不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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休日の上司の呼び出し程クソなものはありません

『私はそんな人里の…人間と妖怪の溝を埋めたかった』

 

 

 

『まだ道半ばだ、何も叶えられていないが、それでも私はこの幻想郷の真実と向き合い続けなければいけないと考えていた』

 

 

 

『そんな世界が楽園と言う名を冠している、その歪みを、私たちの世界の常識を外へと持ち込んだ事は…決して許されることではない』

 

 

 

『だがそれと同時に、妖怪という存在の性を、そうやって産まれてきた1つの生命であることを、私は否定する事も出来ないんだ』

 

 

 

『私が今のまま彼女に罰を与えてしまえば、そこには何も意味が生まれない…ただ、悪事を犯した妖怪を退治しただけになってしまう…何の進展もなく、今までと何も変わらない』

 

 

 

『必ず、必ずだ、必ず彼女に私は『人間』を教える、自分が何をしでかしたのか、その行為は人間にとってどんな意味があるのか、罪を理解し…彼女が人と歩めるようにする』

 

 

 

『だから…どうかお願いしたい、七海』

 

 

 

『彼女が『人間』になるまで待っててくれないか』

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

空を眺める。

 

 

 

 

そんなこと言って、ほんとは恋人さんじゃないのかい?

 

 

 

バカ!そんな訳無いだろ!彼は外の世界からやってきた外来人だからな…街を案内しただけだ、それだけだからな!?

 

 

 

あの後…無言のまま、寺子屋へと戻る途中に、彼女の顔見知り合いの女性の方と出会って…驚いた顔をなさった後に、慧音さんを引き連れて向こうへ行ってしまった、会話はよく聞こえてこないが…。

 

 

 

「…人間になるまで…」

 

 

 

結局のところ、どちらかが必ず正しいということはない。

 

何を行い、何を受け入れ、どう生きて…どう過ごすか、個々人によって世界の価値観は異なる。

率直に言ってしまえば、私はあの行為を看過できない。見つけ次第祓いたいとも思っている。あの純粋無垢な狂気、悪意を放置しておくには余りにも…。

 

 

 

「…私も同じ穴の狢か」

 

 

 

今まで祓ってきた呪いのことを私は覚えているだろうか、いや…そんな事は覚えてはいない。

呪いを巡り物語やドラマがあったとしてと、私は今までずっと歯車のように生きてきた因果応報、呪術師の存在は呪いに対する自浄作用だと。

 

ただあくまで働くのは人間、そして人間は人間でしかなく、仕事に疲れたならやめればいい、ただの仕事のうちの1つだ。

 

 

 

そう生きてきたからこそ、私は…彼女の決断に、口を挟む資格等無い。

 

 

 

「はぁ…郷に入りては郷に従え、ですね」

 

 

 

呪いだから、祓わなければいけない。それが歯車である私の役目、ならば妖怪だから祓わなければならない事とイコールにはなりはしない。

 

この世界を変えようとしている人の道を塞ぐのも、役目では無い。

 

 

 

「…」

 

 

 

「……上白沢さ…ーー」

 

 

 

「う゛ぉぉぉぉ!!゛考えるな!!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

遠目に見える彼女が突然頭を路頭の木々へとぶつけ始めた。そのまま目を回して地面へと倒れ込んでしまう。

 

 

 

「やっばい、おちょくりすぎたかねぇ…あ、アンタ!七海さんだっけ!」

 

 

 

「…何があったんですか?」

 

 

 

「あ〜…えっと、気にしなくていいさ!慧音先生は私がちゃんと責任持って寺子屋まで連れて帰るから、アンタは人里を回ってきな、外来人だからまだまだ人里の事知らないだろ?」

 

 

 

「……まぁ、はい」

 

 

 

「慧音先生とは積もる話があるんでね!さぁ行った行った!」

 

 

 

「……」

 

 

 

ーー本当に何があったんだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

里の活気の中へ身を投じる。

 

 

 

現代とは一風違う光景と人々の活力は、この幻想郷特有のものだろう。現代社会とは比べ物にならないほどに『個人』の存在の意義が強い。俗に言う……『やり甲斐』だとか、『生き甲斐』が瞳に籠っていた。

 

 

