかどうかの雑音が人間はものすごく気になる、って言うけどさ。海くんのそれは絶対気にしすぎだよ」

「1割で済まないだろ、俺の場合。未だに球場にゴミ投げられてるんだから。……あの球場の中に、本当に俺を心から応援してる奴なんか、本当は半分も居ないんだよ」

 

確かに、ごくごく一部の観客がエキサイトしやすい甲子園という地で野球を続けるには、海にはハードルが高かったのかもしれない。ノイジーマジョリティと言うには、雑音を発する人間の声があまりに多すぎるから、海にとっては辛く感じるのだ。

 

毎年のように、球団からの指示で、球場案内や球団公式チャンネル、ポスター、CMなどなど――ありとあらゆるメディアでファンへのマナーの改善を訴え続けてきた海。

球団もそれなりに対応はしてはくれているのだが、どこかの芽を摘めば、不思議とどこかからまた新しくそういった一部のファンは生えてきてしまう。ファンからしてみたらいわゆる長い暗黒期をようやく抜けたチーターズだったが、ここのところ優勝できそうでできないというシーズンが続いているからか、今度はその最後の最後に勝てないことへの不満をファンは持つようになった。

30年以上続いた優勝から遠ざかっていた日々、そして、未だ50年以上にも及ぶ日本一から遠ざかっている日々がファンを必要以上に加熱させてしまい、もはや2位などでは満足できないようになってしまったのだ。

 

ファンとは贅沢な生き物だ、とは、普段動画を編集したり、球場の様子を取材したものを記事にしたりする華耶も、海と同じくらい――あるいは、海よりも痛烈に日々、感じていた。

勝てるようになったら勝てるようになったで今度は、そこから落ちるのが嫌だという感情と、あとちょっとで勝ちきれないことに対しての不満とが募ってしまう。

 

おまけに、過去なかなか類を見ないほどの長期にわたる低迷期をようやく脱したチーターズというその背景がさらに『またあの長い低迷期を見せる気か』という感情を混ぜてしまうのだ。

自分は動画を製作、編集する立場だから、現場でそうした空気や野次を浴びせられる海の本当の気持ちや感情までは汲み取り切れない。それに、EリーグとCリーグとでは、球団やリーグの持つ雰囲気や熱気は違う。

それでも、Cリーグの各球団の映像を常日頃追っているからこそ、どれほど野球選手がこうした空気と戦うことが大変なことか――そこいらの人間よりは、分かっているつもりだ、と華耶は思っていた。

 

「だーかーらー。言ったじゃん。それを気にしすぎだ、って言ってるの。本当の野球ファンなら、みんな海くんの実力を分かっているんだって。海くんにしてみたら今年の数字は納得いかないかもしれないけど、数字以上のものをみんな感じてるんだよ。だからこそ海くんに投票してくれてるわけ。そりゃあ、ベストナインはファン投票じゃないけどさ……データがすべてなようでさ、意外と皆、印象で選んでるわけ。良くも悪くも。だから、海くんの勝手な印象は、決して悪いほうにしか伸びてるわけじゃないってこと。皆、海くんのことをちゃんと応援してるから投票して、今年も選ばれたんだよ」

「そうかな」

投げやりな感じで足を放り投げた海に、華耶はなだめるようにして寄り添った。

 

「……はぁ……なんならさ、ここで賞を辞退なんかしてみたら、海くんを応援してくれる人だって本当にいなくなるよ。黙って、ありがとうございました、って受け取って、来年また自分で納得する打撃が打てるようになればいいんだから」

「……」

 

頑張れ、という言葉を華耶は使わなかった。

海はこれまでも頑張り続けてきたし、今年だって不調の波から這い上がるために、どれほどの努力や創意工夫を重ね続けてきたか――それを考えると、間違ってもここで、頑張ってなんて言葉は海に向かっては言えなかった。この男が頑張ってないわけがないのだから――。

 

「……簡単に言ってくれるよね」

よほどこの一年が辛かったのだろう。海は素直にうんとは言わずに、悲しい目をしながら、目線を反らしてしまった。

 

