俺は勇者だ。神様からもらった能力で世界を救った。そんな俺にも悩みがある。

タイトル詐欺ですいません。

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サバイバーズギルド

 ごめんなさい、許してください、そんな叫びが頭を駆け回る。魔族の子供だ。頭を下げて俺に許しを求めている。けど俺は手に持っている剣でその子供の魔族を刺し殺す。生物というのは残酷な作りだ。一度刺したくらいじゃ死なない。一度刺すとあまりの痛みでアドレナリンが出された脳みそが機能を停止させる、気絶するのだ。もう一度刺す。今度は痙攣を起こす。魔族の子供の足がビクッと痙攣する。

 

「あ、ああ」

 

 何度も何度も俺は刺し続ける。骨が肉がぐちゃぐちゃと音を立てる。俺の顔は血飛沫で覆い隠される。魔族の子供だったそれを踏みつけて俺は前に進む。こいつらは敵なんだ。敵だ。だからこの行為は間違っていない。そうだ。きっとそうだ。俺は、世界を救うんだ。仕方がない犠牲だ。そうだ、きっとそうだ。きっと、きっと、きっと、きっと。

 

「あっ」

 

 反射的に上半身を起こした。背中にまとわりつく汗はとても気持ちが悪い。次に俺を襲ったのは激しい嘔吐感、胃には大した消化物が残っていない。しかし、胃液が食道を通って逆流する。なんとか胃液を飲み込む。口いっぱいに酸の味が広がる。脂ぎった汗が俺の額かボトボトと落ちてくる。落ち着かなければ、そう思って深呼吸をして目を閉じる。けれどまぶたに映るのはあの日殺した魔族の子供の姿。

 

「ウッ、ウエェぇぇ」

 

 毛布の上に酸の匂いとドス黒いシミが広がった。そのシミは顔が浮かび上がる。シミは俺に向かってこう言うのだ。『お前は罪のない魔族の子供を殺した、その親もだ。お前は勇者、ましてや世界を救った英雄なんかじゃない。ただ、大量殺人鬼だ』その言葉は俺の心をさびたナイフのように突き刺す。

 

「ああ、は、ハハハハハハ」

 

 『これが世界を救った勇者の姿か?』そう激しく自分を嘲笑するんだ。あまりにも気持ちが悪い。顔についた吐瀉物は俺に激しく嘔吐を誘う。とにかくこれを洗い流さなければいけない。ふらふらと立ち上がり、糸の切れた人形のように歩く。ゆっくり、ゆっくりと水瓶に向かう。一歩、一歩ずつ床を踏み締める。ギシギシと床は音を立てる。水瓶までとても遠い。終わりのない道だ。ようやく水瓶にたどり着く。水瓶を覗く。そこに映っていたのは醜く卑屈な笑みを浮かべる俺の顔だった。

 

「おい、なんだよ。なんだよお前は!」

 

 水に反射して映る自分の顔を殴る。触れられた部分からぐにゃぐにゃと顔は揺れた。『俺はお前の本当の姿だよ。お前は正義という建前で己の力に溺れていたのだ』口角を引き攣らせながら俺の顔はそういった。

 

「違う!違うんだ」

 

 俺は必死に許しを乞う。目から涙を流し口からは唾液が溢れる。違う、違うんだ。

 

 俺はただみんなを守りたかっただけなんだ。ー『お前はみんなから尊敬されたかっただけだ』

 

 俺はただ他人が死ぬところを見たくなかったんだ。ー『けど魔族のガキを殺した。なんの罪もないガキを』

 

 俺が戦わないときっと多くの人が殺されていたはずだ。ー『お前はただ自分を正当化したいだけだ』

 

 違う、違う、違う、違う。

 

 目にいっぱいの涙を浮かべる。神よ、なぜ俺をここまで苦しめる。お前は俺に力を与えてこの世界を救えといった、けど俺はただの農夫の子供だった。普通のどこにでもいるようなただの農夫の子供だった。けど、お前が与えた力のせいでおかしくなった。今はただ己の力に溺れ自壊をしていく醜い悪魔だ。その刹那、昔に母親に教えてもらった話を思い出す。はるか前の時代に横暴な龍がいたそうだ。その龍は圧倒的な強さを持ち天界、地上、地獄の全てを支配した。けれどその龍は死んでしまうんだ。孤独に耐えられぬ死んでしまう。周りの誰からも苦しみを理解されずに死んでしまう。その龍は今の俺の姿にあまりにも似ていた。

 

「う、うえ」

 

 また咳き込む。辛い。神様、俺を助けてくれ。孤独なんだ。みんなは俺を世界を救った英雄だと崇める。けど、彼らは俺の苦しみを知らない。世界を救うために多くの罪なき命を奪った少年の苦しみを知らない。毎晩、あの日が浮かぶ。魔族の子供を殺したあの日が。死体に群がる蠅の音をみんなは知らない。青黒く変色した死体の色をみんなは知らない。誰も俺を理解してはくれない。

 

「嫌だ、もう嫌だよ」

 

 頼むよ、誰か俺を救ってくれよ。誰も俺を導いてはくれない。神ですら俺を見捨てたんだ。

 

 あの日、力を受け取った少年よ、誰も君を助けてはくれない。誰も君を救ってはくれない。そして、孤独に溺れたまま死んでいくんだ。深く、暗く、息ができない孤独の中で。

 


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