「さてさて」
ハンバーグをコネコネしながら考える。時刻は夜、晩御飯作成タイムだ。
「和風ソースか…いや、デミグラスソースにしようかな…」
「俺和風で」
「じゃあ俺デミグラス!」
「はいはい、なら両方作るか」
可愛い、子供は何処までいっても可愛い、可愛いくて仕方がない。
甘やかしたい気持ちはまだあるんだ、まだ高校1年生…1年生だぞ?
それなのに呪術師になっちゃって…はぁ…。計画の内とは言っても、流石に寂しいものがある。
なんて考えつつ、ハンバーグのタネを両手でぺちぺちと……最近はチルド商品も増えてきたけれど、まだ味が悪い。
未来になれば味も価格も良いものになるだろうから、それまでは手作りが1番だと思う。
そんなこんなで晩御飯を作っている所だが、あの後羂索とは一旦解散して伏黒を高専に返しに行った。
気絶に関しては摩虚羅出したり合成獣の使い回ししたりで呪力を使い過ぎでの疲労気絶だと説明したら納得してくれてな。
本人も気絶してしまうだろうなとは思っていたらしく、手間が省けた。
高専に送った帰り、虎杖を迎えに行ったんだが……。
「虎杖、高専入学お疲れ様」
「おう!」
「なんか色々やらされただろ、何故高専に来ただとかさ…ちゃんと答えられたか?」
「じっちゃんの言葉借りたけど、まぁなんとか」
「明日は何か言われてる?」
「六本木に行って3人目の生徒と呪霊討伐だってさ」
「気を付けてな、何かあったらすぐに携帯で電話しろよ」
「……こう見ると本当にアンタら親子なんだな」
それでな…虎杖は、寮生活を選んだらしい……はぁ…。
……。
親離れが!早い!!まだ高校生だぞ!!!?そんな悲しみを堪えながらな、晩御飯だけでも家で食べないかって誘ったら来てくれて…ついでに伏黒も誘っておいた。
「さてさてさて…」
フライパンでタネを焼きながら考える。
早苗、どうしよう。
呪術高専に入学?馬鹿言え、早苗みたいな純朴なヤツが呪術師になれるかよ…三輪と同じタイプだぞアレ。
でも入れさせなきゃいけない、総督府の動きを羂索がある程度操作出来るから依頼で早苗を自由に引っ張ってきたい場面があるんだろう。
つまりはまた計画ネチネチタイム……早苗みたいな子をあのジジババ共に見せたら何言われるか溜まったもんじゃないからな、特に禪院の出の奴は死ぬほど男尊女卑だから早苗の特異能力の究明に手を出しかねない……。
どうする?どうしよ〜……の前に、チャチャッとデミグラスソースと和風ソースを作って……。
「出来たぞ、お米は自分の適量を取れ」
「ありがとうございます、妹紅先生」
「頂きまーす!」
「ふふっ…明日の任務の為にも沢山食べろ、何か追加で作って欲しかったら言え、今日は何でも出すぞ…後今は妹紅先生じゃなくてさんで呼んでくれ、なんか泣いてしまいそうになる」
(……虎杖が関わると情緒不安定になるんだよな…この人…)
「もこねぇは食べないでいいの?」
「あぁ、ごめんな悠仁…先に外で友人と食べてきたんだ…」
「そっか…」
「ぁぁぁ…そんな悲しそうな顔しないでくれ…ぁうぁうぁ…」
「…ツッコミませんよ、俺は」
■
〜翌日〜
妹紅が足を運ぶのは、壮麗で巨大な和風の屋敷。
表門には頭を坊主に丸めた警護が、古めかしくも成形された長い木の棒を持って佇んでいる。
服装もこれまた古めかしく忍び装束を彷彿とさせる軽装であり、口元も薄い布で覆い隠されていた。
「邪魔するぞ」
「……」
門衛が棒を門の前でクロスさせ、その入場を拒否する姿勢を見せるが…それも取り繕ったものなのか、彼らは皆手は震え汗が滲んで目に入ろうが目の前の人物から視線を外す事は無い。
「あ、久しぶりだから忘れてた…直哉、呼んでくれるか?」
「……」
「それとも無理矢理行って欲しいのか、どっちかにしろ」
返答は無い、命令は聞けない。