不貞腐れたくなる気持ちも華耶には分かるし、これまでも挫折を繰り返してきた海だからこそ、そこから這い上がるためにどれほどのエネルギーが必要か、海自身、分かってるということも華耶には理解できた。

だからこそ、吐き捨てるような言葉を投げてそっぽを向いた海に華耶は、ただ手を握ったまま、寄り添うことしかしなかった。

 

「授賞式、絶対あたしが連れて行くからね。海くん一人で行かせたら、絶対会場に行かないだろうから」

「……」

聞いているのかどうか、分からないような表情を浮かべたまま、海は黙っていた。

 

「え、熱?」

テレビの収録から帰ってきた海は、華耶からの報告に思わず上ずった声を出した。

 

「そうなの。なんか午前中から様子がおかしい、って言うから病院連れてったら、揃ってインフルだって。一階のピアノ置いてある部屋に二人とも寝かせてあるから、海くん、あんま近寄らないでね。授賞式控えてるんだから。本人がインフルで欠席します、じゃちょっとカッコつかないからさ」

「でも、熱出した子供置いて授賞式なんかに行けないだろ」

「それはあたしが面倒見るから気にしないで」

「今から東京行きのチケット取れるかな。……あ、そうか。俺が運転したらいいのか」

「あ、それはいいんだ。もう代わりの運転手、準備したから」

「代わり?また美樹さん頼るの?でも――」

「まあ、明日の午後を待ちたまえよ。安心できる人をもう手配してあるから」

華耶は不敵な笑みを浮かべながら海を見つめたが、このときの海はまさか華耶とジェネルとの間にそこまでの接点があるとは思っていなかった――。

 

「……だったらまだ田中を呼んでくれたほうがよかったよ。アイツにハンドル握らせるのもそれはそれだけど」

「へへへ。ささ、海さん。私に似てかわいいキュートなこの愛車に乗り込んでください」

 

褒めてもない言葉に笑みを浮かべながら、ジェネルは海から荷物を受け取ってトランクへと積み込み、助手席へと案内した。

これ見よがしに腕を広げ、ミニッツ社の赤いスポーツタイプを自慢げに見せびらかすジェネル。大阪の混み合った街並みをちょっと走るくらいには、ちょうどいい車だ。

 

「お前に似てかわいいかどうかは別として、道中よろしく頼むよ」

「あー。そういうこと言う。かわいいじゃないですか」

「どっちが」

「どっちもですよ」

「……」

海は華耶をもう一度睨みながら、なんでジェネルなんかに運転手を頼んだんだ――と目でサインしながら、しぶしぶ助手席に乗り込んだ。それなりに大事に乗っているのだろう、車の中はホコリ一つないし、カー用品店にあるような安くキツめのものではない、ごくうっすらと石鹸のような香りが漂っていた。

 

「若い子が隣にいるからって、海くん、狼にならないでね」

「どちらかというとそれはこいつに言ってくれ。こいつ、すぐサカりのついた犬みたいな顔するんだから」

ウインドウ越しに海に話しかける華耶に対して、海は心底嫌そうにしてジェネルを指差した。

「大丈夫ですよ華耶さん。海さん、結構カタいんでそういうことはしません」

「じゃあ、どちらかというとジェネルちゃんが海くんを食べる側なんだ。ほほぉ~」

「お前が浮気を推奨してどうするんだよ。妻としての自覚はないのか」

「まあ、リップサービスというやつかな」

「バカ言え」

海はジェネルに『とっとと出せ』と合図しながら、車を走らせた。小型でおとなしいタイプの車種とはいえ、走り出しはそれなりにきびきびとしている。

カーオーディオからは少し前に流行ったバンドの曲なんかが流れ、軽めでさわやかなタイプの音が車内に響き渡る。

 

「まぁでも、イカつい車なんかに乗ってきたらどうしようとは思ったよ、正直言って。誰が何に乗ってるかなんて、正直言ってさほど興味なかったから」

高速道路へと向かうジェネルの車の中で、海は車について話を切り出した。

 

