リーリエロスでカントー行ったよ外伝 the horizon de alola! 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
キュワワーさんをゲットした、その帰りのお話です。
ぬしポケモンさんとのバトルで疲労困憊の私を真っ先に出迎えてくれたのはメカブさんでした。
洞窟入り口の空気の壁を背もたれに、うつらうつらと船を漕いでいたようです。
「アッ! お帰り!」
「ただいまです。なんとか帰ってこれました」
2日目だから慣れているとはいえ、元々体力もなかった私がいきなり冒険を始めて耐えられるわけもなく。
帰って来られた安堵で全身から力が抜けてしまった私を支え、テントまで運んでくださったのもメカブさんです。
その後は報告を訊きにきたヨウさんに、洞窟内で起こったことを話して……もちろん、メカブさんにも横で聴いていただきました。
その間も、ぴこぴことバイザーは何かの信号を出力していて……。ついついそれが気になってしまうのです。
「メカブさん、そのバイザーのことなのですが」
「良いでショこれ。でも貸さないヨ?」
「あ、いえ……。その、メカブさんがバイザーを外しているところを見たことが無いので。日光などから身を守るというのはわかりますが、どうしてテントでもつけているんですか?」
「ンー、知りタイ?」
「はい、とても!」
「……。このバイザーは高性能だからネ! ポケモン図鑑が丸ごとメガネにナッタみたいな感じヨ! 一度つけるともう、あの頃のボクには戻れナイ……! イヤン!」
……?
なんでしょう、今の違和感。
性能の話が本当だったとしても、何か……大切なことを隠している、隠されているような気がします。
この、
クロウさんを見ていたから、なんとなく気づいたんです。
「…………そうなのですね」
メカブさんはまだ、私にその隠し事を教えてくれないのですね。
信用がまだ足りていないのでしょうか。もっと頑張りませんと。
いつかは教えてくれるといいなぁ……。
「今日のご飯はメカブ特製ディナーフルコース! 楽シミにしててナ!」
「それは楽しみですね」
「オウ! 支度してるから風呂入って来イ!」
ウルトラスーツの上にTシャツを着た珍妙な格好のメカブさんは力コブを作るジェスチャーをしました。
全くもって隆起しない細腕といい、Tシャツの前面にプリントされた『ALOLA!!!!!!!!』の文字といいなんともシュールでおかしくて、思わず笑ってしまいます。
「ア! 笑われタ! 酷い!」
「だっ、だって……ふふっ……! そんな大きく、あろーらって……!」
「なにおう!? 一目惚れして買ったノに!?」
「すっ、すみません……ふふっ……。お気に入りでしたのなら謝ります……」
「イヤ全然。すぐ捨てレル」
どっ……。
「どwうwしwてw買wっwたwんwでwすwかwww」
「お金無かったンだヨ!!!!」
「一目惚れっていうのは……?」
「
「うっ、ふふっ……。んふっ、ふふ……!! 限界です……!!」
もう!!!!
途中から私の反応を楽しんでいませんでしたか!?
いけず! メカブさんはいけずです!
「はー、楽シー!」
「もう知りませんっ! 私、お風呂に入ってきますからね!」
「ンー、ボクも出る」
からからと笑うメカブさんに見送られてテントを出ると、ちょうど日が沈み切るところでした。
紫色に染まる空と、海に溶けながらも煌々と光を放つ夕陽。海が綺麗なアローラならではの名物と言っても良い、私の大好きな時間です。
きっと今頃、ククイ博士はコーヒーやマラサダを片手にこの夕焼けを眺めているのでしょう。バーネット博士や、ライチさんも……。
「綺麗だネ」
「ええ、とっても」
押しては返す波の音が心臓の音と溶け合って、心が安らいでいくのを感じます。
この胸の音は、私の命。
あなたが救ってくれた、私の命。
「ネェ、マーメイド」
「……はい。色々と引っかかりますが、なんでしょう」
「君はサ、生きるって、なんだと思ウ?」
「生きる、ですか?」
「胸に手ヲ当ててタでしょ? なんか命について考えてソウな顔してた」
「すごいですね、メカブさん。大当たりです」
命……ですか。
力を使えば使うほど、削り取られてしまう、あの時のほしぐもちゃんの命。
神経毒に蝕まれてしまう、母様の命。
私を取り巻く、色んな人の命。
アローラ地方は、他の地方が別の名前で呼ばれていたほどの大昔から、ポケモンとの共存が既に存在していたそうです。
それゆえか、自然を大切にする文化が他の地方よりも根付いていて……だからこそ、今でもカプのポケモンさんたちへの信仰や、独自の生態系が残っているのかもしれませんね。
そして……死や、命に対する価値というものも。
