「試合は?」
「8回の裏。7-4で負けてる」
「マジ?」
「しゃーないよ、アメリカとベネズエラが同じグループじゃ、こんなもんでしょ」
「この試合負けるとやばいんだっけ」
「ほぼ確でグループ敗退。勝ったら逆に準決勝進出ほぼ確のギリギリなやーつ」
「きっつ。無理じゃん」
試合を終え、ぞろぞろとロッカールームへと集まってくるメンバー。その視線は、部屋に置かれたテレビに一斉に集まっていた。
一足早くロッカールームで試合の様子を我先にと見ていたジェネルは、後からやってきた若手の心無い一言にいちいち腹を立てそうになったが、黙ってじっとその様子を見続けていた。
〈高々と上がったフライはセンター、クランシー・パインのグラブに収まりそうです。ワンナウト、ランナー、二、三塁という場面ですが、タッチアップするにはちょっと距離が浅いでしょうか。三塁ランナー、走り出す様子は今のところありません――おおっと!!クランシーが落としている!クランシーが!ボールをつかめていません!!〉
〈どうしたんでしょうかねー、捕球姿勢もそんなにおかしくなかったんですけどね〉
〈クランシー・パイン、即座につかみなおしてランナーを牽制します!三塁ランナーはストップ!動けません!〉
〈ひょっとしたらわざと落として、ランナーをホームで刺すつもりだったんですかねー。クランシーの強肩っぷりはやばいですからね。日本人選手もあのくらいの送球ができればいいのにって思いますよ〉
〈いやー、あの様子だとたぶん本当に素で落としたんだと思いますよ〉
〈昨シーズンはエラーが3つ、いずれも果敢にファインプレーを試みた際の落球でした。珍しく平凡なフライを落としたという場面ですが――〉
「――え?カイさん、8番打ってるの?」
「代打で途中出場とかじゃないの?大体さー、あのメンバーで今更カイさんがスタメンなんて無理でしょ。去年無冠が選ばれるくらいなら俺だって選ばれてもいいのに。なんだっけ?代表監督。背中やプレーでチームを活気付ける、とか下らないよな。チームを活気付けるなんてしょーもない理由でメンバー招集するなら、俺くらいペラペラしゃべる奴の一人くらいいていいじゃん」
「おいおいよせって。ペラペラ喋ってプレーでも活気付けるのに選ばれなかった選手だっているんだから」
ジェネルの後ろから、オープン戦特有の、二軍含めた若手や中堅の入り混じった声が聞こえてくる。
その中にはジェネルすらも小ばかにするような声すら混じっていたが、きっとこういうとき、海ならば相手にしないだろうから――と、ジェネルは黙って画面を見続けていた。
「大体さー、世の中がカイさんに幻想抱きすぎなんだと思うよ。ちょっと人より得点圏で打ってるからって。それだけで代表呼ばれるなら、他にもっと勝負強い打者もいるしさ。打率だけで考えるならもっと他に呼ぶべき打者だっていただろうし。過去の遺産で食いつないで呼んでもらえてるだけでしょ」
「内野どこでも守れるからじゃないの。守れるだけだけど」
「だろ。形だけでしょ、そんなの。40歳が国際大会でショートなんか守ってみろ、世界中の笑い者だよ。ま、この回、ゲッツーで終わりだね。勝負強い、勝負強いって言ってもさ、シーズン中、シャレんならねー数ゲッツー打ってるしね。ランナー置いた打席の数が多いとかじゃなくてさー、カイさんがそもそもゲッツー打ってがちなんだよ。な佳ゲって言葉がなんで流行らないか、俺には分からないね」
「なんだよそれ」
「『なお佳井はゲッツー』の略。ネットで俺が流行らせにいってやろうかな」
「流行らせてどうするんだよ」
「ネガキャンだよ。カイさんの。世論が強くなればカイさんだって起用しづらくなるだろ」
「アホくさ」
「ま、俺だったら悪いけど、ここで代打送るね。貴重なチャンスをゲッツーで潰してのこのこ帰国することになったら、一生もんの恥だよ」
「いやー、この場面、あの人のプライドとか考えたら代打なんて送れないでしょ」
