リーリエロスでカントー行ったよ外伝 the horizon de alola! 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
「……え?」
「生きてんねん!! この世界に!!」
「…………えっ……えっ……」
聞き間違いかと思いました。
だって博士は、ずっとパソコンと睨めっこをしていたので……。
だから、きっと私を安心させるジョークなんだって、そんなはずはないんだって、思っていました。
「ちょっとこっち来て!!!!」
「はい……!」
指し示された画面に映っているのは、アローラに突如として現れた島。
元々、ディグダトンネルから繋がった地下にできた洞窟が、異常気象を発端として起こった地殻変動により浮き上がったもの。
入口がないため中の空洞が未だどうなっているかは不明で、壁面は特殊な金属鉱石がついていて傷をつけることができず、隔離された迷宮のようになっているとのこと。
その島とクロウさんに、なんの関係があるのでしょう。
「ここ! ここやねん、ここのコレ! 見えるか?」
「えっと……ここの反応が何かの反応と一致している、ということくらいしか……」
「これな、リーリエちゃんが持ち帰ったウルトラホールのカケラと同じ反応やねん」
おつきみやまから帰ってくる時、ずっと手放せないでいたウルトラホールのカケラ。
正確にはウルトラホール及びウルトラビーストによる時空の歪みを受けた、空気が固まったもの……だとかなんとか。解析中らしいのですが、その時空の歪みの波形がアローラの洞窟にあるものと一致しているらしいのです。
「で、バーネット博士から貰った資料やとな、『原初のウルトラホール』と同じウルトラホールって、開かへんねん。ポケモンの力でも、自然の歪みでも」
「……えっと」
「つまりやな。原初のウルトラホールが繋がった先が、ウルトラスペースじゃなくてアローラだったっちゅう話やねん」
「えっと、その」
「カントーから繋がったデッカいトンネルがあるとするやろ。行き先がわからへんねんそれ。で、クロウくんがトンネルの内側から爆破したから、カントーからはもう追えへんし、トンネルの先もわからんからどこへ行ったかわからへんかってん。けどな、今さっき、トンネルの出口がある場所を見つけたっちゅうわけや!」
「……つまり……?」
「クロウくんはウルトラホールを内側から爆破した後、アローラに行ってんねん!!」
「そ、それは、その、クロウさんに……」
「会える!! アローラに行けば!!」
「はかせえ!!!!!!」
思わず博士に抱きついてしまいます。
クロウさんが生きている。
探して会える場所にいる。
それがわかった安堵で、出し切ったはずの涙が出て来てしまいました。
「良かった……よかったです……!」
「ホンマやで……! 何してんねんアローラで……。何日探したぁ
「博士、笑ってますよ」
「これはなリーリエちゃん。止められへんねん。探し物がやっとみつかったんやで? 無理やねん。笑うの止めるのも……ッ、泣くん止めるんも……っ!」
疲れ切った目から大粒の涙を流して、博士が笑います。
画面に表示された写真に写るこの大きな島に、クロウさんがいる。
それだけで、体の奥底から力が湧いてくるのです。
逃しはしません。
お覚悟を。
「そうと決まれば、今からアローラ行きのチケットを買いましょう!」
「あーいや、気持ちはわかるんやけどストップ、リーリエちゃん」
涙を拭って、博士は真面目な顔をします。
何やらキーボードを叩くと、画面が切り替わりました。
それは、新聞の切り抜きをデータ化したものや、ニュースの一面のスクリーンショット……ニュースサイトの文面をコピーしたものもありました。
日付はまちまちですが、どれも私が自分を見失っている時に集められたものです。
……私が諦めている間にも、博士はずっとクロウさんを探し続けていたんですね。
「今、この島周辺はアローラ地方の……
「その手のヒト?」
「うーん。百聞は一見にしかず。ちょっとコンタクト取ってみるわ」
ぽちぽちとダイヤルを回して受話器を取る博士。
相手が応答したのかそのまま話し始めたので内容を聞かないように離れて、クロウさんのソファベッドに腰掛けました。
隣にある棚の上には、埃の積もったガラスケースの中で輝くウルトラボールがあります。
あのとき、夏祭りであなたに渡したウルトラボール。
来年も一緒に来ましょうって、言ったではないですか。
クロウさんは意地悪です。
私を置いてアローラに行くなんて。言ってくれれば私だって一緒に帰省したのに。
でも……でも、その前に。
あなたが生きているということを、ちゃんと肌で感じたい。
生きている。
クロウさんが、生きている。
良かったぁ……!!
「あー、おっけーです。ほな、よろしゅーたのんます」
「終わりましたか?」
「おん、今から来るて」
「今から……?」
と、言ったその直後に、
どすん!!!!
