不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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接触

 

人が行き交う渋谷。都市の中心だという事もあり、皆幾らばかしは変な人間を見慣れている。

 

 

ーーが、それでも傍に近寄り難くない4人が街中をぶらぶらと探索していた。

 

 

『変』というよりは『異様』、好奇心と恐怖心が半々の……怪奇現象を目視している気分になる。

 

 

 

そんな4人が普通にお店の中に入って買い物をしている姿を見た人は、謎の安堵感を胸に抱いて、再び日常に戻り始めた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、五条先生」

 

 

 

「もこね……妹紅先生っていつから高専で働いてたの?」

 

 

 

六本木を歩く虎杖と伏黒、そして釘崎と五条。

これから廃ビルへと突入の流れとなっていて、虎杖と釘崎の呪術師としての適正を調べに来ている、それを釘崎は知らないのは……口を挟まないでおこう。

 

でもただ、真っ直ぐ廃ビルへ直進……という訳でもなくて、釘崎が六本木の出店に目を輝かやかせて並び始めてしまった事もあり、その待っている間での事。

 

 

五条が呪術について語っていた時に、ふと自分の家族である妹紅の事が過ぎった虎杖は、その呪術歴について聞いてみた。

 

 

「えー?妹紅か…妹紅はね、僕が学生だった時に就任してきた先生なんだよね…だから大体10年位かな」

 

 

「10年!?マジか…」

 

 

「俺も妹紅先生には小さい時にお世話になってたぞ」

 

 

「伏黒も!?え、待って…俺が赤ちゃんの時から面倒見てくれてたんだけどさ、今のもこねぇの歳って分かる?見た目変わってねぇんだけど…聞いても教えてくんねぇし」

 

 

妹紅の年齢、と聞いて1番表情を歪めるのは五条で…過去、年齢を聞いた時には58だとか20だとか49だとか色々とはぐらかされ過ぎて把握していないのもそうだが、『あの事』を虎杖に言ってしまっていいものかと悩んでいた。

 

 

「…悠仁はさ、妹紅とは赤ちゃんの時から一緒なんだよね?本当の親元から預けられた先って訳でしょ?」

 

 

「まぁうん、俺もあんまし両親の事気にしてないから、もこねぇが親だと思ってるけど」

 

 

「……僕、昔親友と妹紅に対して名付けたものがあるんだけど、『妹紅七不思議』っていってね…」

 

 

襲撃の件で禪院家、五条と夏油が調べようと五条家の両家が総出で藤原妹紅の身元の詳細を調べ尽くすと……出てくる出てくる隠そうともしていない経歴情報。

 

だがどう考えてもダミーだとしか思えない戸籍と、何百年も前の御前試合での妹紅らしき人物の情報等、出てくる情報の全てが矛盾しあっているという『怪談』である。

 

 

「分かった事が多すぎて、逆に全部信頼性が無くなったんだよね」

 

 

「何百年も前って……結局、五条先生が思うもこねぇの年齢って?」

 

 

「うーーん、多分400歳位じゃない?妖怪みたいなもんだよ、あの人」

 

 

「「……」」

 

 

改めて、妹紅自身の人柄や好きなこと、家族として必要最低限知っておくべき事は全て教えて貰い知っているつもりだったが、こうしてよくよく考えてみると、高専の事といい…彼女のことを本当に何も知らないまま生きてきたんだな。

 

親代わりでもある妹紅。でも別に彼女が隠していることを暴くつもりはない。ただ、言いたいことはちゃんとある。

 

 

今日帰ったらそれを伝えてみなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、現在虎杖は廃ビルの階段を上りつつ、釘崎の後追いかけていた。

 

 

「れ…しぃと ごりょ…う」

 

 

「……」

 

 

目の前の呪霊、手は鎌状で、命を奪う意思がありありと伝わってくる。

 

 

「真正面」

 

 

手を振りかぶった姿から、それが振りかざされる位置を予測して避ける…ーーなんて小細工を虎杖悠仁は必要としない。

 

 

「よし、にしても硬いなコレ」

 

 

虎杖の刃と鎌が接触し、鍔迫り合い……なんて事が起きること無い、その馬力は尋常なものでは無く、呪霊を一閃に切り伏せる。

 

己が持っている馬力を使って壊れなかった刃物は初めてで、呪具というものの実用性に感心した虎杖。

 

 

「気配はこの上か」

 

 

五条から言い渡された低級呪霊の討伐、妹紅から渡されたガイドブックには、都市の呪霊は知性持ちが多いと記載されていたので…少し心配。

 

だから、1人で突っ走って前に行ってる釘崎に何かあるかもしれないと、五感で、この廃ビルの違和感に向かって階段をかけ登っているけれど……ここまで真っ直ぐ走っているのにも理由がちゃんとあった。

 

それは甚爾と伊吹さんに鍛えられた甲斐が出たと言ってもいいだろう。呪力を用いずとも素の肉体に伝えられてくる情報である程度の呪霊の居場所は把握できてしまうのは、虎杖の訓練の成果か。

