海の彼方で   作:錫樹トシアキ

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139・一番という自負と余裕と

「先輩。調子よさそうじゃないですか」

ロッカールームへと向かっていた海は、その意外な声に思わず二度振り返り、目を丸くした。

「人を幽霊みたいな目で見ないで下さいよ」

「何でお前がこんなところに」

「そりゃあ、俺だっていつも名古屋にいるわけじゃあありません。名古屋の新聞だって、いつも名古屋のことばかり取り上げてるわけでもありませんしね。大体、前にも言ったじゃないですか。俺、競馬も担当してる、って。競馬の取材と一緒に、このカード、先輩のところもちょっと情報仕入れておこうと思って」

木村がペンをくるくると回しながら、海のもとへゆっくりと近づいてくる。

 

本当についさっきの試合はスカイクロウズ戦だったよな――?と海は記憶を穿り返してみるが、間違いない。ここはどう考えても神宮だし、相手もスカイクロウズだった。アニメの主題歌をモチーフとしたチャンステーマだってはっきりと聞いた。

 

「お前はそれで情報仕入れて、どうなりたいんだよ。お前だって十分理解してると思うけど、俺もそう長くないんだ。お前、別にチーターズを追ってるって言うよりは、俺を追ってるだけだろ。俺が居なくなったらお前、どうするつもりなんだ」

平静を装って海は木村の言葉に反論する。仮に自分を追って出張してきたとするならば、木村のためにならないと思ったからだ。

 

「そのときは馬のほうに専念しようかなとも思いますよ。最近、大和スポーツなんかも動画コンテンツとか充実してますし、ああいうエンタメをちゃんとエンタメだって分かってるようなところに転職できたらいいなって思ってます」

「何だよ。今のとこ、あんまり合ってないのか」

「合ってないわけじゃないですけど。俺ももう34です。新卒3年目からずっとスポーツ欄を任されてきて頑張ってきましたけど、言ってしまえばたかが地方紙じゃないですか、ナゴスポ」

「たかがって」

「大スポなら、仮に野球を続けてるならそれはそれで、東京方面で試合するたびに先輩を追えますし」

「そんな理由で転職なんてして大丈夫なものかなと思うけどね、俺は」

「大丈夫っていうか、実はもう面接の日程も決まってるんですよ。来月、最終面接です。あ、これオフレコでお願いしますね。最終面接っては言ってるものの、実際はもう当確みたいなもんなんで」

「……」

呆気に取られている海のことなどどうでもいいようなそぶりで、木村は

「まぁ、そんなことはどうでもいいんですよ。きのうはジェネルと二人で上げた打点だけで試合に勝って、今日は早速アベック砲じゃないですか。ファンの間では『嫁公認の浮気』だとか『嫁公認砲』だとか『熱愛砲』だとか、もはや二人が揃って点を上げたりホームラン打つことが一種のエンタメになってるんですよ。どうなんです、実際、二人の関係は」

なんてズケズケと普段どおりのテンションで質問を始めた。

 

「どうもこうも、お前が見たまんまの光景だよ」

「でも実際、ジェネルを意識したような発言は結構あったじゃないですか。ベストナインの授賞式だって、凄かったじゃないですか。シビれましたよ、あれ。あんなの、俺だって言われてみたいと思いましたよ。別にこれ、記事にするとかそういうのじゃなくて、個人的に興味があるんですよ。実際、どうなんです。長いこと、二人の関係も見てきたつもりですけど」

やや前のめりになって距離感の近い木村を海は跳ね除け、落ち着けと言わんばかりに両腕を伸ばして距離感を取った。

 

「……見たまんまの関係だよ。でも、確かに……前とはちょっと変わったかもしれない。別に、お前が期待してるような変な意味とかじゃないし、別に華耶に対しての感情が変わったわけじゃないよ。ただ、アイツが最近、俺になんとか食らいつこうと必死で練習して――俺から真似できる技術は真似しようとするし、これまでみたいに俺になんとかしてでもいいところを見せようとして空回りしてるだけじゃなくて、実際に――俺が思っていたよりもずっと早く、アイツは俺に肩を並べるくらいまで成長した。それはお前だって、理解できるな」

