不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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呪胎戴天-桃源帰郷ー弐

 

伏黒と虎杖が特級呪霊と遭遇する一方、推定特級呪霊を祓うために3人と分かれた七海健人は、生得領域の変化を感じていた。

 

 

 

「早めに終わらせなければなりませんね」

 

 

 

呪胎が孵った、特級がまだ未熟な3人の気配を辿って遭遇してしまうかもしれない。

 

 

……恐らくはこの先、この扉の先に未登録の呪霊が居る。

 

 

生存本能が全力で警鐘を鳴らし、血の濃い匂いが漂うこの先に…。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

鉈を構えながら扉のノブに手を掛ける。

 

ゆっくりと開き、個室になっている部屋の奥へ足を進めた。奥に進めば進む程血の匂いは強く、死臭が漂ってきており、その個室の隅には人骨が散らばっていた。

 

 

グチュ、グチュと聞こえてくる咀嚼音。

 

 

視線の先に、ソイツが居た。

 

 

 

「おいしー!も〜最高ーなのだー!」

 

 

「味覚まで再現してくれるなんて…本当に素敵な提案だったなー」

 

 

 

人の頭部を丸かじりしている……ゴシック服の、金髪少女?

…考えるな、今の問題はそれじゃなく…!!

 

 

(ッ!!知性持ち!それも極めて知能が高い!)

 

 

 

「ふんふふんふふーん…」

 

 

 

扉の影に息を潜めて、呪力の気配を気取らせないように好機が来るまで待ち続けた。

 

 

この近さで勘づかれないのは呪力探知がザルなのか、もしくは…。

 

 

 

「えっと、貴方と貴方は保存用に持ち帰って〜…」

 

 

「貴方は今ここで食べちゃお!」

 

 

血まみれの口を開けて、生首を齧ろうとする怪物。

 

 

 

「あ〜……」

 

 

 

(ここッ!!)

 

 

 

飛び出し、鉈をその脳天へと振りかざす。不意打ちであれば十劃呪法の発動条件は満たしやすい、いつもの何倍もの力を全力で込めれば3対7を狙う精度は失われるが、完全に油断しきっている今なら確実に…!

 

 

 

「〜ん…んぐぅッ!?」

 

 

 

芯に入った!これで…!

 

 

 

「いったぁい…あいたたたー…」

 

 

 

「なッ」

 

 

 

頭はかち割れたが…!

術式が、発動しなかった…!?尺度をミスった?いやそんな筈…。

 

 

 

「あ〜…」

 

 

「なんだ、人間か」

 

 

目の前の少女の足が黒いヘドロへと変化し、部屋全体に広がっていく。

カチ割った筈の頭も、手で人撫ですれば元に戻っていた。

それを見て術式の発動失敗の理由を悟った。

 

 

「うーん?うーーん……」

 

 

「おいしそーな匂い〜!貴方、じゅじゅつしって人よね?」

 

 

頭という部位に対して3対7の割合を取ろうとしたから失敗したのか…!

頭どころか、定形を持たないせいで解釈を間違えた。

だが特級にしては脆すぎる、私の力であそこまでの反応を引き出せるとは思えない。

 

 

 

「ねぇ!貴方、食べてもいい人類?ダメな人類?」

 

 

 

「申し訳ありませんが、それにお答えは出来ません、どちらでもなく…貴方を駆除しに来た人類ですので」

 

 

 

「あは!やっぱりそう言うと思った!不意打ちも喰らっちゃったしな〜……活動限界も近いかな?」

 

 

 

「まっ、でもその前に……」

 

 

 

闇が一点に凝縮し、『闇』を体現する。

 

 

 

「もう1人位、良いよねッ?」

 

 

 

 

「速急に祓わせてもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動け。

 

 

「ふし…ぐろ゛ッ!!にげろ゛ぉ゛!!!゛」

 

 

動け、考えろ。

 

 

「ンヒヒヒヒヒ!!」

 

 