 

 

「…ここら辺だな」

 

 

あの時感じた『呪霊』という存在の気配をこの壁の裏から感じる。

 

 

「鉄筋コンクリートじゃないから手加減しねぇと…」

 

 

未だ呪力自体は、自分で把握しきれておらず、ただ湧き上がる強い感情を拳に乗せるいつも通りの喧嘩闘法で拳に力を込める。

 

 

ーーブンッ、と振りかざされる拳。

 

 

そこから発せられる音は凄まじく最早『殴る』という行為から発せられる音の限界を超え、虎杖の肉体は鋼鉄の鞭が空気を割いたかのようにその性能を発揮した。

 

 

「ふんッ!」

 

 

「ーー丸腰だ…って、虎杖!?」

 

 

拳が突き抜けた先に待っていたのは、子供を人質に取られ、金槌を手放している釘崎。

虎杖には呪霊に対する慈悲の猶予も一切無く、その命を斬り殺しに掛かる、渡された呪具『屠座魔』を本気の力で振ってしまえば壊れてしまうので、6、5割の力で肉の筋に沿わす形で呪霊の身体へ滑り込ませる。

 

結果、呪霊の右半身の中心を両断、右手右足を失なった呪霊。

 

伏黒甚爾の武道の教えは、共に強靭な身体を持つ虎杖にとって至上のものであった。

 

 

「ギョェァアアァァァ!!??」

 

 

が、しかし…逆に上手く切れすぎたのが災いして切り抜けた後に腕が外側へと大きく跳ね、二撃目を切り返せずに呪霊が窓を破って逃げてしまう。

 

呪霊が見えない子供を最優先に身体で庇い隠したのも災いしたか、逃がすかと屠座魔を投げようとするのを…釘崎に止められた。

 

 

「大丈夫だ虎杖…それと、助けてくれてありがと、ここからは私がやる」

 

 

「おう」

 

 

金槌を拾い上げ、分かたれた手と足に釘を打ち込んだ。

 

 

『鄒霊呪法』釘崎野薔薇の術式発動条件が満たされる。

 

 

「ふぅ……ーー共鳴りッ!」

 

 

魂への直接攻撃、肉体の一部を通じてその者の魂へとダメージを反映させる呪術である。

 

呪霊は半狂乱になりながら逃亡するが、その狂乱の中で……何も分からずに、祓われた。

 

その死体が消えかかりながら五条と伏黒の目の前へと落下する。

 

 

「いいね、ほらイカれてた」

 

 

「…そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田舎が嫌で東京に住みたかったからな、お金のこと気にせず上京するにはこうするしかなかったの」

 

 

「そんな理由で命懸けられんの?」

 

 

「私が、私である為だからな」

 

 

「虎杖のお陰で皆んな無事だった、私が死んでも、私だけ生き残っても明るい未来はなかったから…もう1回言っとく」

 

 

「ありがと」

 

 

 

釘崎は、なんて言うんだろ………強い?

 

芯が硬くて強い、自分が自分であるために、なんて言える奴も少ないし…俺にはそうは言えないからな。

 

 

俺はただ、ずっと迷ってるだけだ。生き様で後悔はしたくない、なら死ぬ時は?

 

 

死を前提としたセリフを夜蛾先生に吐いたけど、でも俺は…。

 

 

 

「じゃあな、もう1人でこんな所来んじゃねぇぞ?」

 

 

「うん…ありがと、お姉ちゃんとお兄さん」

 

 

「気をつけて帰れよ〜!」

 

 

子供も怪我無かったし、確かに明るい未来って奴を掴めた事は確かだと思う。

 

 

「お疲れサマンサー!」

 

 

「五条先生!」

 

 

「おい五条!ちゃんと銀座のシースー連れてけよ!?」

 

 

「もっちろーん!まっかせっなさーい!…うん、怪我も無さそうだ、本当にお疲れ様、2人共」

 

 

 

甚爾さんは軍人だと聞かされた、死と隣り合わせの人間、だから聞いた事がある、怖くなかった?って。

 

『そんなの知らねぇ』って言われた。知らないってなんだよってもっと小さい時は思ってたけど…今なら少し分かる。

 

本当に、知れはしないんだ。

 

 

 

「伏黒毎日こんな事してんだな…凄ぇよ」

 

 

「それが呪術師だからな」

 

 

 

恐怖を抱く事は、自分の命を守る事。痛みや恐怖は自分の生命の維持ライン。

でも、軍人や呪術師は命を『使う』仕事だ。

だから何に怖がればいいのか知らないし、そのラインも意味を果たさない。

 

 

「それじゃ〜?今度こそ、渋谷探検だーー!奢っちゃうよ〜?」

 

 

「「イエーーイ!!」」

 

 

「…テンション高いな、お前ら」

 

 