「ええ」

「あんなのをもし同期なんかでやられてたら、本当に恐ろしい存在だったと思う。アイツのことを恐ろしかっただろうと思うし、俺が逆に、アイツに追いつこうと躍起になってたと思う。俺がもし華耶と出会ってなくて、アイツが15年……いや、10年でも早く生まれてきていたら、俺がこれまで思っていた以上に未来は変わってたかもしれない。……でも、もし華耶と出会ってなかったら俺は野球なんて続けてなかったと思う。だから、アイツがもし俺の未来を変えられる条件にいたとしても、俺が野球を続ける理由の根っこに華耶がいる限り、アイツは絶対に勝てない戦いをしないといけないんだよ。……まあ、とにかく。アイツが最近頑張ってるのは、俺も認めている。アイツが無理に肩を並べようとすることも、前ほど嫌じゃなくなった。言葉に行動が伴っているからね。あとは、見たまんまの関係だよ」

「この後も、二人で食事にでも行くんですか」

「普通にホテルで食事にするよ。でも、アイツはきっと酒でも持って部屋に遊びにくるだろう。正直言って、部屋に酒を持ってくるのはやめてほしいんだけどね。一応、男女の壁っていうものはあるんだから」

「でもそれも、前ほど嫌じゃなくなりましたか」

「……嫌かどうかで言ったら、それはやっぱりまだ嫌だけど」

海は時計を見ながら――

「バスに乗り遅れるから、この辺でいいかな。アイツも俺のこと探してるだろうし」

と言って、木村から逃げるようにして足早に去っていった。

「……つまり、それくらいには信頼関係が築けている、と。……羨ましいですね」

遠ざかる海の背中を見送りながら、木村はペンを指先で回した。

 

それから開幕6カードを終えて、海とジェネルの打撃はおおよそ同調していた。海が不調な試合はジェネルも大概振るわなかったし、海が好調な試合はジェネルもまた好調だった。

海も相変わらず調子の波の上下に少し苦しんではいたが、それでも、その割にはホームランが3本――シーズン通してのペースで考えたら、そう悪くはなかった。

 

もともとヒットを量産するタイプの打者である海の調子にジェネルがついてきているということは、それだけジェネルもまた安定してヒットを量産できるようになったというわけであり、ジェネルのフルスイングは、これまで付きまとっていた『単なる一発狙いの打者』というイメージではなく『基本的には長打を狙いながらも、しっかりとコンタクトしてくるのが当たり前の選手』というイメージに変わっていた。そうしてファンからの視線が変わったのが、何よりも成長の証でもあった。

 

海は純粋にそれが嬉しくもあったし、その気持ちが強まれば強まるほど、本当にジェネルがあと5年、10年早く生まれてきて同じ世代で戦えたならば――という気持ちもやはり、強まった。

ないものをねだってもしょうがないのだが、これほどジェネルが自分に追従できる未来があったのであれば、ジェネルと――そして願わくば清兵衛までもが同じ世代で揃っていたら、どれほどあの日々がもう少しなんとかなっただろうことか――どれほどあの日々が、あそこまで辛酸をなめ続ける日々でなかっただろうことか――。

そんな、考えたところでどうしようもないし、そう考えてしまうということは現実を悲観し、否定していることに繋がってしまうから考えないようにしているIfが、日に日に海の中で大きくなっていた。

 

「――いいか悪いかで言ったら、よくないと思う」

「それで結果的に精神が安定できてるなら、いいじゃない。後のことは後の若い人に任せて、海くんは海くんのことだけ考えて、自分の打撃を取り戻しながら野球してたらいいの。それじゃ駄目?……駄目か。一応、まだキャプテンやらされてるんだもんね」

「そうだよ。よくない。よくないと思ってるけど、どうにもならない。清兵衛と野球してた頃の高揚感だけで6億なんかもらってちゃいけない。球団だって、6億出してやってるんだから早く優勝してくれって思ってるはずだ。もちろん、そうやって『べきだ』って考えるのが俺のよくない癖だってことだって、分かってはいるんだよ」