それもその筈、ここは『禪院家』。
『禪院家に非ずんば呪術師に非ず 呪術師に非ずんば人に非ず』
という迷言を家訓とし、そして元より男尊女卑蔓延る魔境。呪術師であるかどうかよりも、女性であるならばそれすら無視される。
そして、目の前のおかしな服装をしている者がどれだけの怪物でも、女性であるのならば通す事すら許されない。
そういう家だと思い出した妹紅が歩みを進めれば、ジリジリと警護についている全員の肌を熱が焼いていきーー。
「待ってやもこちゃん、アカンでそんなカス相手に圧かけたら、小鹿みたいになっとるやん…可哀想でものも言えんて」
「お、悪ガキ…助かったよ、また潰すのも面倒だし」
「冗談やないのがタチ悪いわ、ほら、女より弱いゴミカス共は道開けや」
空から降ってきた稲妻の様な男によって、事なきを得た。
■
『骨の髄まで焼き尽くしてくれ…ーーごフッ…』
『おいおい、勘弁してくれよ…』
『く゛…そ゛ッ!!…このクソアマぁ゛!!』
妹紅が禪院家を訪れたのは、過去に3度。
1度目は御前試合、五条家当主と禪院家当主の殺し合い。
2度目は伏黒甚爾の依頼によって忘れ物を取りにいった際。
3度目は禪院真希が本家に必要な物がある、と言ったから代わりに取りに行った時。
2度目と3度目は、両方とも
「最近甚爾くんはどないしてるん?」
「呪具集めに勤しんでるよ、珍しく忙しそうにしてる」
「ほーん…で、もこちゃん何しに来たんよ」
「色々」
「色々じゃ分からんて、相変わらず脳みそ付いてるか分からんなぁ、あと何その格好、馬子にも衣装の真逆行っとる紅白服…」
「脳みそはそりゃ付いてる……この服可愛いだろ、お気に入りだ」
「言ってないし聞いてもないんやけど?」
「聞く耳持たない減らず口男には丁度いいさ、イケメン非モテ」
「……ホンマ、癪に障る女やね」
屋敷内の石畳を歩く2人。
その進行方向には、よく家事の為に走り回っている女性の姿は無い。
直哉の目の前に出てきてしまえば蹴られるか暴言の2択であるのも原因だが……今回に限ってはそれが要因では無い。この場にいるのは…。
「…なんか、面白いな」
禪院家『丙』『灯』『躯倶留隊』
禪院直毘人を除く全名が周囲を囲んでいた。
妹紅は2度の来訪により既にブラックリスト入りしており、この対応も仕方ない事。
「揃いも揃ってなっさけない…アホみたいに周り囲んで棒突き出して、馬鹿ちゃうん?」
「手振ってみていい?黄色い悲鳴でも上がるかな?」
「……俺はこのアホに負けたんか…」
禪院家は妹紅襲撃による被害を公表してはいない、歴史に名だたる『呪術』を代表する名家が、たった1人の女に負けた等という情けない報告を書く訳にはいかなかった。
故、妹紅はお咎めを受けた事が無く、そこまで気にせず訪れているのだが。
「案内ありがと…あ、そうだなぁ…またアホボケカスばっか言ってないで、暇な時は高専にでも来てくれ、私と稽古でもしよう」
「……隠居したって聞いたんやけど?」
「復帰する、それ関連の話をしに来た訳だしな」
「マジ?」
「大マジ、お前は早いからな…アップに丁度良い、それじゃぁな、直哉」
広い庭を後にして本家へと入っていく妹紅の後ろ姿を見送った後。
自分の事を『アップ』程度だと言われた直哉が顔に青筋を浮かべて、直哉のアップと称してそこに集まっていた全員との訓練が始まり、騒乱に包まれた事を妹紅は知る由もない。
■
「…本当に花屋だ」
その後、対談を終えて向かったのは守谷組が手配された家。
東京の外れ、緑が残る場所に花屋を開いていた。
店番をしているのは秋姉妹と早苗、花屋の奥の棚には吐いた覚えのある黒い蛇の人形が所狭しと置かれていた。
住所は羂索が教えてくれて辿り着けた、店の中へと入り早苗が対応しようと顔を見合せて妹紅だと気付く。
