不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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玉折ー弐

 

 

「辿り着いた…!任務外だ理子ちゃん!ここからは話していた通りに!」

 

 

薨星宮へ走って辿り着いた3人。

 

 

天元様直々の任務だ、この護衛任務を任せられた私と悟には…妹紅先生の推測によると何らかの縛りを付けられているかもとの事だ。

 

 

『縛りぃ〜?んなもん無視……する訳にはいかねぇよな、どこで結ばれた?互いの同意だろ、縛りに必要なのは』

 

 

『……悟、最初夜蛾先生から渡されるいつものアレ、覚えてる?』

 

 

『任務同行書…報告書、アレか…?』

 

 

私の記憶に正しければ、夜蛾先生から記載を頼まれたあの書類……あれが縛りにおける『互いの同意』に値するのならば可能。

 

 

ここまで辿り着けたなら既に解除できた筈、相手は天元様と高専メンバー、悟が相手にしてる奴は気にしなくていい…!

 

 

「作戦の通りにって……うわわっと!?」

 

 

「黒井さんッ!」

 

 

「任されました!」

 

 

夏油が天内を俵背負いし、そのまま黒井へと投げ渡す。

 

 

相手はあの天元、本人は常世に干渉はしないが今から高専自体が敵になる。だけどもしかしたらなんのお咎めもない……

 

 

「なんて、希望的観測は辞めておこうか」

 

 

薨星宮と地上を繋ぐ階段を視界に入れ、自分の戦力と行動を整理しておく。悟に援護は必要無い、高専内の人間には負けない、冥冥さんは…。

 

 

『買収しておく』

 

 

妹紅先生が要は抑えてある、最後の不安要素は誰にも知られていない天元お抱えの戦力があるかどうか。

 

 

「本当にあの方は!頼もし過ぎますね…!」

 

 

「…ふふっ、『私達の先生』ですからね、地上へ戻る際にあの襲撃者と鉢合わせ無いように行きましょう、私達を庇って悟が動きずらくなる」

 

 

「はい!」

 

 

 

黒井が天内を背負ったまま、階段の最初の1段目へと足を踏み入れる。

 

 

暗い階段の先、光差し込む先を見て……。

 

 

「……ッ!」

 

 

そして、その命を守ったのは長年の護衛で鍛え上げられた防衛本能だったのかもしれない。

 

 

 

 

バンッッ!!

 

 

 

「ぐぅっ…」

 

 

「…!?黒井さん!」

 

 

「黒井っ…きゃぁっ!?」

 

 

放たれた銃声、確かにその命を奪おうとする意思が感じられる凶弾は、瞬間的に階段を飛び退きながら避けようとした黒井の右太腿に着弾する。

 

 

抱えられていた天内を自分の身体で庇い隠しながら地面へと墜落していった。

 

 

 

「……やっぱナマってたか…戻ったのは気の所為だな」

 

 

 

カツカツカツ…と、階段を降りる音。頭上の暗闇から、その凶弾を放った首謀者が拳銃のグリップを自分の頭へと押し付けて、納得のいかない顔をして不満を漏らす。

 

 

先鋭化された殺意の塊である拳銃を投げ捨てて、身体に巻き付けた呪霊から、その極太の剣身がむき出しになっている刀を慣らしの為か軽く振るい、そして3人を見つめるその目に……。

 

 

人らしい感情は見て取れない。

 

 

 

「ーーおま、えは…」

 

 

「相方のガキか……見る所、同化から逃げてんのな」

 

 

 

襲撃者、その姿を目にした瞬間、過ぎる考え。

 

 

 

「なんで、お前がここにいる…!」

 

 

 

「なんでって、あ〜…そういう事」

 

 

 

一言溜めて、その凶器のような顔を破顔させた。

 

 

 

「五条悟は、俺が殺した」

 

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薨星宮の宙を飛び、すぐ側で爆裂して威力を増す呪霊を躱しながら星漿体を殺せる隙を伺う。

 

 

「……絶命の縛りか」

 

 

