「悪鬼滅殺!どーやらピンチの様ですね!」
「馬鹿野郎…!何でここに来た!!」
「え?だって救援要請貰っちゃいましたし」
「お前通常時は2級術師だろ!!要請を通すのは1級だけだって伊地知さんに…」
「はいーー??知りませんよそんな事!聞く前に飛び出してきちゃったんですし……友人のピンチに駆けつけないヒーローがどこに居ますか!」
「…ーーほんっっとに馬鹿だな!!」
こんな巫山戯てる場合じゃねぇ!宿儺の目の前でこんな事…!
「……っ?」
「……」
…なんだ…?宿儺が…呆けてる?
「貴様…」
「うへっ!?喋れる呪霊…というか虎杖さんの中に居ると噂の宿儺じゃないですか、虎杖さん越しに見てるかもしれませんが一応初対面ですかね?宿儺さん!」
「……」
「私が何者か、お答えしましょう!颯爽と現われ呪霊を祓い、この世界に安寧と平和を齎す正義の巫女、東風谷早苗!守矢神社の入信いかがでしょうか!」
「…お前さぁ…」
どういう理由で浮遊してんだアイツ…!術式は奇跡の筈じゃねぇのかよ、にしたって本当に空気を読めな…ーー。
……いや、違うのか?馬鹿とか、空気読めないとかで済ませられる事じゃねぇだろ今の状況…。宿儺の事を知ってるなら、命が掛かってる状況だって分かるだろ?
命を掛ける状況で本気で何にも感じてない訳……そんな、馬鹿みたいな…。
「まずは…悪鬼滅殺!といく前に、一応妹紅さんに人型なら一言入れとけって言われてるんで…その心臓!ちゃんと元に戻してくださいね、宿儺さん!」
「…戻させてみろ」
「お?言っちゃいましたね〜?その挑戦、後悔させてあげましょう……昨日から考えてた必殺技、大解放のお時間です!」
拳を握り込む早苗。あの時見せたのと同じ様に空間が歪む程の呪力圧縮を行い始める。
無論、その威力は当たれば虎杖……もとい宿儺の身体を破壊する威力はあるだろう。『破壊してしまう』という最大の問題点を考えてはいない。
「刮目せよ、海が割れる日を見せてやる!」
そう、早苗はこの場に来て尚、特段何も考えていない!
伊地知の話の一部分を聞いて飛び出してた時も、虎杖が宿儺に変わっている事も、心臓が無い事も伏黒がボロボロで血だらけなことも……。
殴れば!
解決すると!!
思っている!!!
「チッ」
「避けるなんて!いいませんよねッ!!」
「…不愉快極まるな」
「肯定と受け取りますね!喰らえ悪霊退散パンチッ!」
再び振るわれる轟速の拳は、その纏わりつく呪力を以て翠の閃光を輝き放つ。呪術における定理を覆し、様式美ともいえる術式のぶつかり合い、その全てを否定する純粋な物理攻撃。
その光を前に宿儺は……。
「……はー…」
若干萎えていた。
全く未知の存在、未知の呪力特性が現れたと思えば…殴るだけ、それ以外に何も無い。謎の娘との領域勝負、伏黒恵との時間を経て割と満足していた。からの落差に溜息が漏れる。
だが避けるのも癪だ、受けるには出力不足、張り合うにもやる気が出ない。
色々考えが過った上で、宿儺が選んだのは……。
「丁度良い、交代だ小僧」
「へ?」
「あ?」
復帰寸前であった虎杖悠仁との交代。
呪印が身体から消えていき、表情も柔らかい青少年のものへと変わる。
交代は、既に早苗が拳を振りかぶって殴り抜けようとした瞬間の事だ、元より心臓を失い死んでいく命ではあったが……。
「ヤバっ…ーー」
物の見事に、虎杖悠仁の首から上を弾き飛ばした。
「…は」
後ろへ倒れ込む首を失った虎杖悠仁の肉体。
そして、その場に居た2人は『見た』
「…うぇぇ!?」
「!?!?」
背中が地面に着くであろうスレスレの瞬間、首を失った虎杖悠仁の肉体が……。
足を1歩、地面へと踏み出すのを。
失った首から燃え盛る、煌々たる赤のキラメキを。
■
〜数時間後〜
高専 遺体解剖室
「遅くなった」
「妹紅さん…」
伊地知も来てたか、五条は…。
「殺気漏れてるぞ、五条」
「…ごめんね」
まぁ五条にすれば、上層部に愛しい生徒を狙われて…いい様にやられたってもんだ、キレるのも分かる。
「妹紅先生、処置はまだですけど…どうします?」
「家入もお疲れ様…私がやろう、というかやる事がある」
「……やる事、ですか」
「全部任せておけ、五条も鬱憤は抑えろ」
虎杖の
「……」
可愛い私の悠仁。計画上とはいえ、やっぱり愛着は湧くなぁ…。
