リーリエロスでカントー行ったよ外伝 the horizon de alola!   作:バケットモンスター、縮めてバケモン

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最終話    『アローラ』

 

目の前に広がる黄色い花畑。

名も知らぬ花々が咲き誇るそこに腰を下ろした俺は、磨き布を片手に手元のそれを磨き上げていた。

太陽に翳すときらりと光るそれに思わず笑みを溢していると、後ろから声をかけてくる人がいた。

 

「何をしているのですか?」

「リーリエ」

「お隣、失礼します」

 

俺が敷いたハンカチを見てくすりと笑ったリーリエ。

右手に持つ、マラサダが詰められたバケットを見て、そういえばバケッチャなんてポケモンもいたなぁ、となんとなく思う。

 

「これを磨いててね」

「……そういうものは、あまり外さないものですよ? しかも屋外で外すなんて……無くしたらどうするのですか?」

「うーん、でも……いつもぴかぴかにしておきたいんだ。これは俺が勝ち取ったものだから」

「いいえ、それは私が勝ち取ったものです」

「そうなのかな」

「それに、その理論で行くと私が大切にしていないみたいじゃないですか。少しショックです」

 

リーリエが左手を太陽にかざす。

その薬指には、いましがた俺が拭いていたのと同じ形状のリングが嵌められていた。

 

「そ、そういうわけじゃ! これはなんというか、俺のこだわりみたいなもので……!」

「ふふっ、わかってます。クロウさんはそういう人ですから」

「ぐぬう」

「マラサダ、食べますか?」

 

指輪を左薬指に嵌め直し、差し出されたマラサダを受け取る。

……あ、これ俺が好きなマラサダショップのやつ。

わざわざ買って来てくれたんだ。

 

「途中にありましたから、せっかくですし」

「ありがとう。ここのマラサダ、ふかふかしてて好きなんだよね」

「どうしてあのような目立たない場所に開いているのでしょうか……。大通りに面していれば、いまごろ大盛況ですよ」

「ハウとか、ずっと通ってそう」

「同感です」

 

リーリエは水筒からコップにお茶を移し、一口啜ってほうと息を吐いた。

耐熱容器に入っているのはまだ温かいロズレイティー。

アローラの気候が育てた新鮮なきのみやハーブを集めて作り上げた、俺のオリジナルブレンドである。茶葉持って来てよかった。

 

「それで、どうですか?」

「……どうって?」

「ここ、ずっと来たかったんですよね?」

「あぁ」

 

メレメレ島にある山吹色の花畑。

メレメレの花園で、花の香りのする風が頬を撫でた。

一口、マラサダをかじって口の中で転がす。

甘い粉砂糖が、俺の舌の上で溶けた。

 

「懐かしい気分だ」

「……来たこと、ないのに?」

「それ禁句」

 

リーリエが知ったのは俺の世界のほんの少し。

結局俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()ウルトラスペースから来た存在らしい。

曰く、異世界。

俺の知る現実世界……ポケモンが空想上のプロジェクトとして存在している世界は、ウルトラスペースの一部だったそうだ。

別の次元の存在だと思っていたら、宇宙を跨いで繋がっていたらしい。

 

「メカブさんの目、良くなったみたいですよ。もといた世界にも帰れたそうです」

「……誰だっけ?」

「クロウさんを捕まえようとする私を、助けてくれた人です」

「ぐ……知らない……」

「クロウさんでも知らないことがあるんですね?」

「あるよ。たくさんある」

 

マサキの作ったウルトラカプセルⅢは大活躍。

何せ、Ⅱの時点でルザミーネとヨウを治している。

修復に体力がたくさんいるような大怪我でもない限り、ウルトラカプセルに治せないものは無いとかで……マサキは今も、カプセルを用いた治療の第一人者として家でパソコンをいじっているらしい。

他の地方から研究室も与えられたらしいが……ルザミーネがエーテルパラダイスに、俺とリーリエがアローラに滞在している今、帰る場所を守らなければならないとかで一人カントーに残ってくれた。

 

マサキには感謝しても仕切れない。

彼がいなければ俺はリーリエを救うことができず、また、彼が諦めていればリーリエは俺を見つけることができなかった。

間違いなく、俺の尊敬する人物だ。

 