「まだ、生きるということがなんなのか……わからないです」
「ソ。それでも良いンじゃナイ」
「……でも」
「?」
「こうして、波の音を聞いているときは……生きてるってことを実感します」
「…………」
「この水平線が、私は好きなんです。きっと」
「……ソッカ」
肩に、メカブさんが寄りかかって来ます。
メカブさんのいる世界には太陽も月もないと聞きましたから、この夕日は少し違和感があるのかもしれませんね。
退屈でないと良いのですが。
「……ネェ」
「はい?」
「この洞窟の下にいる人、クロウって名前なんだっケ」
「そうですよ。クロウさんはとっても優しいお人なんです」
「そのクロウのドコが好きナノ?」
「そうですね、目につくところだとお耳の形とkメメメメカブさん!? 急になにを!?」
「エ〜、良いジャン照れなくてモ。好きなんでショ?」
「それはっ、そのっ、それはもちろん人並みには好きと言いますかラブよりライクと言いますかあれだけ長い間一緒にいたんですから論理的結論として他の人よりも友情が……」
「そんで、好きナノ?」
ラブでもライクでも良いからサ、好きナノ?
バイザーの奥から視線が突き刺さっている気がします。
「えっと、その、他の人よりは」
「他の人ってナニ? 他人がクロウを想うよりも好き? それトモ、他人よりもクロウが好キ?」
う、ぐ、ぐ。
それは、その……。
クロウさんは……。
「……好き……です……」
あああ恥ずかしい!
違っ、私も今、この感情がどっちなのかわかっていないんですから!
勝手に暴かれても困ります!!
「そっか!!!! なら良い!!!!」
「どっ、どうしてそんなことを!? 聞くんですか!?」
「恋する乙女は美シイってネ〜! 遠距離カップル、ゴチソウサマデシタ」
「まだカップルじゃありません!!!!」
「
…………?
…………。
………………!!!!
「もう!!!!」
「ニシシ! ご飯ツクてクル!」
あああああ〜……。
大爆死です〜……。
◇
「……いただきます」
「いたっきゃース!!」
「いただきます……。あの、メカブさん、これは……」
私の目の前に置かれているのは、大きな岩塩でした。
「岩塩ダケド?」
岩塩だけでした。
「ごりごりミネラル……?」
「ヨウも遠慮すんナヨ! 食べるがヨロシ」
「食べ……。うん、食べてみる……」
「本気ですかヨウさん!?」
ポケモンさんのタマゴほどの大きさを持つ……つまり、私の顔と同じくらいのサイズの岩塩を手に取るヨウさん。
私も触れてみますが、紛うことなき岩塩です。見た目だけ岩塩のシフォンケーキとか、チョコレートとかそういった面白スイーツの類ではなく……。
「ガリ」
「ドうダ!?」
「
「よっ、ヨウさーん!!!!!!」
突っ伏すヨウさんの手にある岩塩は傷一つついておらず、つまりそのあたりに散っている白いカケラはヨウさんの……。
よっ、ヨウさん───!!!!!!!
「ほらほら、レディもお食べ」
「う……あ……リーリエ……逃げ……」
「ほらホラ、一気にがぶっト」
「どう考えても『がぶ』という擬音が出る代物とは思えません!」
「エーそうかナー」
ばきん。
隣に座るヨウさんを介抱していると、横から……つまり、私の席の対面から音が聞こえました。
続いて、ぱらぱらという音。
「ンム、うまいうまい」
「ひっ……!」
「岩を……食べてる……!」
「ア、ソッカ! たしかに岩塩だけじゃフルコースとは言わナイね! これもお食べ!」
「「……樹……?」」
「そこに生えてタ」
「野生児か?」
「メカブさん、一旦やめましょう! 一度食事を中断しましょう!」
木の幹をまるでハム肉にでも喰らいつくかの如く、強靭な顎で噛みちぎるメカブさんをなんとか止めます。
「なんだよモー」
「メカブさん、冷静に聞いてください。こっちの人たちは、岩塩をそのまま食べたり、樹を齧ったりはしません。……すくなくとも、それしか食べるものが無い時以外は」
「ンアー……。悪いネ、つい」
「つい?」
片手に持った岩塩を口に投げ込み、まるでマラサダでも食べるように咀嚼するメカブさん。
可愛らしく膨れた頬からそれに似合わないボリボリという音が漏れ出ていて、微妙に不気味です。
「自分で用意スルと習慣デこうなっちャうんダヨね。ホラ、二ヶ月間は放浪してたシ」
「え……」
「ああ……。遭難中は岩塩とかを食べて飢えを凌いでたってこと?」
「その通りだネ。最初はボクでも食べラれナカタけど、いつノ間にかガッツリパクパク、モグモグ ムシャムシャ グソクムシャ、ってなモンで」
ヨウさんがギブアップした岩塩を眺めながら、メカブさんは寂しそうに呟きました。
「遭難スル前は、ちゃんとご飯食べてタんだけどネ」
…………。
よしっ。
「えい!」
「リーリエ!?」
「ン……!」
はむ、はむむ……!!
