海の彼方で   作:錫樹トシアキ

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224・大爺双羽という女

「……それはお前が投げるのかよ」

海は二階のVIP席から始球式の様子を眺めていた。セレモニーの間、とうとう姿を現さなかった田中が試合前にマウンドに上がって始球式をしようとしていることに、海は乾いた失笑を隠しきれずにしばらくの間口元をにやけさせた。

 

「気を遣ってくれたんだと思うよ。海くんの引退セレモニーに、ちゃんと引退セレモニーやってない田中さんがその場に居たらやっぱ色々変な空気になると思うし」

「その後の試合の始球式に出るほうがよっぽど変な空気になるだろ。仮にいたんだったら、アイツ、本来なら出てこないといけない立場だろ」

「まあまあ。会場も結構笑ってそうだし、田中さんなりに狙ってやったことなんじゃないかな」

「……どうでもいいけどさ」

華耶がすかさず海の言葉にフォローを投げかけるが、海はずっと苦笑を浮かべたまま、遠くで妙によそよそしく球場に礼をする田中を見つめていた。

 

「それにしても、あのユニフォーム着たまま試合するなんてね。白々しい」

私服のジャケットに着替えなおしていた海は、遠くから見える特別仕様のユニフォームに身を包んだ田中や、守備についているチーターズナインを見て再び苦笑を浮かべた。

「ダメだって。今だけは思っててもそんなこと言っちゃ、いろんな人に失礼になるから。ね?」

「これで負けたりしたら、俺らしいよな。勝てなかった理由をユニフォームのせいにすれば楽なんだから、選手にしてみりゃ、いい免罪符ができたよな」

「あー。まーたすぐそんなこと言うー。海くん、ほんとさー、そういう癖よくないよ。結局現役の間ずっと治らなかったけどさ。そういうの、子供に移ったらあたしは嫌だよ。引退したら少しくらいはそういうの、そろそろ卒業しよう?ね?もう嫌な思いなんかしなくていい身分になったんだから」

現役半ばごろから癖になった、ヘッと吐き棄てるように笑った海の脇腹を華耶は肘でつついた。

 

「――そういうわけで、本当にここに来るのはこれで最後になりました。多分、これが本当に最後です。テレビ局が勝手に僕を連れて来たがるかもしれませんけど、僕はあんまそういうの、今はほんとに受けたくないですし、受けるつもりもないので……少なくとも、皆さんがいるような時にここに来ることはないと思います。本当に今まで、ありがとうございました。今日の試合、楽しみにしてます。最後まで……ベストを尽くして頑張ってください」

海はそう簡単に挨拶しながら、最後に一言――このチームがとうとう変わらないままだった勝負への執着心に対して釘を刺し、ミーティングルームから出ていった。

最後なのだから選手と握手くらいしてもよかったのかもしれないが、変に最後に先輩風を吹かすのも白々しいなと思い、海は淡々とした挨拶にとどめた。言葉や態度で何かを変えるには、この27年と少しの間は、あまりにこのチームに根付いた空気は焦げ付いた油汚れよりもしつこいものだった。

 

控室で着替えていると、部屋をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

海は着替えている最中だったが、客を招きいれた。どうせこんなときに大体尋ねてくる者が誰か――それも、いつも駆け足気味で当たりの鋭いノック音でそれが誰かをある程度分かっていたからだ。

 

「失礼しまーす。海さ――あっ――」

ユニフォーム姿のジェネルが控室に入ってきたが、目線の先にあった上半身裸でパンツ一丁の状態の海を見てジェネルはひどく赤面しながら、いったいどこに視線をやればいいものかと悩んだように海を興奮したようにして凝視した。

 

「赤面するのか俺を凝視するのかどっちかにしてくれ。恥らうなら素直にもっと恥らってくれよ」

「いいい……いや、別にそういうこう……何って言うんでしょうね……さっきああいうの見た後にそういう無防備な姿を見るのは私としても、こう……こ……心の準備というものが。いや、いやいや……そそそ、それでもやっぱり海さんいい身体してますし……うーん、それでもやっぱ……恥ずかしさも……ふへへ……あるわけ、でして……」