試合を終えて家に帰った海は、華耶に胸のうちを明かした。

 

ジェネルが自分と肩を並べていることに満足している自分がいるということ。

正直言って、もうジェネルと肩を並べながら野球をできさえすれば後のことなんかどうでもいいと思い始めてしまってる、ということ。

でも、自分のこれまでのキャリアや、自分が周囲に何を期待されているかなどを考えたら、毎年のように2位なんかで留まってるべきではないということ。

去年ほどひどい不調に陥ってるわけではないにしろ、自分はもう一度4割を打てるようでなければいけないはずだということ。

それでも、ジェネルと肩を並べてヒーローインタビューなんかしてしまうと、それでどこか自分は満足してしまうこと――。

 

「これがさ、たとえばアイツのほかにもう一人でも俺と似た打撃理論の奴がいたなら、俺だってもっと危機感なんかも持つだろうし、もっと、野球に対して違う思いを抱いてたと思う。でも、うちにはバットコントロールなんかよりも飛距離、なんて人間が相変わらずずらりと集まってるし、かといって、俺は別にバットコントロールだけよければ……ってタイプの打者ってわけじゃない。バットに当ててあとは足で稼ぐ、なんてタイプの打者もやっぱり、それはそれで俺とは違うだろ」

「まあ、うん」

「でも皆、そういう、目に見えて分かりやすいものをみんな求めるんだ。だから、みんなそれを求めて大きく振るか、極端にバットを短く持つ奴しかいない。打撃コーチもそれを分かってるからか、なんだか最近は若手に対してやたら大振りを意識してるんだよ。ホームランさえ打てば貴重な点が入るっていうことに気づいてしまったみたいでね。……どうなんだろう、ひょっとしたら、俺みたいに打とうと思えば外野と内野の間抜くような当たりなんかを打てる見込みのある奴が居ないから、なりふり構わず大きく振ることを推奨してるだけなのかもしれないけどさ。俺みたいな中距離打者って、意外と球界に居そうでいないからね」

「そもそも海くんが中距離打者なのかって話だけど」

「俺がそう思ってるんだから、俺は中距離打者だよ」

「そっか」

華耶からしてみれば海は単なる中距離打者というカテゴリに置いていいのかという思いこそあったが、それ以上は海には何も言わないでおいた。本人がそう思っている以上、口を挟むのは野暮だと思ったからだ。

 

「他に打撃理論が合う奴が身近にいないから、最近は、俺はジェネルくらいとしかまともに口を利いていないし、大体コーチにも俺たちはセットで呼ばれる。セットで売り出したいっていう思惑もあるのかもしれないけどさ。まあ、そりゃあ、シート打撃なんかでもガンガン飛距離出してる奴のほうが、取材映えするし、かっこいいもんな。若手がチームの大振り路線に嫌そうな顔せずに、飛距離を求めて肉体改造に流れていくのだって、分かるよ」

海は自嘲気味に笑いながら、足を組んだ。

 

「みんな、分かってるんだよ。4割打つだけじゃ勝てないってこと。投げるほうとしてもよくボールが曲がっていろいろ試しやすいらしいけど、同時に、当たればしっかり強く飛んでしまうボールを使ってるもんだから、足で稼ぐタイプじゃない打者なんかは、どうせそういった打者に勝てない打率だとか、ケースバッティングだとか考えて振るよりガンガン強く振ったほうが、守備のどこかがビビってエラーしてくれたり、判断ミスしてくれたりする率だって上がる。打ちづらいけど、打者にもそれなりに有利なボールなもんだから、ちょっと芯を外してもバカみたいなパワーさえあれば、技術なんかなくてもボールがあっさり柵を越える。打った球がホームランになっちまえば、あれこれ考えなくてもそれが純粋に得点になるわけだから、1点欲しさにあれこれ考えて振るより、何も考えずに三振上等でホームラン打ったほうが投手からも、監督たちからもありがたがられるんだよ」

