リーリエロスでカントー行ったよ外伝 the horizon de alola! 作:バケットモンスター、縮めてバケモン
洞窟を降り、草原を抜け。
ガブリアスさんにご挨拶の元、門を潜ります。
島から草原へ向かう時の洞窟と全く同じ通路を通り、行き止まりにある階段を降りました。
草原に繋がる門のように、向こう側から光が漏れています。
急な明るさにチカチカする目を慣らして顔を上げると、そこには。
「…………なん……これはなん、でしょう……」
私は崖の上に立っていました。
見下ろすと森が広がっていて、そこを点々と細長い岩山が聳え立っています。
太さはまちまちですが、平均すると大きな施設の柱ほど。
ところどころに出っ張りやスペースがあるので、足をかけることはできそうです。
そして、一番遠くにうっすらと見える……一際高い岩の柱。
もしかしてあそこにクロウさんが……? もしくは、次のゲートがあるのでしょうか?
というか、あそこ以外に目指せそうな場所がありません。
下の森へ降りるところも見当たりませんし、飛び降りたら間違いなく死んでしまいます。そんな高さです。
びゅう、と風が吹いて私の髪を揺らしました。
服が煽られてバランスを崩しそうになりますが、ここで躓いてしまえば私は下の森へ真っ逆さまです。
えっとつまり。
「この岩の柱を渡っていって、向こうへ……?」
自然と、手に汗が滲みました。
あの塔を目指すためには、今私が立っているこの崖側から、まず一本目の柱へ飛び移らなければなりません。
幅からして、多少足を伸ばした程度では届かない距離です。
助走をつけて、ジャンプするしか……。
「怯えてはダメ。落ち着きなさい、私……!」
ふう、ふう。
はあ、はあ。
1、2、3、はい、で飛びましょう。
「1」
ゲートギリギリまで後退ります。
「2」
震える足に力を入れて、ゼンリョクで走ります。
「3……」
崖側に右足がついた……ので!
「はいっ!!」
思い切り地面を蹴って、柱へ飛びました。
ふわりと、身体が宙に浮きます。
今の私は、完全に無力。
この状態からできることは何もなく、ただ手を伸ばすだけ。
「───っ!」
手を広げて岩を掴み、体を引き寄せて細い足場に立てました。
その瞬間、再び大きな風が私の髪を煽り、バサバサと音を立てました。
もし、あと少し、ジャンプのタイミングが遅れていたら。
私の体は多少なりとも風で揺られて、バランスを崩して……。
「……っ、はぁ、はぁ……!!」
こわい!!!
やっぱり怖いですこれ!!!
っ……。
岩を素手で掴んだためか、ちょっとヒリヒリします。
この先も動かなければならないのなら、リュックも邪魔ですね。
ここは、ウルトラスーツを使わせてもらいましょう。
「えっと、ここのボタンを……」
カチリ、とウルトラギアのボタンが鳴って、私の体が光に包まれました。
背中の重みは消え、ボールは腰のポーチへ転送され、膝当てや肘当て、柔らかいブーツといった動きやすい格好になります。
ベースはメカブさんのスーツですが、メインカラーがピンク色になっています。可愛いですから良いんですが、ちょっと恥ずかしいですね。
岩を握っていた手にもグローブが装着されています。
繊細な指の動きはできなくなりましたが、今はただ、掴んで身体を支える、ただそれのみに集中すれば良いのです。
「次は、向こうですね」
ふーっ。
ふーっ……。
大丈夫。大丈夫です。
さっきだってできたのですから。
それに、クロウさんなら躊躇いなく飛ぶでしょう。
そして一瞬で橋とか作りそうです。
「……できる」
私ならできる。
「はいっ!!」
柱を蹴って次の柱へ飛び移ります。
滑り止めのあるグローブのおかげで先ほどよりも安定して掴めました。
ふう……。
あと、何回跳べば辿り着くのでしょう。
まだ柱1個分しか飛んでいないというのに。
「次の柱は……螺旋状になっているようですね」
見る限り、私が壁に張り付きながら横歩きをすればなんとか歩くだけのスペースはありそうです。
下に行く道もあるようですが……螺旋状になっていないうえに、岩の出っ張りの高さに差がありすぎて、私では降りられそうにありません。
先ほどよりも幅が広いので、一飛びでは届かなそうですが……物怖じしている暇はありません。
「ッ!!」
思い切って飛び移り、広くなった足場に捕まりました。
宙ぶらりんになった身体が揺れますが、ここで手を離してしまえば私は真っ逆さまです。
「アブリーちゃん、キュワワーちゃん、お願いします!」
「あぶりぃ!」「きゅーわ!」
もう片方の手でボールを開いて、出てきた2匹の力を借りてなんとか登ることができました。
……この一瞬、とても冷静に対処していた気がします。一歩間違えれば死んでしまっていたかもしれないのに。
ああ、そう考えると心臓がばくばくしてきました!
