「ご馳走様!それじゃ帰る!」
「……帰り道事故るなよ、朝まで飲んでたんだから」
「だいじょーぶだってー!」
「お主の馬鹿さ加減もここまで行くと呆れて物が言えんわ、儂が車で送ってくから大人しく待っとれ」
「…なんかごめんな、マミゾウ…」
伊吹がふらふらと酔っ払った状態で歩き出そうとするので、無理矢理抑えて背中に背負うとそのまま眠ってしまう。
朝までずっと飲んでたから死んでしまわないか心配だけど、流石に鬼は凄いな。
「……ねみ」
「ほれ、車」
「おお…葉っぱが車に…」
脳をチリチリと焼いていると、マミゾウが葉っぱを投げ捨て車に変化させた、そして伊吹を後部座席に放り込んで背伸びをする。
「それじゃ気をつけて」
「分かっておる、飲酒運転には引っかからんようにするさ」
手を振って見送り、脳を焼き続けてリザレクションが完了すると眠気も酒気も消し飛んだ。
「……」
部屋に戻り、じいさんから貰った遺言状を開いて内容を再び確認する。
《悠仁を頼んだ》
「……」
「…頑固ジジイだな、ほんと」
あの人はきっと私が人外である事にも勘づいている、羂索相手にも察していた人だ、その上で…。
「頼む、か」
死人の遺した言葉、そこにどれだけの意味があるだろう。
現代ではそれこそ、もう二度と会話する事の出来ない相手との最後の対話、尊ばれ尊重されるべきもの。
だが、それはどこまで言っても死人の言葉では無い、遺した言葉だ。
完璧な意訳はされず、対話という形は取れない。幾らでも歪曲でき、裏切る事ができ、そしてまた信じる事も出来る。
故に遺言は、そこから死人の心を取り除いた言葉でしかない。
そこにどれだけの想いがあったとて、言葉以上の意味を読み取ることは出来ない。だからこそ遺言状とは長々しく、伝え切りたい事を多く描き述べる、それなのにこの短い文。
「分かった」
「呪いとして、受け取っておくさ……悠仁は任せろ」
「命位までは、なんとかな」
遺言状を燃やす。
これでもう、遺した言葉は私の中だけだ。
「なら、これから老人共の所に行ってくるの?妹紅」
背後から聞こえてくる声は五条のだ、振り返れば寝ている伏黒を見つめつつ目隠しを外している。
「五条……起きてたのか、まぁ行ってくるよ」
「…そっか、それと…あんな不思議なお客さんが居れば起きちゃうさ、何者?あの2人」
「長年隠居した老人さ、妖怪ババアみたいなもんだ…居るだろ?本家にも時々何年生きてるんだって老人」
「……まぁね、妖怪って響きがよく似合ってるよ」
床でぐーすか寝ている虎杖を持ち上げて、ソファーに寝かせた後、頭を撫でながら話す。
「なぁ妹紅、これから高専の事裏切る予定って…ある?」
「ある」
さらっと交わされた衝撃の言葉、五条の表情はピクリとも動かないが、頬杖を付いて少し考え込む様子をみせた。
元々分かっていたのか、焦ってはいない。
「あの2人に関係ある?」
「ない、とは言えない…分からないことが多い」
「妹紅の意思?」
「殆どは」
「協力者、居るんだ」
「居るぞ、熱狂的ファンがな」
淡々と交わされる会話、五条の目線は伏黒へ、妹紅の視線は虎杖に。
「…嘘は言わないんだ」
「……」
「嘘をつく私は、美しくないからな」
「ははっ、何それ」
「なぁ五条今の私の格好、どう思う?」
「う〜ん、アニメから飛び出してきた?って感じ」
「そうだろ、可憐で美しくて、儚い少女に見える」
「…本当に急にどうした?」
「馬鹿、私だって乙女だ…オシャレしたら褒められたいに決まってるだろ?だからモテるのに相手作れないんだお前は」
「おwとwめw……お、おしゃwれ…w…イデッ!」
五条の頭を叩き、それ以降は互いに黙ったまま。
固く重い沈黙ではなく、やれやれ…と笑いと呆れが混ざったものだ。
「それじゃ、行ってくる」
「…ちゃんと、戻ってこいよ」
「あぁ」
■
その後、昼下がり
呪術高専 東京校
「てな訳で、君…死刑ね!」
「え?」
大量の呪符と結界、そして拘束具を取り付けられた虎杖はそう宣言される。別にあの後気絶させられた訳でもなくて、トコトコついて行ってからこんな事になっているのでアホ面をさらけ出しているのだが……。
「うぐっ…ひぐっ…すまんかった悠仁…私の力及ばずで…」
「ええぇぇ…?」
更に対面では妹紅が泣いており……泣いて……ちゃんと泣いてる?
