「どうも、夫の虎杖仁です」
という訳で、誘われるままに御自宅に案内してもらった。
「あ、あぁ…丁寧にどうも、藤原妹紅だ」
一言、一言良いか?
羂索、お前マジで気持ち悪いよ。
「香織のご友人にこんな美人な方が居るとは知りませんでした……妻は滅多に友人関係を築かないもので、わざわざ今晩はありがとうございます、晩御飯位なら食べていって下さい、妻も喜びますので」
「も〜仁さん?奥さんの前で妹紅ちゃんの事美人なんて言わないでよー」
「ぐっ……プルフル…」
「あはは、ごめんごめん」
コイツッ…!笑い殺しに来てるだろ…!?
「有難く…お邪魔させて貰うよ、仁さん…今晩は宜しく頼む…」
「うん、ゆっくりしていって…特に香織は今妊娠中だから、色々話す事もあるだろうし、私は席を外しておくよ」
「気遣い出来るいい男、ほら去った去った!」
「はいはい、何かあったらすぐ呼んでね、香織」
そのまますたすたと自室に戻って行った。
「ぶはぁっ……お前…マジで、殺す気か…!?!?」
「どんだけツボってんの……そんなに私の事が面白い?」
「何から何までキショオモロすぎるぞ馬鹿が、今度M1行ってこい、優勝もぎ取れると思うからさ…!」
「手厳しいねぇ…」
本当に最悪だ、最悪中の最悪、コイツが人間そのものを弄ぶ性質なのは分かってるが…度を超えすぎだ……!魂を見て分かった…!
コイツ、宿儺の片割れ…その産まれ変わりとの間に子を産んでやがる!!
「アイツとはもう会わないって言ったのにさ、これじゃ再会(最悪の形)がいたたまれなさ過ぎるって…」
「いーや?この子を宿儺にするつもりは無いよ、あくまで器だ、それよりも妹紅、どうだい私の夫は」
どうだい…って言われてもなぁ…。
「いい男だろ?目的と計画が根本にはあるけど、この体を手に入れた後は私の感性で『ビビーんッ!』と仁さんにアタックしまくったんだよ」
「wwww…くっ…w…わ、分かった、分かったから1回その乙女顔辞めろ…!話が…出来ないって…!」
「人の純情を笑うもんじゃないよ、妹紅…それにここに来てもらった理由もダラダラ話す以外無いからね」
「純情…クソッ!本当に…お前嫌い…ふぅ…ぐふっ…ふ、ふぅっ……ダラダラ話す以外無いって、じゃあ酒出せよ酒……あダメだコイツ妊婦だった…」
「虎杖悠仁……お腹の子の名前だよ、以後宜しく」
「ぶふぅっ!゛?゛…そのお腹さするの……二度とするな……」
……うがァァーー!!!もうコイツ土に還れよ!存在自体が気持ち悪いとギャグの塊じゃねぇか!!
…辞めろ、エプロン着て台所から惣菜持ってくるな面白すぎる。辞めろ、オタマを使って味噌汁入れんな、泣くぞ?そろそろ。
「はい茶碗、ご飯は自分でよそってね」
「あ、ありがと……」
「何年振りかなぁ、こうやって話を交わしてご飯つっつきあうの」
「…あ〜…丁度千年辺りじゃないか?お前みたいなクソ野郎、そうそう出会いを忘れられないし」
「まぁ多分それくらいになるよ、今でも思い出せるさ……君とお酒を交わしあった日々、つまらない現実が覆る予感がしたあの日を」
「覆るて、なんでさ、私はお前好みの奴でも無いだろ?」
「…………」
「宿儺の方がよっぽど『覆る』が似合ってると思うが」
「あぁ、確かに宿儺は最強だ、君の前だと『揺るぎない』とまでは言い切れないけどね……『呪力の可能性』という点に限っては君を超える逸材は居ない」
「それは君自身が一番理解してるだろう?藤原妹紅、【幻想の不死鳥】」
「……まぁな」
「肉体が全て燃え尽き、肉と称せるものも骨と称せるものも全て失っても、魂からその身を復活させる、完全なる不老不死……この世界で最も呪力の核心に近い存在が君だ」
「お前も似た様なもんだろ、身体取っかえ引っ変えしやがって、未だに私の頭にお前の脳みそぶち込まれた事覚えてるからな」
「アレは不思議だったよねぇ〜…魂に関連する私の術式と、最早魂そのものが術式、領域とも言える君との衝突は…本当に酷い結果になったよ」
「引き剥がすの……大変だったな…」
羂索との出会いに関しては、そう多くを語ることは無い。なんてったって特別な事情も特に無く、普通に旅先で出会っただけだからな。私の本家は藤原、相手側もある程度の名家だったのかは知らないが、それでも宿が無かったから場所を借りたんだ。
初めて出会った時は……その偉い所の坊ちゃんだった。可愛いおべべを着せられて窮屈そうで苦しそうな顔をしてたよ。
そんな子供がある日、泣いてたんだ。