「だから言ったじゃないですか。私に似てかわいい車だって」

「かわいいかどうかはさておいて、これでお前……たとえば、ランベルティーニなんて乗ってきたら正直、ちょっと嫌だなって思ったよ。顔に似合わずイカついもん乗ってるなー、っても思うし、あんなもん乗ってたら、周囲から必要以上に注目集めちゃうし」

「プロ入りして初めて買った車ですもん、これ。いきなりそんな車乗りませんよ。それに私は、こういうのがいいんですよ。普段街にだって行くんですから、高くて大きい車なんて乗ってちゃ、デパートになんか行けないです。海さん、プロ入りして初めて買った車って何ですか?」

「お前、言ってもそんな車なんか詳しくないだろ」

「まー、詳しくないっちゃ、詳しくないですけど。まあ、言うだけ言ってみてくださいよ」

「……スパイダー買ったんだよ。NASDAの。しかも2代目の中古を」

「NASDAって……レッドフィッシュのとこのスポンサーでしたよね?確か」

広島レッドフィッシュの大手スポンサー、NASDA。広島というと誰もが真っ先に連想されるほどの企業だ。

 

「そう。……別にさ、乗れればなんでもよかったんだよ。本当は大型バイクがよかったんだけど、球団から転んで怪我でもされたら困るから駄目って言われて。ま、そりゃそうだよなとは思ったんだけどさ、俺も。でも……この辺、街がごちゃごちゃしてるだろ。だから、とりあえず小回りのきく車ならなんでもよかった。でも、あんまり小さい車だと、俺、背がこうだろ。だから、軽自動車ってわけにもいかなくてさ。あの頃は隣に華耶を乗せることしか考えてなかったし、その華耶だって遠距離恋愛だったから、本当に俺の城みたいなもんだった。だからって別に、突然夜、外に繰り出して阪神高速乗って憂さ晴らしなんかもしなかったけどね」

「あー、そういえばあの車、上も開きませんでしたっけ?」

「ああ。周りは外車なんかたくさん自慢げに乗ってたけど、そういうのはあとでまた買うつもりでいたから、別に自分が型落ちのNASDAのスパイダーに乗ってることなんか、全然恥ずかしくもなんともなかった。球団からも『ライバルチームのスポンサーの車はちょっと』なんか言われたけど、他にいい感じの車がそのときの俺には浮かばなかった。お前が言ったようにさ、そこらのスーパー行くためだけにランベルティーニなんて乗るか?乗らないだろ。そういうこと考えた結果だよ。最近はどこもライトウェイトスポーツカーなんか作ってくれないから」

海は携帯の写真データを探し、数少なく撮ってあった愛車のデータを眺めた。車を手放すと決めた日に、自動車工場の従業員に撮ってもらったものだ。

 

「30手前のときだったかな……車検に出したら、前のオーナーがだいぶやんちゃしたツケが回ったみたいでね。もう足回りやらエンジンが限界だ、って言われてさ。乗ってるぶんには全然感じなかったんだけどね。それで、自動車工場の連中に薦められて、3代目の新車に買い換えた。子供もいるし、もう華耶と二人でドライブしたり、本当にちょっとした移動のためだけの車なんて必要ないだろ、とは思ったんだけどさ。いざ買ってみたら、華耶が俺を連れまわしたがってね。悪い買い物じゃなかったよ。結局その後も何台も車は買うことになるんだけどさ」

「車ひとつとっても、思い出があるんですね」

「長く生きてるからね」

「まだ40じゃないですか」

「でも、プロじゃもう20年以上やってる。20年もプロやってたら、車なんて1台2台、そりゃあ駄目にする。大事に乗ってたつもりでもね」

「ま、私はその点、新車で買ったんで大丈夫ですけどね」

「そうかい」

海は自慢げに語るジェネルの様子を冷めた表情で見つめて、鼻で笑った。

 

「でも、聞きましたよ、海さん。なんでも、ずいぶん授賞式出るの嫌がったって」

「……まあね」

 

