海の彼方で   作:錫樹トシアキ

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173・罪状はたどり着くはずだった色に似た髪へと

「アウェーの試合とはいえ、たまったもんじゃなかったですねー」

「勝ったからいいじゃないか」

「そりゃーそうなんですけど、相手だって多分相当嫌だったと思いますよー、あれ。一応、野球見に来てるんですから……ねぇ?」

ジェネルは不満そうにして着替え、海が着替え終わるのを待っていた。

 

神宮で迎えたスカイクロウズとの試合中、突如試合と関係ないところで敵味方ともに観客が大きくざわめき、何度か試合は中断した。

仕方ないといえば仕方ない。日々盛り上がりを加速させていくワールドカップも佳境に差し掛かり、準決勝に進出していた日本はイングランドと対戦していた。

 

いよいよワールドカップ優勝が現実味を帯びてきたということや、この試合に勝てば初の決勝進出という盛り上がり。まして、時差のほとんどない香港での大会開催ということもあり、このような事態が起きることは誰もが想定こそしていたが、だからといって試合の時間をずらすわけにもいかないというのが実情だ。こちらだって興行でやってるのだから、サッカーに配慮します、なんてことは出来るわけがないのだ。

 

そうして、この日の試合は運悪くちょうど日本代表の試合が行われる時間とぶつかってしまっていた。そのため、先に2点を先制した日本代表の行方を、現地で野球を見ながら携帯なりなんなりで情報を仕入れていた観客が、試合の大きな展開や得点のたびにプレーとは全く関係のないところで大きな歓声やざわめきを起こしてしまうものだから、投手や打者、審判でさえもがそれを嫌がってタイムをかけてしまうのだ。

 

もともと裏で行われてるサッカーの試合内容どうこう以前に乱打戦の体をなしていた今日の試合。ただでさえ荒れている試合展開の中で、そうして何度も試合が中断したせいか試合は攻守にわたって集中力を欠く場面が多々生まれ、9回でこそ試合は終わったものの両軍合わせて35安打、終わってみれば9対8というこちらも激しいぶつかり合いを見せ、試合が終わったのは23時前のことだった。

 

観客は最後まで、目の前の試合と、画面越しの試合とに翻弄され、最終的にはどちらの意味でざわついているのかも分からないような――そんな不思議な空間を生み出していた。

 

「で、電光掲示板に日本代表おめでとう、ってメッセージが出なかったってことは、日本代表、負けちゃったんですかね?」

「それを調べるために携帯があるんだろ。俺にいちいち聞くなよ、そんなこと」

「もーう。分かってますよ、そんなこと」

膨れっ面でジェネルは携帯をいじりだし――こっそり海にカメラを向ける。

 

「おい、人が着替えてるところなんかよせよ」

「別にSNSに載せるとかじゃないですから。私が個人的に海さんをオカズにしたいだけです」

「オカっ……お前なあ、そういう言い方、本当にやめろよな。大体、お前に個人消費されるのもそれはそれで嫌なんだよ。カメラに残されたらお前、一生俺が知らないところで俺を消費するだろ。それよりだったら、直接手を出されたほうがいい。その場で完結するからな」

「いいんですか!?」

「ああもう、冗談の通じない奴だな、お前は。とっとと試合結果調べろよ、試合結果。仮に手を出すとしてもここじゃよくないだろう」

目を輝かせて自らの服のボタンに手をかけようとしたジェネルを咎めながら海は携帯を指差し、急かした。

 

「えーと、試合結果、試合結果……」

ジェネルが素直に試合結果を調べ始めたのを確認し、海は着替えを再開した。鏡に反射するジェネルは熱心に、眉間にしわを寄せながら携帯を必死でいじっている。

 

「イングランド代表相手に3対3で引き分けたそうです」

「向こうも壮絶な打ち合いだったのか。へぇ」

「で、延長でケリがつかなかったのでPKになったみたいで……」

「なったみたいで?」

海は振り返り、ジェネルの顔を見つめる。

 