命のやり取りが身近にある影響だろう、野菜売りや雑貨屋は今日生きて商売出来ている事の大切さを身に染みて味わっているのか、客寄せにも売る時の歓談としたセリにも心を注いでいる。

 

 

 

「ナスを1つ」

 

 

 

「あいよ!……って、デカイお客さんが来たもんだ」

 

 

 

「それと、菜種油と」

 

 

 

「はいはい、髪色とか体躯を見るに…あれか、巷で話題の外来人さんだね?アンタ」

 

 

 

「…話題になってるんですか」

 

 

 

「そりゃぁ…小一時間程度前に、警備隊が全員伸されたってのが噂にならない方が無茶だ、見た目も分かりやすいしな」

 

 

 

…だから道を歩いている時にやけに視線を感じたのか。

大した問題では無さそうだから、特別警戒する事じゃない。

店主さんに慧音さんから貰っている貨幣……と言っても日本円ではあるが、1銭等の古めかしい気分になるものを渡す。

 

 

ナスはそのまま食べてもいいが……ナスと食い合わせのいい何かが…思いつかないな、単品で食べるとしましょう。

 

 

ですが、あと1品…。

 

 

 

ーーそうだ。

 

 

 

「すみません、この人里にパン屋はあったり…」

 

 

 

「パン…?パ……ン…あ〜…あれか!あの西洋の!あるぞ、1店だけな」

 

 

 

「道を教えて頂けませんか?」

 

 

 

「大分遠いが、里の外れにある……ほれ、これが行き道」

 

 

 

紙に案内を書いてもらって、それも受け取り…紙袋に品物を入れて貰ってその場を後にする。

 

 

 

「毎度、またのご利用を頼むぜ」

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 

案内に従って里を歩く。

 

 

進めば進むほど里の中心、その活気からは離れて随分と寂しい場所へとなっていった。

 

 

人通りも少なく、殆ど店も無くなった外れの場所で……案内のゴール地点、その手前へと辿り着く。

 

 

 

「……」

 

 

 

目的地に着いた筈が、パン屋は見当たらない。

 

 

視界に入ってくるのは……オープンマーケットの様に、日用品を路頭の隅へと広げ、販売を行っているのかも分からない程静かにしている女性だけ。

 

 

パン屋を見つける為に、その場所へと近付く。

 

 

 

「…寝ていたんですね」

 

 

 

女性がやけに静かだと思えば、なんて不用心な……。

 

 

 

「ふむ」

 

 

 

辺りを見渡してもパン屋は見つからない、手慰めに並べられている品物に手を伸ばして、使いもしない子供のオモチャを観察してみる。

 

 

……よく見れば、殆どが子供用のオモチャや衣服だ。生活用品も全て子供の育児用のもの。

 

 

 

「……」

 

 

 

そして、ある1つの品物に目が射止められた。

 

 

小さな立て札が置いてあって、そこには……ーー。

 

 

 

 

『 産着 売ります 』

 

 

 

「……」

 

 

 

触ってみる。

 

 

使われた痕跡が無い、新品に近い……いや、新品だ。

 

 

……適当に触っていた、他に置いてあるオモチャも…服も、靴も…新品…。

 

 

 

唯一、唯一1つだけ。

 

 

 

 

子供が使う様な手毬だけは、ボロボロに使い込まれていた。

 

 

 

 

 

…よそう、余計な杞憂は時に邪推になり、邪推は褒められたものでは無い。

 

 

 

そう思って、店を後にしようとした時に……。

 

 

 

「…!!」

 

 

 

その奥、女性が木箱に座って寝ている奥に、パン屋の看板が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、貴方もクォーターなんですね」

 

 

 

「そうなんすよ〜…フランスの血が混ざってましてね?丁度パン屋になるって夢もあったんで、帰省代わりに修行しに行って……日本に帰ってきて、漸く出店だー!って時に…コレッすよ?」

 

 

 

「……永住を決めた外来人とは、貴方でしたか」

 

 

 

「ええ、まぁこの時代には俺しか外来人が居ないって聞いた時は泣きかけましたけどね……帰り道に遭難しちゃっただけで、なんでこんな事にと…」

 

 

 