「普段無防備な姿で俺を挑発してくる奴がよく言うよ」

「私が海さんを誘うのは別にいいんですよ。私が海さんを振り向かせるためにアレコレしてるわけですから。海さんがそういう無防備な姿を晒すのが私の理性的にこう……マズいんですよ。試合前だってのに、サカったウサギにさせる気ですか。ウサギの発情期ってやべーんですよ、知ってます?もしかして、私を誘ってるんですか?」

「最後まで面倒くさいやつだね、お前は。半分くらいこうなるの分かってて部屋に入ったくせに」

最後まで、ガチガチのアスリート系選手や肉体改造をしたような選手のようにのガッチリとした筋肉を蓄えてないままの、モデルのように長くすらっと伸びた細めの脚をジーンズに通し、薄手のカーディガンを羽織った海。

苦笑を浮かべたままもじもじしたままのジェネルを横目で流し、どうしたものかと腕を組み、からかった。

 

「……で?欲情したウサギちゃんは何しに部屋に入ってきたの?一旦無防備になった俺にとうとう襲い掛かるつもりか?」

「ち、違いますよ!からかわないでください、そうやって海さんはいつもいつも……っ!!」

「じゃあ、何しに来たんだよ。俺は暇になったけど、お前はそんなに暇な立場じゃないんだろ」

海はどかっとソファに座り、足を組んで伸ばしながら、肩の後ろで腕を組んだ。じっとジェネルを見つめて、様子を伺っている。

 

「……今日の試合、海さんに安心して一般人になってもらえるような試合にしたいと思ってます。もちろん、分かってますよ。今日だけじゃなくて、私の最後の試合まで一試合も無駄にしていい試合なんてないってこと。海さんはそういうところ、本当にこだわってましたから。でも……こんなユニフォーム着て、海さんの前でみっともない試合なんかしてたら、きっと海さん、安心して一般人に戻れないと思うんですよ。だから――だから、今日の試合――」

ジェネルはそこからの言葉を詰まらせた。その続きを言ってしまうと、本当に野球人としての海との関係は最後になってしまうからか、続きを言うことに抵抗があるようだった。

海はそんなジェネルの背中を押すようにしながら、じっとジェネルを見つめてつぶやいた。

 

「……分かってるなら、怪我だけはしないでくれよ。お前、大事な試合だ、大事な場面だ、って、最近無茶する癖最近ついてるみたいだから。……お前、俺の背中を追うのは勝手だけどね……俺のよくないところまで真似しなくていいんだから」

「そんなことないです――!」

ジェネルははっきりとした否定を、強い意志を持った声で海に突きつけた。

 

「……いつだって、海さんは自分自身に――自分自身に打ち勝つっていうより、自分自身に負けないことにこだわってきました。私は、そんな海さんの背中をずっと追いかけてきたつもりです。そんな海さんだったから、私に振り向かせたかったんです。海さんと同じ目線に立って――同じように、自分自身にこだわり続けたかったんです。……私は、これからも海さんを追い続けます。追って――追い続けて、戦い続けます。海さんがそうしてきたように。……海さんの分まで、って言うと、海さんきっと嫌がると思うんですけど、それでも――海さんの分までこの世界を戦い抜きたいと思ってます」

 

入団会見のときのような、大きく、まっすぐな眼差しがそこにはあった。

長年見続けてきた、ジェネルの愚直なまでのまっすぐさ。最近新聞やニュースで見たような、どこか戦意を失いつつあったジェネルの顔とは違う、自分のよく知っているジェネルの眼差しが蘇っていたことに、海は心からの笑みを浮かべた。

 

「……お前のために戦えって言ってもきっと、俺の分まで戦うことがお前のために戦うことだってお前、きっと言うんだろうね」

「分かってるじゃないですか。今更ですよ」

ニッ、と笑ったジェネルの笑みは、華耶の笑顔とよく似ていて、海は思わず胸の鼓動が変になった。

 