そしてメカブという人物。

俺とはまた違うウルトラスペースから……異世界からやって来た人。

俺がいた場所に残っていた『原初のウルトラホール』の残滓を解析したマサキが座標を特定し、ヨウがその座標までソルガレオ、ルナアーラの力を使ってゲートを開いた。

何千、何万、何億とあるウルトラスペースの中からたった一つ、メカブの故郷を見つけ出したマサキはやはり凄かった。

 

帰るまでにもリーリエと泣いたり笑ったりバトルしたり、色々あったみたいだけど……それを俺が語るのは無粋だろう。

 

「ふう……なんだか疲れちゃいました」

「そりゃそうだよ。大冒険だったんでしょう?」

「……クロウさんがあんな無茶なことをしなければ、大冒険も無かったんですけどね」

「いやっ、あれは無茶というか、他に方法も無かったというか」

「でもウルトラカプセルをあの場に持って来ていたということは想定はしていたということではないですか!! それに、この話は何回もしたはずです!!」

「ごめん、ごめんってば……」

 

ぷんすこと手を上げて怒ったアピールをするリーリエ。

怒る姿も可愛いが、とりあえずは宥めなければ。

 

「お詫びに、これを」

「…………! はなたば……」

「目の前にあるのを摘んだだけで申し訳ないけど」

「……いえ」

 

リーリエは俺が差し出した花束を受け取り、抱きしめた。

 

「とても……とても、嬉しいです」

 

太陽の光を吸った、リーリエの髪と同じ色の花。

風で花びらが舞う中で微笑む彼女は何よりも美しく、愛おしかった。

 

「次はどこに行きますか?」

「えっと……考えてなかったな」

「もう!! せっかくの新婚旅行なんですから、ちゃんと決めておいてください!!」

「いや、はは……。お金はあるし、すぐに来れるから後で考えても良いかなぁって……」

「そういう後手後手の考えが()()()()()を引き起こすんですからね」

「う……すみません」

 

俺はあと何年、この無茶ネタで謝らされるんだろう……。

まあ、リーリエが楽しそうだから良いんだけど。

それに、あと何年、か。

リーリエを救えるなら明日が来なくても良いと考えていた俺が、随分と平和ボケしたもんだなぁ。

 

「リーリエが行きたいところはないの?」

「私ですか? うーん」

「リーリエも行きたいところないんじゃん」

「いえあります!? ありますよ!? えーとうーんと、海! 海に行きたいです!」

「……ホテルのすぐ前にあるね、海」

「いえ、とっておきのスポットがあるんですよ! 連れて行ってあげます!」

「ほんと? すごく楽しみ」

 

捲し立てたリーリエがカップをもったまま、こてんと俺の肩に頭を預けてくる。

カップから漂う暖かい日差しの香りがリーリエの穏やかな息と混ざって、やがて風に乗って消えて行った。

 

「ヨウさんとは、どうなのですか?」

「仲良くやってるよ。最近は失踪期間を埋めるために、チャンピオンとしての仕事に追われているみたい」

「そんなにお忙しいんですか?」

「防衛戦の申し込みが山積みだったり、他にも遭難者の救助とか取材とかツアーのゲストとか……」

「うひゃ……」

「治安維持とか、各所のバトル絡みは俺とイーブイもたまに駆り出される」

「じゃあ、たまにクロウさんが電話を受けて長いお手洗いに行っているのって……」

「それだね」

「……むー。一ヶ月しかないんですから、もっと私に構ってください」

 

ふくれっつらのリーリエがすりすりと頭を寄せてくる。

かわいい。あまりにもかわいい。

 

「リーリエ」

「はい」

「改めて言うけれど……君が好きだ」

「……はい。知ってますよっ」

「何十回、何百回、何千、何万、この人生を繰り返しても、俺は君を好きになる」

「それは誰の受け売りですか?」

「……リーリエ」

「誰かさんの言葉で好きを伝えられてもピンと来ません。自分の言葉で伝えてください」

「ぐぬ……だって俺の褒め言葉ってキモいし……」

「私はそうは思いません。ほら、早く」

 

