「うーん……」
とある日、アズサはアビドスの教室で考え事をしていた。
「あれ、アズサさん? どうしたの?」
そこに通りかかったセリカは、アズサが悩んでる姿を見て少し心配そうに声をかける。
「セリカ? ううん、気にしなくていい」
「そう? 私でよかったら相談乗るよ?」
セリカの言葉を聞いてアズサは考える。
この任務はターゲットには絶対に知られてはいけない。
そのためにも、極力ターゲット以外とはいえ、他の人間にも知られない方が良い。
しかし、現状この任務を大きく成功させることは難しいだろう。
今の状態でも、成功させること自体は出来るだろうが、アズサとしては大成功と言えるくらいの成果は出したいところ。
そうなると、アズサ一人では厳しいところもあるだろう。
実際のところ、現状どんな作戦を使うべきか悩んでいて、そのまま進展がないままでいる。
せっかくこうやって言ってくれてるのだし、誰かを頼ってみるのもいいだろう。
今回の任務に関してはヒフミや補習授業部、先生には話せない。
となれば、必然的に現状頼れる相手といえばアビドスの人間くらいになるだろう。
少しの間アズサは考え、答えを出した。
「うん、わかった。実は―――」
「贈り物がしたい?」
「うん、そうなんだ。この任務のことは極秘でお願い」
「わ、わかったわ」
アズサがセリカに伝えた任務の詳細。それは、お世話になった人達に感謝を込めて贈り物を贈りたいというものだった。
サオリ、ミサキ、アツコ、ヒヨリ、ハナコ、コハル、ヒフミ、そして先生。
アズサは、これまでみんなから返しきれない程のものを貰った。
みんなから、色々なことを教えて貰った。
アリウススクワッドからは、サバイバルスキルだったり、戦い方だったり、あの過酷な環境の中で生きる為の術を教えて貰った。
補習授業部からは、『楽しさ』を教えて貰った。学ぶことの楽しさ、可愛いものを共有する楽しさ、大切な友達と一緒にいられる楽しさ、そんないっぱいの『楽しさ』を、補習授業部に入ってから……そして今でもたくさん教えて貰っている。
先生からは…………ほんとに多くのことを教えて貰った。
トリニティでの生活に慣れる為に手を尽くしてくれた。
美味しいスイーツのお店や、ゲームセンターや、可愛い場所だったり、色々な素敵な出会いをさせて貰った。
リラックスできる空間で、肩の力の抜き方を、その必要性を教えて貰った。
数え切れないほど多くの物を教えてくれた。
絶望的な状況で、みんなから助けて貰った。
思い返されるのは、アリウスでの一幕。
アリウスの教えに反抗した結果、自らの身が危険に晒されてしまったとき、サオリは自分のことを庇ってくれた。
あの時、サオリが来なかったら、もしかするとあの時点で自分のヘイローは破壊されてしまっていたかもしれない。
思い返されるのは、アリウススクワッドとの決戦の日。
補習授業部としてみんなと力を合わせてアリウスや聖園ミカと戦い、試験も乗り越えた。
ヒフミには海に連れて行って貰った。
そんな、一緒にいると楽しくて、暖かい場所だった補習授業部。
その補習授業部を、トリニティを守るために、エデン条約が襲撃されたあの日、アズサはたった一人でアリウススクワッドと戦うことを決めた。
しかし、たった一人でアリウススクワッドを倒すなんてことは難しかった。
そして、アリウスに、サオリに負けそうになったそのとき、先生や補習授業部のみんなが駆けつけてきてくれた。
補習授業部のみんなを、ヒフミを危険に晒さないように突き放したというのに、それでも、危険だって分かってても、力になろうと駆けつけてきてくれた。
思い返されるのは、カードを掲げた
自分達じゃ敵わないような強大な敵を前に、先生は立ち上がった。
自分達と違って銃弾一発ですら致命的になる身体だというのに、撃たれた傷だってまだ治りきってない状態だというのに、それでも生徒を守るために先生は前に出た。
先生の背中はいつも暖かくて眩しい。
その姿はまるで、自らの選択への答えを示すかのように、『たとえ虚しいとしても、抗うことをやめるべきじゃない』という自分の選んだ道が間違ってなかったんだって、そう答えてくれているかのように、導いてくれていた。
―――そして、みんなから居場所を貰った。
補習授業部も、アリウスも自分にとってかけがえのない居場所。
一度はどちらも失ってしまったはずの居場所。
それでも今ではもう、前と変わらずどちらも居場所としてあり続けてくれている。
そんな居場所を、先生は守ってくれた。
本当に、みんなからは返しきれない程のものを貰った。
アリウススクワッドのみんながいなければ、ここまで生きてこれなかったかもしれない、最後まで抗える力は得られなかったかもしれない。
補習授業部のみんながいなければ、たくさんの可愛いものも、素敵な出来事も、学ぶことの楽しさも、知ることは出来なかった。
先生がいなければ、トリニティもゲヘナもアリウスに、
アリウスのみんなもマダムの支配に囚われたまま、生き続けることになっただろう。
そんな大切なみんなとこれからもずっと一緒にいたいし、貰ったものも出来るだけ返していきたい。
ふと、感謝の気持ちを伝える為の方法として、贈り物を贈るといいという話を聞いた。
だから、恩返しの一つとして、贈り物というものをしてみることにした。
贈る物に関しては、先生から情報収集してある程度決めてある。
先生の分に関しては自分で考えて贈ってみようと思う。
あとは……
「もっと喜んで貰えるような何かがないかな……?」
「何か、ねぇ」
普通に渡すだけでも喜んではくれるだろう。
でも、せっかく渡すならたくさん喜んで貰いたい。その為に何かないかずっと考えていた。
そんな話を聞いたセリカは一緒になって考え出す。
もっと喜んで貰えるようなもの、なんだろう?
