ペコリーヌ「キャルちゃーん☆…って、違う!?」セリカ「ここ、どこ!?」 作:司偵
「綺麗な青空ですねー」
「はい、ペコリーヌさま。まるで透き通るような青空でございます」
ここはランドソル近くの草原。そして、冒険者ギルド『美食殿』のペコリーヌとコッコロの二人が空を見上げていた。
「キャルちゃん、どこまで薪を調達しに行ったのでしょう?」
「そうですね、もうかなり時間が経っているような…」
「ユウキくんも今日は来ませんでしたねえ」
「主さまの事です、どこかでまた人助けをしているのでしょう」
「ああ、ありえそうですねえ。そういえば、新しいダンジョンみたいなのが見つかったとか…それ絡みですかね」
彼女達はここで依頼を達成し、今は昼食の準備中であった。ただ、火をおこす為の薪を忘れた事に気が付き、メンバーの一人であるキャルがその調達に出ていた。
「これならシェフィちゃんも連れてくればよかったですかね」
「こんなお日柄ですからね、それも…おや?」
「どうしました?」
「いえ、空に黒い点が…大変です、ペコリーヌさま!人です、人が空から…」
コッコロが指差す先、上空高くからこちらへと人が確かに落ちてくるのが見えた。
「大変です、助けないと!」
ペコリーヌは受け止めようと落下予想地点へと走り出す。そして、だんだんと高度が落ちてきたので、その人物の細かな様子も見えてきた。頭には猫の耳、そして、長く二つ結びにした黒髪が風に靡く…その特徴に心当たりがあり、ペコリーヌが名を叫ぶ。
「キャルちゃん!」
そして、落下してくる人物の下に滑り込むと、その人物を受け止めた。衝撃で砂埃が舞い上がり、一瞬視界が遮られる。
「…キャルちゃん、大丈夫ですか?」
「何よ、何の騒ぎ!?」
背後から声が聞こえてきたのでペコリーヌは振り返る。
「あれ…?キャルちゃん?」
「そうよ、叫び声が聞こえたから急いで戻って来たんだから」
「え?じゃあ、今落ちてきたのって…」
ペコリーヌは両腕で抱えている人物に視線を向ける。
「キャルちゃんじゃない!?」
「誰よ、それ」
「今空から降って来たんです」
「はあ!?」
キャルが驚いて叫ぶ。すると、ペコリーヌが一言。
「キャルちゃん…」
「どうしたのよ、まさか容態が!?」
「この方、ご親戚ですか?」
「違うわよ!見た目だけで判断すんな!!」
頭が重い…体にはフカフカの布団の感触。気持ちがいいな…まだ寝ていたい。
(あれ?いつ部屋に戻ったっけ?)
いや、枕が違う。よって、ここは自室ではない。そして、そもそも何があったと彼女は自問する。
(いや…思い出せ、思い出せ。えっと、自分の名前…黒見セリカで間違いない。何があったか…確か、アビドス高校を出てバイトに行く途中で空が急に虹色に光って、それから…うーん、思い出せない…)
そして、彼女は目を開ける。木造の見た事の無い天井、どうやらベッドの上で寝かされている事だけは確からしい。
「目を覚まされましたか?」
眼前には自分より年下であろう、小柄な白髪の少女の姿があった。
「えっと、ここは…?」
セリカは周囲を見回す。木造の建物の屋内、パッと見た感じやたら古風な造りに感じる。
砂漠地帯と化し、人もいなくなったアビドス高等学校の周囲にこのような雰囲気の建物があっただろうか?そう考えていると、室内に電化製品の類が一切無い事に違和感を覚えた。それに首を傾げながら窓の外に視線を向けると、外は青々とした自然豊かな光景が広がっている。
「あの、ここは何処でしょうか?」
不安げな表情を浮かべて、セリカは敬語で問う。
「ここはギルド『美食殿』のギルドハウスでございます。ああ、申し遅れました。わたくし、コッコロと申します」
「ご丁寧にどうも、私は黒見セリカ。ギルド…?えーっと、聞きたかったのは場所とか地名の方で…ここはアビドスのどの辺りでしょうか?」
「アビドス…?聞いた事がありませんね」
「え!?」
コッコロの言葉に驚いていると、扉が開いた。
「あ、目が覚めましたか。よかったあ」
まるで騎士のような格好をした少女と黒髪猫耳の少女が部屋に入って来る。どちらも銃を持っていない。代わりに大剣と杖のようなものを所持しているようだ。
「大丈夫?あんた、空から落ちてきたのよ。ドラゴンか鳥の魔物にでも捕まったの?」