「だからだよ。プライドだけで打席立たれちゃ迷惑なんだよね。肝心な試合じゃいっつもカイさんの凡退で試合終わってるし。ちょっといい試合でヒット打った印象に踊らされすぎなんだよ、皆」
「それはお前、カイさんくらい打率残してから言えよ」
「じゃこの場面でカイさんがヒット打つとでも?」
「いやー、無理だね。何百回とこんな場面見てきたことか」
黙って自チームの選手を応援することがどうしてできないのだろう――ジェネルは今にでも振り返って怒鳴りつけたい気持ちもあったが、じっとテレビの画面を見つめていた。
ここ2試合当たっていなかった海はこの試合、スタメンから外れていた。誰がいつ、どう調子を崩しても攻撃の厚みが取れるようにと組まれた野手陣の中において、海の役目はとにかく、一発を狙うよりはありとあらゆる手段を使ってランナーを返す――いつもどおりの役目がそこにあった。
その海がチャンスを生かせないまま、振るわずに居た。
一応、その2試合においても四球を3つ、スクイズを1つと、調子が悪いなりになんとか自分の役目を最低限果たそうとはしたのだが、普段どおり3番を打つには少し調子が悪すぎる――
そう判断された結果が、今日のスタメン落ちだ。世間では『判断が遅すぎる』などと焦げ臭い空気が漂っていて、まるで海が戦犯のように扱われていた。
そんな海は、前の打席に代打で出場し、四球を選んだ。そしてこの8回――3点差で一死満塁という場面で、代表監督は海にこの場面を託した。
確かに、当たっているかどうかを考えると、後ろで若手や中堅どころたちが偉そうに喋っていたように、今の海には代打を送ってしまったほうが得策かもしれない。それでもここで海に代打を出さなかったということは、この試合を海に委ねた――それだけではない。海ならば、この場面は自分でケリをつけに行くはずだ――と、海を信頼しきったということだ。
そうした思い切りのよさが今野にもあれば――とジェネルは思わずにはいられなかった。
海は何度かベンチを振り向き、何かを確認しているようだった。打席を均す海の表情は相変わらず硬いが――マウンドを睨み付ける表情がアップで映し出されると、ジェネルは海に期待せざるを得なかった。
緊張もしてなければ、怒りに満ちているわけでもない。萎縮しているわけでもなければ、何かに追い込まれているわけでもない――。
『この打席をしっかり決める』という強い思いだけが、確かにそこにあった。
自分が打ちさえすれば、きっと後ろがつないでくれるだろう、という安心感からくる一種の余裕なのだろう。たびたび代表のメンバーについて、自分がいなくたってきっと誰かが打つくらい自分の存在は小さいものだと語っていた海だから、きっと、普段感じるプレッシャーなんかよりずっと小さいものなのだろう。
自分一人の力だけでいつか海にこの安心感を与えられるようになったなら、どれほどいいだろう――そうジェネルは思いながら、覚悟を決めたような海の一挙一動に注目していた。
〈――アップルヤード監督は『代表にヨシイという名前が入ってるのを見て前回大会の悔しさを思い出した。なんとしても彼にだけは同じように打たれたくない』とコメントしているように、相当前回大会のサヨナラ2ランホームランを根に持っているようです。ピッチャーは4番手、こちらは去年の最優秀クローザーの一人に選ばれたリチャード・ハーンハイムがマウンドに上がっています。最速168.7キロのストレート、そしてそれとほぼ同じ速度で曲がるシンカーが特徴です〉
〈なんか定期的に向こうのピッチャーってそういう選手が生えてきますよね。養殖でもしてるんですかね?〉
〈ボールの性質上、シンカー系やツーシーム系が曲がりやすいとか落ちやすいとかよく聞きますよね。ナチュラルシュートがそういう風に落ちやすいんでしょうかね〉
