上郷のパーキングエリアで、このあたりの名物だというしゃちほこをかたどったソフトクリームを片手に写真を撮るジェネル。それに対して海は特に写真を撮るでもなく、ジェネルから渡されたソフトクリームを食べながら、既に沈み始めている太陽を見ながら瞼を狭めた。
なるべく、名物が味わえるパーキングエリアで、かつ、極端に混みすぎないところをジェネルは狙っていたようだった。
「秋の暮れに食べるソフトクリームも悪くないものですね」
「前住んでた場所からしてみれば、別にこんな気温でソフトクリーム食べたって全然気にならないよ」
「そりゃ、海さんにとってはそうでしょうけど」
ジェネルはうんと背伸びをしながら大きく胸を張り、肩をぐるぐると回しながら再び車へと乗り込んだ。
「次、静岡あたりでもう一回休憩して……ゆっくり休憩しても、22時くらいまでには着きますかね。どうします?東京でご飯にします?それともどっかパーキングエリアで食事にします?足柄あたりとか、結構パーキングエリア充実してるみたいですけど、何か食べたいものあったらそこ狙って行くようにしますよー」
「ずいぶん詳しいな」
いつ何があってもいいようにと一旦早めの給油をしている間にジェネルと海は作戦会議をしはじめた。
簡単に大阪から東京という言葉が出てくるが、休憩を全くしなかったとしても、高速道路を使っても片道6時間ほどはかかるほどの道のりだ。無計画に車を走らせてどうにかなるわけでもない。
一応、自分の命を預かっているという自覚があるのか――と海は一瞬、ジェネルに関心しかけたのだが――
「そりゃあ、デートみたいなもんですから。状況が状況だから3~4日くらいかけてゆっくり帰ってきていいよーって華耶さんからもう言われちゃってるんで、この際だから海さん、諦めて私とどっぷりデートを楽しんでください」
「どっぷりって何だよ、どっぷりって。まったり、とかならまだ分かるけどさ」
「そりゃあ――」
「意味ありげに目線を下げるな。俺の顔を見ろ、俺の顔を」
ぐい、と海はジェネルの顎をつかんで強引に顔を上げさせた。
「仮に、華耶がお前に俺に抱かれて来いみたいなこと言ったとしても」
「言いましたよ」
「そこには俺の意思がないだろ」
「じゃあ私のこと一瞬だけでも好きになってくださいよ、嘘でもいいんで」
「……お前、俺が普段どんな勢いで華耶のこと女として扱ってるか知らないだろ。アレだろ、お前……俺と華耶との関係をこう、甘酸っぱい系の青春漫画みたいな感じに美化してるだろ」
「違うんですか」
「甘いね。もし俺にその気があったら、2、3日くらいは腰が抜けて立てなくなってるよ、お前」
「じゃあ、海さんにその気があったら私をそれだけ骨抜きにしてくれるってことですよね?」
「……お前は冗談が通じないやつだね」
「冗談に付き合ってあげてるいい後輩ですよー、私は。分かってますよーだ、海さんが私を取って食おうなんて1ミリくらいしか考えてなんかいないこと」
「なんで1ミリは考えてる前提なんだよ」
「そりゃあ……」
ジェネルは一瞬、海が自分の胸の中で泣いたことを思い返して言ってやろうかと思ったのだがやめておいた。あまりそうして深くからかうべき出来事ではなかったし、思い返せば思い返すほど自分のほうがのぼせそうになったからだ。
分かっている。こうして軽くからかいあってるくらいがちょうどいい関係なのだと――。
「1ミリでも俺にその気があったら、ほんとに俺はお前のこと食ってると思うよ。お前が思ってるほど、俺だって自制心で生きていないから」
ジェネルはそんな海の言葉を『そういうことをサラっと言うから胸がときめくんじゃないか……』と思わず身もだえしそうになったが、そんなことも知らずに海は窓の外を見ながら、ふとガソリンスタンドの電光掲示板を見つめた。
レギュラー186円――。
相変わらず、高速道路のガソリンスタンドは一般道のそれとは桁違いに高い。リッター20円は違うだろうか。