「え?ドラゴン…魔物?それに空からって…」
黒髪の少女のその発言にセリカは困惑した表情を浮かべる。すると、コッコロが騎士風の少女に問う。
「ペコリーヌ様、アビドスという地名をご存じですか?」
「アビドス?聞いた事がありませんね、少なくともランドソルの近くでは無さそうです」
ランドソル…聞いた事の無い地名にセリカは更に首を傾げる。
「あ、あの!私、黒見セリカといいます。えっと、その…ここはキヴォトスですよね?」
いくつもの学校を抱える巨大な学園都市キヴォトス、その広大さは世界そのものと例えてもいいぐらいだ。その名を出せば流石に通じる筈である。
「キヴォトス…?いいえ、聞いた事がありません。わたしはペコリーヌ、そう呼んでください」
「あたしも聞いた事が無いわ。大陸の外とか?あ、あたしの名前はキャル」
「相変わらずツンツンしてますね、キャルちゃん☆」
「うるさいわね!」
あはは、と苦笑いを浮かべるセリカ。その内心はただ焦っていた。
(いや、どうなってんの!?どこなのよ、ここ!?そうだ、銃と鞄。それさえあれば…)
「あの、荷物とかってありませんでした?」
「ああ、そこに置いてありますよ。鞄と…何でしょうか、これ?」
ペコリーヌは小首を傾げながらアサルトライフルを指さす。キヴォトスでは誰しも必ず銃を所持している。よって、こんな反応をする筈がない。最早、困惑を通り越してどこか恐怖を感じているセリカは鞄からスマホを取り出す。
(先輩達に早く助けを…え?圏外!?)
セリカの背に滝のような汗が流れる。その様子にコッコロがどうしたのかと話しかけてきた。
「あの、セリカさま。どこかご加減でも?」
「あ、いえ!?その、大丈夫です!」
引き攣った笑みを浮かべて動揺を誤魔化そうとするセリカ。そして、その様子をただ訝しむキャル。
「あんた、何か隠してない…?」
「え?いやー、別に隠してはいないかなってー…」
「怪しいわね」
キャルがじーっとセリカの顔を見る。別に騙す気は無いが、状況がさっぱり分からないセリカは迂闊に事情を話す事も出来ない。
「えっと、セリカさん。とりあえず、事情を話してみたらどうでしょう?キャルちゃんはこんな態度でも根は優しいので」
「あんたねえ…」
「その、実は…」
諭すように言うペコリーヌの言葉にセリカは観念し、何が起こったのかを淡々と語った。
「えっと、セリカさんはアビドスという学校の生徒で」
「その学校はまるで国みたいに広い土地を持っていて?」
「で、そこがこことは違う世界の話だと?」
「うん…」
自分がいたアビドスやキヴォトスについての説明まで終え、セリカは項垂れるように頭を垂れた。互いに情報交換しつつ、この世界の話も聞いたが、ここがまるでゲームのような剣と魔法のファンタジーな世界であるという事はおおよそだが理解出来た。厳密には目の前でキャルとコッコロが魔法を実際に使った為、嫌でも受け入れるしかなかったのだが。そして、美食殿の三人にはセリカの所持品を見せる事で彼女が別の世界から迷い込んでしまったとなんとか理解してもらった。
「そうですねえ、帰る方法は…」
「分からない…」
「ですよねー」
ペコリーヌは苦笑いを浮かべる。すると、キャルが案を出す。
「カリンの所に聞きに行くのは?ギルド管理協会ならなんか情報持っているかもしれないし」
「名案でございます、キャルさま」
「ギルド管理協会…?」
聞き慣れない単語にセリカは首を傾げる。
「まあ、お役所みたいな所ですよ。じゃあ、善は急げという事で早速行きましょう!」
そして、美食殿一行とセリカの四人はランドソルの街中を歩いていた。
(よく考えると、これって最近ネットで流行ってる異世界転移もの?もしや、私には銃もあるから現代技術チートが…あ、残弾厳しいんだった)
美食殿に洗いざらいぶちまけたセリカにはそんな事を考える余裕も出てきた。見渡す限り、機械は目に入らない。近代的な銃を持つ者もいない。セリカは改めてここが異世界だという実感を得ていた。
「あ、セリカちゃん。この建物です」
話を続けているうちにだんだんと打ち解けて、キャルやペコリーヌとは敬語で話す事も無くなってきた。ただ、コッコロはどうしても敬語を止めようとしなかったが。