という大きな音がして、地面がぐらぐらと揺れました。
ガラスケースが外れて、中のウルトラボールがころころと転がって……って、あっ!!
「ダメっ!!!!」
咄嗟に身を投げ出し、ウルトラボールを腕に抱えて床を転がります。
壁に腰を打ち当ててしまい「う゛っ」と変な声がでました。
う、ウルトラボールは……よかった、無事です。傷一つありません。
ホッと一息ついていると玄関の扉が勢いよく開かれました。
「イヤー、着地失敗、着地失敗! コワイネー! 死ぬかと思ったヨ」
青を基調としたスーツのような服と大きなバイザー。
肌は驚くほど白く……と言っても肌としての白さではなく、青白くて不気味な……いえ、これは失礼ですね。青白くて、とても新鮮な肌の色の方です。
たどたどしい言葉と仕草で「アローラ!」と挨拶する彼女に、思わずアローラと返してしまいます。
いきなり現れてアローラと挨拶してくるこの感じ、初めて会ったクロウさんを思い出します。
「オヨー!! それウルトラボール!! なんで持ってるの?」
「あ、その、これは私のものではなく……」
「ホエー! なんだかよくわからない資料がいっぱい! イイネ! 研究者の血が騒グよ!」
大きなバイザーがピコピコと煌めいて、金色の髪の毛が揺れました。
ところどころ青や赤、緑のメッシュが入ったカラフルな髪の毛を持つ彼女が、クロウさんの棚にあるレポートを見て目(?)を輝かせました。
「どれ、ちょっト拝借」
あっ!
「だっ、ダメです!!!!」
「ン……」
手を伸ばした姿勢のまま固まる彼女は目の前に立つ私を見て何を思ったのか、伸ばした手を引っ込めてくれました。
……あれっ……私、どうして嫌なんでしょう……。
なんだかもやもやします……。あれ……?
「いヤー、ゴメンね。デリカシー無カタね」
「い、いえ……こちらこそ、急に大きな声を出してすみません……。私、リーリエと申します」
「オー! ボク、メカブ! よろシく!」
メカブさん。
……メカブさん???
「アナタがマサキ博士ー! 来タよ」
「こっちこっち。見せたいものあんねん」
「どれどれ?」
メカブさんは決して流暢では無いながらもハキハキとした声で挨拶をしていました。
バイザーをつけたまま博士のパソコンを覗き込み、そこに映っている資料を見ています。
ぴっちりとした紺と白のスーツに、ヘルメットの様な形をした帽子。
金色の髪は片口で切り揃えられ、ところどころに色鮮やかなメッシュが入っています。あの色合いを見ていると、しまめぐりのあかしを思い出しますね。あの髪型も、エーテル財団にいた女性職員によく似ています。……みなさん同じ様な髪型でしたけど、あれは流行りだったのでしょうか。
「……ン?」
視線に気づかれてしまったのか、メカブさんがこちらを見ます。
バイザー越しに目が合った気がしました。
「リーリエちゃんだっケ? こっち来テ」
「……? はい、なんでしょう?」
手招きをされたということは会話を聞いても良いということでしょうか。
おずおずと近づいてみると、メカブさんは私の肩に手を回して画面を指差しました。
「フィアンセを救いに行くなんてお熱イね〜!!」
「ふぃあっ……!?」
「ニンフィアかナ??? その小さなポケモンの想い、気に入っタ! ボクも協力するヨ!!」
快活に笑って私の肩を叩くメカブさん。
「それに、他でも無いヨウの頼みだしネ!」
「え……っ!? ヨウさんが……!?」
「ウン。……あれ? なんデいないの? 隠れてないで出て来ナよ、ヨウー」
メカブさんの声に応じて、玄関の扉が開かれます。
そこにいたのは、俯いて複雑そうな顔をしているヨウさんでした。
いつも携えていた笑顔はどこかに消えていて、ただ口の端をきゅっと結んで何かを堪えている様でした。
「…………」
「元気ないネ」
「そりゃあ、ね……。あのっ、ごめん、リーリエ。俺は……本当になんてことを……」
ヨウさんはあの後、博士のウルトラカプセルで『ウツロイドに寄生される前の身体』へ戻り、正気を取り戻しました。
自分が何をしていたのか、記憶を遡って青ざめた顔をしたヨウさんは、そのままフラフラとよろめきながら私に謝ってくれました。
「……良いんです。もう、過ぎたことですから」
「本当に……ゴメン」
その時も、同じことを言った様な気がします。
あの時の私には、ヨウさんを心から許せる様な自信がなくて……ただ、何も聞きたくなくて、ヨウさんを拒んだ記憶があります。