突き刺さるイカ型の呪霊の威力が妙に高い、数十発直撃すれば手傷を追うレベルだが、この等級でこの威力は、と…考えると縛りと考えるのが一番丸い。

 

 

 

「■■■!!!ギャォォォォォッッッッ!!!!」

 

 

 

逃げ道を潰す様に、龍型の呪霊が真正面から迫ってきた。

 

 

空中の逃げ道は潰され、尚もイカ呪霊の弾幕は勢いを増す。

 

 

 

「ーーははッ」

 

 

 

だがそれも所詮、有象無象。

 

 

 

「■■ッッッ……■■■!?!?」

 

 

 

甚爾に噛み付く虹龍、敵を噛み砕かんと力を込めるも……。

 

 

一切、動かない。

 

 

「ふッ!」

 

 

 

刃で牙を受け止め、そしてその暴力を振りかざす。

 

 

【釈魂刀】

 

 

魂そのものを断つ呪具。現状魂の輪郭を無意識的に理解している伏黒甚爾のみがそのポテンシャルを最大限に引き出せる。

 

 

 

「……っ…最高硬度の虹龍を…!」

 

 

 

「呪霊操術……烏合だな」

 

 

「ちッ!」

 

 

夏油はこの時点で呪霊の継続使用の不可を察し、手持ち全ての呪霊に絶命の縛りを課す事に加え…。

ただの絶命の縛りでは無く、それが手持ち全ての呪霊が排出されるまで、時間制限をつける、という条件を加えて出力を底上げした。

 

 

 

「ォォォォォォオ゙オ゙オ゙!!」

 

 

 

血を吹き出しながら飛び出してくる一つ目の巨大呪霊が接近してきた甚爾を引き離し、そのまま爆裂して消えていく。

 

 

 

「……」

 

 

「…あいつ(妹紅)、ホント余計な事しかしてねぇ…」

 

 

建物に身を潜めながら思考する。これもどうせアイツが師匠だと。

 

 

予定していたよりも厄介極まりない。五条の様な無茶苦茶(術式)に対しての専用の対処は必要無かった筈だが…。

 

 

接近戦、術式の拡張、縛りの活用……手練だな、それも経験に基づいた仕上がりをしてやがる。

 

 

…星漿体が逃げようものなら、そっちから狙えばいい。庇ってアイツが後手に回るならそれで終わりだ。

 

 

それに……ーー

 

 

「死ね」

 

 

「ひっ…」

 

 

「っ…!理子様っ!私を手放して下さい!!」

 

 

「理子ちゃんッ!!」

 

 

 

黒井を背負おうとしてまごついていた理子目掛けて凶刃が襲いかかる。

 

 

それを必死の形相で夏油がカバーし、再び膠着の形へと戻った。

 

 

 

 

……やっぱ先に殺すか、全くとんだ厄介な依頼主が金持って来たもんだ。

 

 

 

「面倒だ、先に殺すぞ」

 

 

「やってみろ…!」

 

 

 

星漿体が逃げねぇようには常に意識は割いてるが、先に星漿体を仕留めに行くのは骨だ、先に呪霊使いのこのガキから殺す。

 

 

アイツが俺と接近してやりたい事は分かってる、格納呪霊の使役……だが…。

 

 

『夏油の術式は、お前の格納呪霊の様に主従を築いているモノに対しては効かない』

 

 

 

「ご愁傷さまだな、お前らも」

 

 

「……何がだ」

 

 

敗因の2つとも、お前らが信頼してた奴のせいなんだから。

 

 

そしてお前が反応できる速度の限界を、俺が超えればいい。

 

 

簡単に殺せる。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

…身体が動かねぇな、なんだ。

 

 

 

 

「ネェ…ねえ…わた…ワタシ……ワタシキレイ…?」

 

 

 

「あ〜そういう感じね」

 

 

 

甚爾の周りに、裁ち鋏が出現する。

 

 

質問に答えるまで互いに不可侵を強制する呪霊。足止め、それと近づいて格納呪霊を使役する為だな。

 

 

 

