異世界でもハヤテのごとく 作:ハヤ✖️アテ
「はぁ、憂鬱だなぁ」
教室のドアに手をかけ、南雲ハジメは呟いた。彼が学校を憂鬱だと思う理由はただ面倒臭いからだけではない。
「よおキモオタ!また徹夜でエ◯ゲしてたんだろ!キメェ〜な!」
「ホントだよ。寝不足もほどほどにしとけよ」
「お前ただでさえ授業中寝てんだから遅刻したら更に教師からの印象悪くなんぞ」
「後でアレの攻略法教えろよな」
こいつらは檜山、斉藤、近藤、中野の悪ガキ4人組。以前まではエロゲをしているハジメをよく揶揄うという名のイジメを行っていたのだが、現在行っているのは檜山1人である。他3人はそれぞれ、ハジメがゲーム好きということもあり、他の者に隠れて自分達の愛用ゲームの攻略法を伝授してもらっていた。その情報が3人の間で回り、以降3人がハジメを虐める事はなくなった。今では偶に4人でス◯ラやモ◯ハ◯でもする仲である。
檜山はハジメを弄る奴が自分1人となった今でも意固地にハジメを馬鹿にする事を辞めない。3人も檜山が元々つるんでいた仲間の為、ハジメには"アイツがいつも悪いな"とフォローするだけで基本は檜山とつるんでいるのだが、段々と檜山と行動を共にする時間が短くなっている。檜山もそれは感じていた。その原因がハジメへの嘲笑である事も。でも辞めない。何故ならそれ以上にハジメが彼女と仲良くする事が許せないからだ。
「南雲くんおはよう!もっとはやく来ようよ!」
「おはよう、白崎さん」
白崎香織。学校の三大女神の1人。檜山がハジメを虐める原因。自分よりも劣っている(と思っている)ハジメが彼女と仲良くするのが許せないのだ。逆恨みもここまで来れば逆に賞賛してしまう。そこまで自分の意見が正しいと思い込める事に。
当然ハジメからしたら迷惑極まりない話である。しかも彼女が自分と話すのは別の目的があるのだから。
香織はハジメに駆け寄り、今朝の出来事を報告する。
「ハジメくん、今日は起きられたよ」
「あ、うん。どうだった?」
「うん、やっぱり絆創膏常備で女子アピール+貼る際さり気なく顔近づけてドキドキ大作戦は失敗しちゃった」
「だから言ったでしょ。綾崎くんは頑丈だからそう簡単に絆創膏を要する怪我はしないって」
「うん、そうみたい。今朝も電信柱に猛スピードで激突したけど怪我らしい怪我は見当たらなかったよ」
「そうそう、電柱に突っ込んだくらい……え?それ本当?なんで平気なの?」
香織とハジメはお互い協力関係にあった。ハジメは香織にハヤテに関する情報を提供する。対して香織はお礼として自分のノートの写しをハジメに提供する。香織はハヤテの最新情報や有益情報を手に入れ、ハジメは試験を無事乗り切る事が出来る。元々はお礼を受け取るつもりがなかったハジメだったが、お礼の品が品なだけに用件を飲んだ。
次はどうやって彼に近づくかと作戦を練ろうとする2人に声を掛けるものが3人。
「おはよう南雲くん。朝から香織がごめんなさいね」
「また彼の世話を焼いてるのか。全く、香織は優しいな」
「…」カチャカチャカチャ
最初にハジメに挨拶したのは香織と同じ三大女神の1人、八重樫雫。黒髪ポニーテールで女子剣道副部長をしている。
続いていつもの様に口癖の"香織は優しいな"を言う爽やかイケメンは天之河光輝。香織に絶賛片思い中なのだが、なお本人は両思いだと思い込んでいる頭の中お花畑な奴だ。
そして最後に常に両手ハンドグリップを持ち握力を鍛えているTHE脳筋バカこと、坂上龍之介。好きな言葉は努力と根性。好きな飲み物はZ◯V◯Sのプロテイン。好きな芸人はなか◯まきんに君となんの捻りもないつまらない奴だ。好きな芸人がアン◯ールズだったら少しは印象が変わっただろう。
ぶっちゃけハジメは雫は兎も角、他2人の事は苦手だ。それは人間的に絶対に合わないからだ。ハジメは言わばインドア派。外に出て遊ぶよりクーラーで涼みながらゲームしてる方が何倍も楽しい。逆に2人はアウトドア派。小さい頃からゲームなんて旅行時のUNOやババ抜きとかでしか経験が無く、サッカーやドッジボールといった運動する遊びをしてここまで育って来た。彼等と自分とでは根本的に住む世界が違うのだ。しかもタチが悪い事に、光輝は無自覚に多様性を認める事が出来ない。自分の意見が全て正しいと思い込んでいる。
そんな彼等も普段ハジメと関わらないのだが、香織がいれば別。だからハジメは香織に話しかけて来て欲しくないと思っている。香織がこっちに来れば光輝も来てしまうから。だが、天然が入っている香織はハジメの都合などお構い無しに絡んでくる。