詰まったような打球がホームランになるようなことはほとんどなく、ホームランになった打球というものは常にしっかり芯で捉えてきたつもりの海は、そんなパワー偏重の風潮に苦虫を噛み潰したような表情で語った。

自分も少しくらいそうして力で押せばよかったのだろうか――そんな苦悩が常にちらつくような、華耶から見てもそれは辛く、苦しい表情だった。

 

「……そんなんだから、余計、アイツと腕でも組んでイチャついてたほうが俺だって楽しいと思ってしまう。若手や中堅が皆、あれこれ複雑なこと考えて振ってる俺なんかより、飛距離ばっか競ってるホームランバッターどもにばかり近寄っていくからね。だったら、そりゃあ俺だってジェネルと一緒にいたほうが楽しいに決まってるだろ。俺とアイツとだって、タイプが完全に似てるわけじゃないけど、俺みたいな打撃を理想としてて、そいつが四六時中構って、純粋に慕っててくれるんだ。優勝とかそんなもん、もうどうでもいいや、ともなってしまうよ」

海は華耶の顔をじっと見つめて、続けて話し出す。

 

「華耶は俺には好きにしたらいいって思ってくれてるし、俺との関係が崩れることなんてないと思ってくれてるから、俺とアイツの関係にだって何も口を挟まないし、なんなら、華耶のほうからもっとやれって煽ってくれてるだろ、アイツのこと」

「うん」

「でもね、俺だってやっぱり気にするんだよ。アイツが女だということはどうやっても最後にまとわりついてくるんだよ。このまま、俺が本当にもうあとはジェネルさえ居たらどうでもいいや、ってなって、俺がそのままアイツとうっかり一線を越えてしまいやしないかとも怖くなることがある。俺は自分ではその辺の線引きは出来てるつもりだけど、それでも、俺には半分、ろくでもない奴の血が流れている。俺が自分で線引きができてると思っているつもりでも、本当は、越えるべきじゃない線なんか、とっくに越えちまってるのかもしれない。これから東京に家だって建つっていうのに、俺が、俺の意思で家に帰れなくなるようなことをしてしまったら、何が『父親でありたい』だよ、ってなるだろ。それもこれも、あの日打てなかった俺が全部悪いんだけどさ……俺、何のためにこれから野球したらいいのか、分からなくなるよ、最近。自分のためにって、華耶は言ってくれたけど……考えれば考えるほど、自分のためっていうのが一体何なのか、分からなくなる」

 

華耶はうつむいたままの海の隣に座り、肩に手を回した。

「……分からないままでさ、いいと思うんだ。なんなら、悩んだままで……いいと思うんだ。そこには常に海くんの意思があるわけでしょ。どうしたらいいんだろう、って。だったらさ、そのときそのときで自分のためって言葉を都合よく使っちゃって、いいんだよ」

「でも――」

「でもじゃないよ。海くんは責任感が強すぎるからさ、そのくらいのギアのぶっ壊れ方でいいんだよ。浮気だってさ、別にあたしは今の海くんのままうっかり浮気しちゃったとかなら、なんとも思わない。そりゃあこれがさ、家にも一切帰ってこなくてさ、東京に引っ越すことのビジョンだって実はあんまり考えてなかっただとかさ、双羽ちゃんだけじゃなくて、他の女の子にも手を出してましたーとかならちょっとあたしだって考えるけどさ――あたしは何度も言うけど、自信や自負があるもん。海くんが仮に双羽ちゃんに手を出したとしても、それでも、必ずあたしの元に帰ってくるって。どれだけ双羽ちゃんと線を越えたとしても、それでも、海くんの一番はあたしだって、あたしは理解してるつもりだから。……大体、海くんは双羽ちゃんと一線は越えない。絶対に超えないよ。そんな一時しのぎの傷の舐めあいのために、その後の双羽ちゃんの心を傷つけちゃいけないって海くんは思ってることだって、あたし、分かってるつもりだから。だから――双羽ちゃんが無理矢理海くんに襲い掛かってくるでもしなければ、絶対にそんな日は来ない」