「なんてな、ちゃんとガキ共に言い聞かせてきたから、死刑は延期だ」
「なんだよ!も〜…って…延期??」
虎杖悠仁に言い渡された判決、それは両面宿儺の指20本全てを取り込んだ上での処刑。
1000年に1度現れるかどうかの特級呪物の適合者である虎杖悠仁を、易々と処刑するには勿体ない、年々力を増している両面宿儺の指はこれからの未来には邪魔だ。
それ故に老人達が妹紅の提案により決定したのは、今すぐにの処刑では無く、全てを取り込んだ上での処刑。
「そして、期限は無い」
「…!それってつまり…」
「そう!これから悠仁は指を全部取り込むまで……つまりは取り込む事は強制されてるけど、それまでは手出しされないって事!どうやってこんな事を老人達に決めさせたのかは分からないけどね」
「だから悠仁、すまんが呪術高専に転入してもらう」
「…分かったよ、もこねぇ」
「………も、もこねぇ…グエッ」
もこねぇという単語に反応して吹き出した五条をぶっ叩きながら、いそいそと虎杖に渡さなければいけないものを準備する。
これからは私が上がる舞台は無い、五条の手に委ねるからな。私はあのじいさんの遺言を、『命』を頼んだ、と解釈した。
だから、ここに私は要らない……本当に必要になった時にしか現れない。
でもほっぽり出してサヨナラも悪いからな、『アレ』を渡しておく。
「悠仁、これを渡しておく…高専に入学したら読め」
「何コレ?」
手渡されたのは分厚い本。
そしてその表紙には……。
『もこたんの!今日から始める呪術生活!』
「「……」」
「自信作だ、知人のコピーだが手直しをしてある」
「…やっぱりもこねぇって…」
「そうだよねぇ…やっぱし…」
「「変な人」」「だよね」「だね」
「……?」
幾ら呪術師でも、愛しく育ててきた子供の処刑方法が決まった後に、こんな気の抜けた表紙を手作りだと言って渡す……なんて、非常識というか抜けてるというか……。
その辺に気づく事無く、ニコニコ夜なべしてガイド本を作っていた妹紅には、預かり知らぬことではあった。
■
《はい、はい…分かりました、はい……骨壷は埋葬せず海へ撒きに行きます、翌日にですね、はい……分かりました、失礼します》
携帯を切り、家のソファーに寝っ転がる。
「…よしっと、当日には悠仁も連れてくか」
「……」
「暇だな」
やる事が無くなった。
暇だ。暇過ぎて死ねる。
適当に五条とでも殺し合いしよっかな……いやでも今悠仁の目の前に行くと宿儺に見られるし……。
せっかく、アイツの生得領域まで行って私に関する記憶を全て焼いてきたのに、何かの拍子に思い出されたら敵わない。
仕事は……辞める、依頼もない、呪術関連は隠居…。
「…やる事が、無い??」
「………」
「………………」
「あれ…どうやって暇な時間を…潰してたんだったっけな、私」
「…」
「少し、外出でもするか」
2000年以上続けてきた暇つぶしのやり方を、ここ最近忘れる様になってしまった。
原因は……分からないけど、分かる、そんな不思議な感じ。
きっと濃密な時間をずっと過ごしてきたからだろう、いざ皆から遠い場所に立つ、となったらどうすればいいか分からなくなっている。
「……」
外へ出て、洋服店へ入った。
オシャレした方がいい、なんて……昔の言葉に手を引かれ、色々な可愛い服を見るけれど……。
「……うーん」
私一人だけじゃ、特に意味は無かった。
途中店員に声をかけられまくったが無視しちゃったし。
血の衣装に身を包んだアイツの事を思い出す。私の炎に巻かれ、私の血で消化し、端麗な顔を振りかざしながら惚気を口にする。
『端整な顔が台無しだなぁっ!焼き尽くしてやるよ!!』
『貴方の血化粧、似合ってるわよッ!!』
よく喧嘩したものだ。
今思うと、『今』の私を構築する要素の殆どはアイツの言葉なんだよな……なんか…いやぁ……うーん…複雑。
服装も、自分の見た目や言葉遣いも……。
「……」
「…1日って、こんな長かったか?」
今まで湯水の様に溶けていた時間が、余りにも長く感じて……けれどきっとそれは一時の事だとは思ってるよ。
ほんの少しだけ私も変わったのかもしれない、いつかは元に戻るだろうけれど……なんだか不思議な感覚だ。
「…今日はもう、帰って寝るか」
思い出せはしないが……なんとなく、毎日こんな感じで過ごしてた気がする。寝ては起きて、起きては寝る……ダメダメな生活。
「は〜あ、けんじゃく〜……ひまだよ……早く…輝夜を殺させろ…」
グチグチと言いながら帰路についていると、携帯の着信音が鳴った。
五条からのメッセージだ、依頼か?仕事か?悠仁の事か?それとも宿儺?
《恵が任務先で失踪した》
「……」
「本当に、お前らと一緒に居ると退屈しないよ」
朝、遠方任務があると言って新幹線で長野に向かった伏黒が失踪したとの連絡が入る。
まぁ…流石に面倒を見に行ってやるか、甚爾も事態が始まる前に任務で命を落としたなんて知ったら気を病みそうだし。
「えっと行先は……」
メールの本文を確認する。そこに載ってあったのは…。
「諏訪大社、か」