高笑いが響く、特級呪霊と虎杖悠仁が拳同士で殴りあっていた。

屠坐魔はへし折られ、指は砕かれ虎杖悠仁の腕からは既に肉が剥がれ落ちている。

火力にそこまでの違いは無い、逕庭拳と呼称できる現象も起きた、だがしかし耐久力に差がありすぎたのだ、呪力量と呪霊の体質によって、均衡は崩れ去ってしまった。

 

 

「あああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 

「ンヒャハァァァ!!」

 

 

虎杖が戦ってる、俺より早く動いてタイマンに持ち込んだ。そして呪霊は虎杖に対して手加減を辞めてしまっている。

虎杖が強すぎたんだ、虎杖はアイツにとっての命の脅威に匹敵すると察知して一切の油断と遊びを捨てた。

 

 

虎杖の本気を叩き込めれば、確実にあの呪霊にとって致命傷を与えられる。色々な可能性が頭の中に湧いて出てくるせいで余計に動きを止めてしまう。

考えろ、恐怖に竦んでる場合じゃない。動けるがそれよりも思考を纏めろ。勝てる筈がない、逃走が最適解…の筈、本当にそうか?俺1人の逃走で最低限確保出来るのは俺の命だけ、釘崎を見つけられるかも分からない。

 

 

戦うか?ダメだ、幾ら虎杖の攻撃力が高くても…呪霊が力での張り合いに固執する事を辞めれば幾らでも殺されようがある。

最適解を歩め、ここには妹紅先生も居ない。誰も命を落とさないなんて不可能、その中で最適解を選べ。

 

 

 

「……っ」

 

 

 

1つ、道筋が見えた。

 

 

 

「虎杖!!宿儺ッ!!宿儺は今どうなってる!」

 

 

 

「は゛ぁ…!?」

 

 

 

式神を殺されてもいい!一旦あの呪胎から虎杖を引き離す!

 

 

 

「鵺!虎杖を運べ!」

 

 

「っ、分かった!」

 

 

空から滑空してくる鵺の足、その鉤爪をまだ動かせる方の腕に刺してもらい空を共に飛ぶ。

 

 

「キヒィッ!」

 

 

「させるかよ」

 

 

足止めをするつもりじゃない、それでも前に立つ。

顔面に飛んでくる裏拳、ただ虫を払うかのような動作だが…。

 

 

 

「ガッ…」

 

 

 

首が…飛ぶ所……だったぞ…!!

主導権を渡せ、相手を油断させろ、取るに足らなくてもイヤな思いになればそれでいい!出来る限り弱く見せろ死ぬ気で命乞いをしろ、嗜虐心を湧きあがらせろ!

 

 

コイツには知能がある!悪質なタイプのなッ!!

 

 

 

 

「……」

 

 

「がぁぁぁ゛ッ…!!」

 

 

嬲り初めて1分、殴られ続けてもよろけるばかりで、反撃を行わず恐れに染まった表情のまま震える伏黒を呪霊は……。

 

 

『弱者』と認定した。

 

 

「アヒィ…!」

 

 

殺さぬ様に蹴る、殺さぬ様に殴る、殺さぬ様に投げ飛ばす。

先程弱者に反撃されて手傷を負わされた怒りも忘れて、愉悦に浸り伏黒を嬲る事で頭の中を埋めつくした。

 

伏黒の狙い通りに、だ。

愉悦が極まり、遂には『餌』として扱うフェーズにまで辿り着く。

 

 

逃がすのだ、1度見逃して必死に逃げ出す姿と、そして逃げきれたと思った餌の目の前に再び現れて絶望を与える。

手を止め、逃げる伏黒の背を眺める。

 

 

 

「……」

 

 

「……?」

 

 

逃げ出す伏黒が曲がり角を曲がり、それを追いかけ角を回ると…。

 

 

伏黒の姿は無い。

 

 

そこに居たのは、1匹のガマガエル。

 

 

「……」

 

 

「ンフー…?」

 

 

つんつん、と蟆の額をつつくと…ドロリ、と墨の様なものへと姿を変える。そして気づいた。

 

 

逃げられた、と。

 

 

 

 

【アオーーーーン……!】

 

 

 

「…!!!」

 

 

 

