「……」
〈――続きまして、チーターズ所属――佳井海〉
硬い表情のまま、細い長身に合わせた特注のスーツが相変わらずよく似合う姿がジェネルの部屋のテレビに映し出される。高級スーツメーカー・銀座紳士堂のイメージキャラクターを務めているだけあって着こなしに安定感があったが、本人にそれを言うときっと嫌がるだろう。
3月に行われるWBCSの最終メンバー発表。4年前の前回大会に引き続き、海はその記者会見の場に立っていた。控えめに頭を下げ、表情をピクリとも動かさないまま、時折どこか目線を泳がせているが――次々とメンバーが発表されていく中でカメラもまた、そんな海への興味を大して持たずに次の選手へとパンしていく。
海が画面から離れたことで興味関心が一気に冷めたのか、ジェネルは網で焼いていた餅を一度水にくぐらせ、あんこを上からかけて食べ始めた。
「あっつ」
誰もいない、返ってくる言葉もない空間に自分の声だけが部屋に響き渡る。ジェネルはその寂しさに、壁に大きく貼られた海のポスターをもう一度見つめた。
二週間ほど前、WBCS選考メンバーの中間発表が行われた。メンバー最終発表の時点で30あった枠のうち、中間発表で前もって告げられた24人の中に海は入っていた。
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「俺みたいなのが中間の時点で入ってるんだから、お前だって入れるよ」
「何言ってるんですか、もう」
海は家をたずねてきたジェネルをリビングに招き入れ、中間発表の様子をテレビで見つめていた。
前もって数日前にメンバー選出の知らせを受けていた海はなんとも思わずにその様子を眺めていた。ジェネルは画面の向こうの海の姿と、隣に座っている海の様子とを交互に見つめては、最初のうちは笑顔を見せていたが――自分の名前がそこに載っていないことに複雑そうな表情を見せた。
「言っておくけど、同情とかじゃない」
「別にいいんですよ」
「いいや、俺は本気で言ってる」
「またまた」
「真面目に聞いてくれ。内野で俺を本気で使うつもりでいるなら、たぶん、外野だって攻撃力特化でいくと思う」
「だったらなおさら――」
「でも、いくら攻撃力特化でいくとなっても、センターラインの守備くらいは確保しておかないといけないだろ。センターを任せられる守備がちゃんとあって、それでいて勢いをつけられる選手を選ぶつもりなら、お前が選ばれるべきだと俺は思う」
「でもそれは、海さんがよその選手のことに興味がないから言えることです」
「だとしてもだ。センターをしっかり守れてここのところ勢いがあって、それでいて長打力のある選手と言ったら、お前くらいしかいないだろ。俺だって別によその選手に詳しいわけじゃあない。だけど、お前が選ばれないメンバーを俺は想像できない。これはお世辞でもなんでもない。お前を選ばない監督が仮にいるなら、そいつはうちのチーム以上の無能だよ」
海は海なりの言葉でジェネルの選考について思いを語ったが、ジェネルはそんな海の言葉に「ありがとうございます」と照れくさそうに笑った後、ふとその笑顔を消した。
「でもやっぱ、30本っていう壁を乗り越えられないからなんでしょうかねー。たぶん、一回でも30本打ててたらまた違ったんでしょうけど。仮に私を選ぶかどうかで悩んでる人がいるなら、30本打ってないからなー、ってところを突かれてるとこはあると思うんです。国際大会って、守りは重要ですけど……守ってるだけじゃ勝てませんから。1点の重みが普段の試合よりダンチですから、三振取れる投手を集めて守備に割く部分をいくらか投手でカバーするでしょうし。それに――」
ジェネルは天井を一瞬見つめた後、海が淹れたコーヒーにミルクを流し入れ――