「PK、4対5で、日本が負けたみたいです。残念でしたねー」

「そうか。PKまで行って、しかも4対5か。勿体無いし、悔やんでも悔やみきれない展開だろうな」

「で、最後に外したのが……」

ジェネルの表情を見て、なんとなくその続きを察した海はもう一度ジェネルに背を向けて、ジャケットを羽織り、髪を整え始めた。

 

「19歳の冒険も、ここまでだったか」

「でも、大会3ゴールですよ?開幕戦のときはまだ新くん誕生日迎える前でしたから、18歳だったんです。ワールドカップ最年少得点記録だって今回更新して――」

「……いいよ。別に、変な気遣わなくて」

「でも……」

ジェネルは表情を曇らせながら、目を伏せた。

「……あんまりじゃないですか?これ」

 

 これは非国民の鏡

 

 父親がそもそも在日だからしゃーない 所詮在日の子は在日の子

 

 佳逝ったー 新たなるうんち ぶりぶりぶりりアントデイズ

 

 ロンドンに魂を売った男、佳井

 

 八百長のつもりならもっとうまくやれ

 

 肝心なときに役に立たないのは父親譲りか

 

 そんなにイギリスが好きなら二度と日本に帰ってくるな、紳士かぶれが

 

 大体こいつもともと日本のこと嫌ってたやろ

 

 次回大会はイングランド代表で出ろよもう

 

 在日親子による壮大な国家反逆行為 市中引きずりまわしのうえ極刑が望ましい

 

 そもそもなんでフォイエベルクはこいつを起用しつづけてたんや

 なんか弱みでも握られてんのか

 

 非国民の父親による反日教育の賜物

 

 死すら生ぬるい 一族根絶やしにしろ

 

 分かりましたか?これが日本に外国人を受け入れるということです

 

 どうせ父親のチームが優勝できないのも今日みたいに裏で八百長してるからなんだろ

 

 世田谷に家建てたっつってたよな ガソリン撒いて燃やしに行くわ

 

 世田谷以前に吹田の実家を燃やすのが先だろ

 

 こいつら一家も父親のように射殺されれば解決や これからは日本も銃社会やぞ

 

 これからはこいつの生首をボールにしよう サッカーってそもそもそういうスポーツだっただろ

 

まるで自分のことのようにショックを受けながら、ジェネルはSNSやネットニュースのコメント欄などを海に対して見せた。

見せたところでどうにもならないし、海がそれを見てショックを受けることだってジェネルは分かっていたが――少しでもこの痛みを誰かと共有しなければ気がすまなかった。とても自分と同じ人間がコメントしたようなものだと認めるわけにはいかないその罵詈雑言の羅列に、ジェネルはただただ胸が痛んだ。

こんなことをネットで発信している人間が街を歩いていたり、球場に実際に足を運んでいるのかと思うと、ジェネルはただただ慄いた。ベスト4の何がそれほど不満なのか――という思いもあったし、言ってしまえば、たかがPKを外した程度でこれほどの言葉を思いつくほどの人間の粗暴さに震え上がった。

 

「日本人ってのは、笑えないジョークが得意なんだな」

「……ひどすぎます、こんなの」

「とんだ愛国心だよ。凄いな、日本人ってのは。改めて、俺を応援してる奴ってのはこんな人種なんだなって思うよ。世界から戦争がなくならないわけだ」

海は鼻で笑いながら帽子とメガネをセットし、ジェネルの手を握った。

 

「田中を待たせてるんだ。先に食事にしよう。どうせ明日明後日は休養日だし、朝までお前が言いたいこと、聞いてやるから。言葉に出来ないなら、それでいい。こんなつまらないこと引きずってたら、飯がまずくなるぞ」

「……」

ジェネルは青白い顔をしたまま海に手を引かれ、長い通路へと半ば連行される形で歩き始めた。いつになく冷たい手首に、海はせめて笑顔を向けてやれればよかったのだが、海もまた、その笑顔は強張っていた。

 