あんなにもち肌で可愛い赤ちゃんの時も、男らしくなった今も可愛さは全然変わってない、見れば見るほど顔が整ってるし……仁さんの影がチラつく。
この処置が終われば上層部をシメにいくか、羂索の計画の内とはいえ伏黒と釘崎ちゃんも巻き込んでんだからな。
はぁ、それとまっ、保険は二重に掛けておくもんさ…………。
「戻ってこい」
虎杖悠仁の胸に空いた穴、そこに手を突っ込む妹紅。
その場にいる全員が怪訝な表情をするが……起こった変化は一瞬。
「……」
「…もこねぇ?」
「おはよう、そしておかえりなさいだな、悠仁」
手を引き抜けば、瞬きする間もなく虎杖が起き上がっていた。虎杖自身も生き返った事…というよりは妹紅が目の前に居ることに驚いているようで…。
伊地知は目ん玉にがひっくり返る位に目を見開いて呆然としているし、五条も流石に驚いたのか口元に手を当てている。
医療に従事している家入も、どう考えても死んでいた状態から胸の傷まで塞がっているのを見ると不思議で仕方が無い様だ。
だが、今のを見て考えうるに…。
「……妹紅、今何したの?死者蘇生は流石に上層部が見逃さないと思うんだけど」
蘇生、それは万人が求める究極の秘術。
まっ、今回はそんな大したものでもないんだけどな。
「蘇生じゃないさ、なあ?悠仁」
「え?俺に聞くのね…?いやまぁものすげぇ変な体験したけどさぁ…」
「なんか、宿儺と話してたら燃やされたんだけど…?」
宿儺は『呪物』だ。宿主が死のうが生得領域は独立して存在してる。だから悠仁が死んでも蘇生できる見立ては立てていた。私も魂を観測できる側だ……タネは分かってる。
呪物っていうのは思ったよりも特殊なもので、完全受肉を果たさぬ限り完全な死を迎える事はそうそう無い、まぁそれでどうにか出来るわけじゃないさ、結局は宿主の肉体ありきだからな。
肉体が死ねば、宿主が蘇生を望まない限り干渉は出来ないだろう。つまり実質的な死、上層部の見立ては合ってるが……違ってもいる。
悠仁は器だ。宿儺という満タンの水槽を受け止め切れる巨大な空の空間、宿儺を取り込んだ悠仁を殺しても中の水槽が置き去りになるだけだ。
「生得領域内で宿儺が悠仁に干渉しようとする……っていうのを予測して、宿儺が悠仁の魂を捕らえている間に心臓を復元させてから引き摺り戻した」
「……なるほどねぇ」
「宿儺っていう別の魂の器を取り込んだ悠仁だけに出来る技、悠仁以外には絶対出来ない……蘇生条件が宿儺の指を取り込んで死なずにいるなんて上層部に言ってみろ…分かるだろ?」
「あーはいはい、分かったよもう……何その妹紅専用の技、ふざけてんの?」
「はは……まっ、ともかくだ…」
「おかえり、悠仁」
「おっす!ただいま!」
「うん、やっぱし可愛い」
「……私来た意味ありましたか?」
あ…すまん家入…。帰りになんか奢るからさ…。
いやまぁ、こんな急にドタバタしたのも事情があって……。
■
「え〜!?連れ去っちゃったの!?どうやって!!?」
解剖室に来る前の事。
「なんだ?またお得意の『想定外』か?」
「……はぁーーーー…いや、あのねぇ…実験協力者が気に入ったかなんかで、こっちから『アッチ』に一人持ち帰っちゃったみたい」
「何やってんだ…てかどうやった?私が解析できない結界を転用した……なんて訳じゃ無いだろ」
「むぅ…まだ分からない、やはり向こう側との接触は不確定要素が大きい、検証も調査もまだ途上だよ」
マジでコイツ…計画に乗った昔の私が馬鹿みたいだ、過去は取り消せないって本当に厄介だよ全く…。
「悠仁を使えば私も行けるのか?」
「使うって……まぁ、無理だね」
「何で」
「私も分からないからさ、悠仁の身体に埋め込まれた呪物の詳細が」
「……」
「一応聞く、あの胡散臭い女と手を組んで本当に良かったのか?」
下手したら計画が全て頓挫して…ーー。
……笑顔を向けるなよ…そういえばコイツ、『破綻』する事すら楽しめるバカだったわ…。
「お前が良いならそれで良いさ…計画が頓挫して輝夜に会えなきゃお前も不死者、仲良く殺し合おう」
「あはは、勿論分かってるよ、こっちも色々考えてもいるからね、あ……ほら電話鳴ってるよ?」
電話、電話……しまった!到着したら伊地知に連絡するって言っておいたんだった…!!