「やっぱり、海さんはよそのチームをあんまり気にしないからそんなことが言えるんですよ。Cリーグなんて強打者の巣窟ですし、私より打てて守備だってこなせる選手がいます。海さんが思ってる以上に、私の代わりって、結構いるんですよ。守備で私を選ぶつもりなら、私より守れる人がいますし、そこにしっかりとした打撃が伴ってる選手だって少なくありません。私は最近ポストシーズンなんかじゃ当たってるほうかもしれませんけど……私が短期決戦で結果を残せるタイプだ、なんてところまでちゃんと見てるほど代表監督だってそんな暇じゃないです。大体、今まで一度も強化試合にだって呼ばれてないんだから、ダメですよ。強化試合のメンバー、公にはされてないもしもの時の予備には入ってたらしいってことを、木村さんからは聞いたことありますけど」
そんな弱気な表情を見せながら、コーヒーにようやく口をつけた。
テレビも中間発表の中継が終わったとたん、コメンテーターがあることないことを話し始め、球界OBなんかもまた、本当に最近の野球を見ているのか分からないようないかにもワイドショーのようなことを言い始めるものだから海はチャンネルを変え、アニメばかりやっているチャンネルを適当に流し始めた。
青春もののアニメのさわやかなオープニングが流れ始めるが、二人とも気に留めず会話を続けた。
「お前以上の選手がよそには居るだとかそういうの、正直言って、俺はどうでもいいんだよ」
「え?」
「前にも言っただろ。ベストナインの話。前の大会にはうちらから投手が二人選ばれてた。でも、片方は俺とほぼ同期で……もちろん、まったく口を利いたことがないわけじゃない。でも、じゃあそいつと特別親しかったか、って言われると、俺もこういう性格だ。向こうは俺とは違うベクトルで周りと打ち解けるタイプじゃなかったから、結局、大会中もそんなに何か同じチームだから何かするってこともなかった。もう一人の先発も、移籍してきたばっかりだったし、しかもメディア対応や周囲とのコミュニケーションなんかも俺以上に淡白なやつだったから、誰かと話してる姿だって見たことがない。もともとうちらのチーム……特に投手なんかは特に、そんなに喋るタイプのやついなかっただろ。最近移籍してきた、あのやたら声のでかくてマウンドで叫びたがりの先発が一人だけめちゃくちゃ元気なだけで」
海は一気にコーヒーを流し込み、ゆっくりとテーブルに置いてからジェネルを見つめた。
「まあ、投手のことなんて……それだって、どうでもいいんだよ、正直言って」
海は携帯をいじりながら、連絡のつかなくなったまま未だに消せずにおいてある清兵衛の連絡先を見つめ、テーブルに置いた。うまくまとまらない言葉がもどかしかった。
「俺は、清兵衛と一緒にあの場に立って戦うこともかなわなかった。あの頃俺は4割前後を打てるようになって、内野が一応全ポジション守れるだけの打者だった。お前が言うように、俺以上の選手なんかわんさかいるから、その頃は選考にはかすりもしなかった。国際大会というものだって、俺の生い立ちのこともあるし、まるで縁がないものだと思っていたから、興味だってなかった」
ジェネルは海の携帯の画面を見つめた。自分もまた、清兵衛の連絡先を消せないまま携帯にとっておいたままだ。
ジェネルも特段きっかけなんかがあったわけではないから、国際試合のことを清兵衛から直接聞いたことはなかった。聞けるうちに聞いておけばよかったことばかりだ――とジェネルはまた一段と後悔をした。
「お前が言うように、お前となら一緒に立てるはずだと思っていた。思っていたなんてもんじゃない。今だって、思っている。追加召集にお前が入っていてほしい。わがままを言うなら……お前がいないWBCSなんて、正直言って、どうでもいい。前の大会でも世界一になってるし、今回選ばれたとして、何をモチベーションにして戦えばいいか、俺は分からない。前の大会の時だってそう思ってた。俺が純日本人じゃないから。どれほど戸籍が今の俺を日本人だと証明してくれても、どれだけ周りが俺を日本人だと認めてくれてもね」
海は髪をかきむしりながら、乱雑に前髪を下ろした。
「選ばれたからには国のために戦ってくれ、なんてみんなが言うのは、みんなこの国が好きで、この国に生まれたことに互いが誇りを持っているからだ。魂がちゃんと身体に、遺伝子に刻まれてるからだ。でも俺には……戸籍以外に日本人の魂なんてものがない。日本にもだいぶ馴染んだとは思ってるし、今更フィンランドに戻りたいなんても思わない。日本国籍に誇りがないなんてことだってない。だけど……俺、心からは思えないんだよ、『この国のために』なんて」