そもそも、セリカ自身が最後に誰かに贈り物を贈ったのはいつだっただろうか?
アビドスの為にバイトを始めて、最初の頃はアビドスのみんなに贈り物をしたことはあった気がする。
でも、その後はどうだろう?
アビドスの借金返済に追われ、少しでも多く返済出来るように色んなバイトをしてはそのお金のほぼ全てを借金返済に当てたりして、日頃の感謝を伝えることすらろくに出来てなかったような気もする。
先生が来てくれてから心に余裕も出てきているし、久しぶりにそういうことをしてみてもいいのかもしれない。
(……って駄目駄目! 今はアズサさんのこと考えてあげなくちゃ!)
いつの間にか考えがアビドスの方向にシフトしてしまっていたのを首を振って誤魔化し、再びアズサの相談について考える。
どういうことをすればもっと喜んで貰えるか、そもそもアズサに何ができるかもあまり知らない。
少し前に指名手配犯を捕まえる仕事を手伝って貰ったことがある。
その時に即席でトラップとか仕掛けてたので、それなりに手先は器用なんだと思う。
それなら手作りで何かを作ってプレゼントするのも考えたが、プレゼント用の物を作るという視点で考えて自分が教えられるのかというと少し考えなくてはいけない。
確かに色んなバイトを経験してるので最低限のことは出来るとは思うが……
それにアズサは既にそれぞれに贈る物については先生のアドバイス込みである程度決めてるみたいなので、それを変に変える必要もないだろう。
(ん? バイト?)
ふと、一つの案が頭に浮かんだ。
自分が教えることができるもので、もっと喜んで貰えそうなもの。
「ねぇ、アズサさん」
「どうしたの? なにかいい案が見つかった?」
アズサはきっとバイトとかもまだやったことはないだろう。
それは、アズサがトリニティに転校する前のことを少し聞いていたから、なんとなく予想できる。
バイトなら自分も色々なバイト経験があるから教えられる。
バイト先は……紫関ラーメンがいいだろう。
あそこのほうが色々と都合が良いし、大将も優しいから色々と話しやすい。
自分の為に頑張って働いて稼いだお金で買ったプレゼントとなるときっと普通に渡すより喜んでくれる。
初給料を貰ったときは自分自身も嬉しかったし、こういうバイトもアズサにとっていい経験になるかもしれない。
そんなことを「アズサちゃんに色んな体験をさせてあげたいんです!」なんて目を輝かせながら語っていたヒフミのことを思い出しながら考えていた。
実際のところ、アズサに話してみてどんな反応をするかにもよるが、とりあえず……
「私と一緒にアルバイトしてみない?」
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃい」
あれから、アズサと話し合って二人でアルバイトをすることが決まった。
芝関ラーメンの大将も快くOKしてくれた。
「ご注文は?……うん、うん、柴関ラーメンが一つと味噌ラーメンが一つ、それぞれセットだね。待ってて」
アズサがお客様から注文を受けて戻ってきた。
バイトを始めてから三日目。
最初二日間はわからないことも多く、接客のやり方や仕事の内容など教えながらやっていたが、三日目にして一人でも最低限の仕事をこなせるレベルになっていた。
「アズサさん、凄いですね。三日目でもう仕事覚えて」
「そうだな、うちとしても仕事を覚えるのが早いのは助かるよ」
セリカも大将もアズサの働きぶりに感心していた。
バイトを始めて約一週間。
今日も二人で柴関ラーメンでの仕事を頑張っていた。
そこに、とある来客がやってくる。
「おうおう、こんなところにラーメン屋があるじゃねぇか」
ぞろぞろと数人のヘルメットを被った生徒達が入ってくる。
いつぞやのカタカタヘルメット団だ。
カタカタヘルメット団は、カイザーコーポレーションに雇われ度々アビドスを襲撃しに来ていた不良集団だ。
今はカイザーからの依頼もないので、アビドスを襲撃しにくることはほぼなくなったが、元々この付近を拠点としてることもあり、未だにアビドス自治区で問題を起こすことがある人達。
「あたいら今、お腹すいてんだよね~?」
「食料と、ついでに金目のもんもよこしな?」
そう言ってカタカタヘルメット団は銃を向けてくる。
セリカは直ぐに銃を回収して応戦することを考えたが立ち止まる。
(くっ、ここで暴れたら他の客にも迷惑がかかっちゃう……!)
