不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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傍迷惑な観光

 

 

ーーー東京。

 

 

 

 

「姉様!お帰りなさ…ーーその、方は?」

 

 

 

帳の外で待機していた憂憂が、一仕事終えた冥冥に擦り寄り労おうとするも、彼女の背後に付き従っていた別の男性…白髪の和服男に驚きと一瞬の嫉妬を混じえて視線を送る。

 

 

 

「ちょっとした買い物だよ、憂憂」

 

 

 

「滞在中は世話になるよ、宜しく」

 

 

 

両者共に肉体へのダメージは見えないが、髪は乱れ汗を流し、衣服を乱していた、所々破れてもいて素早く素肌が見える部分を裁縫する。

そして……憂憂の脳内が弾き出した『事後』という結論を振り払って質問を続けた。

 

 

 

「あぁ…討伐対象の方だったんですね」

 

 

 

「多種多様な芸を見せて貰ったよ…それこそ、私が買ってもいいと…売り込まれていいと思える程にね、あの無尽蔵の収容が出来た呪具も興味深い…買えたりするかい?」

 

 

 

「毎度あり…とは私も言えないか、切り札も数個使わされた…ちなみにソレは売れない、済まないね」

 

 

 

白髪の男、その懐からボロボロになった謎の道具がバラバラと落ちてくる。爆弾の様に見えるものもあれば謎の杖も砕けてゴミに、様々な器具が零れ落ちてくるも使い切りだったのか、使用後の状態を丁寧に片付け、懐へと仕舞い直す。

 

 

 

「ふふふっ、切り札…ね、あれで売り切れとは言わないだろう?」

 

 

 

「まさか、ウチの古道具屋は品数が多いのが特徴だ」

 

 

 

「……」

 

 

 

嫉妬で親指の爪をガリガリと噛み砕きたいが、そんな姿を姉様の前で晒す訳にはいかない…!この男が何を姉様に行ったかによってこれからの…ーー。

 

 

 

「視野を塞ぎ、平衡感覚を狂わせ、聴覚を潰し…不意打ちに徹底する……君との熱く、激しい情熱的な殺し合いは…とても良かった(価値が高かった)、その『剣』の事も、何度肌を重ねたら教えてくれる様になるかな?」

 

 

 

「済まないが、これは非売品でね……それに、まだこの剣には認められていない、展示品未満の代物だ、けれど期待された分はしっかり商売させて貰うよ」

 

 

 

「そう…なら、楽しみにしておくよ、()()()

 

 

 

「ーーー〜〜ッッ (声にならない嫉妬の炎)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー京都 晴明神社。

 

 

 

「あやや…ワンパターンですねぇ、剣速と反応速度は目を見張るものがありますが、要はその妖力の膜に触れなければいいって事ですし…射程も短いご様子で」

 

 

 

日下部の抜刀の速さは、それこそ舞う鴉が空を駆けるスピードよりも速い。だが当たらない、際を見極め刃が届かないギリギリの飛行、それは彼女天性の山勘であった。

 

 

 

「当たれば致命傷、ほぼ不可避の速斬…素晴らしいとは思いますが、やはり人の限界ですかね?」

 

 

 

ただ単純に、黒鴉は羽を羽ばたかせて空を飛んでいるだけ。『飛べる』という己に元々備わっている能力を振るうだけで、地に足をつけなければ生きられない人の手は届かなくなる。

 

古来より空に手を伸ばしてきた人類を見下すかのように、自然に、悠然と空を舞えてしまう。

 

 

 

「うっせぇうっせぇ…あのなぁ、本当はお前みたいな特級みたいな奴とは一切合切やり合いたくねぇんだよ…楽したい主義なの、俺は」

 

 

 

「なら、見逃せばいいじゃないですか」

 

 

 

「それはお前が本当に無害かどうかに掛かってるだろ、見逃して被害だしてみろ、怒られんのは俺だからな?」

 

 

 

「…あはは!無害であろうと有害であろうと、そうやって上から叱られても…命を失うよりは良いんじゃないでしょうかね?」

 

 

 

「言ってろ」

 

 

 

脚に呪力強化を施し、跳躍する日下部。

何度も繰り返した攻防だ、帳に邪魔をされてその翼の本領を発揮出来ていない鴉の元へは1度のジャンプで届く。

 

 

 

「……またですか?ほんとワンパ……ーー」

 

 

 

ーー空が拓けた。

 

 

 

鴉を閉じ込めていた暗い()が崩壊し、空が解放される。

脳内に走る困惑、この檻こそが生命線だった筈。鴉を逃がさず捕えれる最後の防衛ライン、それが崩壊した?故意にか?意図せずか?