向き合うと、きらきらした目で俺を見上げるリーリエ。

腹を決めるしかないのか。

 

「そ、その……プロポーズの時にも言ったけど」

「はい」

「俺はリーリエに、一目惚れだった」

「……はい」

 

目を閉じて微笑むリーリエ。

聞き入ってやがる。

 

「太陽とか、月の光を糸に紡いだみたいなその髪も、南国の海みたいなエメラルド色の瞳も、きめ細やかな砂浜みたいに真っ白な肌も、全部好きで」

「……はい」

「リーリエが隣にいると、すごく落ち着くんだ。生まれた時から探していたものを見つけた時みたいに、すっごく嬉しくて、心がぽかぽかする」

「嬉しいです」

「もし俺が何かをするのなら、君のためでありたい。君が笑ってくれるなら、俺の持っている全てをあげたいんだ」

「えへへ」

「リーリエ」

「はい」

「君が好きだ」

「……はいっ!」

 

花が咲いた。

魂が揺れ動くくらい、その笑顔に貫かれた。

この笑顔を見るために生きてきたんだと、わかってしまった。

 

「クロウさんっ」

「う……」

「私も、あなたが好きですよっ」

「うぇっ!?」

「レポートを書いたりバトルしていて集中するとき、クロウさんは目つきが鋭くなるんですよ。その目を見ているとドキドキしますし、それに、たまに唾を飲んでいるのか喉仏が動くんですけど、それが私としてはたまらなくて……」

「ちょっ、ちょっとリーリエ?」

「あと耳の形がすごく綺麗で、今にでも食べちゃいたいくらい……はああ、おいしそ……」

「恥ずかしい! それすごく恥ずかしい!」

「それにクロウさんが怒っている時とかも、声がすっごく低くなって、聞いていると、ああ、男の人なんだなってきゅんきゅんしちゃうんです」

「ちょっと待って……!?」

「それと……えいっ」

 

リーリエが俺の胸に飛び込んでくる。

そのまま倒れたら危ないので受け止めるが、リーリエは止まらず俺の胸に耳を押し当てた。

 

「クロウさんって、すっごく鼓動が強いんですよ。どくん、どくんって」

「それは……! リーリエがこんな大胆なことをするからじゃ……」

「それ抜きにしてもです。寝ている時も強く脈打っていて、生きてるんだなって感じるんです。好きだな、安心するな、って思うんですよ」

「寝ている時……?」

 

そういえば俺が寝込んでる時に布団に潜り込んでた時あったな!

あれか! あの時か!

エッ!? あの時から!?

 

「テントで添い寝した時です」

 

シオンタウンの帰りのアレかぁ〜〜〜!!

あの時か〜〜〜!!

エッ!? あの時から!?

 

「あの時から私はクロウさんにぞっこんだったんですよね。責任取ってくださいますか?」

「その答えはリーリエの薬指にあると思うんだけど」

「そうですね〜……。えへへ……」

 

俺に抱きついたまま、自身の左薬指を眺めるリーリエ。

その幸せそうな表情を見ているとどうにもいじらしくて、つい抱き返したくなる。

 

うーんでもしかし、リーリエほどの神々しく清浄な存在を俺ごときが抱きしめて良いものか……。

やっぱり抱き返しちゃダメな気がする。ここは我慢しよう。

 

「……クロウさん?」

「なんでもない」

「クロウさんがなんでもないって言う時は何かある時です。流石に学びました」

 

ギャンッ!!!!

ジト目かわッ!!!!

 

「……こんなに可愛い子を独り占めできるなんて、いつかバチが当たるんじゃ無いかと思っただけだよ」

「そのバチを当てるのはクロウさんでは? 神様じゃないですか」

「あ、そっか神、俺じゃん」

 

今まで素性をはぐらかしていた俺という存在を、こちらの世界の住人であるリーリエが完璧に認識したからだろうか。

整合性の取れなくなった俺の体は、二つに分離。一つはこうしてここに。もう一つは、リーリエのポケットの中で眠っている。

そいつの……カプ・オリオの思考は俺とリンクしている。俺が目を瞑っている間だけ……つまり、俺自身が俺を認識していない間だけ、カプ・オリオとして目覚めることができる。