「?何を言ってるの?光輝くん。寧ろお世話になってるのは私の方だよ?」
またしても彼女の天然発言に頭を痛める。こんな事言うから自分が檜山みたいな奴に目を付けられるのだと。
キーンコーンカーンコーン
そんな事してる間にチャイムが鳴り、担任である愛子先生が教室のドアを開ける中に入って来る。
「は〜い、皆さん席に着いて下さ〜い。出席を取りますよー」
各場所で話していた生徒が自身の席に着くため移動する中、香織はキョロキョロするだけで動こうとしない。不審に思ったハジメが香織に訳を聞く。
「どうしたの白崎さん」
「いや、綾崎くんがまだ来てないなって」
「え?……本当だね。でもまぁもう直ぐ来るよ。だから席戻った方がいいよ」
「うん、そうだね」
ハジメニに言われ席に着く香織。五十音順で言われる出席番号、早々に呼ばれたハヤテだったが、当然まだ来ていない為返事が無い。
「綾崎くん……綾崎くんまだ来てない?」
朝もバイトして疲れているハヤテだが、真面目故に普段から遅刻欠席はしない。朝の朝礼だって今まで休まなかった為、珍しいなと思いつつ取り敢えず遅刻欄にチェックを入れようとした愛子だったが、直後勢いよく教室のドアが空いた。
「おはようございます!」
ハヤテが肩で息をしながら教室に飛び込んで来たのだ。
「もう遅いですよ、綾崎くん」
「すいません、バイト中に自転車が壊れてしまった為来るのに遅れました」
「そうですか。事情は把握しているのでこれ以上咎めませんが、これからは遅れそうな時は連絡の一本下さいね」
「はい、すみません」
ハヤテは愛子に一礼し、ハジメの前の席に着く。ハヤテが来た事に香織は嬉しそうな顔をし、それを見ていた檜山は恨めしそうにハヤテを睨む。
その後はなんのトラブルもなく、時間は過ぎ、お昼休憩に入った。ハヤテは後ろのハジメと席を向かい合わせる。ハヤテは自作の弁当を広げ、ハジメは10秒チャージを取り出す。その姿にハヤテは苦笑する。
「相変わらずだね、どうせ買うならもう少し普通の弁当買えばいいのに。お腹空かない?」
「うん。僕の場合基本寝てるから日中はこれだけでも大丈夫なんだ。綾崎くんこそ相変わらず弁当凄いね、手作りでしょ?」
ハヤテの色とりどりなお弁当。おにぎりにタコさんウインナー、プチトマト、ごぼうのきんぴら、ポテトサラダ、卵焼きと、お手本の様なお弁当を作るハヤテの料理スキルに感心する。と同時に香織に同情してしまう。
「む〜〜」
「どうしたの香織?」
「なんでもないよ」
香織も料理は苦手ではない。でもハヤテの様な料理スキルはない。最初はハヤテにお弁当を作って好感度アップを企んだが、効果は薄。それどころか、お返しにと作ってくれたハヤテのお弁当の美味さに逆に胃袋を掴まされてしまった。今もハヤテのお弁当を"美味しそう"と眺めている。
そんな所に教室へ1人の女子生徒が入って来た。
「綾崎くんいる?」
「え?ヒナギクさん?」
彼女の声にクラス中が注目する。彼女の名前は桂ヒナギク。ピンク髪のロングが似合う彼女は1年生から連続で生徒会長を務めている。学力は学年トップで、部活も女子剣道部部長。正に文武両道の天才少女。香織、雫と並ぶ三大女神でもある。彼女には姉の桂雪路という姉がおり、ハヤテ達のクラスの副担任をしている。酒癖が悪く、給料の殆どを酒に溶かしている。
ヒナギクはハヤテを見つけると彼の元に歩む。
「綾崎くん、この前のお姉ちゃんの事なんだけど迷惑かけちゃってごめんなさいね」
「え、桂先生ですか?」
「先週お姉ちゃんが居酒屋で暴れたのを綾崎くんが止めてくれたって」
「あぁ、あの時の事ですか。全然大丈夫でしたよ。店長も逆に場を納めてくれたボーナスくれたんで」
「ほんとごめんね。良かった今度なんかお礼させて」
「別に気にしなくていいですよ。さっきも言いましたけど僕も得しましたし」
「でもそれじゃ私の気が済まないの」
ハヤテとヒナギク押し問答に香織は羨ましそうにその光景を眺める。だからこそ1番最初に気付けた。2人の足元が何やら光っているのを。その光は瞬く間に教室全体に円状に広がった。
「え?なに!これ!?」
円状に広がったソレは見たこともない文字が刻まれていた。教室全体を覆う魔法陣らしきソレは次第に光の強さが増す。未だに教室に残っていた愛子が退避するよう叫ぶがすでに時遅し。眩い光に皆目を閉じる。再び目を開けた時には見たこともない光景が広がっていた。