ここは他の客も多くいる場所。
そんなところで、下手に暴れることは出来ない。
もし吹っ飛ばされた不良にぶつかったりとか、流れ弾とかで怪我をしてしまったら大変だ。
この状況をどうやって治めようか、必死に考えていたそのとき
「あべし!?」
「ひでぶ!?」
「たわば!?」
復数の銃声と共にヘルメット団がその場に倒れていく。
その後ろには、いつの間にか銃を取り出したアズサが銃を構えて立っていた。
「アズサさん!?」
「いつ襲撃が来てもいいように銃はすぐ取り出せる場所に隠してた。ブービートラップ設置するのは流石に先生に駄目って言われると思うし、これくらいは」
「そ、そうなんだ……」
アズサの反応にセリカは苦笑いを浮かべる。
ブービートラップとか、設置されなくて本当に良かったと思う。
もし客が間違えてトラップにかかったりしたら……なんて想像したら少し震えてしまう。
「でも、ありがとね、アズサさん」
「気にしなくていい」
とはいえ、アズサが迅速に対処してくれたおかげで被害はほぼ零で済んだ。
この日も無事に一日が終わった。
バイトを始めて二週間、アズサにとってのバイトの最終日。
今日も朝からいつものように柴関ラーメンでのバイトを頑張っていた。
そこに、5人の来客がやってきた。
「いらっしゃいませー! 柴関ラーメンです!」
「いらっしゃい、柴関ラーメンだ」
「やっほ〜セリカちゃん、ラーメン食べに来たよ~、っておや〜? アズサちゃんもバイト〜?」
「ほんとです! アズサちゃんのユニフォーム姿もとっても可愛いです!」
やってきたのはアビドスの面々とヒフミの5人だった。
セリカはいくつものバイトを掛け持ちしているがそのどれもをアビドスのみんなには明かしていない。
その理由は、アビドスの借金を返済するのにバイトで稼いだお金を使っていることを隠す為。
別にやましいことをしているわけではないし、バイト禁止というわけでもない。
ただ、こうして頑張って稼いだ個人のお金をアビドスの借金返済に使うということをきっと良しとはしないだろう。
だからこそ、隠れてこっそりやる必要があった。
そんな中、唯一バレているのが柴関ラーメンでのバイト。
バレてしまってからは堂々とバイトを続けているが、アビドスのメンバーも定期的に柴関ラーメンを食べに来るようになってしまった。
前からちょこちょこ食べに来る機会はあったが、セリカのバイトがバレてからというもの、その頻度は増えたようにも感じる。
そしていつものようにラーメンを食べに来たアビドスメンバー+ヒフミはユニフォーム姿のアズサを見てそれぞれの反応を示す。
その中ヒフミはアズサのユニフォーム姿を見て目を輝かせていて、当のアズサは恥ずかしさ半分嬉しさ半分という感じの反応をヒフミに返していた。
「でもなんでアズサちゃんがここでバイトを〜?」
「え!? えーっとそれは、その。アズサさんに色んな世界を見せてあげたいってヒフミさんが言ってたから、せっかくだからバイトとかも経験したらいいんじゃないかな〜って思って?」
ホシノからの質問にセリカはびくっとしながらも本当のことを伝えるわけにもいかないので、少し冷や汗をかきながらもなんとかそれっぽい理由を伝える。
この理由自体もついでレベルで考えていたことでもあるし、間違ってはない。
アズサも隣でこくこくっと首を縦に振っていた。
「そうだったんですね……! セリカさん、ありがとうございます!!」
嬉しそうに目を輝かせて感謝の言葉を伝えるヒフミの姿に本当の理由を隠してることにほんの少し罪悪感を感じながらも、なんとか信じてもらえたようだ。
「それじゃ、ご注文は?」
「ほらほらセリカちゃん〜、いつものいつもの〜」
「うっ…………ご、ご注文はお決まりですか……」
「じゃあ私は〜☆」
アビドスの面々とヒフミはそれぞれ注文をしていき、いつものように雑談を楽しみながらラーメンを平らげていく。
「えぇ!? アズサちゃん今日がラストのバイトなんですか!?」
「うへ、それじゃあアズサちゃんのユニフォーム姿が見れなくなるのも勿体ないし、みんなで記念撮影でもしちゃおっか〜?」
