異世界でもハヤテのごとく 作:ハヤ✖️アテ
「ようこそトータスへ、私はイシュタル・ランゴバルドと申します。以後お見知り置きを」
イシュタルと名乗った白髪の老爺に案内され、ハヤテ達がたどり着いたのはハリポタの食堂みたいに広大な大広間だった。そこで彼等を待ち受けていたのは10人すれ違えば10人が振り返る様な美女・美少女のメイド達であった。
彼女等はクラス一同が大広間に入り終わると、メイド挨拶お馴染みにのスカートを捲し上げ、右足を引き揃ってお辞儀をする。
「「「ようこそおいで下さいました。勇者様」」」
自分達を勇者と崇め、深々とお辞儀をする。そんな夢のような光景に、男共は歓喜の声を上げた。ハヤテも声こそ上がなかったが、アイドル並みのルックスを兼ね備えた彼女達の出現に思わず照れてしまい頬を染める。そんな男共の痴態とも言うべき姿に、冷ややかな目線を送る女子達。それは香織も例外ではなく、メイドに目を奪われているハヤテを見て嫉妬心から"ムーッ!"と頬を膨らませる。
しかし綺麗に整列しているメイド達の間からイケメン執事が現れ、これまたお馴染みのポーズで敬礼した。その瞬間、先程までのクラスの男子達への蔑みの目線を送っていた姿は何処へやら、今度は打って変わって彼女らによる黄色い悲鳴が飛び交う。結局は男も女も魅力的な異性を見るとテンションが上がるのは同じ様だ。
「さて、勇者様方。一体何が起きたのか、さぞかし混乱している事でしょう。少々長くならますが1から説明致しますのでどうか耳を傾けて下され」
イシュタルの呼び止められ、"少し空気読めよ"とメイド(執事)に夢中だったのを邪魔された事に文句を言いたい一同であったが、流石に身の安全が優先、イシュタルの話に耳を傾ける。
イシュタルの説明は終わった。まぁ端的に言えば別種族と戦争してるから助けが欲しいとの事だった。なんと身勝手な要求なのだろう。しかも愛子先生が元の場所に返してと言えば召喚したのは神であるエヒトであって自分達に言われても困るとのこと。
「ふざけるなよ!帰れないとか馬鹿な事言ってんじゃねーよ!」
元の世界に帰れないと分かると先程までメイド執事に目を輝かせていた者達が途端パニックに陥った。それはハジメも例外ではない。フィクションではありがちな展開な為、他の者より冷静で入られたが、これは現実た。フィクションの様に自分達に都合の良い展開なんかそうそう起きやしない。一体今後どうなるか分からない。今みたいに持て囃され担がされて戦争に送り込まれるならまだマシな方だ。最悪は人権無視の奴隷の様にまともな衣食住を与えられず、戦地では随時追加補充出来る駒のように扱われる事だ。徐々に体は痩せこけ、飢えにより死者が続出する。そんな展開だけはなんとしても避けなければいけない。
「なんかとんでもない事になったね綾崎くん……綾崎くん?」
ハヤテと意見交換したくて彼を呼んだのだが、数秒待っても返事が無い。どうしたのかと思い振り返るとハヤテは何やらぶつぶつと独り言を繰り返していた。
「元の世界には帰れない。元の世界とは交流が絶たれた。つまりもう借金返済しなくていい。つまり自由…………あれ?もしかして僕にとってこの異世界転生ってやっと得た安息の地?」
「綾崎くん?」
「ん?あぁ、南雲くん!なんですか!?」
「もしかして綾崎くんこの異世界転生喜んでない?」
「ないないある訳ないじゃないですか!まさか、やっと借金返済の毎日から解放されたなんて……あ」
自爆により自身の心境を暴露してしまったハヤテ。皆んなが帰れなくて不安で狼狽えている中、そんな下賎な考えを抱いていた事に申し訳なく感じていた。それと同時に嫌悪していた。他の者の不幸を顧みず、自らの幸福を歓喜する。自分が最も忌み嫌う者達と同じ考えをしたのだから。
しかし、ハジメはハヤテに失望などは感じていなかった。ハジメは一度だけハヤテの境遇を少しだが聞いたことがある。彼の今までの苦労を知っている者として彼の考えを咎める事は出来ない。なんせハヤテはハジメが想定した最悪に近い環境で今まで生きていたのだから。寧ろ今までよく潰れず、犯罪にも手を染めずに頑張った程だ。自分がその立場ならとても耐えられず心身共に疲労で倒れるか、人生からログアウトを選択するところだろう。その旨をハヤテに伝えなければいけないそう思った。
「安心して綾崎くん、別に僕は…」
