昔からこの守矢神社の神様と毎日を過ごしていました。
学校に寝坊しそうになった時は身支度をしてくれたり、毎日一緒にご飯を食べたり……2人は私にとってお母さんのようなものです。
幼い時からすぐに本当のお母さんとは……私の役職のことを聞かされてお別れすることになりました。
『貴方は特別な子』
『神に賜りし祝福を宿す現人神』
『私達が何世代に渡って追い求め続けた風祝』
『早苗、早苗……神の子、神の特別な子、奇跡の子』
『特別な貴方は、特別な場所に行かないとダメなの』
小さい時は何も……事情が全部わかるわけじゃないですからね、悲しかったですし、苦しかった。
その後はここ、我が家の神社…というより、神様お2人が…あ、名前は教えてあげませんよ?私だけに教えてくれた家族の絆なので!
…それでですね、ここは神様が住むために作った特別な結界の中だったので、友達を作れても色々大変でした。
私の家に来たいという友達を追い払うのも苦労したんですよ?
昔の幼い私は2人が見えることが普通だと思っていたし、2人の事を友達に告げたら…いじめられたことも多々あります。
「でも2人はずっと私を支えてくれていました……昔のことですが、私も2人に心のない言葉を言ってしまったこともありました」
「ずっと1人だった私のことを見守っていてくれたのに……『私はずっと1人だった』…なんて言っちゃったり…」
うさぎを撫でながら、昔の事を思い出して目を細める。
「まぁ!紆余曲折あって仲良くやらせてもらってるんで、心配しなくて大丈夫ですよ〜」
「……」
「大丈夫じゃないのはこっちなんだよ……はぁ…」
ケロ
東風谷早苗、こいつは、単なる女子高生なのは分かる、悪意もない、というか
……問題は、こいつの話す2柱の神だ。
ケロケロ
「……そんな役職だから、そんな前衛的な格好してるのか?」
「え?まぁはい、巫女ですから…前衛的ってどういう事です?」
「……」
辻褄が合わない、早苗の話が合っているのならば、呪霊の枠を脱す想像以上の力と知能を持ってる。つまりは神霊と言う他にはないが……。
ケロゲロケロ
ならなんで俺なんかがここへ侵入できた?相手は特級仮想怨霊を超えるレベルの霊…そこに俺はどうやって入り込んだ?入り込んだ後にこいつは何故事情把握してなかった?
単純明快、コイツに把握できてない事態がある…制御できていないが結論。
ケロ
家族?母親代わり?前向きに捉えればそりゃ感動する話だろうさ、でも俺からすれば特別なコイツの血筋に惹かれてるだけの存在にしか見えない。
「先に訂正しておく、俺は風祝の末裔なんかじゃない…呪術師だ」
ケロケロ
「はい?呪術師?」
「お前に伝わりやすく言えば退魔師、だな……人の負の感情、『呪い』が形を持った呪霊を祓ったり、その負の感情を浄化したりする人間だ」
「おお!なんですかそのカッコイイお仕事は!」
「……呪霊は様々な手段で人を襲う、呪いによる呪殺、自らの糧になる恐怖を得る為に人を喰い殺したりな、日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10000人を超えるが、その殆どがこういった『呪い』の仕業だと考えていい」
「人と人の互いの負の澱みによる場合もある、取り敢えずこんな感じに大まかに把握していてくれ」
「はい!分かりました!……でも、やっぱり本当に私が最後の現人神なんですね…」
俺には見えない。モヤモヤとした何かに話しかける早苗。ここまで領域の中に踏み込んで姿すら見えない相手に無茶はしたくないが…。
ケロケロケロケロケロ
「……東風谷…この記事の事、知ってるか?」
伏黒が携帯の画面に映る諏訪大社近辺で発生した事件の記事を見せる。
「神隠し……怪奇現象…ですか、しかもこの辺りで…物騒ですね」
ケロケロケロケロケロケロ
「……っ…この…事件が発生している…箇所を調べてきた…」
「呪術の痕跡は無かった……怪奇現象が起きた現場にもだ」
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ
「
「代わりに現場に残されていたのは……」ケロケロ「■■■だけで……」ケロケロケロケロ「クソっ……言いたいこと、分かるか?」
現場に行ってからずっと視線を感じていたんだ。
3つ目の神隠しの地点へ向かった時、気づけば数十匹の■■■がこちらを見ていた。
聞き取り調査でも同じだった、神隠しや怪奇現象が起きる現場には不自然に■■■が発生してたんだよ。
「…?いや、全然…というか、顔色めちゃくちゃ悪くなってません!?大丈夫ですか?!」
「……俺はな、目的があってここに来た訳じゃない……何かに…引きずり込まれて来たんだ」
「気配も無く、呪いの痕跡も呪力の起こりも感じ取れずにここへ連れられた…」
そしてここに来て、俺に話しかけてきたアイツ…。
「この記事の『神隠し』と俺の身に起きた事は似ている」
「……っ!?え、ちょちょ、待って下さい!伏黒さんは…その…」
「ああそうだ、頼む、1度でいい……お前の信仰してるその神に聞いてくれ…!」
「何の為に俺をここへ連れてきた…!」
「またまたそんな…■■■様がそんな事する訳無いじゃないですか……だって、この記事に載ってる人はまだ帰ってきてないって書いてますし…■■■様が神隠ししたっていうなら、守矢神社の何処かに居なきゃおかしくないですか?」
そうだ、あぁそうだよ!おかしいよな…!