授賞式に出たくないと華耶に漏らした数日後、新聞でベストナインや各種タイトル獲得者一覧を見て海は驚愕した。

海の中では、間違いなく今年のジェネルは選ばれるものだと思っていたから、その名前がどこにもないことに歯がゆさを覚えた。

 

今季は外野ベストナイン3枠の中で、かたや年間MVP、かたや最多盗塁、最多出塁率、首位打者、かたや最多本塁打――そのメンバーの並びも、後から発表された記者による投票者数のバラけ具合も、これまでにないほどの激戦だった。

 

相手が悪かった、と言えば相手が悪かったのだろう。仮にジェネルの今のもうひとつの武器である守備を評価してほしいならゴールデングラブが別にある。

そのゴールデングラブだって、ジェネルは守備でどれほど貢献していると言っても、よそのチームの俊足を生かした超ファインプレーだとか、いわゆる『華があって安定している守備』や、捕ってからすぐに繰り出される正確無比なバックホームなんかと比べられると、ジェネルの守備にはその圧倒的な脚力がない分、どれほど守備の位置取りなどで貢献しても、プレーの一つ一つが人々の記憶に残らなかった。

肩の強さだって球界の中では上のほうとはいえ、上のほう、ということは、他に優れた選手がいくらでもいるということだ。そうしてジェネルはゴールデングラブ賞の候補にも選ばれはしたものの、結局こちらの受賞もすることはなかった。

 

ジェネル自身、今年は自分の強みである『総合力』という面でベストナインに食い込めるのではないか――そう思ってはいたものの、現実は甘くなかった。海が自分の大きく下がった打率を気にしていたように、人々は派手な数字にどうしても目を奪われるものだ。ジェネルの成績だって十分よそと見劣りしないくらいには派手なのだが、本塁打数で比べられるとどうしても勝てない。

 

ジェネルは今年、打率は.389という好成績を残し、そして28本のホームランを放ったものの、ジェネルの特徴である思い切りのいいフォロースルーから放たれる豪快な一打や入団時のビッグマウスなんかを考えると、あくまでもこれは通過点である――と世間は思っていた。

世間が海に対して未だに4割30本、40本を求め続けてしまうように、ジェネルもまた、弱冠25歳の数字としては文句なしかもしれないが、海の後継者としてはまだまだ物足りなさを覚えてしまうのもまた事実だ。

だからこそ、ジェネルへの得票は残した成績ほどは数値が伸びなかった。

 

悔しかったに違いない――と海は思った。何しろ、わざわざBINEで『ベストナイン、私も一緒に出たかったなー』と送ってくるくらいだ。

三年前、代打部門のベストナインに選ばれたジェネル。初めて二人揃ってタイトル授賞式にその肩を並べたジェネルだったが、『そのうちすぐに二人揃ってフィールドプレーヤーとして一緒に授賞式に出てやりますよ』とたびたびメディアの前でも宣言していた。

海だってジェネルは今年選ばれるのではないかと思っていたくらいだから、ジェネルが今どれほど辛い気持ちでハンドルを握っているかは想像ができたし、今年の成績を見るに――そして、疲弊してきた海を見るに、今年が二人揃ってベストナインに選ばれる最大のチャンスだとジェネルは思っていたから、ジェネルは今年の落選を悔やんでも悔やみきれなかった。

 

華耶には申し訳ないと思ったが、だからこそ、こうして授賞式に嫌々出席する海の隣に居られることをジェネルは嬉しく思った。一番近くで、惚れた男の勇姿を見届けられることが出来るのだから――。

頭ではなるべくそうプラスで考えたいジェネルだったが、それでも、考えれば考えるほど、なぜ自分が授賞式で肩を並べてやれないのか――という悔しさがにじみ、ジェネルは思わずカーオーディオをいじり、やや激しめの曲調のプレイリストへと変更した。

 

「海さん。私の分までしっかり受賞してきてください」

「なんだよ、それ」

ジェネルは笑いながらそんな冗談を言ってみせたが、そこからしばらく、会話が続かなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。