リーリエロスでカントー行ったよ外伝 the horizon de alola! 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
……あれ。
ここは……。
「リーリエ!! リーリエ!!」
「んぁ……ヨウさん……?」
「良かった、リーリエ……!」
「あれ……。 私、どうしてここに……?」
ヨウさんに肩を揺さぶられて、私は砂の上で目を覚ましました。
空は青く太陽も傾き始めた頃。まだお昼すぎであることを示しています。
瞬間移動でもしたのでしょうか……?
「メカブ! リーリエが起きた!」
「ホント!? 今行ク!」
何でしょう。何をそんなに慌てているのでしょう。
「ママ! ……良かっタ、やっと起きタ!」
「リーリエ、丸一日寝てたんだよ」
「まる、一日……?」
「リーリエが探索に出たその日の夜に、フェローチェが気絶したリーリエを抱えてここまでやってきたんだ」
「フェローチェさんが?」
もしかしてあの後、私は気絶してしまったのでしょうか。
あれだけいろんなことを知って、あれだけ思い出して、あれだけ泣いたのですから仕方ないのかもしれませんが……トレーナーとしては不用心ですね。
……なんて、そんなことを言っている場合じゃないです。
早く、早くクロウさんのところへ行かないと。
あの人を早く抱きしめてあげたい。
1人じゃないですよって、伝えたいんです。
「無理しないで、リーリエ。何があったかはわからないけど、今日の探索はやめておいた方がいいよ」
「でも……クロウさんが……」
「ヨウの言う通リ。今はチョト、頭に負担かカリすぎだヨ」
「そんな……」
「メカブ、リーリエをテントに」
「ウン」
メカブさんが私の肩を取り、支える形で立たされます。
大丈夫。1人で歩けますよ。
歩けるから、早く探索させてください。
「ママ」
「…………」
「無茶しないデ」
……あ……。
無茶……。
『無茶は』
『厳禁、ね?』
『……はい!』
クロウさんに言った言葉……。
私が守れなくて、どうするのでしょうか。
……クロウさん。
「……クロウ……さん……」
「エッ、泣いてル」
「うえっ……ふえええん……」
「待ってママ! 一回落ちつコ! アッ、そこに座りやすそうで美味しそうな岩アル! ネ! 座ろ! 食べヨ! ナンツッテ!」
「ふええん……」
「ウーン、困ったナァ!?」
◇
……ぐすん。
「ごめんなさい、取り乱しました……」
「良いんだヨ、そういう時モあるっテ」
深呼吸して潮の香りをいっぱいに吸い込み、そして思い切り吐き出します。
疲れた時はこれをすると、心がすかっとするんです。
「それにしてもマサカ、そのクロウが
「はい……」
「ねえママ。その画面……というか記憶? に、ボクの世界はあった?」
「……いえ、無かったような気がします」
ソッカァ、と残念そうにため息をつくメカブさん。
ブーツで蹴り上げられたメカブさんの足元の小石は、沈み始めた太陽と一瞬重なると、すぐに落下してとぷんと音を立てて波に飲まれて行きました。
私たちが座っているのは、砂浜の波際にある大きな岩。
波は私の裸足を揺らし、岩に当たってちゃんぷんと音を立てました。
「「はぁ……」」
「「……!!」」
「「…………フフッ」」
タイミングが合ってしまって、つい笑ってしまいます。
「あの……メカブさんは、他のウルトラスペースからやって来たんてんすよね」
「ソダヨ」
「どんなところだったんですか?」
「ソレは遭難……」
「する前です」
メカブは手元で指を弄び、何かを考えているようでした。
今から話す言葉を組み立てているようにも、そして思い浮かんだ言葉を却下しているようにも見えます。
「ボクのウルトラスペースは───ボクの住んでいたトコは。小さな農村だったンダ。ボクはその1人娘」
「農村……でも、太陽が無いのでは?」
「かがやきさまって言う、スゲー存在が都市の方にいたんだヨ。すごいヤツでサ、都市から離レタ村にも光が来てネ。作物も育ってタ」
「かがやきさま……」
「海の見える村でネ。潮風に当たっても問題ナイ、丈夫な植物。知ってる? 小麦って言うんダケド」
「……たぶん、こちらの小麦とは別物ですね……」
メカブさんは水平線を眺めて、懐かしそうに口を開きました。
その口は少し震えていて、思い出すのも辛そうなくらい。
「いつだったカナ。かがやきさまの光を利用しようとシタ都市の科学者が、かがやきさまを傷つけタ」
「……私の知っているかがやきさまは、大昔に傷ついたと……」
「…………。そうカ。ママはついさっき、
コウタさんやコウミさんの世界を通じて観測したウルトラスペースでは、かがやきさまは大昔に科学者によって傷つけられてしまったそうなのです。
また別の世界線では、つい最近の出来事でもある、ということでしょうか。
「ソンで……かがやきさまの砕けたカケラは、アチコチに降り注いだ」
「…………」
「かがやきさまの身体の一部だからパワーもすごくてネ。その一つが、ボクの村にも降って来タんダ」
「それは……どう、なったのですか?」
「結果とシテ、1人の人間の身体に直撃。ソイツはかがやきさまの身体のカケラに残った光のパワーで、半分くらい人間ジャ無くなっちゃッタ」
「…………」
「言葉はカタコト。岩や樹ヲ食べテモ平気ナ強靭な内臓ト、高所カラ落ちてもノーダメージな身体。そして、その人間はかがやきさまのカケラが作り出したウルトラホールに呑み込まれテ遭難。……ウルトラビースト顔負ケの力を、使わなくてはいけなかっタ」
「待ってください、それではまるで!」
まるで……まるでその人は……!