この国のために――実際のところそれほど本気で思っている人がどれほどいるか分からない言葉に海は気持ちを沈ませ、目線を落とした。
ジェネルからしてみたらそんなことくらい、と思うのだが、海にとってはそれはあまりに大きい問題だということも理解はできるから、口は挟まなかった。
「日本が嫌いなわけじゃないし、やる気がないわけじゃない。でも、俺は日本人としての人生がどうやっても周りから1/3くらい欠けている。何か別の理由がないと、自分を誤魔化せないんだよ。でも、清兵衛はもういない。あと、身近に俺を奮い立たせられそうなものが、お前くらいしか、あといないんだよ。お前が、自分のことをどう思っててどう自己評価してるかなんてどうでもいい。お前がいないWBCSが俺にとってつまらないことのほうが嫌なんだよ、俺は。選考メンバーに知り合いだっているわけじゃあないし、別に今更メンバーと仲良くなったって、そいつらがチーターズに来てくれるわけでもない」
ジェネルは突然自分のことを引き合いに出されたものだから、ぷっと笑いながら、少し気まずそうな笑顔を浮かべ――それを見て不満そうな顔を浮かべる海に対して、ジェネルもまた、笑って申し訳ないというような顔こそ浮かべたが、しばらく笑い続けていた。
「茶化すなよ。真面目に話してるんだ」
「いや、分かってるんですけどね。いや、いろいろ分かるんですよ、私。海さんが私を信頼してくれてることも分かってますし、海さんがいろんなこと考えて野球してることだって分かってますし、私に気を遣ってくれてるところも分かるんですよ」
「じゃあ、何がおかしいんだよ」
むっとした表情でジェネルをにらみつける海。ジェネルは本当に申し訳ないと思いながらも、それを笑わずにはいられなかった。
「だって、一応ここ、海さんの家ですよ。華耶さんが部屋でまじめに仕事してる間に、家に遊びに来た後輩にそんな、ちょっとプロポーズみたいなこと言っちゃって……なんか、思っちゃったんですよ。そういう無防備なところかわいいな、とか、きっとこんな感じで華耶さんにもプロポーズしちゃったんだろうな、とか」
「やめろよ、華耶を引き合いに出すのは――」
「――分かってるんですよ、海さんが私を野球人として今私に言ってくれてる、ってこと。でもなんだろう、私からしてみたら、プロポーズされてるような感じがしちゃって……。いや、私が勝手にそう受け取ってるだけですけどもね。性別の壁っていうやつですかねー、私が男として生まれてきてくれたならきっと、これがアツい友情劇みたいになるんでしょうけど。でも、私が私である以上、これ文字通りそのまま受け取ると、なんか、白昼堂々浮気宣言してるみたいだなー、とか、なんか、海さんが真面目に話せば話すほど、この状況がなんだか面白くなっちゃって」
「人のセンチメンタルを面白がるなよ」
「ごめんなさい。でも……海さんをきっと振り向かせてみせるって言ったの、確かに私のほうなんですけど。なんだろう、海さんの家でこういう言葉を聞くの、やっぱなんか、この状況……面白いなあ、って」
友情に性別の壁なんてあってたまるか――と海は思い、不快なため息をついた。喉の奥から魔王が飛び出してきそうな、深く、負の感情を一切包み隠さない暗いため息が長く続いた。
「なんだよ。お前、俺がそれなりにまじめに話してるものを。俺からしてみたら、本当に死活問題なんだぞ。周りはみんな知らない選手だらけで、そんな奴らといきなり守備連携だとかなんだとかしなきゃいけないって、お前が思ってる以上に辛いんだぞ。まして俺はもう昔ほど打てるわけじゃない。2年続けて、4割には届かなかった。俺の賞味期限切れを、世界が2年かけて時間が証明してくれた。なのに代表では俺をまだ上で使おうとしている。まして、俺が若い頃は内野を全部守ったことがあるものだから、俺が仮に打てなくても俺には内野どこでも守れるってところに賭けてくれてる。ありがたいことではあるけどね、前にもほら……あったじゃないか、いろいろ。代表監督までもが俺をあんな目で見ているとは……さすがにないと思いたいけどね」