「やばいやばい…ん〜っと……悠仁が、死んで…七海が行方不明?釘崎と伏黒は負傷か、行ってくる〜」
「行ってらっしゃ…ーー」
笑顔で此方に手を振る羂索の顔が急激に真顔になった。
気味が悪いが…随分と、寂しそうな顔をするもんだ。
「そうだ、妹紅…聞きたいことがあってさ」
「ん?なんだ?」
「君に家族愛はあるかい?」
「……そりゃあるし大切だ、血が繋がってなくても、今まで色んな子供や親と付き添って生きてきたし、悠仁もそうだぞ」
「君は友愛を重んじたりする?」
「そりゃな、そうじゃなきゃお前とか五条とか…夏油の墓参りも毎月行ったりはしない…昔から私はそこは大切にしてる」
「君はどれだけ人間に価値を感じているの?」
「無限大さ、私も元人間…今は宇宙の構成物質を100%の内4%程度しか知らない人類も、いつかは全てを解き明かす、『人間』の本質は変わらない……『未知』を全て己の力とするまで止まらない、もしかしたら私を殺し得る……よりも早く、星の寿命が来るか…」
「それらに自分の命は掛けられるかい?」
「うーん、まぁ私のこんな命を掛けて何とかなるなら手を尽くすさ」
さっきからずっと無表情だな…こんな事聞いて何したいんだコイツ…。
「ふふ…そっか、最後にもう1つ」
「もし、さっき話した事や蓬莱山輝夜の事、死ぬことを含めて君の求む全てが満たされたとしたら、次に君は『どうする』?」
「ーー……」
なんだ、羂索お前…。
可愛らしい所、あるじゃないか。
「…はは、はははははは、はははははははは!!!」
「羂索、その質問には正しく答えてないけどな、どうする必要も無い、そのもしもは訪れないから想像すら出来ないさ」
「なんでさ、いつか有り得る話でしょ?死ぬ事もいつかは…ーー」
「ちょっと勘違いしてるな、私は死ぬことや輝夜と会える事を有り得ないって言ってるんじゃない」
「じゃあ、何」
「私の求む全てが満たされるって所だ」
「……」
「私は、アイツのものだからな…互いに、永遠に求め合い続ける」
それは愛かもしれない。それは永遠の空白を埋めるものかもしれない。
永遠の愛を誓おう。それだけが私の永遠を包み込めるもの。
「ーー何もかも、代わりになれはしない」
それだけが、永劫変わらぬ
「…ふーん、そっか」
「失恋、慰めてやろうか」
「誰が失恋したなんていったかい???」
「自分の事を見てほしい〜なんて、それを真正面から無理って言われて……失恋以外に表現出来るか〜?ほれほれ、つんつん」
「はぁー〜…ウザウザウザ…もうほら、さっさと行きなよ…イラつく……宿儺が悠仁と縛り結ぶ前にさ…ウザ…」
「はいはいっと……ん、なんだ…?」
翼を展開して飛び立とうとする妹紅。
その目の前に、再び白い手が現れる。
件の『月の敵対者』の手だ、また現れたかこの胡散臭野郎と吐き捨てようとすると……。
ヒラヒラと写真を1枚落として颯爽と消えていった。
「次は何だよ…」
「何それ、見せてよ妹紅」
羂索が写真を握る妹紅を覗き込んで、何か重要なものでないかと確認してみると、そこに写っていたのは…。
「「……」」
大勢の子供に囲まれた、七海建人の姿だった。
「「何これ…」」
次回:ナナミン 休暇の刻