もちろん、高速道路という環境の都合上、仕方ないといえば仕方ないのだが、助手席に乗っている立場からしてみれば、値段を見るたびに思わずその値段を二度見してしまいそうになる。
前に晴留を送るために高速道路に乗ったときから、世界的ナントカだとかでざっとレギュラー価格は20円以上は値上がりしている。普段は何も考えずにカードで支払いしているが、こうしてゆっくりと値段を眺めると、海にはただただ助手席で座っていることに若干の申し訳なさがこみ上げてきた。
「……え?なんですか?……えっ?ちょっと、やだなあ、海さん。今ちょうどそんな話したばっかりなのに、そういうのはちょっと、こう……」
海はジェネルにガソリン代のつもりで、財布に入っていた一万円札の山から5枚取り出し、ジェネルに渡した。ジェネルはそれをなかなか受け取ろうとせず、顔を赤らめてもじもじじしはじめた。
札の間に何か変なものでも挟まっていただろうか……?と海は札を確認するが、ジェネルの少し恥じらったような表情を見て海は"それ"を察した。
「おまっ――お前、何をとんだ勘違いしてるんだよ。バカ。ガソリン代だよ、ガソリン代。華耶からたぶん高速代は受け取ってると思うけど、ガソリン、ずいぶん高いなって思って渡そうと思っただけに決まってるだろ。お前、そりゃあ俺だって少しタイミング悪かったかもしれないけど……こう……察しろよ!」
「いや……なんか、海さんもやっぱ私のことちょっとはそういう目で見てくれてたのかなって、一瞬ちょっとマジでいろいろ期待しちゃったんですけど……。いや~、でもなんかこう、ほら、お金を受け取ってそういうのをするっていうのはちょっと違うかな~っていう気持ちもありますし、でも、海さんも『自制心で生きてない』って言う以上、やっぱなかなかやることやってるんですねぇ~っていう気持ちも――」
「だとしたら5万程度で心なんか揺らぐんじゃないよ。自分を安売りするんじゃない。ほら、さっさと車出せよ。後ろつっかえてるんだから」
海は強引にジェネルに一万円札を突きつけ、出口へと急かした。こんな奴に変な気など利かせた自分がバカだった――と海は激しく後悔した。
〈この先、しばらく渋滞です――〉
浜松を過ぎたあたりから、事故による車線規制からしばらく渋滞が続いていた。
「急いでるわけじゃないから別にいいんですけど、こういうのに出くわすと旧東名通ったほうがよかったかな、って思っちゃいますよねー。せっかく広い道路選んで走ってるのに、事故なんかじゃあ」
「それで仮に旧東名走ってたとしてもきっと事故起きてるよ。交通量が交通量なんだから、この辺はどこでどう事故っててもおかしくないからね。ほんと、気をつけて欲しいもんだよな。何をそうイライラして急加速していくものか、俺には分からないよ」
渋滞だと分かっていながら後ろでいやにフラフラしながら隙間さえあれば追い越そうと思っているのではないかというようなミニバンがバックミラーに時折映り、海は呆れた様子でそれを眺めていた。
「まぁまぁ。でもほんと……別に急いでるわけじゃないからいいんですけどね。こういうことも考えて前の日から東京入りしておこうって話になったわけですし。渋滞しちゃったなら渋滞しちゃったで、まったり車内デートでもしましょう」
「馬鹿馬鹿しい」
ジェネルのチラリと覗かせた視線を海は避けるようにして窓の外を見た。カーナビがしばらく渋滞と言っているが、どのくらいの渋滞かは分からない。携帯でどのくらいの渋滞なのか調べるべきかどうか考えたが、距離を知ってしまったら余計に落ち込みそうで、海は悩みため息をついた。
「こんなことなら、素直に新幹線で行けばよかったなって思うよ。運転する側も疲れるけど、助手席で東京向かうのも案外思ってるより疲れると思わなかったからね」
「でも、海さんほどの背丈なら、新幹線なんか乗ってても疲れません?なかなか普通席だと足伸ばしたくても伸ばせませんし」
「グリーン車とか、あとほら……あるじゃないか。なんか凄い上のクラスの奴。あれも別にわざわざ乗るほどのものじゃないと思ってるけど」
「私の車、窮屈ですか?」