『そもそも、中軸にいる打者が無安打どころか3つも三振くらってたら、こういう大事な試合なんか、どれだけ気合が入ってたとしても、一生勝てないわよね――』
『年齢だとか立場的に、佳井に対してお前ももうちょっとどうにかしようがあっただろって簡潔にまとめるのが、この空気的に最善で、一番簡単に済むと思ったわけ――』
今野とジェネルが衝突した、去年のポストシーズン。普段けだるそうに、何を考えているかはちゃんとは手の内を明かさなかった今野がはじめて、普段胸のうちに秘めている毒牙を周囲に向けたあの瞬間の出来事を、ジェネルも、海も、忘れようとしてもなかなかできるものではなかった。
よそがみんなこうだとは思いたくない――という気持ちと、仮に、自分たちの首脳陣だけがこうなのであれば、なおさら、隣の芝の青さが羨ましくなってしまうという気持ち。
代表監督が自分たちの監督よりもきつい性格かどうかは知らないが、仮に、そこが自分にとって充実感を与えたり、居心地のいいものであったならば、チームに戻ってきたときの空気感の差にやられることを海は前回大会のあと痛烈に思い知った。
そして、代表大会で結果を残したあとやってくるのが、自分への更なる過剰な期待がさらに強まってしまうということも――。
「ジェネル。どうにかして選ばれてくれよ。お前に頼んだところで、俺たちは選ばれる側の人間だからどうしようもないんだけどさ。そこにいないお前の分まで頑張れるほど、俺、一人で何もできるような人間なんかじゃないよ」
「またそうやって。私なんかが出られるほど、世界大会はそんなに甘くなんかないですよ」
「だとしてもだよ。お前がいないWBCSなんて……どう戦えばいいんだよ」
「練習休んで試合にでも見に行けばいいですか?」
「……そういうことを言ってるんじゃないよ。大体それは、かえって迷惑だ。お前、きっとなんかやらかすだろうから」
海はジェネルの軽口に笑いながらも、ジェネルが言うように、ジェネルが選ばれない世界というものが現実味を帯びていることも重々感じながら、空になったはずのコーヒーカップを取り、無意識に口をつけようとしてしまった。
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だらしなく布団を上からかぶり、暗くなり始めた部屋に電気すらつけず、ジェネルは上着をだらしなくはだけ、ラフな姿で三角座りをしながら呆然とテレビを見つめている。
いつしか報道も終わり、いかにもな感じの海外ドラマが夕方のテレビに映し出されていた。
生まれも育ちも違う王子様みたいな男と、ちょっとイモっぽい女が困難に困難を重ねながら、徐々に二人の距離は縮まっていく、大体同じ内容。
いつちょっとだけ見ても、どんなタイトルに変わっても、大体いつもそんな内容ばかりだ。そして、意図的にそうしているのか、いつも同じようにすました感じの吹き替え――。
テレビの向こうの世界は、そうして困難の中で関係は実を結ぶわけだけど、きっと自分のこの関係も、そんな自分の都合一切抜きにして野球人として成し遂げたいもの、その両方も自分は実を結べないのではないか、と思うとジェネルは次第に目に涙が溜まっていった。
「……そりゃあ、私だって選ばれたかったですよ。私……足りてなんかいないつもりです。大体、ポストシーズン、この何年かずっと当たってるじゃないですか。……悔しくないわけ、ないじゃないですか」
部屋に飾られた、ジェネルと海とのツーショットを見ながらジェネルはつぶやいた。選ばれるわけなんかがないとは海の前では言っていた。だが、海の年齢を考えると、自分が今選ばれないということは、4年後の次の大会に挑むころ、海はもう44、5歳になっている。
