私は、何の変哲もない会社員だった。会社に行けば、罵詈雑言の嵐、終わらない書類の山、辿り着かない終電。そんな日々で、私の心は揉まれ、ヒビ割れ、壊れてしまいそうだった。
だが、そんな日々を耐えれる、私の唯一の趣味があった。
それは音楽だ。
古い曲や流行りの曲、マニアックな曲。色んな曲があるが、私はどんな曲も好きだった。疲れた体を癒やすのは私の場合曲を聴く。それ程まで、私は曲が、音楽が好きだった。
だがやはり、音楽だけではどうにもならないらしい。
日々のストレスが祟ったせいか、体のあちこちに癌ができている、と医者に診断された。それに伴い、医者に余命宣告をされた。もって、三ヶ月だと。
私は絶望した。今まで味わうことのなかった、死の淵に立つ感覚。それを知ってしまったからだ。だから私は、悔いのないように、沢山の曲を聞いた。夜には睡眠導入剤として曲を聞き、看護師さんに怒られることもあったが、それすら良い思い出だ。
そして、余命宣告から三ヶ月経った日、私は安らかに息を引き取った。
あれから二十一年がたった。私は何故か赤ん坊として生まれ変わり、二度目の人生を送っている。
輪廻転生という概念は知っていたが、まさかこのようなものだとは思わなかった。この話を今世の親にでも伝えようかと思ったが、頭が可笑しいと思われると困るので黙っていることにした。
それと、今世の両親はとても優しかった。それこそ、ブラック時代の私の心の傷が多少埋まる位には。
そんな訳で、第二の人生を送っている私だが、この世界と前の世界では、様々な面で違いがあるようだ。
まず発展度として、全体的には今世の方が上回っているが、一部前世の方が高い。理由としては、今世の電子機器の方が前世の物より古いからだ。
例としてスマートフォンがあるのだが、前世の様な小さくて薄くタイプでは無く、少し分厚く、某林檎の開発したスマホの初期モデルの近く、まだまだその辺りは発展途中の様に思えた。
そして次に、曲についてだ。これに関しては分かっていたが、私が知っていた曲はこの世界には無かった。
私は再び絶望した。もうあの、輝かしき曲を聴けないのだと。だが、そんな状況の中、私は一つの妙案を思いつく。
それは、私自らが音楽プロデューサーになることだ。
幸いにも私は記憶力がとても良かった為、前世で聴いた曲は全て覚えていた。これはもう、やるしかない。そう決意をした私は、ブラック時代で培ったトーク力を活かし、専門学校へ行くことを許可してもらった。
そして、昨年、私は専門学校の入学試験に合格し、晴れて学生として、音楽を学んでいる。という訳なのだが…。
もう一つ、前世には無かったものがあった。それは災害だ。それも人のみを殺す災害だ。具体的には、動き、ぶつかれば消滅する、という感じだ。
私は運悪く、その災害と遭遇してしまった。
はっきり言って、その時の私は頭が可笑しかったのだろう。私は大きな声で、自分の好きな曲名を叫び、歌い始めた。
後になって、これが発端の引き金になるとは思わなかった…。
とにかく、私はその時、AIMERのLAST STARDUSTを歌い始めた。
【ふりしきる強い雨】
【描いた夢の果て】
【震える肩濡らし歩き続けた】
手がやられた。だが歌うのは止めない。
【擦り切れた小さな手】
【隙間を埋めるまで】
【色の消えた記憶拾い集めた】
次に足がやられた。それでも私は力を振り絞り歌う。
【愛しさ優しさ】
【すべて投げ出してもいい】
【失くしたもの見つけたなら】
今度は腹がやられた。私は膝から崩れ落ちたが、声を出し、歌う。
【傷つくのがさだめだとしても】
【心はまだ色を放つ】
【最後の stardust 舞いあがれ】
【Dust to dust, ash to ash 彼方へ】
【願いの破片よ 届け】