ジェネルは部屋の出口に向かって歩き出し、退室しようとしたのだが――最後に一度振り返り、人差し指を海へと向かってビシっと突きたてた。

「言っときますけど!……別に、私はこれが最後だとも思ってませんから。関東遠征のときなんかは海さんが嫌がっても遊びに行きますから。海さん、今まで私に甘えた分の倍くらいは、私だって海さんにこれからも甘えなきゃいけないんですからねー。そりゃあもう、私、発情したウサギのように海さんをねだってやりますから」

「お前、振り向かせたいのか、俺に甘えたいのか、俺のことを結局そういう目で見ているのか、どれかにしろよ。そういうところがやかましくて面倒くさいんだよ、お前」

「えへへ。どれもです。二兎を追って三兎得てやるつもりじゃないと、戦えませんからねー」

「贅沢な女」

「海さんのことを男として意識している以上、華耶さんみたいなこと、私にだってしてもらいたいつもりでこれまでも生きてきましたから。これからも、ずーっと」

「……迷惑な女」

海が嫌そうな顔をすると、ジェネルはニッ、と意地悪そうな笑顔を浮かべながら部屋から出て――もう一度顔だけ出し、

 

「本当に、今日の試合――私、やってやりますから。見ててくださいよね」

「あぁあぁ、分かった。分かったから出て行くならとっとと出て行ってくれ。最後まで落ち着きのない女だな、お前は」

「だーかーらー、最後じゃないんですって。海さんとしてはここが一旦最後っていうひとつの区切りがあるんでしょうけど、私たちはまだまだこれからなんです。……私と海さんとの関係だって、本当の意味でまだまだ始まったばかりですし」

「はいはい」

海は出口へ向かって歩き出し、半ば追い出すようにしてジェネルを廊下へと追いやりドアを閉めた。

 

1回の守備を終えてベンチへと引き上げてくるチーターズ。センターを守っていたジェネルは観客を煽るようにして腕をぶんぶんと振りながらベンチへと戻っていった。遠くから見てもしっかりと動きがやかましいので、すぐにそれがジェネルだと海も華耶も判断できた。

 

「双羽のやつね」

「うん?」

引退会見のときに口にしたように、海の中でひとつの区切りを迎えたからか、ふと海はその名をぽつりと口にした。

 

「さっきね、今日の試合だけは負けたくない、みたいなこと、わざわざ俺んとこに言いに来たんだよ。俺の分まで戦うだとかさ」

「いい後輩じゃん。やっぱり、双羽ちゃんの影響、大きかったんだよ、海くん」

華耶は改めてジェネル――大爺双羽というその存在と、海との関係を認識し、海の脇腹をつついた。海は華耶を一瞬嫌がるような目で見下ろしながら、無視して言葉を続けた。

 

「……で、これからも家に遊びに来るってさ。アイツだって、そろそろ結婚とか考えなきゃいけない歳なのにさ。いつまでも俺に構ってていいわけないのに」

「へー。じゃあ、これからは本当に恋敵になるわけだ」

「これまでは恋敵だと思ってなかったわけ?」

海は華耶の意外な言葉に目を丸くしながら、華耶の言葉の真意を確かめようとした。

 

「そりゃそうだよ。あたしにできないところを双羽ちゃんが埋めてくれる。あたし、シーズンが始まれば24時間常に海くんの隣にいてやれるわけじゃないから。だから、双羽ちゃんは私と同盟を組んでるようなもんだ、ってこれまであたしは思ってた。だからこそなんだよ。別に海くんが双羽ちゃんを抱いたって――双羽ちゃんが海くんを押し倒したって構わないって思ってたのは」

「よく分からない理論だけど」

「あたしも、双羽ちゃんも、海くんに構ってる理由って、なんだかんだ似てるところがあるから。だから、あたしたちは海くんの心を共有し合おうと思ってた。海くん、些細なことですぐ壊れるから」