七海さんからよく聞かされたよ…!信仰が関わる調査に就く時は絶対に警戒しておくべき事…!!
「東風谷…『土着神』って知ってるか?」
「え?えぇまぁ、だって■■■様の…ーー」
「っ、いいかよく聞け…!土着神は」
ケロ。
「……ん…?あれ、伏黒さん?」
「伏黒さーん?あれ……いつの間にか消えちゃって…あれれ」
瞬きをした瞬間に、目の前の伏黒さんが消えてしまいました。
「早苗」
そして後ろからは、私の聞き慣れた家族の柔らかい声が。
「んむむ…む?どうかしました?神奈子様」
「少し、話があるんだ」
いつも一緒に生きてきたからこそ、気付けることもあります。
「…神奈子様?」
どうして、そんなに悲しそうな顔をしているんですか…?
■
ーー長い話し合いが終わる。
「………」
「守矢神社を、捨てる?」
ずっと一生一緒に生きていくと思っていた。
「あぁ」
「そ、そんな!!どうしてそんな事…」
涙を流してしまう、移住じゃなくて、捨てる?そんな言葉を神奈子様の口から聞いたからだろうか?
更に神奈子様の憂う表情は弱々しく、苦虫を噛み潰したような顔になって行く。
「それに、私達ともお別れになる」
「え………?」
「早苗を置いて話し合って済まなかった、だけど早苗の為に2人で決めた事なんだよ」
余りの衝撃に息をすることすら忘れて、身体を固まらせてしまった。
お別れって行ったんですか?2人と?なんで…?
「2人で決めたって…!わ、私達は家族じゃなかったんですか!!そんな、急にお別れって…!!そんな事を私の為に、なんて言わないでください!」
2人と別れる事が私の為になる?そんな訳ない、どれだけ神奈子様と諏訪子様に支えられて生きてきて、どれだけの幸せを共有して…!
「……早苗は優しいから、絶対拒否すると…思ってたからさ…」
「せめて!せめて理由だけでも…!!」
「…ごめんな、早苗……それも…言えない、大丈夫、これから早苗は1人でも生きていけるさ、私達っていう縛りも無くなる」
「っー〜!神奈子様っ!!」
神奈子の放った言葉が早苗を突き放していく、早苗が2人に対して思った事も無い『縛り』という言葉を自ら使い、追い出す様に…。
それを分かっているのか、早苗が泣き腫らしたまま神奈子の胸へと飛び込んでいく。
「駄目だ、言えない、ごめんね早苗」
優しく頭を撫でる手、宥めるような声、涙をこらえる様な顔をして早苗を抱き締めた。
「少し、急かもしれないけど……お別れだ」
「嫌です!!」
「ごめんね」
「いー!やー!でー!すー!!!!私の!私の力でどうにかします!私の奇跡の力があればっ!!だから理由を教えてください!何がお2人を思い詰めさせてるんですか!?」
駄々をこねる子供のように……ううん、まだ早苗は子供だったな。
「これからは、早苗も大人の仲間入りだ…後のことを任せている人もいる、しっかり頼って、しっかり育つんだよ」
「神奈子さまぁぁ………な、なんでなんですかぁ…!!お別れ……なんでお別れしなきゃ…ーー」
ポカポカと神奈子の胸を叩き、ぐしょぐしょになった顔で神奈子と向き合った瞬間。
守矢神社が……ーー
「八握剣」
崩壊する。
「異戒神将」
そこで早苗が目にしたのは、巨大な白い化身と…。
「魔虚羅」
「あ譁?ュがと怜喧縺…くん…」
「すわ……こ……さま……」
黒い泥に塗れ、怪物に変わり果てた愛しき家族の姿だった。
・八坂神奈子
古の戦神、神霊に属する存在。守矢神社の祭神の一柱でありそして日本の神道の神である。本来は風雨の神であるが………。
・洩矢諏訪子
古の■神、山の神であり、古代に『ミシャグジさま』と呼ばれる土着神として祟り神達を束ねていた八百万の神である。