不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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2024年:6月3日 加筆修正済




玉折ー終

 

「ぅ…」

 

 

体を起こす。

 

 

「…私は…生きて…」

 

 

「……傷が無い」

 

 

「………」

 

 

確か…。

 

 

「っ!」

 

 

「理子ちゃん!!黒井さ…ーー」

 

 

「…」

 

 

脳内に映し出される腕だけになった黒井と、お腹から血を流して倒れている理子。

 

 

そして、その実行犯である自分の手。

 

 

 

「……」

 

 

 

「悟」

 

 

 

「悟は、まだ…」

 

 

 

ここはどこだ?地下…か?アイツが連れ去ってきたのか?何のために?

 

 

……現状をとりあえず把握して…悟の安否を…

 

 

 

 

「夏油」

 

 

 

暗い通路の奥から、烈火の炎を噴出させながら血まみれの妹紅が現れる。

 

 

 

 

「妹紅…先生…」

 

 

 

 

「無事だったか」

 

 

 

 

「どうして先生が…血…なぜ燃えて、いや、それよりも…何が起こって…」

 

 

 

「……落ち着いてよく聞け、ここは盤星教本部の地下だ、夏油が連れ去られたと聞いて取り返しに来た」

 

 

一息ついて、炎を身体に収めてから夏油の肩を両手でつかむ。漏れ出す息からは安心と安堵が感じ取れる。

 

 

 

「…そうだったんですか…アイツに連れ去られて……っ!盤星教…理子ちゃんは…!!」

 

 

 

「信者をボコって吐かせた、おそらくこの先の『御神体』を祭る場所だ」

 

 

「御神体……」

 

 

「悟は血痕を残して消えたが、呪力の痕跡は残っていたぞ、恐らくここへと向かっていると思う…私の方が早かったみたいだが」

 

 

「悟も生きていたんですね…良かった…」

 

 

「……夏油、何があった、リコちゃんは…黒井さんは…死んだのか?」

 

 

「……そ…れは…」

 

 

「……すまん、今は良い…この先に行くぞ、立てるか?」

 

 

妹紅が指さす先には、重く苦しい硬く閉ざされた扉だ。

 

 

夏油を肩に背負いながらゆっくりとその扉に向かっていく。

 

 

「……」

 

 

「………」

 

 

頭の中で困惑と苦しみがぐるぐると渦巻いている。

 

 

全てを失敗した、何も守れず、何も得ず、襲撃者に誘拐された挙句、血まみれになってまで来てくれた先生にずっと迷惑をかけてしまっている。

 

 

心が壊れそうだ、実体もないものが崩れそうな感覚がずっと体の中でうごめいている。

 

 

「……!!」

 

 

ゴゴゴゴゴ…と、地下であるはずのこの場所が揺れた。何か強烈な呪術の気配も感じ取れる。

 

 

「……悟だな」

 

 

「…」

 

 

「お前も変わったが、アイツも辿り着いたのか…最強二人、か」

 

 

「……妹紅先生」

 

 

「現実は不条理で理不尽なんだよ、夏油…だからこそ、『どう受け止めるか』はお前決めろ…開けるぞ」

 

 

沈黙を続ける扉を…開く。

 

 

 

 

「「……」」

 

 

 

 

 

 

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「理子……ちゃん……」

 

 

 

鳴り響く拍手の中。

 

 

その命をもてあそばれた少女の亡骸が、あがめられている。

 

 

 

「…ここまで、業が深いか」

 

 

「……」

 

 

 

拍手の音が脳内に響き渡る。

 

 

醜悪な笑顔が瞳の中から離れない。

 

 

どれもこれも、心の底から少女の死を喜んでいる猿どもの存在が、私の心を蝕んでいく。

 

 

だが、それらを全て超えて聞こえてくる声。

 

 

『もっとみんなと一緒に居たい』

 

 

 

 

 

「先生」

 

 

「……なんだ」

 

 

「弔って……あげられますか」

 

 

「任せろ」

 

 

 

階段を上がり、白い布がかぶせられた遺体へ近づいていく。

 

 

身体から炎を再び燃え上がらせて、信者を退かせながら『御神体』の元へとたどり着く。

 