「ああ……そんなに気にならないよ。シートも少し後ろにずらしてもらってるし。新幹線よりよっぽど楽だよ」
「ならよかったです。ホテル着いたら、膝枕なんかでもいくらでもしてあげますから」
「膝枕なんかより、膝だのふくらはぎだの肩だのをマッサージしてほしいね」
「マ ッ サ ー ジ」
迂闊に自分の口から飛び出てしまった言葉に海は心底うんざりした。
いやにねっとりした、それでいて威圧感のある響きでつい海をチラリと見つめたジェネル。その表情は意味ありげにニヤついていた。
「変な意味で言ってるんじゃないから」
「分かってますよ。たぶんそれ、どちらかというと私がマッサージされる側ですから」
「……体が大きいと、疲れてばかりでろくなことないね。ストライクゾーンだって広く取られるし、恵まれた身体してるんだからとか言われて、長打ばっかり求められるし」
海は思わず少し嫌な感じの声を出しながら、座席をまた少しだけ倒し、できるだけ楽な姿勢をとった。疲れてるせいか、また無意識に変なことを言ってしまいそうだった。
「海さんには心のマッサージも必要そうですねー、割とガチで」
「ほんとだよ」
バカ言ってるんじゃないよ、などという返事がくると思っていたジェネルは、海のたまにポロっと出てくる本音を聞いて、一瞬目線を海のほうへとやった。
嫌味でもなければ冗談でもなく、その言葉はやはり素直に出たようで、そこから海の言葉は少しだけ途切れた。
「……でもさ、自分でもワガママなやつだと思うよ、俺は。……ごめん、急にさっきの話蒸し返すけどさ」
「さっきの話?どれですか?」
「タイトル授賞式の話」
「あー、そこでしたか」
「ああ。初めてちゃんとフィールドプレーヤーとしてベストナインを獲ったのは、29……30くらいの時だった。初めてシーズン通して4割を打った年のことだった。4割打っただけじゃない。あの年、初めて3番で固定されたし、初めて2桁本塁打を打った。でも、4割打つだけじゃ勝てないって思い知った年でもあった。俺も、積極的に周囲と関わるタイプでもなかったし、あの頃、俺は今以上に周りとかみ合ってなかった」
「今以上にですか」
「ああ。まだお前が居なかったからね」
フッ、と笑みを浮かべたジェネルだったが、海は特に反論せず、続けた。
「周囲を見渡したとき、清兵衛くらいしか頼れる奴は居なかった。チームは今以上に点と点の集まりでしかなかった。清兵衛もきっと、同じことを考えてたから俺に構ってくれたんだと思う。あの年、チームの中で授賞式に立っていたのは、俺しかいなかった。正直言って、よそが羨ましいとは思った。会場で群れてる『いつものなじみの顔』が、他の奴らにはいる。でも、俺には、そういうのがなかった……。かといって、あの中に俺が混じっていくということは、自分のいる環境に何かしら思うところがあるってことを、自分で認めてしまうことになる。そうなったら、俺はもう、戦い抜けなくなる気がした」
ジェネルは徐々にカーオーディオの音量を下げ、ほとんど聞こえないレベルまで下げてしまった。
「別にいいのに」
「いいんです。私が下げたかったので」
要らぬ気遣いをして――と海はジェネルに思ったが、どうせボリュームを戻せと言っても聞かないだろうから、海は続けた。
「……よそなら、今の俺を受け入れるような場所がここじゃないどこかにあるなら――ここで必死でプレーし続けて、球界に俺の実力をアピールし続ければきっとどこかが拾ってくれるはずだし、もし、他のチームの連中とと交友があるってことを公にすれば、よそのフロントがそれを参考に、俺にオファーを出してくれるかもしれない。珍しいことじゃないだろ、交友を理由にFAに乗り出してくるチーム。……でも、そんなことを考えながら野球をし続けることなんて、その頃の俺にはもう出来なかった。ここでさえなければ自分は輝けるはずだ、なんて思いながら野球なんかしてたら……これまでの人生が間違ってたこと、俺の運命がクソだってこと、あの監督やコーチなんかのもとじゃなかったらもっとのびのびプレーできてたってことを、自分で認めてしまうことになる」