〈最近日本でもああいう感じの落ち方しますよね、ボール。国際規格にボールを近づけてるならそうと言えばいいのに、一向にボールの仕様変更について球界が言わないから、打者も投手も成績が極端じゃないですか。僕はねー、今の3割後半打者と防御率0点台が両立している日本球界がね、どうにもこの先心配で――〉
負けたらグループリーグ敗退がほぼ決まっている試合で、緊張感のない実況がだらだらと流れる。きっと、海なら打つと思っているからなのか、負けたら終わりという事実をなんとかして誤魔化したいのか――。
〈――左打者の佳井に対して左のハーンハイムをぶつけてきたということは、徹底して内角を攻めたいということでしょう。一方、佳井というと内角のボールを恐れずに捌くということには長年定評があります。その初球――おおっと!危ない!危ない!!頭部スレスレのボールを佳井、なんとか避けました〉
「――!」
思わず声が出そうになったジェネルは、慌てて口を押さえた。立ち上がりそうになった腰をなんとかしっかり尻で押さえつけ、平常心を保とうと深く深呼吸をした。
「おいおい」
「あーあ、ダメだね。こういう場面でああいう球投げられちゃ、どうやったって変に力入っちゃうよ。終わったね、この試合」
相変わらず後ろの若手たちは好き勝手言いたい放題言っていて、ジェネルは『だったら見なきゃいいじゃないか』と声をかけたかったが、やめておいた。
〈曲げてきましたね。狙ってたとしたらちょっとあまりよくないですよねー〉
〈思い返されるのは前回大会の決勝戦。あの試合でも、9回から登板していたダミアン・シェーン投手は何球か頭部スレスレのボールを何度か放り込んでいました。シェーン投手というと、アメリカ国内ではいわゆるケンカ投法で打者を抑えていたわけですが、初球からああいった球はやはり打者としては嫌なものですか?〉
〈そりゃあ、ぶつけた側は別に痛くないですからね。ぶつけた側も痛い、って実況あるじゃないですか。あれはたぶん心が痛い的な表現とかなんでしょうけど、打者は物理的に痛いわけですからね。やめたほうがいいですよ〉
〈佳井、球審に心配されながらも打席に戻ります。2球目――おっとこれも危ない!膝元めがけてきました!ランナーは――動きません!キャッチャーが佳井の間に入るようにしてなだめています〉
〈もうちょっとこう、国際大会っていうことを頭に入れてほしいですよね。子供たちも見ていますし、世界中の人が見ているわけですから。抑えられればなんでもいいってわけじゃないので……〉
ジェネルはとうとう立ち上がり、顔をあんぐりさせながら海の表情をテレビ越しに見つめた。自分が仮にベンチに居たなら、黙ってなど居られないだろう。
そういう意味では、自分は代表に選ばれなくてよかったのかもしれない――そう思いながら、ジェネルは祈るような気持ちで――頼むから、仮に負けてもいいにしても、ぶつけて怪我でもされて帰ってくるようなことだけはしないでほしい――そう思いながら見つめていた。
「あれで3球目にはぶつけられて怪我でもして帰ってきたら、内野のレギュラー争い、ヒリつきそうだよな」
「お前、ちょっと嬉しそうに言うなよ。あれでも打撃成績上位なんだから」
「だってカイさん居るうちはうちらは絶対スタメン固定でしょ。しかも黙ってても3割くらいは打つだろうから落とすにも落とせないだろうし。なんなら、3割ちょっとで2桁本塁打も打てないなんて状況でも、たぶんなんだかんだいってカイさん使うでしょ、監督。勝負強さをやたら大事にしてるもんだから」
「じゃあお前も3割打てばいいじゃん」
「俺はホームランだけ狙ってたいんだよ」
「でホームランは何本打てたんだよ、去年」
「去年は去年だよ。今年打つんだから。お前だって人のこと言えないだろ」
頼むから、馬鹿にしながら試合を見るくらいならとっとと帰ってほしい――そうジェネルは後ろの後輩たちに対して思いながら、しばらくサインを交換したままのバッテリーがなかなか次の球を投げない様子をやきもきしながら眺めていた。