「ん、賛成」
「確かに、アズサちゃんの思い出の1ページとして写真を撮るのもいいですね!」
今日がアズサのバイトの最終日ということを聞いたアビドスのみんなは記念に写真を撮ろうと提案する。
これも、ヒフミからアズサへの想いを聞いているからこその提案であった。
「セリカちゃんのユニフォーム姿も撮ってなかったし、いい機会だねぇ〜♪」
「私のは別にいいでしょ!?」
「大将、いい?」
「おう、もうすぐ休憩時間に入るし、いいんじゃねぇか?」
ホシノの言葉に顔を少し赤くして突っ込むセリカを横目にしれっとシロコは大将から了承を貰う。
そのまま流れで記念撮影を撮ることとなり、ヒフミとアズサにとって、アビドスのみんなにとっての青春の1ページが追加されたのだった。
――その夜――
今日は珍しく夜遅くまで客が多く、セリカとアズサもバイトとして頑張って仕事をこなしていた。
そして客先も落ち着いて閉店の時間、それぞれ閉店の準備や片付けをしていた。
「アズサちゃんすまねぇな、こんな時間まで手伝って貰って」
「構わない、深夜でも任務に支障が出ないように、訓練はしてある」
アズサはバイトを始めたばかりということもあって、今までここまで遅くに残ることはなく、大体客先が落ち着いてセリカと大将だけで回せるくらいの時間には引き上げるようにさせていた。
今日は客の多い日だったので、この時間まで手伝ってもらっていた。
「二人はそろそろ上がってもいいぞ〜」
「あ、わかりました!」
「了解」
大将の言葉を聞いて、ある程度片付けを済ませた2人は帰る準備を始める。
「あと、アズサちゃんにはこれな?」
「これは……」
大将からアズサに渡されたのは厚みのある封筒。
この二週間、アズサが頑張ったその証がその封筒には詰まっている。
「もう手伝いに来れねえのは寂しいけど、元々そういう約束だからな。これでお友達に良いものプレゼントしてやってくれ」
「うん、ありがとう大将。私も、機会があればまたバイトさせてほしい。まかないとかも、すごく美味しかった。」
「おう、そいつはよかった! 客としてでもバイトとしてでもいつでも来てくれな!」
アズサは受け取った封筒を大事そうに持つ。
その封筒はアズサの頑張りの成果。
その頑張りがまた、ヒフミや補習授業、アリウスや先生の為のものだと言うのだから、更に特別な何かが詰め込まれている。
頑張って稼いだお金で買うからこそ、その理由も今ならなんとなく理解できるようなきがする。
「それと、セリカちゃんにもな」
「えっ、私にも!? 給料日はまだなんじゃ……」
不意にアズサと同様にお金の入った封筒を渡されたセリカは驚愕の表情を浮かべる。
「セリカちゃんはいつも頑張ってくれてるからな、これでアビドスのみんなに良いもんでも買ってやってくれ」
「大将……ありがとう!」
「いいってもんよ!」
大将の優しさに触れ、セリカも笑顔で感謝を伝える。
セリカとアズサの嬉しそうにしている姿を大将は微笑ましく眺めていた。
その後、アズサは予定通りそれぞれの贈り物を買って渡していった。
バイト効果もあり、みんな大変喜んでくれたそう。
特にヒフミからは飛びつくほどに喜んで貰えたようで、より親密度が上がったように感じた。
また、大将から言われたこともあり、セリカはセリカでアビドスのみんなに贈り物を贈っていたのはまた別の話。
どうも一ヶ月くらい仕事に追われどこも更新できてなかった狐です
この回についてはほんとはもう少し前に完成していたのですが、下書きデータの九割が消えるという事件により爆散しました。
なんとかある程度形は戻しましたが、前のほうがいい感じの文が書けてた気がしますね。
さて、今回はセリアズ回です
セリカって純粋で健気でかわいいですよね。
余談にはなりますが、最後にセリカがアビドスメンバーに贈り物をしたとき、手作りのプレゼントをしたそうですよ?
はてさて、お金を節約するためなのか、それとも心を込めて贈りたかったのか、どちらなんでしょうね?
ちなみにセリカちゃんも先生にもちゃんと贈り物したらしいですよ