「……いやあ、投げづらかったですね、今日の試合」

田中が『暑かったしそうめんでも食べたい』と、渋谷にあるそうめん専門店を予約してくれていて、海とジェネルは少し遅れる形で店に着いた。

個室で田中は頭をかきながら、バツが悪そうにして海やジェネルを交互に見つめ――キンキンに冷えた氷水をぐっと飲み込み、かつての清兵衛のように思わず両目を瞑って唸った。

 

「投げづらかった、じゃないよお前。こないだは先発のローテ埋めるために一回登板させられた、って言ってたけどさ。何そのままちゃっかり先発ローテに組み込まれてるんだよ。断れよ」

「監督に『最後に先発として散れるなら本望でしょ』って言われちゃって。そう言われたらもう、あの人のは断れないじゃないですか。それに……」

田中は先ほどからジェネルの顔が浮かんでいないことに気づき、一度その言葉を閉ざした。

 

「……えっと……なんかあったんですか?」

「まあ、ちょっとね。続けて」

ジェネルが海の手をぎゅっと握ったままうつむいているのを気にしないよう海は田中に促し、話を続けさせた。

 

「……まあ、俺もね、やっぱり……先発にこだわりたいんです。分かってますよ。1、2イニングくらいなら、まあまあ抑えられる自信だってあります。与えられた仕事を俺はこなすだけなんで、これで十分だと思っています。でも、監督が行けって言うなら、行くしかありません。……俺、やっぱり気持ちが先発なんですよ。今じゃ肩は5回もたないし、立ち上がりだってちょっと不安なままなんですけど、やっぱり、どうせ散るなら先発として散りたいんですよ。今野監督が俺を完全に履き潰そうとしてるなら、俺も、まんまと履き潰されるまでです。皆だってきっと、俺が先発のマウンドに戻って復活する姿をやっぱり見たいでしょうし、それでやっぱりダメなら、みんな諦めがつくでしょうし」

「まんまと挑発に乗っちゃってさ。お前、今に後悔するぞ」

「……人生なんて、後悔の連続ですよ。今更、その後悔が一個二個増えたくらい」

田中はフッと笑いながら、前髪を後ろに手で流した。

「何を全てを悟った賢者みたいなこと言ってるんだよ。本当は怯えてるくせに」

海はそんな田中の気持ちを見透かしたように呆れてみせて、ため息をついた。

 

ジェネルがいったんトイレへと向かったのを見計らって、田中が海に小声で話しかけた。

「……なんなんです?大爺さんは。何かあったんですか?あれ」

「ちょっとまあ、色々と」

「色々と、じゃあ分からないじゃないですか。言って下さいよ」

「……」

海は面倒くさそうな表情を田中に向け、深いため息をついた。

 

「サッカー」

「は?サッカー?」

「そう、サッカー。今日、何度も試合止まっただろ。あれがサッカーのせいなのは知ってるよな?」

「ええ」

「で、その試合結果」

「ああ、日本、負けちゃいましたよね」

「そう」

「……で?え?まさか日本が負けたってだけで?」

田中の言葉に海は少しだけ苛立ちながら割り込んだ。

 

「そうじゃないよ。その負けたのが俺の息子がミスキックしたからなんだけど、そのことをネットでボロクソ叩かれてるのを見て、ちょっと傷心気味なんだよ」

「ボロクソ叩かれることなんて、俺らの世界だって、若手の頃くらいまではだいぶきつかったじゃないですか。今じゃ球界レベルで『NO誹謗中傷』ってやってるからだいぶ駆逐されましたけど」

「今日みたいに国をあげた試合なんかじゃやっぱヒートアップする奴いるみたいなんだよ」

「それでも、言うほどでしょう」

「非国民だとか、在日の子だとか、家燃やしにいくだとか、殺すだとか」

「うわっ」

田中は海が呟いた言葉を聞いて思わず眉をひそめた。きっとそれ以上のことも書かれているだろうことは田中にも想像できたから、それ以上はいいです、と思わず手を振った。

 