深呼吸、深呼吸です。
震える腿をぺしぺしと叩き、恐怖を抑え付けます。
まだ歩ける足場があるだけマシだと思いなさい、リーリエ!
手を大きく広げて壁に張り付き、左足を出したその分だけ右足を戻します。
地道な作業ですが、仕方がありません。
まだまだ道は長いのです。ここで体力を少しでも回復させましょう。
……しかし、上に登っていくというのは心細いですね。
先ほどまで捕まっていた柱がもうあんなに下に……。
下を見てはいけないというのはわかっているのですが、つい……。
風もどんどん強くなっています。油断をしないように進まなければ。
───ごしゃぁ……!───
……?
今、何かポケモンさんの声がしたような?
不思議には思いつつ先を進んでいると、細い道の真ん中に大きな茂みが出てきました。
……こんなところに茂み?
今まで渡ってきた柱には、草の芽ひとつもありませんでしたが……。
「ごしゃ」
「わっ。ポケモンさんだったのですね」
茂みだと思っていたのは青々とした緑の体毛だったようです。
額から生えた立派なツノが空を突き刺すように伸びていました。
図鑑によると、ゴーゴートさん。
ゴーゴートさんはその場で器用に立ち上がると、私をじっと見つめてきました。
「……えっと、なんでしょうか……」
「ごしゃあ」
「もしかして、下に降りたいのですか……?」
「ごしゃ」
もしかして、先ほど見た下に行く道はゴーゴートさん専用の道だったのでしょうか。
でも、今まで登ってきた道にすれ違えそうな場所はありませんでしたし……。
「待っていてくださいね、今、降りますから」
「……ごしゃ?」
引き返すことにはなりますが仕方がありません。
ゴーゴートさんに事情があるのかないのかはわかりませんが、少なくとも私は……私にはまだ時間があるのです。
一度降りて、別の柱に飛びつき、その間にゴーゴートさんに降りてもらえれば、私はまたチャレンジすることができます。
であれば、私が降りれば全て解決しますね!
ああ、あと少しでこの柱の頂上だったのですが……。
と、私が名残惜しくも柱の先を見上げていると、
───ガコンッ───
「きゃあ!?」
足元から不思議な音がなり、私の身体が浮きました。
足場が崩れた、と理解するまでに時間がかかりました。
体の全てが浮いていく不気味な浮遊感が私を包んで、伸ばした手はどこも掴めず……。
「ごしゃ」
「ごっ、ごごごぅ、ゴーゴートさぁん……」
代わりに、ゴーゴートさんが私のスーツを口に咥えて助けてくれました。
助かりました……!