 

 

何はともあれ、自分が居るべき空へと駆け出そうと……。

 

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 

背中に走る激痛。姿勢を崩し、よろめいて…。

 

 

 

「最近の鴉は飛ぶのが下手なんだな」

 

 

 

「っ」

 

 

 

日下部の刃が、届きうる距離へと堕ちてしまった。

 

 

 

(ナイス西宮、真依…!)

 

 

 

遠く、箒に乗ってスナイパーライフルを構えていた2人組へと礼を告げて…刀を振るう。

 

 

 

「シン・陰流 簡易領域、抜刀」

 

 

 

「あやや…っ…」

 

 

 

簡易領域を広げ、鴉の羽に目掛けて放たれた銀閃は鴉の羽を一対を断った。そのまま脇腹に刀が数度入り込む。

 

 

片翼を失い、身体を切り断たれる。だがそれでも尚ヘロヘロと低空を飛び続ける鴉。

 

 

 

「ん〜…この身体では長くは持ちませんねぇ…しかし、今のを避けられないとは、予想以上に制限されてますね」

 

 

 

「……」

 

 

 

「あ〜……えっと、人間さん…お名前は?」

 

 

 

「日下部だ、もういいか?祓うぞ?」

 

 

 

「おわー!?ちょ、ちょっとほんと待って下さいよ日下部さん、私貴方に危害加えましたっけ!?ここへ来て誰にも、何もしてないじゃないですか!」

 

 

 

「リスク管理って奴だ」

 

 

 

「な、なら!絶対に何もしないって誓いますし、貴方の傍で何時でも殺していい様に居ときますんで!何とか生きさせて貰えませんかね!?」

 

 

 

「……ダメだ」

 

 

 

「この通り!このとーーり!!お願いしますよ日下部さぁん…!」

 

 

 

猫撫で声で両手を合わせお願いをするが、日下部の心には1ミリも受けていないご様子。

 

 

 

「ならまずは降りてきてから物を言いやがれ、人を上から見下しながら話しやがって……気付いてねぇとでも思ってたか?」

 

 

 

「降りたら殺されるじゃないで……ーーゴホッゴホッ…」

 

 

 

吐血をしながら地面へと降りてくる、速攻で殺せる様に簡易領域の展開準備はしておきながら、ノソノソと歩いて血塗れの少女の目の前へと足を進める。

 

 

 

「……あやや〜…あのぉ、本当に、ほんと〜に取材しに来ただけなんですよ…駄目ですかね?」

 

 

 

「俺への得が無い」

 

 

 

「ゲほッ…得、ならありますよ…リスク管理、でしたっけ」

 

 

 

「……ぁ?」

 

 

 

血反吐を吐きながらも、ゆったりとした動きで屈み……両手を地に付ける。

 

 

 

「風神…」

 

 

バサバサと激しく、片翼になった翼をはためかせ周囲に風を纏う。

髪が舞い上がり風が吹き荒れ、血を吐きながらも足に力を込めていた。

 

 

 

まだ動くなら祓おう、そう思っていた日下部は即座に簡易領域を展開。その範囲を伸ばし狙い断ち切るは首。

 

日下部オリジナルに構築された自動反応によるオート攻撃、それは人間の思考、その限界値を容易に超えることが出来る。その剣速はマトモにやり合えば人間が超える事は出来ないだろう。

 

 

…但し。

 

 

 

 

「っ…ーー!?」

 

 

 

目の前の少女の姿が掻き消える。

 

 

 

認識するよりも、早く。

 

 

 

「【天狗颪】…」

 

 

 

人間の反応の限界、その限界点を引き出す日下部篤也の技は……。

 

 

 

人間の限界である事が、限界とも言える。

 

 

 

「……」

 

 

 

「ここで…オエッ…見逃して、観光案内してくれれば…」

 

 

 

音を置き去りにした風が、漸く肌を撫で、日下部の体を通り抜けて、背後から声が聞こえた。

 

 

 

「次、私が貴方を見逃してあげましょう」

 

 

 

「……ったく、これだから嫌なんだよ…知能持ちの人型相手は…《西宮、真衣、撤退だ》…一応祓除したとでも言って報酬貰っておくかぁ…」

 

 

 

(特殊過ぎる相手だ、発言的にも今の状態がコイツの『完全』だとも思えねぇ…撤退が一番安全択だな……チッ、こんな特殊案件は上も文句は言わねぇだろ……はぁ…)

 

 

 

「あ、ゲホッ…まって下さい…日下部さん」

 

 