赤い門の外で泣き叫ぶ訳でも無く、ただただ退屈そうな目をしてぽたぽたと雫を垂らしていた。
『少年、大丈夫か?』
『…お姉さんは、誰ですか』
『泣き腫らしてる子供が心配のただのお姉さん』
『そうですか』
『…はぁ…ったく…少し、時間を借りるよ』
『え?ちょ、おわッ!?』
『この世界が退屈で堪らなそうにしている少年に、その先輩から暇つぶしのプレゼントだ』
その時に背中に乗せて平安の空を飛んであげたんだが……それが不味かったんだよなぁ…。
『お姉さん、名前を教えてよ』
『ん〜?遊覧してるだけの暇人だ、名前はお姉さんでいいさ』
別れの時に名前を教えなかったのも、原因だったのかもしれない。
〜10年後〜
『お姉さん』
『……』
まぁ逃げたな、怖すぎたし。あ、ご飯は奢ってもらった。
〜30年後〜
『お姉さん、名前を教えてくれないかい』
『……』
まぁ、飛んで爆速で逃げたな、目ガンぎまってたし。あ、ご飯と宿と酒は奢って貰った。
〜100年後〜
『お姉さん、宿儺と戦ったのか…私も見たかったな』
『…藤原妹紅だ、次からはそう呼べ』
『…!!』
『あぁ、妹紅……分かったよ』
この時に既に、肉体を入れ替えていた。
こんな感じ、つまりはやべぇ奴なんだよ、コイツ。正直妊婦の見た目で笑かされてはいるが、一ミリも本当は関わりたくない。
何度かストーカー中に殺されかけたし、殺された。泣きながら攻撃してくるもんだからびっくりしてな、領域内でボコボコにされたりもした。
でもまぁ、私の不老不死は魂そのものに由来している。術式を焼き切れる領域展開なら殺せると思っていただろう羂索の、私が普通に生き返った時の顔は面白かったぞ?
「日本酒位なら出せる、妹紅だけでもいいから飲んどきなよ」
「いや、悪いから大丈夫だ……酔って欲しいってなら別だけど」
「君ぃ…酔ってもすぐ復活して酒気飛ばすじゃないか、勿体ないって」
「仕方ないだろ、気持ち悪いの苦手なんだから…」
…本当に何もする気が無いなら良いんだがなぁ……。
「二千年の暇つぶしに関しては、またこの子が産まれてから話すよ…今日は、ゆっくりしていってくれ」
「……分かったよ、それじゃ烏龍茶だけど…」
互いにコップを向け合う。
「「乾杯」」
■
〜数十年後〜
とある大企業、その会社のビル中で、社員全員が震撼した事件が起きた。
オフィスのデスクに突っ伏したまま、紙パック牛乳を啜り、起こされながらも眠っている可憐な白髪の少女。その手には退職届が握られている。
藤原妹紅その人の、引退の時間だ。
「えぇぇぇっっ!?!?藤原先輩辞めちゃうんですか!?」
「あぁ、婚期を逃した仕事人間も、そろそろお役御免って事だよ、お前にも先を越された、仕事詰めしなくてもここはホワイトだし、成長し切った、本当に役目は終わったんだ」
「…藤原先輩、この会社務めて何年でしたっけ?」
「あ〜…まぁざっと40年位だったか?端数は覚えてない」
「(どう計算しても56歳以上が確定してるよね??見た目若すぎない?)」
「…なんだ、変な顔して」
「い、いやぁ…藤原先輩ならどんな男にでも言い寄られると思ってたんですけど…」
「はっ、50過ぎのババアに結婚してくれなんて申し込む奴なんかいないさ」
((( その見た目で……?? )))
「この人鏡見たことあるかなぁ!?……そうだ、社長さんとは話し合って決めたんですか?藤原先輩、社長さんとよく話し合いを重ねてたし…」
「ん、その事何だけどな……決めたんだ」
「……ぅう…そうですか、寂しくなりますね…藤原先輩の面倒を見る係なんて、後期になってから一生私でしたし…」
「あぁ、本当に助かったよ…ありがとうな、友里恵…楽しい毎日だった、これで心置き無くアイツに社長の座を渡せる」
「そうですね、これで藤原先輩も………え?ん?今なんて言いました?」
「アイツと話し合って、完全に社長の座を明け渡した」
「…………」
「え…」
「藤原先輩って………その……え?」
「あぁ、そうだった…ドッキリ企画も昔思いついてたんだったな、一応会長であり社長の藤原妹紅だ、寿退社でもうさよならだけど」
「「「「ぇええええええ!!???」」」」
「それじゃ、お疲れ様だ……皆これからも頑張ってなぁ〜……失礼します…」
「「「ちょっと待って下さい!?」」」
「安心しろ、社員全員が揃って有給取って無人になっても大丈夫な位の会社だからな、それとお前らのおかげで数十年は満喫できた」
「何かあったら私を頼れ!」
「……そうだな、頼ってくれたその時は…」
「命位までは、全部任せておけ」