そうして、ギルド管理協会の建物に入っていく。解読不能な文字が書かれた書類が壁に貼られ、それを冒険者達がじっと見ている。まるで本当にファンタジー作品の世界の様だと心の内でセリカは考える。
「あ、美食殿の皆さん。その方は?」
受付から緑髪で眼鏡をかけた女性が声をかけてきた。
「どうも、カリンさん。えーっと、これには色々と訳がありまして」
「と言うと?」
そして、ペコリーヌはこれまであった事を説明していく。受付の女性…カリンの表情も困ったようなものに変わっていく。
「事情は理解しました。しかし、迂闊にどうこうとは今すぐに言う事はできません。上にも聞かないと…」
「うーん…そうですよね」
すると、カリンが何か思いだしたように手を叩く。
「あっ…そういえば、美食殿に依頼したい案件がありまして」
「依頼?」
「ええ。新しく現れたダンジョンの話は聞いていますか?」
「はい。それ絡みですか?」
はい、とカリンは頷く。
「偵察に冒険者を出したのですが…その周囲に魔物が大量に倒れていまして。それを見てその冒険者は危険を感じて撤退。という状況になりまして。それで、ベテランの皆さんに調査を依頼したいと。本当はトゥインクルウィッシュに依頼しようと思ったのですが、どうも忙しいのか連絡が取れなくて」
「ダンジョンで魔物が?」
「はい。そのダンジョンの外見がこの絵の通りで」
カリンの出したスケッチを美食殿の三人はじっと見る。
「ダンジョンというか…建物みたいね」
「ええ、そのような雰囲気です」
セリカも釣られたようにそのスケッチを見る。そして、その雰囲気には確かに見覚えがあった。
「これ…アビドスの校舎じゃない!!」
アビドス高等学校の敷地内では四人の生徒達が銃を構えて周囲を警戒していた。
「ん、怪物の撃退完了」
砂狼シロコは外を見つめてそう呟く。
「スライムにも弾が効いてよかったです」
十六夜ノノミはガトリング砲を地面に置くとそう言う。
「なんとかなりましたが…電力の問題もあります。それに弾薬も…」
奥空アヤネは心配気にそう呟く。
「いやー、よかったよかった。弾が足りなくなったら、おじさんどうしようかと」
最年長の小鳥遊ホシノは笑いながらそう言う。
「笑いごとじゃありませんよ!!状況不明、通信途絶。周りは一瞬で砂漠地帯から森林地帯!そして、次々やってくる化け物の群れ!私達に備蓄はもう…」
アビドス高等学校はあらゆる面で余裕が無い。それは膨大な借金によるものだ。そして、その借金により、この学校は廃校秒読みという状況まで追い込まれていた。現に全校生徒はこの場の全員にセリカを足したのみである。
「まあまあ、アヤネちゃん。そんなに怖い顔してたら顔が凝っちゃいますよ?あ、幽霊みたいなモンスター出てきたらどうしましょう?弾効かないかも」
ノノミの発言にシロコは振り返る。
「ん、幽霊?昨日見た」
「…え?」
他の三人は絶句する。
「プリンが欲しいって言っていたからあげたらいなくなった」
「え…プリン…?」
「ん、プリン。それにしても、セリカは何処に行ったんだろう?」
「分かりません、携帯も圏外で…」
そんな会話をしていると、外からおーいと呼ぶ声が聞こえてくる。
「人?」
ホシノは窓の外へ視線を向ける。すると、そこには奇妙な格好をした一団がいた。その中のブロンドの少女が手を振っている。そして、反対側の手には大きな大剣。後ろにいる二人は杖のようなものを持っている。
「ん、何あれ。コスプレ?」
「あんな化け物だらけの危ない所で?」
「どうしましょう?」
すると、ホシノが何かに気付いたように叫ぶ。
「みんな、あそこ見て!セリカちゃんだ!!」
「え!?…あれ?大変です、セリカちゃんが二人も!!」
ノノミが大げさ気味に首を傾げる。
「ん、魔法使いセリカと通常型セリカ」
確かにそこには黒髪猫耳ツインテールが二人いた…困ったように様子を見る四人。そして、激怒したような声が外から飛び込む。
「なに困惑してるのよ!よく見なさいよ!!あんた達!!!」
「…ねえ、セリカ。あれ、ほんとにあんたの仲間なの?」
「ええ…本気なのかふざけているのか…」
そんなキャルの一言にセリカはがっくりと項垂れた。
続かない
誰か続きを書いてもいいのよ?