海はそう言って、肩の後ろで組んでいた腕を解き、今度は足を組んでぼうっと車の天井を眺めた。
「失った人生をどうにかして挽回することはできるかもしれないけど、失った時間そのものを取り戻すことは、できないんだよ。どれだけ人生を挽回したって、心のどこかに失った人生が隙間としてそこにあり続ける限り、一生その隙間に……歯の間に野菜や肉の筋なんかが挟まるように、絶対どこかで、自分で挽回したと思ってたその隙間に、何かよくないものが挟まる瞬間がくるんだよ。だから俺は……よその連中が群れて、食事なんかに行こうとしているその中に飛び込めなかった。よその連中に、俺が惨めなものだとも思われたくなかった」
〈この先、しばらく渋滞です――〉
再度カーナビが、海の言葉をいったん途切れさすようにして割り込んだ。渋滞してることくらい、誰が見ても分かってる――そう海もジェネルも思いながら、ドリンクホルダーからペットボトルの飲料を取り出して口にした。
「でもね、やっぱり……羨ましいと思った。羨ましいと思ったし、いつかきっと、自分たちのチームの連中が、よそみたいに、いい雰囲気で授賞式に大勢で乗り込んで……『今年は最高の一年だった』って、優勝した、しないに関わらず笑顔で一年を振り返って……そんなことができたらいいな、って思っていた。もちろん、その中に優勝……いや、日本一なんて言葉が一緒についていたら、きっとどれほど誇らしくその場で胸を張れるんだろうなって思ってた。それが今になって、自分以外にもチームメイトが授賞式に呼ばれるようになったってのに、あんまり嬉しいと思えないんだよ。隣の芝は青いって、よく言ったもんだよな。あの時、よその連中は楽しそうに見えてた。会場にこれからうちのチーム何人かで乗り込むっていうのにあんまり楽しくないのは、俺の性格がこんなもんだからかもしれない。俺がもっとお前みたいにバカ明るかったら、『今の俺たちはとてもまとまってて盛り上がってて、まだまだ勢いのあるいいチームです』なんて、嘘でもいいからそうやって胸張りながら、みんなで肩なんか組めちゃったり出来たのかもしれない。でも……なんだろうな。あの時見た光景ほど、俺たち、そんなまとまってるように見えないんだよ。見えないっていうか、事実、チーターズはずっとバラバラのままだ。そして……きっとずっと、このままだ」
「……」
ジェネルは海の言葉を否定しなかった。冷め切った円陣、年上の選手に取り入ってもらおうとする若手中堅、バラバラに散らばってガラガラのベンチ、劇的な勝利を収めたときだけベンチから一斉に飛び出してくる一方で、負けるとブツブツ言いながらすぐに散らばっていく面々、それをどうにもできない監督――。
清兵衛がよく海や田中を連れて食事をしていたのは、清兵衛もまた、同じ感情を抱いていたからなのかもしれないとジェネルは回顧した。
「……分からない。俺がかつて見たよそのチームの連中だって、本当はそんなにまとまってなかったのかもしれない。よその事は、どうやったってよく見えるからね。だから……正直言って、今年の授賞式ほどお前が隣に居て欲しいと思ったことがない。せめてお前が隣にいて、冗談のひとつやふたつでも言ってくれたならさ、それだけでも今年の不甲斐ない成績でも、それでも、あの時感じた羨ましさなんか、二度と味わわなくてよかったかもしれない。お前さえあの場に居てくれたら、俺は一人だって思わなくてすむからな」
海はつい、ジェネルに今はあまり触れて欲しくないであろう部分を口にした。それでも、その言葉を止めることはできなかった。怒られたなら、その時は何でも言うことを聞いてやろう――と海もまた、自棄になっていた。