「おい、アホ呪霊」

 

 

 

遠くから響く犬の鳴き声と共に、あの腹立たしい存在が上から話しかけてきた。

 

 

 

「こっちこいよ」

 

 

 

「アギャァァァ!!」

 

 

 

 

感情を昂らせ、すぐさま虎杖を殺さんと全力の呪力を掌に込めて、放つ。

これで確実に殺してーー。

 

 

 

 

 

「つくづく、腹立たしい小僧だ」

 

 

 

呪霊の腕が呪力で捻り潰される。

 

 

 

「アギャッ!?!?」

 

 

「……」

 

 

 

圧倒的邪悪、圧倒的な存在感。

 

 

細胞の一つ一つが恐怖を訴えかける、絶対的な強者。

 

 

 

「…チッ…やはり術式が使えんか…生得領域内での事も思い出せん」

 

 

 

「さて…どうするか」

 

 

 

両面宿儺が降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の術式は十劃呪法、対象を物体を7:3に分割し、その中心点を強制的に弱点へと変える術式です」

 

 

 

「急にどうしちゃったのだ〜?お腹刺されておかしくなっちゃった?」

 

 

 

凝縮された闇からの攻撃は激しかった。単に硬い鋼鉄の様な物体が変幻自在に動くというだけでも厄介なのに、こちらからの攻撃は術式を通せず火力不足な上、暗闇の通過点は食い破られたように消し飛ばされる。

 

 

ただシンプルに身体の周りを包み込むだけで、無敵の防御と最強の矛を成立させる反則の術式。

 

 

 

「対象は体全体のみならず、腕や脚など一部の部位への細かい指定もできます、無機物に対しても有効ですし、どんな軽い攻撃でも中心点を取れば致命傷になります」

 

 

 

「そーなのかー」

 

 

 

「…はぁ、貴方は知能を持つ呪霊にしては呪術への理解が浅い、浅慮とも言えます、そして狡猾さも無く呪霊とはいえぬ程『人間』の形をしている」

 

 

 

「専門知識は知らない方が当たり前じゃないかー?」

 

 

 

「だからですよ、専門の領域に踏み込みながらその知識を有していない事が、その慢心と軽薄さを助けてはくれない」

 

 

 

術式の開示は済んだ。

 

 

 

「なら、貴方は自分の命は助けられないね、捨てに来たのかー?」

 

 

「そうですね」

 

 

ネクタイを拳に巻く、もう1つの縛りは満たせないが、これが通らなければそもそも私に勝ち筋は無い。制限を破り100%の呪力出力を保つ。

 

 

黒い球体が浮かぶ宙を見上げる。

 

 

私を殺そうと伸びてくる黒い闇の触手、だが戦闘の中で理解した、身を覆う暗闇には総量がある。形を変え、遠くへ動かせば動かす程球体のサイズは縮小し、1度その姿を現すほどにまで攻撃に力を入れられた。

 

ならば叩くのはその瞬間だ。

 

 

 

「そんな仕事ですから」

 

 

 

「へー…そーなのかー」

 

 

 

「…ーーふぅー…」

 

 

 

「ねぇ、呪術師さん、呪いに塗れた人間の味って知ってる?」

 

 

 

「…知りませんよ」

 

 

 

「血と、肉の味がするんだ」

 

 

 

「なら毒が混じってても分かりませんね」

 

 

 

「ーーあは、それは…」

 

 

 

「食べてみるまで、分からないんじゃない?」

 

 

 

球体の闇が解かれる。一部では無く、彼女の周囲を囲んでいた全ての闇が『攻撃』へと転じた。

 

 

一切の防御を捨て去っているのはお互い様。それを見ても尚、七海建人は突き進む以外に勝つ道は薄い。

 

 

暗闇の粒の弾幕の中へと…身を投じる。

 

 

 

「十劃呪法…ーー」

 

 

 

身を割く痛みに耐え、狙うは天井…!

