リーリエロスでカントー行ったよ外伝 the horizon de alola! 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
「アローラ〜! アローラ地方へようこそ!」
青い海。
白い雲。
寄せては返す波の音に、砂を踏む人たちの笑い声。
ほ、本当に。
本当に……。
「あ、アローラ……」
「あなた、そのアローラの動きすっごい綺麗!」
「ははは……ありがとうございます……」
本当に、アローラ地方に来てしまいました……!!
「アローラ」
「アローラ!!!!」
「メカブ、アローラが四角になってるよ。アローラっていうのは円を描く感じでやるんだ」
「アローラ!!!!!!!!」
「そう、そんな感じ」
「コレカ!! アローラ〜!!!!!!!!!!!!」
メレメレ島を揺らす勢いで大声を上げるメカブさん。
アローラでは元気であれば元気であるほど喜ばれます。
元気じゃなければ元気になるほど励ますのがアローラです。
「アローラは暑いねェ!!」
「……? スーツは暑さもへっちゃら、なのでは……」
「剥き出しの顔がアツい!!」
「ああ……」
ポケットから取り出したのは、飛行機の中でメカブさんから渡された一つのデバイス。
ヨウさんの持つライドウェアのハード、ライドギアと同じような形……というより、それを改造してスーツに着替える機械。
「ライドウェアの技術は驚きですね……」
「カガクのチカラってスゲー!!」
「にしても、飛行機の中でスーツに着替えた時は驚いたけどね」
「あれはっ、仕方ないじゃないですか! ……私、ああいうのは苦手ですし……」
渡された機械を眺めているとどこかを押してしまったのか起動してしまい、スーツを装着してしまったことを思い出します。
光を放って着替えたものですから、同じ飛行機に乗っていた乗客の皆さんの注目を集めてしまいとても恥ずかしかったです。
フラッシュバックする光景を振り払って、久しぶりのアローラを見渡します。
二年前、ここを出る時。
空港などなかった様に思えるのですが……これも広まった
「懐かしい匂い……。帰ってきたんですね、アローラに」
「……ああそうだ、リーリエ」
ヨウさんが私を追い抜かし、目の前に立ちます。
そのまま両手をゆっくりと円を作る様に動かして、笑顔を見せました。
口角が力ないこと以外はいつもの笑顔でした。
「
「……はい。
「トレーナーには、なれた?」
「ヨウさんだって知ってるくせに……」
「ごめんね。……いつかこのセリフを、このアローラで……カントーから戻ってきた親友に、言いたかったんだ」
「……ありがとう、ございます」
二年前、カントーに行く私を見送ってくれた人の一人。
ヨウさんはあのあとも頻繁にやり取りをしてくれました。ヨウさんの笑顔が、私に自信をくれるんです。きっとヨウさんならそうする、って。
今は……私とクロウさんに対する引け目か、その笑顔も少し悲しみを帯びているように見えますが。
「ハウやグラジオ……ククイ博士ところに挨拶は?」
「……いえ。会ってしまえば、きっと私はまた弱いままです。頼る人は、最低限にしたいんです」
「……そう」
「クロウさんなら、きっとそうすると思います」
……あれ?
私、今……ヨウさんじゃなく、クロウさんならそうする、って……?
胸の内に引っかかった違和感に首を傾げていると、ヨウさんはメレメレの水平線の向こうを指差しました。
その指の先には、二年前にはなかった島が小さく見えます。
遠目からは火山などはないように見えます。
それどころか、木々も全く……?