――ひたすらに頂へ 挑み続けろ白き侍
誰一人たどり着けぬ 究極の先の世界へ
神をも震わせる 流星を打ち込め
歴史を動かせ 佳井海いざ往け――♪
〈大きなブーイングとともに、今までよりもさらに大きな声量で佳井のチャンステーマが文京ドームを埋め尽くします!佳井!日本中がお前の一打を待っている!佳井!打て!打つんだ!〉
完全に私情が混じっている実況のことなど、もはや誰も聞いていなかった。揺れるカメラ、しばらく定まらないサイン――。
突然、間合いを断ち切るようにしてクイックモーションですっ、と投げられた内角高めのストレート。高めいっぱい、あるいはもう少し高いだろうか――2球続けて体めがけて投げられた左腕が、今度はコースいっぱいにその剛速球を差し込んでくる。
体が大きいからなのか、クイックモーションでありながらも躍動感のあるフォームから放たれたその速球に、海はふと、一瞬笑ったような顔ですっとバットを繰り出した。
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「なんでそう、内角のボールにこだわるんです?佳井さん」
練習を終え、ジェネルと一緒に柔軟体操をして肩をほぐす薫。なるべく自らの癖球であるナチュラルシュートを抑えるようにしながら、この日も何十球と投げた球のうち、海からは要求されたかなり危ない内角高めのコースもぶつけないようにしぶしぶ投げ続けた。
「頭にぶつけてでも俺を抑えようとする奴が世の中には一定数いるからだよ。皆が皆、正々堂々とクリーンな投球をしてくるわけじゃないからな。でも、あからさまにぶつけるだけじゃなくて、あわよくば振ってもらえるようなコースに投げて強引にカウントを取ったり、逆に、俺の身体が大きいもんだから、そのコースに投げればストライクを取ってもらえるような視覚的なトリックを使って威嚇してくるやつだっている。あからさまにぶつけることを怖がった結果、中途半端なとこに投げてしまう奴なんかもね。内角高めだけじゃないよ。低めとかで足首とか狙ってくる奴だっている」
薫は、なんとなく海がどんな投手のことを言っているのか、頭の中に数名思い当たる投手を球界から想像し、あえてその名前は海の目の前で出さないでおいた。
「でも、最初から本当にぶつけるつもりで投げてくる投手なんて、よほど陰湿で心が汚れてるような奴くらいしか居ない。まあ、それが球界に一人や二人なんかじゃなくて、それなりに居るのがまずいんだけどね」
「それは、まぁ……」
「でも、今の世の中、わざと狙ってぶつけましたなんて言おうものなら何されるか分かったもんじゃない」
「そうですね。乱闘はなくなったものの、今はファンが常に乱闘体制ですもんね」
薫の苦笑いに海も少し苦い表情を浮かべながら、内野席を見つめる。投げ込まれるゴミの数が0になるのは、いつのことだろう――そんなことをジェネルは思った。
「本当のケンカ投法なんてできるのは、本当の自分の制球力を分かってる奴だし、ぶつけたらいけないようなところには投げない投げ分けが本当は出来る奴なんだ。それができないのに、とりあえずなりふり構わず『自分のピッチングスタイルはケンカ投法です』なんて言って、雑な制球で死球上等で投げてるような奴なんか、抑え方に困ったらぶつける前提でいることが皆に筒抜けだから、味方からもファンからも信頼もされない。しかも、肝心なときにストライクも入らないもんだから、キャッチャーからも信頼されない。そういう投手に限って、わざと当てようとした球がかえって絶好球になったりするんだ」
「そんなものなんですか?」
「俺にとってはね」
「はぁ……」
海の見ている世界は、薫には分からない。きっと海が言うなら、そうなのだろう――そう思いながらも薫はいまいち納得できない様子で適当に相槌を打った。