サビまで歌いきり、とうとう頭がやられた。そこまで歌えてたのが奇跡だったのだろう。と、内心思いながら、前世、今世の両親に感謝の言葉を口にし、意識を手放した。
その意識を手放す瞬間、私はあるものを目にした。
それは、二本の短剣を持った、一人の赤髪の青年だった。
次に目を覚ますと、そこは病室だった。どうやら私はベッドの上で寝ていたようだ。
暫く寝ているか寝ていないか分からない状態でぼんやりとしていると、部屋に医者と看護師が入ってくるのを目撃した。
私と目が合い、一瞬真っ青の顔になった医者が言うには、私は死んだ状態だったらしい。死亡を確認し、遺体安置室に移動させようと部屋に来たところ、先程のようになったらしい。
だがここまでの出来事で可笑しな点がある。それはどうやって私が病院に来たかだ。普通なら救急車が来たとかだろうが、あの非常事態で救急車が出動するとは思えない。かと言って私自らが病院に行けるほどあの時元気だったとは思えない。
私は医者にどうやって私が病院に来たか尋ねると、青年が私を背負って連れてきたようだ。そして、私を病院に送り届けた後、どこに行ってしまったようだ。
私はこの事を深く心に止め、いつかその青年に感謝を伝えようと決意した。
災害にあい、青年に助けられてから一ヶ月が経った。その間、頑張ってリハビリをして病院を退院したり、学校に行って学んだり、自分なりに曲を作ったりしていた。
今日は学校も休みの休日だったので、本を読んで過ごしていた。暫く本を読んでから、あの日のことを思い返すと、疑問が浮かんできた。
"何故自分はあの時歌ったのか?あの青年は何だったのか?"
そんなこと、気の動転でしたことと一蹴されるだけだろう。だが、やはり気になるものは気になるものだ。そこで私は一つの仮説を立て、実験してみることにした。
その仮設とは、前世での曲を歌うことが関係しているのではないか?ということだ。
それを検証する為に、山に来た。といっても、ちゃんと許可を取ってから来たので問題は無い。
さて、折角前世の曲を歌を歌うのだから、何を歌うか悩んだが、+PLUSのキャンバスを歌うことにした。
アカペラだが大丈夫だろうかという不安も抱えながらも、歌い始める。
【僕らはみんな “自分らしさ”という名の】
【筆をもってるんだ】
【ほら少しの勇気で どんな色にも変えてゆける】
【想いを描こう】
【この空はどこまで続く?】
【僕らの知る世界は狭くて】
【誰かの助け求める声】
【聞こえぬふりして】
【争うことで存在価値】
【確かめては疑念を抱き】
【違いを「個性」じゃなく「敵」と】
【決め付けては突き離し】
【人との関係は支配で】
【結ばれてゆくものじゃなくて】
【手と手をつなぎ 声を聞くんだ】
【彩る世界】
【憎しみあう事はない 綺麗に交われるから】
【無駄な命なんてない 互いに認め合い】
【無限に広がるキャンバスは希望に染まってく】
【僕らはみんな “自分らしさ”という名の】
【筆をもってるんだ】
【ほら少しの勇気で どんな色にも変えてゆける】
【想いを描こう】
最初のサビまで歌い終わり、何かが起こるのかと身構えた。が、何も起こることは無かった。私は周囲を見回すと、不自然な頭の窮屈さを感じた。何かと思い自身の頭を触ると、いつの間にか帽子を被っていることに気付いた。
それどころか、手には銃が、服装は黒スーツに変わっていた。試しに銃の引き金を引くと、ちゃんと弾が発射された。それと同時に、山中に銃声が響いてしまった為、急いで警察などが来る前に帰路についた。
家に帰った私はこの不思議な現象が何なのかと考えてみたが、答えは出なかった。ただ、この現象には私自身が関係しているだということだけが事実だった。
しかし、こんなものがあっても何の役にもたたない。そう早々に考えを纏めた私は、自身のベッドで横になり、静かに瞳を閉じ、眠りに落ちていった………。