「あそこへはライドポケモンで行くよ。リザードン、出てきて」
ライドギアから呼び出されたリザードンさん。
クロウさんのリザードンさんとはまた少し違いますね。この頬のあたりとか、クロウさんのリザードンさんの方がなんとなくふっくらしている気がします。
「あの、近くには近づけないのでは……?」
「ボクとヨウが一緒にいるんだから大丈夫ネ! ほら、コッチ乗って」
リザードンさんはお腹に大きなカゴを装備しており、メカブさんが慣れた様子でそこに乗り込みました。
……そういえば、アーゴヨンさん? はライドポケモン登録をしていないのでしょうか。アローラではライド登録したポケモンさん以外のポケモンさんに乗ることが禁じられていますから、今メカブさんがリザードンさんのカゴに乗り込んでいることを見るに、登録はしていないのでしょう。
やがて羽ばたき空を舞うリザードンさん。
波よりも高く、力強く青空を背に。
「ンハー! 気持ちイイー!」
「潮の香りがします。なんだか心がすかっとしますね」
「お姫サマはさ、カントーのライドポケモンとか持って無いノ?」
「おひめさま……? あ、いえ、私は……。ケンタロスさんが乗せてくれますので」
「ほーン……? じゃあプリンセスは箱入りなワケだ」
「ええ、まぁ……。あの、先ほどからお姫様とかプリンセスとか……どうしてそんなふうに呼ぶのですか? 私、そんな偉い人では無いのですが……」
「エー! だっておヒメ様じゃん! 着てる服もかわいいシ、所作も綺麗ダシ、性格まデ良いし……。よっ、みんなの天使サマ!」
「や、や、やめてください、なんだか恥ずかしいです……!」
そんなやり取りを聞いていたヨウさんが、私たちの上でクスクスと笑います。
リザードンさんの背に乗るヨウさんは島を見据えたまま、朗らかな笑みを浮かべていました。
「ナニガオカシー!!」
「いやさ。リーリエっていつも俺たちと旅をしてたから……そんなふうに同年代の女の子と仲良く喋ってるところが珍しくて」
「そうですか? 前にも、ハプウさんやアセロラさんと話したりはしていましたが……」
それに、最近ではマオさんにスイレンさんともお話しする機会がありましたし、同年代?のお友達も増えた様な気がします。
───ズキッ
痛っ……。
頭が……。
あれ……なんでしょう。
あと1人、大切なお友達がいたような……。
いえ、1人じゃない……2人、いや3人……4人……!!
何かを忘れている気がします。
「ドシタノ? 酔ったノ?」
「う、あ、いえ……。なんでもありません。大丈夫です」
「リーリエ、見えてきたよ。あれが謎の島だ」
言われてハッとして前を見ると、もうすぐそこに目的地の島がありました。
50〜60人でも詰めてしまえば満員になりそうな小さな島ですが、どことなく不思議な存在感を放っています。
海岸に生えた少数の木々のおかげで島と認識できるものの、それ以外が何もないため遠目からではただの盛り土に見えるかもしれません。
それくらいの、小さいとも大きいとも違う、不思議な島でした。
「リザードン、着陸を」
「グォ」
とすん、とリザードンさんが着地して、メカブさんがいの一番に飛び出ます。
その次にヨウさんがリザードンさんから飛び降りて、カゴの扉を開けてくれました。
「調査といっても、まずは入口を見つけないことには……ね」
「ぐるっと一周シテモぜんぜん入口見つからなイの!」
「そうなんですか……」
そう言われて、カゴから降りて島に足を踏み入れた瞬間に、
「きゃあ!?」
「ナンダァ!?!?!?」
「……ッ……」
ゴゴゴゴ、と火山活動の様な音と共に島全体が揺れ始めました。
思わずその場に尻餅をついてしまい、私はただ襲いくる揺れと轟音に耐えるしかありませんでした。
島の中心部の地面が割れ、下から何か黒い岩盤の様なものが競り上がって来ています。
それは私を3人ほど縦に積み上げて、一番上の私が腕を上に伸ばしたくらいの高さで止まりました。4、5メートルほどはありそうな……。
そして1番の特徴は、この岩盤の前面に大きな穴が空いていて、内側が空洞になっていることです。
「洞窟の入り口……!?」
「……来た瞬間に入り口ガ現れるトカ……聖女カヨ……」
「えっええっ、私、なにかしてしまいましたか……!?」
苦笑いを浮かべるヨウさんが洞窟内に入ろうと試みます。
ですがそこで、ヨウさんは止まってしまいました。
「……ヨウ? どったノ?」
「ダメだ。空気の壁みたいなものがある。それに、ここに触れると謎の声が頭に響いてくる……」
「ドレドレ。……ウワー!! タチサレって言ってる!! 怖イ!!」
メカブさんが洞窟内に手を伸ばしますが、それも空気の壁に拒まれているようです。
その後、頭を抑えて呻くメカブさん。
タチサレ、って……?