女性の様な綺麗なブロンド色の髪を持ち、お目にかかるとは思っていなかった現代服を身に纏う…幻想郷の先輩と出会ってしまった。

 

名は海斗さん、彼が迷い込んできた要因は山道での遭難らしく、私とはまた違ったものだ。

 

 

 

「まっ、ともかく話したい事はあれど…今はお客さんと店主なんで、なんか買っていきます?」

 

 

 

「それでは、バケット1本分と…」

 

 

 

「……」

 

 

 

「カスクートは、ありますか?」

 

 

 

品物棚にはパンしか置いてない、パン屋である為当たり前だが…そうなるとカスクートを頼むのも忍びない、けれども引きたくない所でもある。

 

 

 

「OKっす!すぐに作れるんで、少し待ってて下さい」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

深くお礼をする、心からの感謝を送りたい。幻想郷でパンを食べれるなんて思ってもいなかったのに、そこへ更に加えてカスクートまで頂けることになるとは…。

 

人のお金を使わせて貰っている所を気にしなければ、久しぶりに心地よく酒盛りを出来る。

 

 

 

「お代は置いといて下さい、それじゃ少し失礼」

 

 

 

「分かりました」

 

 

 

裏方へと下がる彼を見届けて……。

 

 

ずっと気になっていた表通りの女性を見る。

 

 

 

「……」

 

 

 

今はもう起きて、麗らかな笑顔を振りまき接客をしている。

このパン屋へ訪れてくれる様に客寄せもしていて、広げている品物の売買はついでの事だった様だ。

 

 

……こんな里の外れにある場所へ訪れる人も少ないのだが。

 

 

 

「……」

 

 

 

「……ーー」

 

 

 

ふと、ふらりと視線が漂う中で……。

 

 

店の中に飾られてある、モノクロの写真に目が止まる。

 

 

 

「こ、れは…」

 

 

 

先程の店主と、店前の女性の間に…小さな子供が、この店の前で2人の手を取って笑っている。

 

 

女性の腹部は、着物の上からでも分かる程大きく膨れていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「お待ちどうさまっす、七海さん」

 

 

 

「ーー海斗さん」

 

 

 

代金をレジへと放り込み、私に紙袋を手渡ししてくれる……大きな、柔らかい笑顔で。

 

 

それに後押しされてしまって、つい。

 

 

 

「ん?どうしましたか?」

 

 

 

「御…家族は…ーーっ、申し訳な…ーー」

 

 

 

言ってしまった言葉は、もう口へとは戻らない。

 

 

 

そして、その言葉を聞いた瞬間の瞳が物語っていた。

 

 

 

もう、そこには居ない命を見つめる瞳。様々な感情が一瞬で通り過ぎたであろう顔をして。

 

 

 

「ま〜、色々あったんすよね」

 

 

 

「…本当に申し訳ない」

 

 

 

「大丈夫っすよ、人里だと珍しくもない事です」

 

 

 

笑顔に戻った顔も、何処か蟠りを感じてしまう。

 

 

 

「……」

 

 

 

「所謂妖怪の仕業、って奴ですよ…ーーはは、2人目は関係無かったんすけどね、不運が重なった…って感じっす」

 

 

 

歩いて、額縁に飾られた写真を撫でた。

 

 

 

「ウチの奥さん、綺麗でしょ?客寄せも頑張ってくれてます、俺も……全部、ちゃんと割り切って頑張らせてもらってますよ」

 

 

 

「…そうですね」

 

 

 

「おっとっと…こんな湿った話しちゃったら、せっかくのパンがシケっちゃいますね」

 

 

 

「……」

 

 

 

「毎度あり!それじゃまたのご利用をお待ちしております……ってね、人里で生きてるんだから何度も会うとは思いますが」

 

 

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

人里の外、森の中でカスクートを摘む。

 

 

何時間程経ったんだろうか。

 

 

 

『あ!お客さん…ごめんなさいね、寝ちゃってて…また来てください!』

 

 

 

あの女性は、彼がこの世界で見つけた伴侶だった。

 

 

 

『……?あ、売り物の事…気になりますよね、あはは…』

 

 

 

『…これも、決断と決別って奴です!可愛い思い出も、綺麗な思い出も何もかも…心には残ってるんで、それなら…これから使う人の為に売りに出そうかと』

 