伊吹の姉ちゃんは…『生きる姿を想像し続ける事は出来ないけど、楽しんで死ぬ姿は思い浮かぶんだ〜…だからさーお酒のもーよ〜悠仁〜』

 

なんて…ある種死生観の極地に立ってる人だった。

 

 

 

「「シースー!シースー!」」

 

 

「焼肉!」

 

 

「食べ放題!」

 

 

「「銀座行くぞー!!」」

 

 

 

……まだ俺は、呪術師としてどう生きていくかも分からない。

 

 

生き様で後悔はしたくない。

 

 

でも、俺は…。

 

 

さっきの子供も、釘崎も死んでしまった未来なんかを…想像してしまった。

 

 

生き様で後悔する、未来の自分の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

気付けば帰り道に立っている。

 

 

「……何食べたっけか」

 

 

何を食べて、どう帰ってきたかも覚えてない位、頭の中に浮かんだ『未来』が離れない。

 

もこねぇとあの2人の影響で、こんな風に考え込む事が増えた。

 

 

「……」

 

 

伏黒と釘崎は…寮か。

 

 

「あ」

 

 

そうだった、もこねぇに言いたい事があって今日も家に帰ることにしたんだったな…。

…少し、ボーッとしすぎかもしんねぇ。

 

 

「ちょっと、身体動かすか」

 

 

コンクリは脆いから踏み抜いて壊さないように走る。

もこねぇは小さい時からずっと、俺は強いから人を傷つける事も出来るし、助ける事も出来るから…使い方を学ぼうって言い続けてくれた。

 

 

「……」

 

 

50mを加減して3秒で走れる身体は、マラソンでは息切れすらしない。

ずっと要らないって思ってた力が、呪術師になって使える様になるなんて思いもしなかった、これは人を傷つける事しか出来ないって。

 

…俺は、人を助けたくて助けてるのか、俺が人を助けれるって人間でありたいから…。

 

 

「あ〜もー!考えるな考えるな!」

 

 

「今は、走る!」

 

 

東京にしては長い田舎道、夜道は車の通りは殆ど無いし、全速力で走っても事故は起きない。

 

 

そう思って、全力の1歩を…目をつぶって、コンクリを砕かない様に踏み出した時。

 

 

 

ーー次に目を開けば、景色が一変していた。

 

 

 

 

「……は?」

 

 

「……っ!!」

 

 

ガイドブックの内容を思い出す、こういった事態が起きた時は…。

 

 

「生得領域……」

 

 

「…」

 

 

「……自然溢れ過ぎじゃない!?何処ここ!?」

 

 

ここら辺で見慣れた景色じゃねぇけど…突然森の中に放り込まれたみたいな…。

暗い…夜の山かどうかは分からないけど、下手に走り回ったら絶対迷子になるから動かないで……ーー

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

 

 

 

「貴方」

 

 

 

 

ーー背後からの、冷たい声。

 

振り向けない、怖い、全身の細胞が警鐘を鳴らしている。

 

 

 

 

「食べてもいい人類?」

 

 

 

絶対的な死が後ろに待ち構えていた。

 

 

身動き1つ取れない、声も、何もかも。

 

 

 

「うーん」

 

 

「沈黙はー〜…肯定!いただきまーす!」

 

 

 

次に襲いかかってくるのは痛み、身体の欠損を伝えてくる激痛。

 

 

 

「ーーぅ」

 

 

「うーーん、あんまり美味しくない…なんか混ざってる…」

 

 

「…ああぁぁ゛ぅ゛ぅぅ…ああああ゛!゛!゛?゛」

 

 

 

恐怖と痛みは、生命の維持ライン。

それが同時に危険域まで踏み込まれる。

 

 

 

「まぁ、今日はご飯取れなかったし貴方でいいや…」

 

 

 

そして自覚する。極度の恐怖と命を失う実感が、自分の身体に流れるエネルギー……。

 

 

『呪力』が、僅かな抵抗の意思を与えた。

 

 

 

「う゛ぁぁあ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 

 

振り向き様に振り抜かれる拳は…。

 

 

 

「抵抗しちゃダメー、餌は暴れない!」

 

 

 

抵抗虚しく簡単に受け止められて、暗闇が視界を埋め尽くす。

 

 

本当の死を目の前にして、抗える事無く、生き様等考える暇もなく、無情にも虎杖悠仁の生が終わろうとしていた。

 

 

そして、光の一筋すら見えなくなった視界で……。

 

 

 

 

「……」

 

 

「…」

 

 

 

気が付けば、いつもの帰路、いつものコンクリの上に立って生きている。

 

 

 

 

「…なん……だったんだよ…」

 

 

 

「クソっ……」

 

 

 

涙が止まらない、怖い、怖かった。死ぬってあんなものだったんだ。

 

 

 

「……」

 

 

「…帰らないと……」

 

 

 

何が起きたのかは分からない、現実だったのかすら分からない。

 

 

 

でも…ーー

 

 

 

()()()()()()()()()()()は、この時確かに…。

 

 

 

呪力を、自覚した。

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