 

俺の魂は紛れもなく異世界産だが、体はカプ・オリオがくれたもの。

整合性を取ろうとして色々と法則がねじ曲がった結果、この状態の俺で妥協されたんだろう。マサキの見立てではそうだった。

半人半ポケではなく、人か、ポケモンか。はっきりさせることができたというわけだ。

 

「じゃ、遠慮なく」

「きゃっ」

「スゥゥゥウウウ」

「えっ待ってください嗅がれてます!? あのっ、クロウさん!?」

「スゥゥゥウウウゥゥゥウウウ」

「ひん……っ!」

「えぼっ!」

「ぎゃふん」

「イーブイちゃん……助かりました……」

 

イーブイはたらふく飯を食った。

それはもうたらふく。

謝る俺を一瞥し、別に良いと言うように少しだけ笑って食事に戻ったイーブイの姿に泣きそうになったのはアレが初めてで、そしておそらくアレが最後だろう。

 

「……えぼ?」

「んー、なんでもない。ごめん、リーリエ」

「いえ。毎晩のことですし」

「やっぱり、同じベッドが嫌とか……」

「無いです。ツインに変えたら怒りますよ」

「はい……。待てよ、なんで俺は俺に利がある状態なのに怒られてるんだ?」

「えぷぷっ!」

 

今、俺たちのやりとりを見て楽しそうに笑っているコイツが、本心で何を望んでいるのかはわからない。

もしかしたら、もっと他にやりたいことがあるんじゃないかって、何回も思う。

コイツは強い。もう、どこへ行ってもなんでもできる。どこかの地方の覇者として野良生活を送るのだってできる。

 

「えぷひゃいっ!」

「くしゃみ?」

「いや、笑っただけだな。能天気なやつ」

「えぼっ!」

「いってえ!? 人間に『アイアンヘッド』は死ぬって!!」

「かーっ」

「こふ───おいコラ、だから人間に『ギガインパクト』は普通死ぬんだよ」

「クロウさんなんで生きてるんですか?」

 

でもコイツは俺たちと生きることを選んだ。

他でもないイーブイ自身が決めたんだから、それ以上は何も聞かなかった。

 

「クロウさん、おでこ見せてください。ああ、腫れてる……」

「『ギガインパクト』って熱いんだよな」

「クロウさんなんで生きてるんですか?」

 

起き上がった俺の額に、リーリエが触れる。

優しくなでなでとこちらを慈しむ様子は聖母のようで、思わず惚ける。

そんなだからか、いつのまにやら近づいてきたリーリエに気づかなかった。

 

「───んっ」

「ッ!?」

 

暖かい感触が唇を伝わり、永遠なんじゃないかと錯覚する多幸感が頭に流れ込んでくる。

……だが実際には一瞬で、不意打ちの形でそれを実行したリーリエはさっと向こうを向いてしまった。

 

「……何回やっても慣れませんね」

「そっちからしたくせに照れるの卑怯だ」

「だってだって、クロウさん自分から誘ってくれないんですもん!」

「恐れ多くてねえ……」

「何回もしてるのに!!!!」

 

いや、まあそれはそうなんですけど。

ほら、推しにせがむのはなんかこう、ファンとして違くない?

 

「リーリエ」

「……なんですか、もう」

「いま、幸せ?」

 

顔を見ずに話しかけると、リーリエはしばらく黙った後、

 

「そういうクロウさんはどうなんですか? 私は───」

 

そりゃあもちろん。

 

 

 

「「すっごく幸せ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、ほんとによかったの? 日記の最後のページ、俺が書いちゃって……」

「大丈夫ですよ。最後のページには思い出を書きたいと思っていましたし、私が書くと長くなってしまいますから」

「そっかあ。ならまぁ、うん。これで書けた」

「クロウさん、クロウさん」

「?」

「せっかくですので、名前をつけてみませんか? クロウさんのレポートも合わせてこんなに分厚い日記になりましたし」

「背表紙が悲鳴をあげているね」

「こう、このへんに書いてください。タイトル」

「ええー? うーん、じゃあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーリエロスでカントー行ったよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

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