「……買いかぶりすぎだよ、お前も、アイツも」

海は呆れたようにして、ニッと笑顔を向けた華耶の表情を見て思わず鼻でふんと笑ってしまった。

 

「そんなことないよー。あたしにはなかなか言い出せなくて、双羽ちゃんにしか相談できないようなことだって、あるんでしょ?」

「それはまあ――」

「それはさ、もう、仕方がないことだと割り切ってる。あたしには、プロの世界の本当の内側のことまでは分からないから、しょうがない。同じ世界に居るもの同士で話したほうがいいことだってきっとあるはずだから。それでも、海くんの心の奥底にはいつもあたしがいるって自負しているから、これまでも双羽ちゃんに手を出さずにいたわけだし――あたしは別に、双羽ちゃんを一度や二度抱いたくらいじゃ、別に責めないよ。双羽ちゃんだって、あたしから本気で海くんを奪おうとしてるわけじゃないっていうか――あたしからは海くんを絶対に奪いきれないことだって、分かっててやってるはずだからね」

そうは言いながらも、華耶はぐっと腕で海の肩を自分のほうへと引き寄せ、海とさらに身体を密着させる。それなりに女としての対抗意識があるのだろう、華耶は嫌に胸元をすりすりとさせながら海をじっと見つめた。

海も思わぬ華耶からのアプローチに少し驚きながらも、華耶の顔を黙ってじっと見つめた。

 

「あたしと双羽ちゃんくらいしか信じられないなら、もう、それでいいじゃん。自分を信じてくれる人の数が0か1かだけでも全然違うこと、海くんなら、分かってるはず」

「……」

「優勝だとか何だとかにこだわって、たまに海くんは自分で自分が何なのかを忘れそうになるかもしれない。でもたぶん……それと同じくらい、隣にあたしや双羽ちゃんが居るってことも忘れそうになってると思うんだ。だから、海くんはそのときそのときで自分のために行動する、くらいでいいんだよ。もうそれくらいワガママやっていいくらい、十分耐えたよ、海くんは。今ワガママしないで、あといつワガママするのさ。ずっと、ずっと、ずーーーーっと耐え続けてきてさ、これまで。最後まで耐え続けました、だけど結局どうにもなりませんでした、じゃあ、あんまりだよ。だから、海くんはもっとワガママしなきゃ。あたしに対してだって、もっとワガママにしていい。これまでも十分ワガママしてきたじゃん、って思ってるかもしれないけど、あたしはもっとされていい。仮に双羽ちゃんと火遊びしたなら――双羽ちゃんを一度や二度抱いちゃったなら、その三倍くらいの熱量でをあたしにぶつけてきてほしい。全身にカタがつくくらいキス痕つけられても、あたしはまだまだまだまだ足りない。イス座るのがしんどいって思うくらいお尻叩かれたって、まだ足りない。突然思い立ってデートに連れまわすだとか、なんだとか……ありとあらゆるワガママしたって、別にあたしは構わないよ。海くんからのワガママなら、あたしはなんだってする。互いにちょっと歳とって、互いにちょっと気を遣うようになったかもしれないけどさ――燃え尽きるにはまだ早いよ、あたしたち」

華耶は真剣な表情から一転、ニッと笑顔を見せ、唐突に海の頬に口づけをした。

 

「仮に双羽ちゃんに手を出してしまいましたって懺悔する日がきたなら、あたしはその倍、ううん。倍の倍、海くんを求めてやるから。浮気する分にはいいけど、あたしだって女としてまだ終わったって思ってないからね。海くんがあたしを求め続ける限り、いつまでもあたしは海くんの一番の女でいてやるんだから」

華耶の表情から、自信が見て取れた。自信と同じくらいの量の熱があふれ出し、海の肌に感情を流し込んできた。

海はしばらくそのまま華耶の表情を見つめていたが、ぷつん、と糸が途切れたように、そのままベッドへと身体をなぎ倒した。

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