むしろ、謝るべきは私の方なのに、こうしてヨウさんは頭を下げてくれています。
そんな事実が、現実が、ずきんと私の胸を蝕みました。
「本当に過ぎタことヨ!! あの島に男の子が生きてルのがわかったンだから、探しに行くんだヨ!!」
「……本当に? クロウがあの島で……生きてる?」
「はい。データ上でしか観測できていませんが、それらしきものを見つけたんです。……ですよね、博士?」
「おん!」
「それは……でも、どうして急に」
原因はわかりません。
でも、原因なんて些細なことなんです。
私にとっては、クロウさんがそこにいて、手が届くのなら抱きしめることもできる。
それだけが、重要なんです。
「……いや、わかった。俺も協力するよ。戦闘とか、移動とか、困ったことがあったら何でも言って欲しいな」
「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね」
「……違うんだ。これは俺の償いなんだ。クロウに嫌な思いをさせてしまった、嫌な役割を背負わせてしまった俺の償い。……俺だって、クロウに直接謝りたいんだ」
「……わかりました。一緒に頑張りましょう」
「ネーネー、メカブ置いてけぼり? 話が見えテ来ないんだけド」
ひょこっと顔を出したメカブさんについ笑ってしまいます。
背の高さからすれば、13〜14歳ほどでしょうか? 可愛らしい駄々っ子の様な仕草と不自然な言葉が妙に愛らしくて、少し緊張がほぐれました。
「あの、メカブさんはヨウさんに頼まれたから協力してくれるのですよね。メカブさんはどこでヨウさんと知り合ったんですか?」
「それは……その」
少なくとも、私がアローラにいる間……ヨウさんと旅をしている間は、メカブさんを見たことがありませんでした。
新しいキャプテン……などでしょうか?
「ウルトラスペースだネー」
「えっ」
えっ。
「うっ、うう、ウルトラスペ……!?」
「実はそうなんだよ。……俺が正気に戻ってから、謎の島の調査を請け負った辺りかな。ソルガレオとルナアーラの能力でウルトラスペースを飛んでいたら、ウルトラビーストに狙われるメカブを見つけたんだ」
「遭難してたのヨ。助けテ、貰タよ」
「旅の途中で行くあても無いみたいで……今はウルトラホール及びウルトラビーストに関係のある人物として、アローラの謎の島の調査を手伝って貰ってるんだ」
「恩返し!!」
意気揚々とボールを掲げるメカブさん。
それはウルトラボールで、私が今手に持っているものと同じでした。
「ヨウにボール貰って、ポケモン……ウルトラビーストも持ってるヨ! おいで、アーゴヨン!!」
「アゴョ」
「こらこら、ウチでデカいポケモン出さんといてぇな」
「あっ、ゴメんネ!」
「……もしかして、あの大きな音はアーゴヨンさんの?」
「ソソ!! でも着地に失敗して真っ逆さまヨ。博士、なんとかシテ」
「んー……そこに落下の衝撃が抑えられる靴の試作品、そのマーク2があるから、持ってき」
「ヤッタァ! 博士大好キ!」
きゃあと歓声を上げ、博士の発明品を漁るメカブさん。
無駄にカラーバリエーションの豊富な靴を見比べて首を傾げたメカブさんは、急にこちらを振り向いて二足の靴を差し出して来ました。
「このパールホワイトとスノウホワイト、どっちがイイと思う?」
「え……では、こちらを……」
「スノウホワイト! お目が高いネー! なんちっテ!」
いそいそとナマコブシシューズを履き始めるメカブさん。
……その姿は……肌の色以外は、私たちと全く変わらない人間のものでした。
肌の色だって、そういう色のフィルムでも貼っているのだと言われたら信じてしまいそうなくらいで……。
「本当に、ウルトラスペースの向こうにいたんですか……?」
つい、そう訊いてしまいました。
顔を上げたメカブさんはきょとんとした表情を浮かべたあと、
「そうだヨ?」
と一言。
「ウルトラスペースにも、人間がいるんですね……!」
「いるヨいるヨ! ……というよりは、
「は、はぁ……」
「おかーさん、きっと今頃心配してるだろナー」
「か、帰らないんですか?」
メカブさんは靴紐を結び終えると、にかっと笑って言いました。
「帰れないんだよネ」
「え……?」
「ボク、ウルトラスペースの中でウルトラホールに飲み込まれて、別のウルトラスペースに遭難してたンだ!」
「えっ、えっ、ええっ?」
「ここからは俺が説明するよ」
