リーリエロスでカントー行ったよ外伝 the horizon de alola! 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
雪が溶けて、季節は春へと移り変わるところ……そんな日でした。
クロウさんのいない冬はとても寒くて、ほとんどをベッドの中で過ごしていたような気がします。
そう言えば、あの日の日記を書いていませんでした。あの日はショックで、日記を書いている余裕などなくて。
博士から1日一度はレポートをつけろと言われてからなんとか日記を再開することはできたのですが、それでも、日に数文字書くのがやっとでした。
今日のごはんはなんだった、とか。
それが数日続けば、もはやそれは日記ではなく献立表です。
なんだかそれがとても嫌で気が滅入って、頭の中をぐるぐると嫌なイメージばかりが回るのです。
そうでした。あの日のことを書かなければ。
秋も後半といったところ、私はクロウさんとケンカをして、これはその日に書きましたね。
仲直りをして……その時に作ろうと決めたお守りがありました。
そのお守りを作っていたのですが、急に視界が暗くなって、もしかして頭痛じゃないかとも思ったんです。
でもそうではなくて、体を動かそうとしても、真っ暗な中では動けているのかもわからなくて。
次に気がついた時には、洞窟の中で壁に磔にされていました。
そこにはヨウさんがいて、その隣にウルトラビーストがいました。
ウツロイドという、母様を襲った恐ろしいポケモン。
そして遠くに、クロウさんがいたんです。
思わず名前を呼んでしまい、ヨウさんに気づかれました。
その時振り返った目が忘れられません。
私を見ているはずなのに、全く違う人が見えているんじゃないかと思うほどに薄暗い目。
怖くて声が出なくて、息もできませんでした。
そんな時に、クロウさんが絶対助けると、名前を呼んでくれました。
それだけでも涙が出そうで、さらに強くなったイーブイちゃんにまた泣きそうになって。
クロウさんが助けに来てくれているのに、何もできない自分が情けなくてもどかしかったです。
それでもヨウさんはやっぱり強くて、進化したリザードンさんやカメックスさんが私の近くに吹き飛ばされて来た時、自分への絶望で泣きそうになりました。
それでもリザードンさんは、ヒトカゲちゃんは、最後の力を振り絞って私の拘束を解いてくれました。
カメックスさんは私をクロウさんのところへ放り投げてくれて、フシギバナさんとケンタロスさんが私を受け止めてくれました。
それでも状況は良くなくて、ヨウさんが放ったZワザで、追い詰められてしまいました。
私がトレーナーだったら、隣で戦えるのに。
そもそも、捕まることもなかったんじゃないかと、今でも思います。
追い詰められたクロウさんとイーブイちゃんは、見たこともないZワザでヨウさんのポケモンさんたちを攻撃して、なんとかバトルで勝ちました。
クロウさんは膝をついて大量の汗をかき、ずっと苦しそうな顔をしていました。
駆け寄ることしかできない私を見るクロウさんの優しい目を今でも覚えています。
ヨウさんはまだ諦めていなくて、捕獲しているウルトラビーストを全て解放しました。
アクジキングやズガドーンなどの、過去にクロウさんが倒したウルトラビーストまで、全てその場に出して笑っていました。
クロウさんは逃げてと私を叱りましたが、その時の私は既に頭が真っ白で、もう諦めていたのだと思います。
せめて最期はクロウさんと一緒にと、震えるままの私をクロウさんが助けてくれました。
いつの間にか後ろにいたウツロイドの攻撃から私を庇いました。
涙で汚れたあとがある
私は また クロウさん にたすけてもらって、でもクロウさんがたおれてしまって かおがあおくなって 私には何もできないのが
わかって
涙で汚れたあとがある
おもわずクロウさんって また たよってしまって
そうしたらクロウさんは、ポケモンさんに
涙で汚れたあとがある
なってしまって
アローラの守り神のポケモンさんのすがたで
たくさんのウルトラビーストに追われながら、ずっと戦っていて
クロウさんは殻を纏って、一つのお面のようになって、Zワザを使いました
そのあとで、神様の力を使ってウルトラビーストをウルトラホールに戻して、
ポケモンさんから元の姿にもどったクロウさんは何かをあせるようにリュックを掴んで、ウルトラホールにかけよって、リュックから大きなボンベのような形をしたきかいを取り出して、そのあときかいをウルトラホールにさしこみました。
小さく涙で滲んだあとがある
後から聞いた博士の話によるとあれは小型化されたウルトラカプセルで、遠隔で起動させる準備をしていたそうです。
ただ、クロウさんが持ち出した時はまだ改造前で、少なくとも起動時に、近くにいる起動させた人にも影響があるようです。
ウルトラホールを無かったものにするほどの出力でウルトラカプセルを使ったら、そのときウルトラホール内でカプセルを起動させた、近くにいたクロウさんは
涙で汚れたあとがある
クロウさんは最後に
小さく涙で滲んだあとがある
クロウさんは最後に、私を好きだと言ってくれました。
好きだから、助けたいと言ってくれました。
クロウさんを止めようと走り出した私を見て、クロウさんは私にもう行かなきゃと謝ると、ウルトラホールに入ってしまいました。