「お前にこんなこと言ったって……そもそも、投票した記者たちに文句言わないといけないんだけどさ。せめて、お前が隣にいたなら……普段お前がやってみせるバカみたいな冗談なんかじゃなくてさ、公として、お前が俺の隣に居ていい権利が今年あったなら、どれほどよかったものか……なんてさ、思っちゃうんだよ。人間、欲をほじればほじるほど、その先にはやっぱり、欲しかない。欲の先は、また欲だ。現に、俺には華耶というこれ以上なく――何でも言い合える大事な存在が居ながら、こういうときだけ、俺は都合よくお前を欲しく思ってしまう。……本当は、お前なんかより、よっぽど俺のほうが、お前のことが欲しくてたまらないのかもしれないね。俺は……とんでもないろくでなしだ」
海は自嘲気味に笑ってみせながら、なかなか開けない渋滞の列を眺めていた。ジェネルはその間もずっと黙って海の言葉を聴き続け、特に怒ってる様子もなく、両手でしっかりハンドルを握っていた。
「こんなことばっかり家でも……家だけじゃないね。お前の前でも、何度も漏らしてるね。こんなことばっかり言ってるから、華耶だって俺のこと、どう声かけたらいいか分からなくなって、そのまま黙ってしまうんだ。そりゃあ、返す言葉に困るよな。そんなこと言ったって……ってなるのも分かるよ。互いに二人は何でも言い合える仲だって思ってるんだけど、互いに変に踏み込んだことを言って相手を傷つけたくないから、言葉に出来なくなってしまう。だからついつい、華耶も俺も、その感情の矛先を身体に向けて、身体で語り合ってしまう。でも、二人とも分かってるんだよな。身体に訴えたところで、結局その場しのぎにしかならないんだ。それでも、その場しのぎでもいいからって……深く残るような傷を残すより、そうして身体で語りたがってしまうんだ。俺は、華耶がお前に自慢してくれるほど、いい夫でもなければ、いい男なんかでもないよ。お前からしてみたら、憧れた男から聞きたい言葉なんかじゃないだろうけどさ、今の話全部」
「そりゃ、そうですよ。あんまり……後輩を困らせないで下さい。運転中だってのに、海さんにそんなこと言われたら……ハンドル切り損ねちゃいますよ」
「受賞できなかったことネチネチ言われたかと思ったら、お前が欲しいだの言われて、そりゃ、つらいよな。ごめん」
海はそう言って、場をごまかすようにして鼻をかみ、伊達メガネの曇りをクリーナーで拭った。何か身体を動かしてないと、気まずかった。
「そこは別にいいんですよ。でも、ひとつだけ分かったこともあります」
「うん?」
「華耶さん、きっと、海さんのそういう……なんだろう、いやらしい意味とかじゃなくて、抱きしめてあげたらなんとかなるんじゃないか、みたいな、なんかこう……海さんにショタみを感じるところがあったから、海さんについてくれてるんだと思います。私もなんかこう……ああ、もういいから黙って飛び込んでおいで!ってちょっとなってますもん、今」
「ショタみって……」
「一応言っておきますけど、別に私、ダメな男に惹かれがちー、とかそういう意味で言ってるわけじゃないですからね。アレです。ギャップ萌えってやつです。普段あんだけキリっとしてるのに、内面がもう手のつけられないズタズタ感がクる、みたいな。母性をくすぐらせるんですよ、私には。海さんみたいなのが」
「40歳の男にいったいどんな感性をくすぐられてるんだよ」
「アレですよ。ロボットもののアニメの主人公、大体こんな感じじゃないですか。ロボット乗ってる間はコックピットばっか的確に狙うくせにロボットから降りた瞬間人の命がどうだとか理想論がどうだとかー、とか言ってずっとヘコんでばかりのやつ、いるじゃないですか。あれと同じです。同じ」
「……大体そういう主人公って思春期だからこそ許されてるところあるだろ。さっきも言ったけど……俺、40だぞ」
「最近はそういうのも需要があるんですよ」
「誰にだよ」
「少なくとも私に」
「ああ、そう」
「いやでもほんと、結構中年のそういう葛藤って海さんが思ってる以上に需要があって――」
「いいや、その話は。なんか、あんまり聞きたくない」
海は手をぶんぶんと振りながら、ジェネルの話題を強引に打ち切った。少しでも空気を変えられたジェネルはしたり顔でハンドルを握っていたが、胸の奥では改めて自分の実力不足を嘆いていた。