「あれ、妹紅さんじゃないですか」
「寝落ちして以来だな、早苗」
「どうかしましたか?」
「あ〜…その、なんだ…あの2人から聞いてるとは思うが…」
早苗の今の置かれている状況を一応説明しておく、その種族、体質故に呪霊を強く惹き付けてしまう事。
早苗はそれから身を守る術すら知らず、寄り付く呪霊も長く外の世界に身を晒せば晒す程強力になる。
4級、3級程度なら問題は無いだろう。だがそれ以上となれば早苗にはどうしようも無くなってしまう、幾ら凄まじい呪力と能力を有していても早苗は呪術師では無く巫女、戦いに身を置く人間では無い。
「だからな、早苗は身を守る力を身に付ける必要があるんだ」
「それって…伏黒さんと同じ様に退魔師…呪術師になれって事ですかね?」
「いや、それもダメだ…早苗は…ほんっとに呪術師に向いてないと思う」
「え〜?な、なんでですかぁ…」
「人を助けようとするからだよ」
「…?」
それは別に伏黒や妹紅もしている事で、何故それが呪術師に向いてない理由になるのか分からない表情をする早苗。
それを見て、やはり分かっていないと早苗の肩に手を置いて話す。
呪術師は、イカれてるからこそ仕事が出来るのだと。
「早苗、もし呪霊に囚われた子供、その呪霊の討伐依頼が来たらどうする」
「え…えっと……どうする…こ、子供を助けて呪霊をボコボコにします!何しやがってんですか!って」
「もしそれで上手くいかず子供が死んでしまったら?自分のミスで呪霊を逃した上に、親が待ってる子供を…『自分のミス』によって命が失われる」
「ぅ……そ、それは…その…」
「意地悪だった、ごめん、でも早苗、呪術師はルールがある訳じゃないが……それの最優先事項を履き違えちゃダメなんだ」
「そういう奴はすぐに死ぬ、自分の出来る境界線を超えて手を伸ばし続ける、呪術師は死と隣り合わせの仕事だからな」
「それは自分だけの死じゃない、家族、親族、友人に他人…その死と巡り合うかもしれない、自分のせいで、だ」
「……なるほど…」
呪術師は皆そうだ、死と隣り合わせに生きて、そして死の隣に居ながら一般的な生活を送る。
『誰がいつ死ぬか分からない』状況で冷静に判断をし続け、恐怖に染まらず戦い続ける職業なんて…。
イカれてる、としか称す他ない。
「てな感じで向いてないと思うから、早苗には私の秘書になってもらおうと思うんだ」
「……はい??秘書ですか?」
「その名も『補助監督』!私専属のな!」
「給料めっちゃ良い、私の元で働いてもらうから安全!!仕事内容は私の活動の補助、呪霊と触れ合って呪術と向き合っていくお仕事!!」
「仕事に就けば待ってるのはマンガみたいな生活だ、特別な力を鍛えて戦う退魔師達の学校!現れる強敵、そして師匠と強敵の因縁の戦いだったり……」
早苗が好きだと言っていた小説、『黒の退魔師が転生して現代日本に、済まないが俺は最強だ、〜現代退魔師の頂点に立つ〜』というラノベを前日に読んできた妹紅。
そのセリフをカンニングペーパーを見ながら話し、バーンっ!と出されたフリップを早苗に見せつけた。
「お、おぉ…!」
そしてこっちは夜なべして作った手作り案内書!可愛く面白く補助監督の道を大まかに書いてある、これで早苗もイチコロだと…いいが……。
「……」
「ど、どうだ?」
「……」
普通、呪術師のそんな説明をされてから……こんなセリフを吐かれて、その活動を補助するなんて仕事に就け等と言われれば……。
一般人は今すぐにでも妹紅が差し出した案内書をビリビリに破くだろうけれど。
「お…」
「お?」
「面白そうですね!!!良いでしょうやってあげましょう!!」
「神奈子様ーー!諏訪子様ーーー〜!!!お話がありますーー!!!」
残念ながら、この場には天然しか居なかった。