 

 

『恨みも苦しみも、ぶつける相手では無い事は分かっています……それを抑えきれない事もありますけど、私には…傍に支えてくれる人が居て、同じ苦しみを分け合っている人が居るので』

 

 

 

『憎しみません、それが私の出来ることです』

 

 

 

海斗さんは言っていた『珍しくも無いこと』だと。

 

 

そうやって、理不尽な運命に立ち会って…。

 

 

 

「…妖怪」

 

 

 

分からなくなってきた、結論は決まっていた筈なのに、妖怪という存在に対して懐疑の思いが止まらない。

 

 

割り切ったなんて言葉で、あの2人の傷は隠しきれていただろうか?

 

 

 

「人食は、妖怪はそういう存在で……だが呪霊と、同じ…」

 

 

 

現代社会に妖怪が紛れ込んできてしまったら、私は何の迷いも無く、呪霊と同じ様に祓ってしまう自信がある。

 

 

 

「……」

 

 

 

奇しくも、パン屋だ。私が戻ってきた理由になった、パン屋。

 

 

 

『ありがとー!!』

 

 

 

やり甲斐とか、生き甲斐なんかとは無縁の人生。

 

 

適当に金を集めて、適当に物価の安い場所で、適当に余生を過ごす。

 

 

 

「…………」

 

 

 

何の為に?どうして戻ってきた?灰原に背を向けて、居なくなっても何も変わらない、社会に紛れた人間になって、どうして私は…ーー。

 

 

 

「……」

 

 

 

「……っ?」

 

 

 

「…ーー灰原?」

 

 

 

遠く、木々の暗闇の中に彼を見た。

 

 

あの日から消えること無く、私の(レンズ)に映り続けている。

 

 

気付けば、カスクートを全て食べ終えていた。

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

きっと、疲れているんだ。

 

 

疲れ過ぎて、こうやって一息つける場所に来て、その疲れを自覚しただけ。何の意味も持たない人間である私を、自覚しているだけ。

 

 

妹紅先生や夜蛾さんなら、今の私をどんな酷いツラをしているか教えてくれるだろう、五条さんは…その辺終わっている。

 

 

 

「……早く」

 

 

 

「帰らなければ」

 

 

 

ーー何の為に?

 

 

 

「……」

 

 

 

「私が……居なくなって、何も変わらなくても……」

 

 

 

あのパン屋の子供が、妖怪に襲われる前に…私が居たとしたら、その時はきっと…きっとだ。

 

 

きっと、居なくなったら困る人達の一助になれるから。

 

 

 

「……」

 

 

 

灰原が居なくなっても、誰も、何も変わらなかった。

 

私だけを変えて去っていった。

 

遺された私にも、居る意味は無いのだろう。

なればこそ…より、適正のある方を。

 

 

 

「…やはり、私は帰らないといけませんね」

 

 

 

この世界から私達の世界へと紛れ込んだあの妖怪を、私達が因果応報として祓う為に。居る意味を見出す為に。

 

 

結論は1つ、郷に入りては郷に従え。

 

 

私は、全ての妖怪を呪霊と同じ様に祓おう。私達の世界に足を踏み入れるなら、妖怪も等しく。

 

 

 

「確実に、今よりも状況は酷くなる」

 

 

 

一体でも向こうに抜け出せたのなら、前例があるのなら幾らでも再現できる。無数の妖怪や神が私達の世界を蹂躙する時が来るかもしれない。

 

 

 

「五条さんに、この世界のことを伝えれたなら…」

 

 

 

「ーーあれ??」

 

 

 

背後から聞いた事のある声が聞こえる。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

「な、ナナミン!?」

 

 

 

「ーー虎杖くん…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海は無事だよ」

 

 

 

「…なんでハッキリ言えんのさ、妹紅」

 

 

 

「ちょっと裏切る予定の就職先から情報があった」

 

 

 

「……」

 

 

 

「七海はとある結界内に閉じ込められている、私でもお前でも侵入不可、魔境の地だ」

 

 

 

「妹紅で無理…ね、七海はどうやってそこに?」

 

 

 

「分からない、それを知る為に…ーー」

 

 

 

「虎杖、少し預かるぞ?」

 

 

 

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