私もやってみても良いでしょうか。
この辺に、空気の壁があるのですよね。
すかっ。
「……っ!?」
「リーリエ!?」
「中入っちゃっタヨ! すげエ! さすがみんなのアイドル!」
「どっ、どどどっ、どういうことなんでしょうか……!?」
ヨウさんもメカブさんも空気の壁を叩いていますが、どうにも来られない様子です。
かと思えば、私から近づくと空気の壁は無くなり、洞窟への出入りは自由な様でした。
「なるほどな……」
「つまりは、選ばレシ者のみが入レル洞窟ってワケだ! ……いやもう良いヨ!! さっきたくさん壁叩いて悪かッタから、頭に何回もタチサレするのヤメテ!!」
「まだ頭に言葉が……!?」
「俺の方は壁を叩くのをやめたら言葉も消えたけど……」
邪念を振り払うかの様に頭をぶんぶんと揺らすメカブさん。
やがて落ち着いたのか、ぐったりとした様子で項垂れていました。
「気持ち悪イ」
「お背中、さすりましょうか……」
「頼ム……」
だいぶグロッキーな表情をしているメカブさんは、ヨウさんに向けて呟きました。
「やっぱりコノ洞窟、金髪お嬢様専用みたいダヨ」
「多分そうなんだろうね……。洞窟が出てきた時点でなんとなくわかってはいたけど……」
ヨウさんが見上げた洞窟は、以降は揺れることも沈むことも無く、まるで最初からそこにあったかの様に佇んでいます。
「この洞窟は、リーリエとそれ以外を区別してる」
足元にあった貝殻を握り、ヨウさんが投げます。
空気の壁に当たってぽとりと落ちてしまったそれを拾い上げ、私に投げてみろと放りました。
言われるがままに貝殻を洞窟に投げると……。
「……入りましたね……」
「つまり、リーリエが所有しているものなら侵入OKで、人物はリーリエ以外は入れない。中はどうなっているのかわからないし、おそらくロトム図鑑の類も入れてもらえないだろうね」
「これは……ナンカの法則があるワケじゃナイ。多分、その場デ自由にルールが変えられちゃうヤツだヨ」
「……つまり?」
「この洞窟の気分が変わらない限りは、洞窟に入れるのはリーリエだけってことになるね」
私1人だけで、この洞窟を探索しなければならない。
その事実に気付いた時、体が震えました。
でも……でも、行かなければ。
一歩を踏み出さなければ、きっとあの人の姿を見ることさえできないのでしょう。
「私、やってみます」
きゅ、と。
髪を結び直しました。
「じゃあ俺たちはそのサポートをするよ。メカブ、テントを張ろう」
「ウイ……」
「あの、私は……」
「今日は飛行機で疲れてるだろうし、探索に出てみるのは明日の方がいいかも。テントとかの準備が終わるまでは、この島の周りでも散策しておいでよ」
お言葉に甘えて、海岸沿いを歩くことにしました。
アローラ特有のきめ細かい綺麗な砂を踏むたびに、しゃりしゃりと音が鳴って心地よいです。
押しては返す波の音も、あの雲ですら、懐かしくて……。
クロウさんと一緒に来たかったなぁ……。
なんて、夢を見てしまいます。
持ってきた日記は数枚、ページが破られていて……まだ、1文字も書けていませんでした。
書こうと思っても、これではダメだと……いつも破ってしまっていましたから。
せっかくクロウさんから貰った日記です。もったいなくて仕方ありません。
「新しく……書き始めてみましょうか」
近場にあった岩に腰掛けて、リュックから日記とペンを取り出しました。
そして最初のページ……数枚破られた跡の向こうのページを開きます。
……以前と同じ様な日記ではダメですね。
また同じことの繰り返しになってしまいます。
ここはリハビリも兼ねて、一言だけ。
大きく一言だけ、書いてみましょう。
1ページ目に相応しい文字。
これから私の日記が始まるというプロローグを。
だとすれば、それは……。
「……よし」
───『クロウさんと一緒に、家に帰る』───
夢。
これが私の、これからの夢です。
待っててください、クロウさん。
私が、あなたを捕まえてみせますから。