───ガコンッ───
あれ、この音。
……デジャブです。
「ごしゃっ」
「わっ、わわわっ、あわわわわ……!?」
私を咥えたまま岩の柱を滑るゴーゴートさん。
咥えられたままの私は、なすすべもなく滑走を……いえ、咥えられたままで支えはありませんから、これは落下です。
私、落ちました。
「いやぁぁぁあああ………………!?」
◇
ううん。
身体が重いです。
風邪でも引いてしまったのでしょうか。
薬を飲まなければなりませんね。
確か、以前クロウさんが風邪を引いた時に使った市販のものがあったはず。
……クロウさん。
「クロウさんっ!!」
……は……。
ゆめ……。
目を覚ました私の手は、深緑の木漏れ日で照らされていました。
ひんやりとした草のベッドが気持ちいいです。
上体を起こした私の肩から、ばさりと大量の葉が落ちました。
どうやら身体が重かったのはこの葉っぱがあったからみたいです。
辺りを見渡すと、すぐ近くに柱がありました。
均等な、しかしものすごい高さで出っ張っている岩を見るに、私が登っていた柱で間違いがなさそうです。
あの高さ、一段で通常の家屋の1〜3階ほどはあるのでは……。
柱を見上げる私のそばに現れるポケモンさんが1匹。
「ごしゃあ……」
「あっ、ゴーゴートさん。助けてくれて、ありがとうございました」
私を見上げるゴーゴートさんの茶色の蹄は、柱を滑走したことで摩耗が度重なり、傷ついていました。
見るからに痛々しい傷を負っておきながら、ゴーゴートさんはそれでも負傷を感じさせまいと凛々しい目でこちらを見上げます。
……なんだかクロウさんみたいですね。かわい〜。
……はっ!?
「いけません、治療をしますよ」
「……ごしゃ?」
キズぐすりを取り出して、蹄に散布していきます。
昔、ハプウさんがバンバドロさんの蹄の手入れをしているのを見せてもらいましたが、その際に「ケンタロスも同じようなもの」と仰っていました。
同じくクロウさんも、定期的にケンタロスさんの蹄を気にしていました。曰く、伸びたら削ったり切る必要があるのだとか。
しかしそれは舗装された道のある、街中でのお話です。
見る限り蹄は……岩の柱を移動していたからでしょうか? 特に伸びきっているという印象もありません。傷ついているのは、人間で言えば指の腹の部分のようです。ノートの端で指を切ってしまうのと同じですね。
であれば、裏側から……。
「ごしゃ」
「あっ。ありがとうございます」
その場に寝転んで蹄を見やすくしてくれるゴーゴートさん。
クロウさんより素直なんじゃないでしょうか。
うーん、前足の傷が特にひどいですね。後ろ足はキズぐすりで良さそうですが、前足はいいキズぐすりを使いましょう。
「……ごしゃ?」
「いえ、気にしなくていいんですよ。ゴーゴートさんは私を助けてくれた命の恩人さんですし」
「ごしゃぁ……」
うんうん、少しずつ傷も塞がっていっていますね。
ポケモンさんが傷ついているのを見るのは少し心苦しいので、できれば傷ついたポケモンさんは治療してあげたいのです。
エゴだとはわかっているのですが……こればっかりは。
「しかし問題は……」
あの柱をどう上るか、ですね……。
高さから見て、私が手を伸ばしても絶対に届くわけありませんし、柱をよじ登って岩を一段上れたとしても、もう一段登る体力は無いでしょう。
アブリーちゃんとキュワワーちゃんに協力を……いえ、岩に捕まっている私を引き上げるのでもかなり力を要していましたから、あの高さを私を抱えて飛ぶのは不可能でしょう。
こんなとき、クロウさんならリザードンさんを使ってひとっ飛び、なのでしょうけど……。
リザードンさんたち、どこに行ってしまったのでしょうか……。
「ごしゃあ」
「! もうよろしいのですか?」
「ごしゃ!」
「良かったです! お気をつけて!」
ゴーゴートさんは傷の治った足で数回地面を踏んで具合を確かめると、もう一度鳴きました。
…………。
………………?
「えっと、いかれないのですか?」
「ごしゃ、しゃー」
「ええと……?」
「……ごしゃ」
呆れたようにため息をつくゴーゴートさん。
ご、ごめんなさい。私、あなたの言葉がわからなくて……。ニュアンスはわかるのですが……。
「ごしゃ!」
「ふぇっ!?!?!?」
いきなり引っ張られたと思ったら、いつの間にかゴーゴートさんの上に乗っていました!