「ワタシィ……キレ……キレイィィィ??」

 

 

 

絶命の縛りにより、その効果の強制力を高め、夏油も同時に懐へと潜り込み巻き付いた呪霊へと手を伸ばす。

 

 

 

「強いて言うなら、趣味じゃねぇ」

 

 

 

ーー馬鹿が。

 

 

 

「ァァァ……」

 

 

「なッ……」

 

 

それを、天逆鉾を振り回して強引に解決。

 

 

好機だと勘違いして手を伸ばした夏油の手も、使役失敗により弾かれた。

 

夏油の瞳に映るのは、抜刀の形を取る伏黒甚爾の姿。

 

 

 

「ーー終わりだ」

 

 

 

「…かハッ……」

 

 

 

一閃。

 

 

十字袈裟懸けに夏油の身体に冷たい鉄が入り込み、その身体を切り開かれてしまった。

 

 

戦闘の余波で崩壊していた天井の瓦礫を躱し、夏油を担ぎあげながらその瓦礫に着地する甚爾。

 

 

 

「…まだ…殺さないでおくか、呪霊が全部自壊してからだな、収納されてる呪霊が暴走しても面倒だ」

 

 

 

「…面倒だったぞ、お前ら…良い師匠と術式に恵まれたな?」

 

 

 

「だがその恵まれたお前らが、呪術も使えねぇ俺みたいな猿に負けた事」

 

 

 

「死んでも地獄で覚えとけ」

 

 

 

甚爾が夏油を1度投げ捨て、更に時間で死ぬ様に喉元に刃を突き立てた時……。

 

 

 

 

「わ、妾が相手だ!!悪党!」

 

 

 

震える小鹿が、勇気を振り絞る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……熱い。

 

 

 

日差しが、熱い。

 

 

『訓練終わり、それ以上は動かない方がいいぞ夏油』

 

 

『はぁっ…はぁっ…』

 

 

いつもの通りに先生に負けて、グラウンドの土の上で寝そべっている。

 

 

『…手も足も出ない』

 

 

『年季の違いだ、気にするな』

 

 

『気にしますよ、ここまでボコボコにされたら』

 

 

『着実に強くはなってる、未来の完成へ向けて歩めてるから大丈夫だよ』

 

 

毎日毎日負ける中で、腹から湧いて出てきた不安を口から零した。

 

 

『…悟に、追いつけますかね』

 

 

『……』

 

 

『肉体には限界がある、術式の拡張も残るは極の番、悟の様に特別な何かは無い』

 

 

『……追いつけ、ますか?』

 

 

『分からない』

 

『……』

 

 

『でも、お前は五条にはなれないし、五条はお前になれない』

 

 

『慰めですか?』

 

 

『事実だ、五条は怪物に近いし、そんな怪物でも出来ないことは出来ない』

 

 

『それにな、夏油』

 

 

『お前は五条に追いつくんじゃない、お前が五条を置いていくな』

 

 

『……?悟…を…?』

 

 

それは、ある種私にとって天からのお告げの様なものだった。

 

 

『五条はな、怪物なんだよ…根本が私や、知人に似ている』

 

 

『人の様で、人じゃない、限りなく人の様な……人の見た目をしてるだけの存在だ』

 

 

頭から炎が立ち上りそうだった、いくら妹紅先生でもそれは言わせない、悟をそんな存在だとは……。

 

 

『だがそんな五条は、お前の手によって人間になっている』

 

 

ーー。

 

 

『孤独な怪物の傍で、ずっと手を繋いで一緒に居てくれて、まるで人と接する様に毎日を笑顔で暮らしてくれる存在』

 

 

 

 

『それがお前だ、夏油……だからな、お前が五条に置いてかれるんじゃない』

 

 

 

 

()()()アイツを置いてくな』

 

 

 

 

『五条を、1人にさせるなよ』

 

 

 

 

 

「置いて……いかないさ…悟…」

 

 

 

ギリギリで意識を繋ぎ止め、胸から流れ出す血液を呪力での強化でなんとか塞き止める。

 