「俺は戦う!」
ハジメ言葉に被して光輝が発言した。この世界の人を救い、みんなで一緒に元の世界に帰ると。こう言う発言を恥ずかしがらず堂々と言えるところが光輝の凄いところであり、王道主人公属性の塊と言われる所以なのだろう。ハジメからしたらタイミング最悪だったが。そのカリスマ性に導かれる様に次々と彼の意見に賛同する者が現れる。
「俺のこの鍛えた肉体、思う存分発揮してやるぜ」
「龍太郎…」
「今のところそれしかないわね」
「雫…」
「雫ちゃんがやるなら私も頑張る」
「香織…」
勇者パーティ4人がこの戦いに乗り気な事でクラスメイトの士気も上がり、その場のテンションに任せて戦争に意欲的な方向に傾いてしまった。イシュタルの"勇者さまの世界は我々より上位世界なので、我々の数倍から数十倍の力があります"という発言がますます彼等を助長させているのかも知らない。自分達は凄い奴なのだと。負ける訳がないと。
しかし肝心な事を見落としていた。それを指摘したのは今まで静かに話を聞いていたヒナギクであった。
「イシュタルさん。1つ質問いいですか?」
「はい、なんなりと」
「何故
「」ピクッ
ヒナギクの言葉に身体を硬直させたイシュタル。ヒナギクの質問の意図が理解できず困惑している光輝は彼女に質問の意図を問う。
「ヒナギク、一体それはどう言う意味だ?」
「そのままの意味よ、天之河くん。何故人類の危機に呼ばれたのが私達なのか、貴方は不思議に思わないのかしら?」
「それは……それはイシュタルさんが言ってたじゃないか。俺達には力があるって…」
「いえ、力があるのは元の世界の住人、つまり私達の世界の住人なら別に私達じゃなくても良いはずよ」
その言葉に一同は先程の盛り上がりが嘘のように口を閉ざした。
「普通助けを求めるなら戦に長けた人に依頼しない?そうね、例えば軍人とかね」
「そ、それはきっとランダムで仕方なかったんだよ」
「ランダムだとしたらなぜ召喚された私達を見て落胆や不安を彼等は何一つ浮かばなかったのかしたら?普通こんな戦争のせの字も知らない様な子供が召喚されたら失敗を疑ったり、本当に大丈夫なのかと不安にならないかしら?」
ヒナギクの発言は案外的を得ていた。皆の視線は真実を求めイシュタルへと集まる。皆から目線が集まり、説明しなければいけないと悟ったイシュタルは堂々と宣言した。
「我々に不安など一切ございません。何故なら貴方達はエヒト様に選ばれた勇者だからです」
イシュタルの表情に誤魔化した様子は一切ない。つまり本気でエヒトが選んだ人選ならそれが正解だと思っているのだろう。信仰主の言葉に一切の疑問を抱かない、最早狂信者のそれだ。
「………分かりました。エヒト様に選ばれた事に感謝します」
ヒナギクは大人しく引き下がる。別にイシュタルの説明が腑に落ちた訳じゃない。これ以上突っかかればクラスメイト達にも被害が及ぶと考え、この場は大人しく従う意思を見せたのだ。
ハジメはハヤテに声を掛けるタイミングを失い、どうしようか困っていると、自分達の目の前に2人のメイドが現れ頭を下げた。2人も彼女に釣られて頭を下げた。気付くと自分達だけでは無い、皆んなの元にも男子にはメイド、女子には執事がそれぞれ着いていたら。何故メイドが自分達の元に来たか疑問に思っていると、その疑問にイシュタルが答えた。
「ご勝手ながら、これからの生活をサポートする使いを寄越しました。何か用がございましたら各々の使いにお頼み下され。何でも要望にお応えするよう命令しております」
「な、なんでも?」
「なんでもですぞ」
イシュタルの"なんでも"と言う言葉に檜山が反応する。いや、檜山だけではない。男を中心にゴクリと唾を飲み込むもの、メイドの全体シルエットを頭頂部からつま先まで確認する者も現れた。しかしメイド達に自分達が品定めされてる現状に嫌悪感を示すものは不思議といなかった。それがさも当然の様に。
「勇者様」
ハヤテは自分に着いたメイドに呼ばれ振り向く。
「私はマリアと申します。何かご要望が御座いましたらなんなりと仰って下さい」
マリアと名乗ったメイドにハヤテは違和感を覚えた。確かに彼女は美人だ。それも他のメイド達と比べても頭1つ抜けてるとさえ思える。だが、彼女達とは雰囲気が違う。髪色も茶髪だし肌色も自分達と変わらない。まるでこの世界の住民じゃないみたいだった。