自分が4年後選ばれるという自信はあっても、海が4年後もまだ海であり続けられるかどうかと言ったら、いかに海といっても、絶対にその間にどこかで体にガタが来てしまうし、その4年の間に世代がめまぐるしく変わっていってしまうことくらい、ジェネルだって理解している。いかに海といえども、世代交代の中で奇跡的に海が30代の頃のような感覚を取り戻すことは絶対にありえないのだ。
今までヒットになっていた当たりがうまく捌けないのも、海もこの歳になって少しずつ体が衰え始めてしまっているからだ。ホームランの数を維持できているのは、海がなんとかして甘い球を逃さずにスイングできているだけの話で、今まで厳しいコースも無理にヒットにしてきた海という姿は今でも球場を賑わせているけれど、打率がそのかげりを隠せないでいる
不得意なコースも、不得意なボールもない――そんな海はもう戻ってこないだろうし、海だって分かっているから手を出すべきボールを選び始めている。
そうしてボールを選ぶことが多くなったから、結果的にカウントを稼ぐ待ちの打席が増え、三振も同様に増えてしまった。それでも3割半ばから後半にかけての打率と、シーズン20本塁打を当たり前のように打ち続けている海がどれほど努力を重ねているかは、並大抵の言葉なんかでは到底表すことができないだろう。
これからも衰え続けていく自分に抗い続けて今の海で居られるかどうかと言われると――ジェネルもさすがに昔ほど強気に『海はずっと海のままだ』とは言えない。清兵衛の衰えを見てきたように、周囲の衰えを見てきたように、海も、いつかあのように下降線に入ることをジェネルは覚悟しているつもりだ。
だからこそ、自分が海と一緒に世界の舞台で戦えるチャンスはこれが最初で最後だとジェネルは強く強く思っていた。海の前では強がりこそ言ってみせたものの、正直なところ、自分の今の成績やセンターを守れる守備力を考えると、追加召集で呼ばれる自信があった。呼ばれるものだという強い自負があった。
それを言葉にして、いざ選ばれなかったとき惨めだから声に出さなかっただけであって、ジェネルは内心、この追加召集に賭けていたのだ。
ジェネルはギリギリのところでこらえていた涙をぽろぽろと落とし始めた。
打撃の数字がもし周りほどではないことを理由にされたのであれば、これまで一度もあと数本のところで30本塁打に届かなかったシーズンを繰り返した自分が悪い。あと少しのところで4割に届かなかったシーズンなんかもあったように、打率でアピールするには、今の球界ではもうちょっとパンチがほしい。
安打を意識すればホームランがなかなか出ないし、ホームランを意識しすぎると不調の波にとらわれ、一気に打率も落ちていく――そんなことを繰り返しているから、自分はいつまで経ってもこうなのだ。
海がどれほど振るわなくても自分が代わりに打てばチームも勝てるはずだし、ポストシーズンだって勝ち抜けるはず――そんな強い思いで試合に臨んでも、肝心な試合でチャンスをふいにしてしまう。海の分まで頑張るどころか、自分も海につられて試合を壊してしまう。
3月生まれということもあって、ジェネルは球団寮に入寮したときはまだギリギリ17歳だった。
入団した頃の自分は、何でもできると思っていたし、海の背中だって、必死で追い続けていればすぐに追いつけると思っていた。海は自分のことを追いついたとカメラの前で言ってくれてはいるが、自分自身の言葉で、海に追いついたとカメラの前で堂々と言うためには、海の代わりの分まで打って、海に勝利を届けてやらなければならない――。
「……分かってますよ。悔しいって思ってるだけじゃ、何もできやしないってこと。思いだけじゃ、何も成し遂げられないってことも。……でも、悔しいものは……悔しいんですよ、海さん……」
写真の向こうにいる、必死で作り笑いを浮かべている海の表情が涙でにじみ、しっかりと見えない。
もうすぐ始まるキャンプで、海が居ない間自分が声を出し、自分がしっかりと牽引していかないといけない。そこに誰もついてこなくても、それでも自分が声を出していかないといけない。
次に海になるのは自分だ――そうなんとか気持ちを切り替えようとしても、今はただ、悔しさに打ちひしがれることしかジェネルにはできなかった。