 

そのまま…。

 

 

「…約束守れなくて、ごめんな、リコちゃん」

 

 

ーー触れる。

 

 

青い炎は少女の身体を燃やし尽くし、一瞬で骨だけとなった。

 

 

盤星教信者からは悲鳴と絶叫。拍手が鳴り止み狂乱が場を支配し、非難と罵倒、聞くに堪えない言葉の雨あられが殺到するが…。

 

 

「この痴れも…ーーがはッ!?」

 

 

「……夏油」

 

 

無表情、無表情だが…拳を握り締めて、せめてもの怒りを信者へとぶつける。

 

 

呪力での強化もせず、淡々と幹部らしき男の顔面を殴り続けて…。

 

 

「やめとけ、苛立ちで殴るくらいなら殺した方がいい」

 

 

「……殺したほうがいい、ですか」

 

 

「ひっ」

 

 

「……なら、死ぬべきは自分かもしれませんね」

 

 

 

 

感傷に浸る、傷が膿み、心が腐りかけそうだ。

 

 

 

 

やるべきではないとを理解しているが、今ここにいる全員を殺しても、きっと何も感じない。

 

 

 

「…悟ならどうするんだろな」

 

 

 

はは、まぁきっと…今の私と同じことを言いそうだな。

 

 

 

「……」

 

 

 

「妹紅先生」

 

 

 

「先に、帰っておいてください」

 

 

 

「先に…か」

 

 

 

「はい」

 

 

 

「帰ったら、ゆっくり休め、その後最後の手ほどきをしてやる」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

妹紅の背中に炎の翼が現れ、空を飛ぶ。遺骨を持ち帰って天井を突き破って帰っていく。

 

 

 

夏油も信者ににらまれながら、あの朦朧とした意識の中でつかんだ呪力の核心。

 

 

今なら、今ならば…もう一度、できるはず。

 

 

呪霊のストックは無い、だが結界を利用すればいい、もう分かった。

 

 

 

「死ねっ!この屑ッ!!」

 

 

「教祖様を離せ!!」

 

 

 

…そうだった、ずっと『猿』を掴んだままだった、汚いな。

 

 

 

「先生の術式、初めて見たな…」

 

 

 

男を殴り捨て、そして手印を組んだ。

 

 

 

もう、後には戻れない。

 

 

 

 

「領域展開」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

「……」

 

 

 

「傑」

 

 

 

暗い通路を抜けた先には、静かに傑だけがたたずんでいる。

 

 

 

「無事だったんだね、悟」

 

 

「まぁな、元気ピンピン」

 

 

「戦ってきたのかい?」

 

 

「襲撃してきたアイツとな、終わらせてきた」

 

 

「そうか」

 

 

 

『何か』が変わっていた。

 

 

 

「随分と変わったね、一瞬悟じゃないかと思ったよ」

 

 

「そういうお前もな、誰かと思ったわ」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「「ふっ……ハハ…」」

 

 

「帰ろうか、悟」

 

 

「そうだな」

 

 

互いに何かを察しているが、何も言えない、言わない。

 

 

それが、2人の青春を薄氷の上で守っている。

 

 

「……そういや、もこせんの遺体が無かった…これから探しに行くけど、傑は?」

 

 

「妹紅先生?なら普通に私を助けて帰っていったよ?」

 

 

「……生きてんのかよ」

 

 

「何、死んでいる所でも見たかい?悟」

 

 

「どう考えても死んでるところ、見たんだけど?」

 

 

「まぁ妹紅先生なら何があっても不思議じゃないさ」

 

 

「…はぁ…それもそうだな」

 

 

未だに無茶苦茶な自分達の教師を思い浮かべると、胸の中のわだかまりが…ほんの少しだけ解けて、軽く…『とある愚痴』を漏らす。

 

 

「悟、実はね…呪霊を球にした後、アレを飲み込んでるけどさ」

 

 

「うん」

 

 

「ゲロを吹いた雑巾を飲み込んでるみたいな味がして、結構胃に来るんだよね」

 

 

「ははは!味知ってるってことはwゲロ吹いた雑巾飲み込んだことあんの!?」

 

 