「……」

「でも、これから海くんは、毎日あたしのところに帰ってこれるようになる。海くんが出張なんかじゃない限り、あたしが限りなく毎日そばにいて、そして、海くんがしんどいとき、その胸の隙間、心の隙間にいてあげられる。だから、これからは双羽ちゃんは本当の意味であたしの恋敵――ライバルっていう存在になるんだ」

「……分からないな。もとから恋敵であるべき存在なんじゃないのか?そんなにあっさり許しちゃえるのが、俺には理解できないよ」

「分かってよー、海くんの鈍感ー」

 

〈3番――センター――ジェネル――背番号――25――〉

 

華耶が海を揺さぶっている間に、暴投などもあってランナーは三塁へと進み、ジェネルの最初の打席が回ってきた。バッテリーは早くもサインの確認をしている。

一発で同点になりうる場面ということもあって、ホームランだけはどうしても避けたいのだろう。なかなかマウンドからはキャッチャーが戻ろうとはしなかった。

 

「……あれ?」

海はジェネルの応援歌が普段のものと変わっていることに気がつき、表情をはっとさせた。

 

 ――受け継ぎし魂【こころ】 ジェネル――♪

  ――唯一の高みを胸に

     進めよジェネル

      夢の彼方へ――♪

 

「……これ、海くんの応援歌の流用じゃん」

「スタメン発表のときは前の応援歌使ってたのにな。サプライズか?……にしては、歌詞がなんか違うよな。なんだ?俺の応援歌、本格的に流用するつもりでいるのかな、ひょっとして」

「だとしたら、ニクいことしてくれるね、応援団も」

「こんなことされたらアイツ、ますますここから移籍しづらくなりそうだからやめてやりゃいいのにって思うけどね。これじゃ、アイツをチーターズという籠に閉じ込めるいい口実じゃないか」

「いいじゃん。あたしは嫌いじゃないよ、こういうの。それに――」

華耶が何かを言いかけ、海はその言葉を聞き返した。

「それに?」

 

「多分ね、双羽ちゃん――腹くくってると思うんだよ。海くんの分まで戦うって言ってたんだよね?」

「うん」

「じゃあ多分、自分からはここから出て行くつもりないと思うよ。海くんの軌跡をきっと、追いかけ続けるつもりだと思う。他でもない、この場所で」

「……それが本当にアイツにとっての幸せだといいけどね。俺は反対だよ」

「だからこそ、逆にこれからは海くんが双羽ちゃんを構ってあげないといけないのかもしれないけどねー?」

「……お前は、恋敵だのなんだの……どっちなんだよ。どういうスタンスなんだよ。やめろ、意味ありげに変なとこを触るんじゃない」

「ふふふ~ん」

「ふふふんじゃないよ。お前……」

 

何度か牽制球のあとにやっとサインが定まった一球目――ファールだ。海はじっと見下ろす形で、そのジェネルの構えを見ていた。

なるべく早く投げたかったのか、二球目はテンポよく放り込まれた。

 

「甘い――」

 

思わず海から声が出た。テンポよく放り込んで、ジェネルに対して考える隙を与えたくなかったのかもしれないが、そのボールは遠くから双眼鏡でジェネルの様子を見ている海から見てもだいぶ甘いコースに放り込まれていた。

まして打者がジェネル――それも、これ以上ない気合のたぎったジェネルとなると、そんな生半可な甘いボールを捉えないわけがない――。

 

外野がだいぶ後ろに下がっていたこともあり、ジェネルは器用にその打球を外野の手前へと運び、ランナーを悠々返した。一塁でストップしたジェネルは、ホームへ向かって――というよりは、明らかに二階席のこちらを向かって、大げさにウサ耳ポーズをして跳ね、そして腕を突き上げて振り回し、球場を煽っていた。

一発狙ってもいい場面で守備の動きを見てしっかりとその穴を突く打撃をしてきたことに、ジェネルなりの――大爺双羽が追ってきた背中の答えを見つけ始めつつあるように海には感じられた。