そのすぐ後で、ウルトラホールのあった場所から緑色の光と一緒に爆発が起こり、私はその場に駆け寄って泣いてしまいました。
そこからはあまり覚えていませんが、帰る頃にはもう深夜になっていた気がします。
兄様やハウさんの協力を借りて、気絶したヨウさんを連れて洞窟から脱出して、みさきのこやに帰って、
博士はウルトラカプセルが無くなっていたことから推察していたのか、帰って来た私に真っ先に クロウくんは、と訊きました。
泣き出す私を母様が抱きしめてくれて、博士は そうか と一言だけ言いました。
それから数日、私は何をすることもできずに、ただぼうっとしていただけでした。
料理をして気を紛らわせようとして、思わず一人分多く作ってしまいました。
洗濯をしようとして、一人分多く洗剤を入れてしまいました。
何をしてもだめになってしまった私に代わり、家事は母様がすることになりました。
あの後もう一度ウルトラカプセルを一から作り直した博士が、私がダメになっている間に体力が回復した母様にウルトラカプセルを使ったらしいのです。
母様は記憶を保持したまま、身体だけウツロイドに侵される前のものになり、今では元気に動いています。
あ、そうでした。
お料理もお洗濯もだめだめになってしまった私ですが、一つだけ、逆に上達したことがあります。
それはお掃除です。
いつクロウさんが帰って来てもいいように、クロウさんの使っていた毛布やカーテンなどを洗い、クロウさんが帰って来てもめんどくさがらないように、ウルトラボールは常にぴかぴかに磨いています。
帰ってくる頃にはぼろぼろでしょうから、新しいスニーカーも買いました。
新しいお洋服も、新しいインナーも、全部買い揃えました。
あ。もしかしたら、今日の夕方には帰ってくるかもしれません。
いつもは母様が作っていますが、今日だけは私に作らせてもらいましょう。
疲れているでしょうしお肉がいいでしょうか……それとも手軽にサンドイッチ? 今日だけは特別に、深夜に帰って来てもご飯を作ってあげましょう。
それからそれから、明日の早朝に帰って来たら寂しい思いをしてしまいます。ここはひとまず、私は起きておいて
◇
……っ…………。
頭が痛いです……。
「また……また
何十回目になる涙で、目の端がヒリヒリと痛みます。
ゴミ箱に溜まっているのは、何回も繰り返し書かれた『あの日』のことが書かれた日記。
同じ内容を書いて、いつも頭が痛くなって。
「……こんなのは日記じゃないです……」
ビリビリと、せっかくクロウさんがくれた日記のページを破ってしまうのです。
そんな自分が嫌で、せめて最後まで書き上げようと奮闘するのですが、それでもまた同じような文章を書いては捨てるの日々。
今の私を母様が見たら、私を叩くでしょうね。
きっと、酷いくまを携え、荒れた肌で見るに耐えない表情をしているでしょうから。
「……枝毛」
パチン、と枝毛を切り、ページだらけのゴミ箱に落とします。
せめて、クロウさんが好きだと言ってくれたこの髪は守らないと……。
……最後に眠ったのはいつでしょうか。すごく眠いです。
少し、少しくらいなら眠ってもいいですよね。
お行儀が悪いですが、ちょっとだけ……
───『リーリエ』───
……ッ……! っ……あっ……!!
「はぁ……! はぁ……!」
またダメでした。
私はまだ、クロウさんのことを振り払えていないのです。
あの笑顔を消してしまった、潰してしまった私への失望感が、自業自得だと私を責めるのです。
私が悪いなんてこと、私が1番わかっているのです。
どうすれば、クロウさんは帰って来ますか?
どうすれば、過去に戻れますか?
……ウルトラカプセルでどうにかできないでしょうか。
キャンピングカーを出て、みさきのこやに歩きます。
食事をとっていないからか、足に力が入りません。
それでも、少しでもクロウさんが帰ってくる可能性があるのなら、私は。
「……博士……うるとら」
「おー、ウルトラカプセルな。電源繋いでるし起動もできるから好きに使い」
「…………」
袖を捲ると、私が私に使ったウルトラカプセルの痕跡がありました。
右腕のここの部分だけ、やけに肌が白いです。
「多分今日も、ウルトラカプセルで過去に行くんは無理やと思うで」
「……私……」
しばらく寝ていないせいで記憶が曖昧です。睡眠というのはその日1日の記憶を整理していて、どの情報を覚えるかを選択しているそうです。
私は睡眠をとっていませんでしたから……きっと、頭が処理をしきれなくて忘れていたのだと思います。
「……クロウさん……」
ソファベッドに寄り、側の棚にあるファイルを手に取ります。
懐かしく愛おしい字で書いてある、クロウさんの
でもそこに、私が攫われた時のことは書かれていません。
書く前に、消えてしまったのですから。
「…………」
もうどうしようもないのです。
私はこのまま、来るはずないとわかっているクロウさんを待ち続けて、ずっとここで……。
「……あ? ……あ。……ふふっ……ははっ」
「……博士?」
「ふっふっ……はっ、ぁはぁーははははははは!!! ついにや! ついにやったで!!」
目に大きなくまをつけている博士が笑い出します。
こういう時、ろくなことがおきないのです。
「こんなッ……ははッ!! もうこんな気が狂いそうな日々とはおさらばや!! ……リーリエちゃん!!」
「……はい」
宝くじでも当たったのでしょうか。
「クロウくん生きてるって!!」
「……え?」