えっ待ってください、動かないでください、あの、どこみてるんですか、もしかして上見てるんですか、視線の先にあの岩のでっぱりしか無いのですが、あの、それは、えっともしかして、あそこまで跳躍するというのでしょうか、いえ、ゴーゴートさんだけなら大丈夫かもしれないんですけど背中に私を乗せたままだと色々と不都合がありそうな、いえ、論理的結論としては私は全然大丈夫なんですけどぉっ!?!?!?
「ひっ……!!」
「ごしゃあ!!」
ぐん、と体にかかる重力に目を瞑ると、すぐさま体が浮き上がります。
慌ててゴーゴートさんの体にしがみつくと、優しい草の香りがしました。
そして、どしんという音。
恐る恐る目を開けると、私たちは岩場に乗っていました。
下に見えるは、先ほど私がゴーゴートさんを治療していた場所が。
「すごい……」
「ごしゃ」
「えっあの、まだ上見てますけどもしかしてえっ!?」
振動と共に私の体が浮き、そしてまた振動。
「うえっ」
「ごしゃ!」
「ひいっ」
「ごしゃ!!」
「うひゃあっ!!」
「ごしゃ〜!!!!」
おそらく一生に数回あるかという、跳躍と落下の経験を何回も繰り返して、ゴーゴートさんは次々と岩の足場を跳んでいきます。
なんかその、私の反応をみて楽しんでいませんか? すごく怖いのですけど!
「うぃっ……」
「ごしゃ」
「う……。う?」
次にまたくるであろう振動に備えてきゅっと体を縮こませますが、覚悟していた感覚は来ず、思わず目を開けました。
「ごしゃ」
「ここは……目的のゲート……」
「ごしゃ!」
気づけば私たちは、この階層で一番高い柱の上にいました。
そこにはゲートがあって、もう一層下への階段が確認できます。
「こんなショートカット……良かったのでしょうか……」
「ごしゃ」
吹き抜ける風は強く、気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうです。
「とりあえず……目的は達成、なのでしょうか」
「ごしゃ?」
んん〜、なんだかもやもやします!
気づけば空は赤く染まり始めていて、草原を経由することを考えたらそろそろ帰らなければならない時間です。
「ゴーゴートさん! 私、帰ります!」
「ごっ!?」
「また挑戦しますので、その時はお見守りいただけると!」
「ごしゃ……」
呆れ返るゴーゴートさん。
でも、その方がなんだか試練、って感じがします!
それに、ヨウさんやメカブさんにも伝えなければなりませんし。
このペースで進むと、三層以降は1日で帰ることはできないことを。
三層に何があるのかはわかりませんが、この二層を攻略した時点でかなり時間を取っています。
今から引き返してもおそらく日は水平線に沈んでしまっているでしょうし、そうなれば三層の攻略は24時間以内にできるものではありません。
「ごしゃ」
「……帰りのゲートまで、乗せてくれるのですか?」
「ごしゃ」
「ありがとうございます!」
膝を曲げ、乗りやすくしゃがんでくださるゴーゴートさんに跨ると、すぐさま走り出して柱を跳んでいくゴーゴートさん。
最初こそ不安でしたが次第に慣れてきて……。
「……わぁっ……!」
ゴーゴートさんが柱を踏み締める音と共に、風が私を包んでは後ろへ抜けていきました。
澄んだ空は綺麗なオレンジ色に染まっていて、下に見える森の葉の一枚一枚を照らしていきます。
空に太陽が無いなんて不自然だと思っていましたが、思い返せば太陽が見えない位置にあっても夕空は綺麗です!
楽しい……。楽しい!
風は心地よく涼しいですし、恐怖からくるこのドキドキも今は興奮になっています!
「ごしゃ!」
「この景色……クロウさんにも見せてあげたいなぁ……」
これが冒険の楽しさ……なんですね!