「あのねママ」
メカブさんが、バイザーを取り外してこちらを向きました。
「ボクはきっと、モウ人間ジャ無いんだと思ウ」
夕陽に照らされて、暗く輝く宝石。
メカブさんの左目に、それが埋まっていました。
痛々しく、光を吸い込む闇のように輝くその左目。
その身体の色を……その
つい先ほど……別の世界で、見たばかりですから。
ネクロズマの持つ、黒い身体。それを切り出したようなものが、メカブさんの左目に埋め込まれてしまっています。
「暗くなった世界に戸惑っていたラ、急に空から降っテ来てネ。ボクの左目を撃ち抜いた」
ばきん。
岩を素手で砕いて、その塊を手にするメカブさん。
それを口に含んで、噛み砕いで飲み込んでしまいました。
「ねえ、リーリエ」
メカブさんが、私の名前を呼びます。
その両目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れていました。
「ボク、人間に見エル?」
つい、身体が動いてメカブさんを抱きしめていました。
力いっぱい、その小さな体を抱きしめて、叫びます、
「メカブさんは人間です! ウルトラビーストなんかじゃありません!」
「ウッ……うう……!!」
「こんなに暖かくて、こんなに優しい人が、人間じゃないわけありません!!!」
「あああァぁァあああ!!!」
子供のように泣きじゃくるメカブさん。
「帰りたいヨォ! ママとパパのとこに帰りたい! 怖いヨぉ!!」
「大丈夫です。目だって良くなりますよ」
「うわああああ!!」
無理して明るく振る舞って、ただ1人、この世界で辛さに耐えていたなんて。
まるで、どこかの誰かさんみたいですね?
大丈夫。大丈夫ですよ、メカブさん。
必ず私が、あなたをお家に帰してあげますから。
「リーリエ、ご飯の用意が……」
「しっ……」
「……!」
今は泣かせてあげてください。
乙女の泣き顔は、見るべきではありませんよ。
◇
泣き疲れてしまったのか、メカブさんはすぐに寝てしまいました。
アローラの星空の下でコーヒーを片手に、裸足で砂を踏みます。
さらさらとした感触が心地いいです。
「……メカブは?」
「ぐっすりですよ」
「そう。……メカブのことは任せてよ。ほしぐもと一緒に、色々やってみる」
「お願いします」
柔らかい夜風が、私の頬を撫でました。
大好きなアローラの、懐かしい風の声。
「リーリエは寝ないの?」
「寝れないんです」
「……丸一日寝てたからね……」
「それもあるかもしれませんが……緊張というか」
「緊張?」
「心の奥底が、弾むんです。あの先にきっと、クロウさんがいるって」
「そっか」
「はい」
これが……本能、というものでしょうか。
探し求めていたものが、あと少しで手に入るはずなのです。
あと少し。あと少しで、クロウさんに会える。
会ったら、なんと言いましょうか?
久しぶり? ただいま? おかえり? ここはいっそ、大胆に……。
「………………」
「……………………」
「……メカブさんが」
「うん」
「メカブさんが、自分は人間じゃ無いのだと思う、と話した時……クロウさんのことが思い浮かびました」
「クロウが?」
「カプ・オリオとなって、ウルトラビーストと戦った後に……私に言って、笑ったんです」
「記憶にない……かな」
「ヨウさんはあの時、おかしくなっていましたから……。その、まるで……自分は人間じゃないから、生きる資格が無いとでも言うように……クロウさんが笑って。それが、先ほどのメカブさんと重なってしまったんです」
「…………」
「クロウさんに会ったら、あなたは人間ですって言いたいです。ポケモンさんではなく、正真正銘、人間だと」
「リーリエなら、きっと言えるよ」
「はい。きっと言います」
「…………」
「………………」
ただ、沈黙が波に流されて行きました。
「…………」
「………………」
「……マラサダ、食べる?」
「……いえ。今は少し、こうして海を眺めていたいです」
夜の海は星と月明かりを反射して、きらきら輝いていました。