「ジェネルは、ちょうどそういう誹謗中傷がいくらか少なくなった頃の世代だろ」

「まあ、はい」

「あんまりひどいのがこれまでも何人か裁判になったもんだから、さすがに昔ほど無遠慮に書く奴は少なくなった。そりゃあ、今だって別に完全になくなったわけじゃないけど、ここまで好き勝手叩かれて、おまけにBikipediaのプロフィールまで好き勝手荒らされて」

携帯でチラリと見せたBikipediaの新の項目は、名前も国籍も、ポジションも、まるで笑えない、度を越したお笑い芸人のイジリ芸のような差別と偏見に満ちた言葉で埋め尽くされていた。

 

「こんな大量に、誰も擁護すらしないで便乗して一人の選手を叩くような光景っていうのを多分ジェネルはまだ経験したことがない。もちろん、こういうことはなくならなきゃ……なくさなきゃいけないんだけどね。アイツ、うちの息子ともまぁまぁ交流があったから、なおさらショックなんだよ。まあ、ちょっとほっといてやってくれ。あとは俺がなんとかするから」

「ええ」

田中は海の言葉にそう答え、それ以上は特に聞かなかった。

 

球場からの罵声に関してもスタッフの対応などもあって昔と比べるとだいぶ駆逐され――海は別に自分からはすすんで見なかったものの、SNS上だとか、インターネット上の度を越した罵詈雑言だとかそういったものにも数年前からとうとう大きなメスが入るようになり、訴訟に出るケースも少なくなくなった。

 

選手会だとか球団、連盟を通して選手の人権を守る動きは活発だったが、それでもその矢面には相変わらず海が立っていて、ネット広告やポスター、時には警察の広報などを通じてマナーの啓発を続けていた。

いや、続けていた、というよりは、続けさせられていたというのが正しいだろう。過激なファンの多いチーターズがこういうときは先頭に立たなければ――なんて貧乏くじを連盟を通じて引かされているのだ。そしてその結果、結局影響力とメディア露出の多い海がやらされている――結局、海ありきの広報なのだ。

 

裁判沙汰になるケースが目立つようになって来たせいかひどかった時期よりはだいぶその数を減らしたものの、それでもなお、時折球団を通じて剃刀が送られてきたり、『無能』だとか『死ね』だとか書かれた手紙は自分に対しても、ありとあらゆる選手に対しても送られ続けてきたし、滅多に更新しないSNS――BE-ntarestingにも時折度を越したメッセージは送られてくることがあった。

 

なるべく球団も荷物のチェックだとか、そういった手紙は極力処分するようにしているのだが、荷物に挟まって手紙を入れてくるパターンだとか、手の込んだ悪質なものだと、容器やプレゼントの中に誹謗中傷するような言葉を書き記したりだとかするものだから、何か手を打てばその次の手がどうしても出てくるものだった。

 

「俺もさ、きっと、WBCSで打てなかったらあんな風に書かれてたのかな。俺は別に自分からは見ないけどさ」

「……言わないでください、そんなこと」

 

ホテルへと戻った海は、そのままジェネルが部屋についてきたので、テレビの向こうで今なおワールドカップのニュースが報道されているその様子を眺めていた。

 

「アイツ、ここが踏ん張りどころだと思うんだよな。ひょっとしたら、全然気にしてないかもしれないけどね。大事な場面でシュートを外したっていうのが変に記憶に残ってなきゃいいけど……アイツのことだから、多分割り切って、逆切れでもしながら乗り越えてくのかな。もちろん、ああいうコメントは徹底的に争っていかないといけないけどね」

海は足を組みながら、ベッドにぼんと体を沈めた。

 

「新くんに連絡、したんですか?」

「いいや。こんなタイミングで連絡して、あてつけか、とか言われるのも嫌だし、アイツだって別に、こんなタイミングで俺から慰めてなんかほしくないだろうしね。逆に、お前はどうなんだよ。お前は新に連絡したの?」

「……」

ジェネルはうつむきながら、携帯を握り締めた。

 