ヨウさんが、余った靴の左足をいくつか並べます。
左から赤、青、黄色、緑。
ヨウさんは赤い靴を指さして、靴紐を解きました。
「この赤いのが俺たちのいるウルトラスペース。仮にスペースAとする。こっちの青いのがB。俺たちがアローラで飛び込んだウルトラスペース」
「母様の行った世界……ですか?」
赤い靴の靴紐と、青い靴の靴紐の先どうしをくっつけて、ヨウさんは私にみせました。
「この先同士がつながった紐がウルトラホールとする。このホールを通って、BからAにウルトラビーストはやってくる。でもたまに……というか頻繁に」
赤い靴と青い靴が繋がった紐の途中に、黄色の靴の靴紐をくっつけました。
「ワープ中のウルトラホールに、別のウルトラホールが繋がる可能性がある。その先が……」
「アッ! わかった! ボクが遭難してた世界!!!!」
「そういうことになる。この黄色の靴をCとする。そして最後に緑色の靴がD。メカブが元々いた世界だ」
黄色の靴の紐と緑の靴の紐をつなげて、ヨウさんはそれを広げてみせます。
このDからCへ飛んで来て遭難していたメカブさんを、AからCへ偶然開いたウルトラホールを発見したヨウさんが救助した、ということでしょうか。
「俺はほしぐも達の力で、このAの世界内でウルトラホールを使っていたから、簡単にすると……こうかな」
全て切り離した赤い靴の紐を、もう片方の紐とつなげて輪っかを作るヨウさん。
そこにC……メカブさんが遭難していた黄色の靴の靴紐をつなげました。
「
「ワープの理屈はわかりました……。でも、それがメカブさんがDに帰れないのと、なんの関係があるんですか?」
「……座標がわからないんだ」
「……座標?」
「メカブ、その箱ひっくりかえして」
「ホイッ!」
「きゃあ!?!?」
「うわー!? 散らかしちゃアカンて!!!!」
メカブさんが靴の入った箱を持ち上げて、豪快にひっくり返します。
私たちの
「この中から……いや、この家にある靴の中から、色や形の情報無しで
「遭難するってことがわかってれば、
「なるほど……」
「デモネ!!
「先ほどの電話……ですか?」
「ソ! エット、原始の……」
「「原初の」」
ヨウさんと重なりました。
「原初の。ウルトラホールの力かナンカを使えば、ボクが通ってきたウルトラホールを辿ってボクの世界が見つかるカモって!!」
「そんなことが可能なんですか、博士!?」
「理論上はな。それこそウルトラカプセルありきのゴリ押しなんやけど……ざっくり言うなら、ウルトラホールで飛ぶ前に時間を巻き戻す……みたいな解釈や」
「時間を……!?」
「ざっくりや言うたやろが!? 細かく説明したら2時間はかかるうえで多分リーリエちゃんわからんと思うよ!?」
「ボクわかるカモ」
「ほな当人には後で説明しましょか」
「ヤッター!」
ひとしきり喜んだメカブさんは一息つくと、しっかりと私を見て言いました。
「謎の島最奥にある『原初のウルトラホール』の反応ヲ追うのはボクからすれば帰る糸口になるカモなんダ!! それがおジョーちゃんに協力する二つ目の理由!! よろシク!!」
差し出された手。
青いグローブに包まれたその手をそっと握ると、ほのかなあたたかみを感じました。
「私、リーリエです」
「ボクはメカブ」
「うふふ」
「にへへ」
二人で笑い合ったその時、
「話は聞かせてもらったわ!!!!」
「母様!?」
バァンと扉を勢いよく開けて母様が乗り込んで来ました。
その手には母様がよくお仕事で使用していた小さなパソコンが。
「ここにアローラ行きのチケットが3枚あるわ。リーリエ、今すぐアローラに行きなさい」
「は、え、母様、え?」
「良いじゃない、大切な人を助け出すなんてロマンチックで。青春っぽいわ」
「でも私、ポケモントレーナーじゃありませんし……」
「道中でポケモンバトルがあったら、俺が引き受けるよ」
「えっ!?」
「あ、ボクのスーツの予備あげるヨ。暑いところに寒いところ、どんな環境デモへっちゃら! 二ヶ月くらいウルトラスペースを彷徨ったボクが保証するヨ!」
「えええっ!?」
「決まりね! 3人で行ってらっしゃいな!」
自身のモンスターボールを眺めて、強く頷くヨウさん。
謎のデバイスを二つ取り出すメカブさん。
そして、その間に挟まれてしまった私。
「名付けてウルトラ調査隊!! 結成ね!!」
「ええええええええ!?」
く、く、クロウさん。
私、頑張れるでしょうか……!!