 

 

 

瓦落瓦落(がらがら)ッ!!」

 

 

 

「あはッ…!何処を狙って…」

 

 

 

「言った筈ですよ、浅慮だと」

 

 

 

目の前の呪霊は、事もあろうか呪力を認識出来ていない。私の不意打ちを喰らったのは、本当に気づいていなかったからだ。

 

ならば、これにも気付けない。

 

 

 

「ーー瓦礫かー…そんなの」

 

 

 

余裕を見せた呪霊を、降り注ぐ瓦礫が粉砕する。

 

 

 

「ふぎゅっッ…」

 

 

 

そのまま崩れ落ちてくる全ての瓦礫に押しつぶされていった。

十劃呪法、瓦落瓦落。それは拡張術式とよばれるものであり、破壊した対象にも呪力を篭めるもの。

 

言われた通り、金髪の呪霊はその浅慮さをもって瓦礫に埋まっていった。

 

 

 

「……出来るなら、もう二度と戦いたくない相手でした」

 

 

 

脇腹と腹部から流れ出る血を抑え、伊地知君に連絡を取ろうとした…。

 

 

ーーその時。

 

 

 

「……」

 

 

「っ!!?」

 

 

 

身体を這い上がってくる悪寒。

 

 

 

「この気配、虎杖君の両面宿儺……ーー」

 

 

 

振り返り、足早に伏黒と釘崎を見つけ、生得領域外へと向かわなければ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、助けてくれなかったね」

 

 

 

と、足を踏み出した瞬間。

 

 

身体が沈み込む。

 

 

 

「なッ…クソッ…!」

 

 

 

瓦礫の山から染み出す様に伸びた影、暗闇が足元に広がっていた。

 

 

 

「バイバイ、また会おうね〜…」

 

 

「っ…『また』…?」

 

 

 

足掻く暇なく七海建人は影の中へと沈みこんだ。

 

 

残ったのはゴシック服を着た金髪の幼女だけ。

 

 

 

「うー…こんなに小さくなっちゃったー…めんどくさかったな〜じゅりょく…」

 

 

「専門知識も大切なんだね、今度けーねにおしえてもらおー」

 

 

「…この身体捨てちゃってもいーいー?」

 

 

虚空に向かって話しかけると、白い手が現れOKサインを出す。

 

 

「わーい、それじゃー……」

 

 

意識を向けるのは、今この場で最も強く邪悪な気配を放ち、そして…1番美味しそうな気配がする……。

 

 

「デザート、食べに行こー!」

 

 

両面宿儺の元へと、足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「……ここは…」

 

 

 

身体を起こし、目を擦り、自分の状態を確認する。

あの後どうなった?気を失って倒れていたのか…?殺されなかった?何故?

 

 

「……」

 

 

生得領域内に居た筈、両面宿儺の顕現は……。

 

 

 

「……ぐっ……」

 

 

 

身体に空いた傷が痛む、血を流し過ぎた。

 

 

 

(風景が変わりすぎている。ここは何処だ?)

 

 

 

辺りを見渡せば、どうやら起き上がった場所は湖の畔の様で…。

本当にどこだか分からない。自然が美しすぎる、風景も綺麗だ。だが現代社会でこれ程の場所を保っている場所は無い。

 

 

「…静か過ぎる」

 

 

人の気配が無い、この様な場所で、これ程真昼間で……そうだ、天候も変わっている、時刻もだ。

 

太陽が真上に昇っているという事は、日が落ち始めた突入時から最低でも1日を経過しているという事。

 

でもそれを、肉体に付けられた傷が否定していた。これ程の出血と傷を持ちながら1日が経っていれば私は死んでいる事だろう。

 

 

「本当に何処ですか、ここは…」

 

 

「……」

 

 

「……ふぅ…」

 

 

 

取り敢えず止血と電話が繋がるかを…ーー。

 

 

 

「わーー!?誰だお前ーー!!すごい怪我してるそこのお前!」

 

 

 

後ろから、バカでかい子供の声が聞こえてきた。

 

 

 

「次はなんっ………ーー呪霊?」

 

 

 

「じゅれい?アタイはじゅれいって名前じゃないぞ!」

 

 

 

「アタイはチルノ!お前!アタイの縄張りに何の用だ!」

 

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