「したらいいじゃないか。アイツのことだから、お前が思ってるほど、ひょっとしたらなんてことないかもしれない。そしたら、お前だって安心して、なかったことにできるだろ、さっきの」

「そりゃ、そうですけど……。だって、最年少で、あんなミスして、周りからどんなこと言われてるものかって考えたら……」

「そこまでチームだって陰湿じゃないだろ、さすがに。国の代表だぞ。仮になんかそういう陰湿な奴なんかがいたらとっくに問題になってるよ、大会が始まる前なんかに。大体、仮に何かそういうことをする奴がいたらきっと、新だったら真っ向から対立して、問題を起こしてるに違いない」

海は心配しすぎだ、と起き上がり、ジェネルの肩を叩いた。

 

「海さんは……球場とかでああいう野次とかたくさん浴びせられてきたんですよね。あのうちの、いくらかは。きっと私が入団する前なんかは、もっとひどかったんですよね、ああいうの」

「試合中だから聞こえてないのもあるけどね。……まあ、よく言われたもんだよ。それにしても……在日、ね。非国民、ね……。若い頃は、打てない時期なんかはよく言われてきたし、きっと、一生言われるんだろうけどさ。でも、子供たちまで在日だとかなんだとか言われるのは、悲しいものがある。俺はもう、向こうの国籍を捨てたっていうのに」

「そうですよ。人がどんな事情で生きてるかなんか知らずに。普段はハーフだ、ハーフだ、とか言って一方的に憧れて擦り寄ってくるくせに、ちょっと試合でミスしたらあんな言い方して……ひどいじゃないですか」

 

確かにそうだ。自分もそうして在日だ、非国民だ、と言われたときには、普段は北欧生まれがどうだのと勝手に憧れてくるくせに、ちょっとミスをするとすぐ日本人ではないことを攻撃の材料にされる。それについては若い頃から海は違和感を感じ続けてきたが、生まれに関しては今更どうにもならないことだから、海はそんなジェネルの言葉を受け流した。

 

「まあ、でも……俺は自分の意思で日本人になりたくて華耶のところへ婿に入ったのは事実だしね。今更、フィンランドには帰れないともずっと思ってるし。しょうがないことだ。……しょうがないなんて言葉でほっとくべき問題でも、ないんだけどさ」

膨れっ面をしながら目に涙をためたジェネルとは裏腹に、海は至極冷静に炭酸水を飲みながら、淡々と話し続けた。

 

「まあ、ああいうセンスのないジョークについては、そのうち偉い人がなんとかしてくれる。俺たちは今は、目の前の試合のことだけ考えなきゃいけない。……考えたくても、なかなか考えられないだろうけどね。さすがに、いくらあんな息子とはいえ、あんな言われ方してたらそりゃ、俺だって気にするよ。殺すだの、家を燃やすだのとかまで言われてるくらいなんだから」

「……ごめんなさい。私があんなもの見せなければ」

「いいんだよ。ああ、まだこういう人がたくさんいるんだな、って思えただけ、よかったよ。ああ、よかったよ。日本人の本質っていうものを見れただけでもね」

「あんなの本質だなんて思わないでください」

「分かってるよ」

海は微笑を浮かべながら、再び炭酸水を飲んだ。ジェネルは冷蔵庫からビールを取り出して飲み始めた。

 

「……飲んで忘れましょう、海さん。新くんにも、明日にでも連絡しときます」

「別にいいよ。連絡したいと思ったらするくらいで。別にアイツだって、慰めてほしいガラじゃあないよ」

「……じゃあ、とっとと、忘れちゃいましょう、こんなこと。朝まで付き合ってくださいよ、試合、しばらく休みなんですから。泥になるまで飲んで……酔い潰れましょう」

「泥になるのは、お前だけでいいよ」

「だったら、泥になった私をしっかり抱いてくださいよ。きっと私、今日はなんだってしちゃうと思いますから」

「じゃあ俺はますます今日は酔えないね」

海はそう言いながら、ジェネルから手渡されたビールをしぶしぶ手に取り、付き合ってやることにした。

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