「内角にどんな球が来ても――それこそ、避けなきゃいけない球がきたら怖がらずにちゃんと避ける備えを普段からしておくことで、どんな投手がどんなスタイルでどんな球投げてきても強気に勝負に出られると俺は思ってる。内角投げられたからって及び腰になったり、必要以上にアツくなったら、投手の思う壷だからね。気持ちで負けたら、この世界はナメられる」
海は柔軟をしながら、淡々とした表情で語った。その姿は薫にとっても、ジェネルにとっても魅力に満ちていて、輝いていた。
どうしてそんなことを自分たちの前では話せるのに、カメラの前ではあまり話したがらないのか、二人とも不思議でならなかった。
「それでいつか私が佳井さんにぶつけても、私のせいにしないでくださいよ?」
「お前じゃそんな事故は起きないよ。お前のコントロールを買ってるから頼めることなんだから」
「そうは言っても、投げる側は大変なんですよ、あれ。それに――」
それに、と言いながら、薫は隣のジェネルをニヤニヤした目で見つめながら――
「海さんと同じボールを投げてください、なんてジェネルさんが言うから、佳井さんの打席が終わっても、こっちはそのあとまた内角をガンガン投げないといけないんですからね。精神削りまくりですよ。私の削れた精神で節でも作る気ですか?」
「薫節、ですか。おいしそうじゃないですかー」
「……どこ見て言ってるんですか、ジェネルさん」
薫が自分に向けられた目線を感じ取り、ジェネルを訝しげな目で睨んだ。
ジェネルは「でも薫ちゃんも出るところはしっかり出てるし……ねぇ?海さん」などと言って海へ巻き込もうとするものだから、海は嫌そうな顔をしながら一足先に立ち上がり、そっぽを向いてしまった。
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「ああっ――」
その場に居た誰もが、同じような声を上げた。切り替わったカメラが捉えた白球の行方を、誰もが疑わなかった。
〈いったあああああ!!!!たとえどれほど不振に陥ろうと!たとえどれほど苦難にぶち当たろうと!その身を焦がしてひたすらバットで期待に応える!!それが!佳井!佳井海です!!ライト、一歩も動かない!!……そうです、動けないでしょう!日本に勝利を届けるために!日本の夢を終わらせないために!決勝会場となるその海の向こうを目指して!白球はライトスタンドへ突き刺さる!!8回裏!ついに!日本がアメリカ相手に逆転!この試合初めてアメリカをリードします!しっかりとホームベースを踏んで――今ホームイン!7対8!!!!〉
再び無意識に立ち上がったジェネルは、右手に大きな握りこぶしを作りながら、いつもどおり無愛想のままベンチへと戻っていく海の姿を、目を充血させながらしっかりと目に焼き付けていた。
カメラに向かって無表情のままI Love youのハンドサインをし、そしてゆっくりとベンチへと戻っていく海は、こんな大一番だというのにごくいつもどおりの表情のままだ。
ベンチに戻って立ったまま汗を拭く姿と、コーチがなにやら声をかけている様子がしばらくカメラに抜かれる。
一言何かを発してからコーチは再び席を離れ、再び一人になってベンチに座りながら、めったに見せないしっかりめの笑顔を見せた後――心底安心したような表情で、海は天を仰いだ。
よほどここまでの凡退が効いていたのだろう。その後はバットに頭を預け、しばらくうなだれてカメラから顔を逸らすようにしてしまった。
ぞろぞろとロッカールームへと戻ってくる選手たちは、あまり試合結果自体は自分には関係ないと思っているのか、テレビの試合の様子にはあまり目もくれていなかったが――
「海さん、打ちましたよ。9回を抑えれば、日本、グループリーグ突破確定のはずです」
そう笑顔でジェネルは、まるで自分のことのように語った。もっと誇れ――もっと誇れ――そうチームメイトに訴えたかったが、なかなか熱いリアクションは返ってはこなかった。
海に対して文句をぶつぶつ言っていた若手選手らは、いつの間にか席を外していた。