 

「アイツ……まだ1点返しただけでよくあんなはしゃいでられるな」

海はそんな思いを隠すように、大げさに呆れたようにして髪をかきむしりながら、恥ずかしそうにして苦笑を浮かべた。

「妬いちゃうなー、ああいうの見せられると」

華耶は海に腕を巻きつけるようにして身体を密着させ、小さい身体を背伸びさせて海をじっと見つめた。本当は海が今内心ジェネルの成長を感じ、そして嬉しがっていることを感じているから、華耶はそんな海を見て嬉しく思ったと同時に、早くも妬きそうな感情が芽生えてきた。

「やめろよ。周りが……子供たちだって見てるんだぞ」

いやに腕に巻きついて身体を密着させ、すりすりと胸を押し付けてくる華耶を海は鬱陶しそうに振り払おうとした。

「むー」

華耶は不機嫌そうな唸り声をうっすらと上げながら、もう一度海の隙をついてその腕に身体を巻きつけ、そしてふふっと笑ってみせた。

 

5回には勝ち越しとなるジェネルの犠牲フライ、そして、7回には試合を決定付けるダメ押しのホームランが真悟から飛び出し、チーターズは本拠地最初の試合を3対7で勝利をもぎ取った。大平からは真悟はこれから4番で使うつもりだと明言されていたが、粗さの目立つ打撃ではあるがひとまず4番でも大丈夫そうだろう――と海は感じた。

もちろん、この日ヒーローインタビューでお立ち台に上がっていたのはジェネルだ。こんな時くらい真悟も一緒に壇上に上げてやればいいのにと思ったが、こうした時に一緒に壇上に上がれないのが今の真悟の実力の壁なのだろうな、と海は思った。

 

〈――皆さんも分かってると思いますけど!今日の試合だけは絶対落としちゃ駄目だって思ってたので……勝てて本当によかったと思います!皆さん!これからのチーターズ、大丈夫そうですよねー!?〉

 

「バカなことやっちゃって、アイツ。今に後悔するぞ」

海はその様子を相変わらず苦笑を浮かべながら眺めていた。

 

華耶は今日この一日――野球という枷の外れた海が、ぎこちなく硬くはあるものの、これほど自分の前で笑みを浮かべるものだとは思っていなかったから、それが嬉しくて、トイレに行くふりをして泣いた。

 

自分が野球という縄で海を長年縛ってしまったことに改めて申し訳なさを感じたと同時に、きっと、海の硬い笑顔というものはもとからであって、本来海の抱えていた心の氷を融かしさえすれば、笑う回数自体はこのくらい多い人間だったのだろうと――本当の意味での海という人間を知れた気がして、それが嬉しくて泣いた。

 

泣かずにはいられなかった。

 

自分は誰よりも海を理解しているものだと思っていたが、それでもまだ、海のことを実は全ては知っていなかったのかもしれないという事実が、これからの日々がまだまだ充実しそうなものに思えた。それが嬉しくてたまらなかった。

きっとこれからも、海なりにも、自分なりにも――退屈しそうで、結局は退屈しない日々が待っているのだろう――と。

 

そして――ひょっとしたらジェネルはそんな海のことを自分よりももっと深い次元で知っていたのかもしれないと思うと、改めてジェネルのことを大爺双羽として――恋敵として意識した。

 

こんな歳になって、まだ自分は他人のことを恋敵だと思い、そして、まだ自分は運命を誓った男のことをここまで愛するできる――。

 

自分にとって青春というものはすっかり終わってしまったものだとは思っていたが、もう一度父親をやり直したいと言っていた海同様、華耶もまた、もう一度青春気分を味わえる気がしそうで、ジェネルの存在を少し嬉しくも思った。

 

きっと、ジェネルがいなかったら自分は自分の魅力に自惚れて、今ほどは自分の若さを保つ努力をしなかっただろうから――。

 

「……あたしも、頑張らないとね」

華耶は涙を拭きながら、再び海のもとへと歩み寄った。

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