やっぱり硬いです! でも、少しずつ舐めれば……。
「にがい……しょっぱい……」
「チョットぉ! 食べられないんデショ、コッチの人は!?」
「いけなくもないです!」
「嘘ダ!?」
「メカブさん、他には何を食べていたんですか? 私、洞窟を探索しなければならないので、食べられるものと食べられないものの見分け方を知りたいです!」
木の幹だって、皮を剥いで唾液で柔らかくして……。
粉っぽくて土の味がして渋くて苦くてエグみがありますが、そういう食べ物だと思えば……!
「けほっ、けほっ……」
「アァホラ、お嬢様の口には合わナイってば……」
「うぷ……大丈夫です! 私だって、カントーでたくましく育ったんですから……」
「カントーはそんなゲテモノグルメの地じゃないんだけど!?」
ヨウさんは元々カントー地方の出身でしたね。
メカブさんのお料理……お料理? お料理。……を、ゲテモノ呼ばわりとは許せません。全部私が食べちゃいます。
「どうしてソンナ……無茶するノ!?」
無茶、ですか。
かわいそうだったから? 絆されてしまったから?
いいえ、おそらく違います。もっと単純な理由……。
「クロウさんなら、きっと食べるかなって」
悲しむ顔が見たくないから。
優しいクロウさんならきっと、青い顔をしてでも食べたのでしょう。
もし私がメカブさんの立場なら、そうして欲しいから……そうするんです。
「……ヨウ、クロウってのは……こんなにバカなノ?」
「まぁ……身体を張るって点では……こんな感じかな……」
「助けるノ嫌にナッテ来たナ」
「ええ!? それは困ります!! 力を貸してくださいよぅ!」
「……んふっ。フハハハハハ!! やっぱりグルメクイーンは面白いネ!! いいよ、ソレ食べなくテ!!」
「え……でも美味しいですよ?」
「そんな紫色の顔してマデ食うモンじゃナイって。食べられるボクが異常なんだヨ。……ねえヨウ、今日の晩ご飯、改めて作っテくれナイ?」
「ん、あ、おう……。用意するね」
調理セットを取りに行ったヨウさんを見送るメカブさん。
唇の端に岩のかけらをつけた、可愛らしくもシュールな猛々しいその顔は、笑っているような、諦めているような顔にも思えました。
「ねえ」
「……? はい、なんでしょう」
「ウルトラスペースって、並行世界なワケだケドさ」
「はい」
「ボクの世界にも、ヨウみたいな人いるンだよネ」
「へぇ……。そうなんですか?」
別の世界の私───リリーさんみたいなものでしょうか。
異世界と異世界を繋ぐウルトラホールに呑まれてメカブさんがやってきたのなら、リリーさんのように別世界のヨウさんがいてもおかしくありませんね。
「こっちの世界には、ボクのママみたいな人モいる。もしかしたラ、その人はボクの世界ではボクのママなんじゃ無いかっテ思ウわけヨ」
「えっと……?」
つまり、リリーさんで例えれば、
「つまりどういう事カわかル? ママ」
「……? いえ、私はメカブさんの母上様では……? ん……?」
ママ……メカブさんのお母さんに似ている人がこちらの世界にもいて……?
そのメカブさんがママと……?
私を……?
「……うそです!?」
「ドーだろうネ! ニシシ」
「えっ、えー! 待ってください! 詳しく訊きたいです! メカブさん! メカブさん!?」
砂浜に足を取られる事なくヨウさんの方向へ逃げたくメカブさん。
艶があって綺麗な
「逃げるが勝チ!」
「待っ、あのっ、ぉーぃ!?!?!?」
このままじゃ寝れませんよぅ!!!!