 

朧気な視界に映るのは、嘲笑いながら天内へと近づく襲撃者の姿。

 

 

 

「1人には……させない……」

 

 

 

だけど、今頭の中に居るのは目の前の少女の事でも、それを再び庇う様に前へ出るメイドの事でも無い。

 

 

 

脳裏に移る、たった1人の親友の事だけだ。

 

 

 

悟が人の様な怪物だというのなら、私は怪物の様な人になる。

 

 

 

それで漸く、私は悟の隣に立つんだよ。

 

 

 

 

「……あぁ?…お前…まだ意識を…」

 

 

 

甚爾が振り返れば、幽霊の様に静かに佇む夏油が居た。

 

 

 

血を垂らし、肉を剥き出しにしてなんとか立っている。

 

 

 

……そして、ポソボソと、聞こえたその単語は…。

 

 

 

「領域」

 

 

 

 

 

 

「展開」

 

 

 

 

 

「ッッッッ!!!」

 

 

 

それには名前も無い、手印も無い、最早領域ともいえない代物。

 

 

 

だが、やり遂げた。

 

 

 

夏油傑は手持ちの呪霊、その命を1秒で消耗させる縛りを結び、己の生得領域を……ーー。

 

 

 

領域展延を用いて、呪霊の命を代価にツギハギに結界として構築する。

 

 

 

言わば巨大な領域展延、妹紅と冥冥に教えこまれた縛りをフル活用し、あらゆる己のリソースを削っていく。

 

 

この先の未来の事も考えず、ただひたすらに『今』に賭ける事で成し遂げた奇跡。

 

 

 

「不味いな…ッ!」

 

 

 

それは……その領域は…ーー

 

 

 

 

それは、奇しくも呪いの王と同じく結界で内外を遮らない。空間に配置された呪霊から繋ぎ合わせた生得領域だからこそ行えた領域展開。

 

 

 

結界を閉じること無く生得領域を展開するのは、キャンバスを用いず空に絵を書くに等しい。

 

 

 

まさに、神業。それは夏油傑が怪物に辿り着いた証。

 

 

 

空間が喰いちぎられていく、蛆虫が肉を啄むように、ハエが肉を溶かす様に、獣が肉に食らいつく様に。

 

現実とはクソである、現実とは、奇跡の様な美しい才能が虫にたかられる世界である。

 

それが本音だった、本当は、悟にもっと世界から縛られずにいて欲しかった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

襲撃者が目の前から姿を消す。

 

 

 

 

「……りこ……ちゃん…黒井さ…ん…」

 

 

 

フラフラとした意識の中で、2人の無事を確認しようと…

 

 

 

「大丈夫ですか……どこに…」

 

 

 

 

辺りを見渡した時。

 

 

 

『ソレ』を

 

 

 

目にした。

 

 

 

「……理子ちゃん?」

 

 

 

 

天内理子の目の前に落ちている、彼女を押し出したであろう2本の腕。

 

 

 

しかし()()()無い。

 

 

 

そして、天内理子は……。

 

 

 

「り……こ、ちゃん…」

 

 

 

ーー横腹から大量の血を流し、倒れていた。

 

 

 

「ぁ…あ゛ぁ……」

 

 

 

夏油は、無意識下でフィジカルギフテッドの透明に対する回答を出していた。

 

それは無機物有機物問わぬ、無差別的な領域効果の適用。

 

 

もし、将来夏油が領域を完璧に扱える様になっていれば、2人を必中適用外へと出来ていただろう、その才能が夏油にはあった。

 

 

それも未来の話。

 

 

 

「黒井…さん……」

 

 

「理子ちゃん…」

 

 

 

怪物になった代償に、世界は彼から守るべきものを奪い去ってしまった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「……悟……の……所へ…」

 

 

 

血に染まる視界。

 

 

限界が来るより前に……悟の元へ……。

 

 

 

 

「はいお疲れ」

 

 

「……は?」

 

 

「解散解散」

 

 

 

そして現実とは、思っているより

 

 

 

非情である。

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