「イメージしやすくいうと、牛乳拭いた雑巾を放置した後、それの匂いをおかずにおにぎり食べてる感じかな」

 

 

「おっ…えーーッ!!俺、流石にそれは無理だわ…呪霊飲み込んだ後、なんか飴でも食うか?」

 

 

「頼むよ…本当にきついんだ、味をごまかせる甘いやつでお願い」

 

 

「了解、任務のときはお前も持ち歩いとけ、てかそれならサッサと言えよ」

 

 

「はは、それも…そうだったかもしれないね」

 

 

 

2人、黄泉路を歩いていく。

 

 

振り返ることなく、眼を合わせることなく、内面を暴露して…互いに裸の姿へと。

 

 

そうしなければ、今すぐにでも壊れてしまいそうだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い地下室で、大の大人の裸と向かい合っている。

 

 

 

「起きろ」

 

 

顔をぺちぺちとして、一途の望みにかけてみると…。

 

 

「ん…あぁ゛?」

 

 

「お前、ほんとにバケモンだな」

 

 

起きた。あそこから復活するとは思ってもいなかったが…。

 

 

流石、因果の超越者といったところか。

 

 

「お前かよ…寝覚めに見たくねぇよお前の顔なんて」

 

 

ここは羂索ハウスの地下、色々隠しておくのに便利だから使わせてもらってる。

 

 

「報酬受ける前に死んでもらうと後味悪いからな」

 

 

「自分の生徒ごとターゲットを殺していいなんて言うお前がか?」

 

 

「……夏油があそこまでやれるとは思ってなかった」

 

 

私が駆け付けた時にはすべてが終わっていた。死んでしまった天内に、ボロボロの夏油、腕だけになった黒井。

 

 

『先に言っておくが、俺じゃねえぞ』

 

 

『分かってる、夏油と…理子ちゃんは形だけでも直す、盤星教に二人とも運べ』

 

 

『殺さなくていいのか?確か……あぁそうだ、術式が欲しいだとかなんだとか』

 

 

『…【見えた】からな、別にいい』

 

 

そしてあの時、見えてしまったんだ。

 

 

蓬莱の薬を飲んだ私だけが認知できる、呪いの循環の因果、その行き着く先を。

 

 

満足そうに五条に殺される、アイツの姿を。

 

 

「お前も立派な化け物だったてことだな、何を見ているかは知らねえが」

 

 

「…ここの家主はよく働くやつだからな、この因果に持ち込んだ時点で仕事は終わった、後は干渉もしないし傍観するだけだ…お前っていう暇つぶし相手も手に入れたし」

 

 

「……はぁ?もう今後一切お前みてぇな奴とは…」

 

 

「契約書、ちゃんと読んだか?」

 

 

「……」

 

 

「40億を払いきるには、あと二年はかかる…ゆっくりと送金していく形になるからな」

 

 

「…………しくった…」

 

 

「毎日の約548万円、ゆっくり使ってけ」

 

 

 

 

酷い話だが、ここにて…史上最悪の『お友達』が出来上がることになった。

 

 

生徒を置いて、少女を犠牲に、必要な犠牲であるものを全て差し出したんだ。

 

 

『何を捨てて何を選ぶか』

 

 

それはアイツに倣った言葉でもある。

 

 

「置いてかれもしない、置いてきもしないさ」

 

 

策略と謀略は、誰にも知られずに闇の中へ。

 

 

その夏は多くのものが失われた。

 

 

そして、ある怪物が産まれた日でもある。

 

 

 

 

【特級呪詛師 夏油傑】

 

 

 

【2007年8月、呪術規定9条に基づいて呪詛師として処刑対象となる。盤星教信者187名殺害、その後呪術高専教務者、藤原妹紅との戦闘後逃亡、本校の9割の破壊】

 

 

【2007年9月、■■県■■市 旧■■村住民112名が死亡、呪力の残穢から夏油傑と断定】

 

 

【2007年10月、■■県■■市 都心での小規模なテロ行為 市民79名が死亡】

 

 

【2007年■月、■■■■■■■■ 3■名死亡】

 

 

【■■■■■■■■■■■■■■■】

 

 

 

 

【主犯 夏油傑 未だ存命】

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