 

「…まだ何かあるのか?」

 

 

 

「動けないんで…その、背負って貰えません?」

 

 

 

「……」

 

 

 

「は????」

 

 

 

その後日下部の高級ワイシャツが血塗れになり、クリーニングが死ぬほど大変だったのは……言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……早苗くん」

 

 

 

「何でしょうか伊地知さん!!」

 

 

 

「……連れて、帰ってきちゃったんですね」

 

 

 

伊地知が目線を落とし、葉っぱと枝を大量に付けた早苗、その腕に抱えられた黒猫を見つめる。

 

 

何かがあったのか、産まれたての子馬の様にガクブルと震えていた。

 

 

 

「はい!子猫を殴るのは辞めておいた方が良いかなって…どうすればいいか分かんないので連れてきちゃいました!」

 

 

 

「……この任務は、2年生に振り分けられていたものだと…理解していましたか?」

 

 

 

「あー……その、巫女の勘がこの子を捕まえた方が良いって言ってまして…」

 

 

 

「……」

 

 

 

伊地知の目線は更に鋭くなる。書類処理中に慌てた様子で飛び込んできた伏黒と釘崎のことを思い返すと尚のことだ。

 

 

 

「……ごめんなさい!」

 

 

 

…そして捕らえられた黒猫には、ド級のトラウマが植え付けられていた。

 

 

 

『ふんふふんふふ〜ん!楽勝ね〜!これなら外の世界の事をさとり様に教えられるわ〜!』

 

 

 

真希とパンダ、狗巻の手から逃れルンルン気分で山を降りようとしていた時の事。

 

 

 

『今』

 

 

 

『…ーー』

 

 

 

『猫が、喋りましたか?』

 

 

 

目の前の草むらから、突如現れた狂戦士を前にして…。

 

 

 

『貴方ですね?任務の対象は』

 

 

 

『…ゴ、ゴロにゃーん…』

 

 

 

『…』

 

 

 

『ニャー…』

 

 

 

『『……』』

 

 

 

『悪鬼退散ッ!!』

 

 

 

全速力で逃げた。

 

 

始まった死の鬼ごっこ、顔面を様々な液体でぐちゃぐちゃに濡らしながら……。

 

 

 

 

「猫はやっぱり可愛いですね〜」

 

 

 

「にゃー…」

 

 

 

そうして、ここでの新たな主従関係が成立したのであった。

 

 

 

「…被害を出さずに捕縛出来たので良しとしましょう、これで千代田区…晴明神社、埼玉の未登録呪霊…いえ、未知の敵の内3体はなんとかなりましたね」

 

 

「やらかしてしまった事はともかく、この様な突発的事象は初めてだったでしょう、お疲れ様です早苗くん」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

書類を捲り、確認を挟む。

 

 

 

「……」

 

 

 

「残るは、沖縄と北海道の4体」

 

 

 

携帯を見つめ、ニュース欄を覗き込んだ。

 

 

そこに載ってある記事は2つ。

 

 

 

《沖縄での異常気象》

 

 

《北海道の地殻変動》

 

 

 

「……」

 

 

 

色々と憂う事はあるが、一番心配なのは……。

 

 

 

「後処理………大変だろうな〜……」

 

 

 

あの2人が暴れた後の、お片付けである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー長野。

 

 

 

全国の騒乱をよそに、暗躍は進む。

 

 

 

守矢の花屋、早苗宅。

 

 

 

 

 

「「……」」

 

 

 

居間で寝ていた諏訪湖と神奈子を起こし、対面に座るのは…顔だけがチョン切れた様に『何か』に覆われた女性。

 

 

 

「こちらの陣営に付いてくださるなら、早苗ちゃんの身の安全は絶対に保証は出来る、勿論貴方達も傍に居られる」

 

 

 

「これから始まる混沌の時代から、貴方達3人だけは身を守れます……力を失った今では、彼女を守り切れないでしょう」

 

 

 

「計画が遂行されれば、全盛期に近い力を取り戻し貴方達はその寿命を終えるまで家族で居られーー」

 

 

 

「ケロ」

 

 

 

「……」

 

 

 

虚空から響く声を、一鳴きで諌めた。

 

 

 

「顔も見せぬ不敬者に、私達が手を貸す道義はない」

 

 

 

「ケロ」

 

 

 

「そして、私達の早苗はその提案を受け入れ無ければならない程、弱くも無い」

 

 

 

「……」

 

 

 

「…うふふ、残念だけど…貴方達に取捨選択の余地は無いの」

 

 

 

「受け入れるか、受け入れずして死ぬか」

 

 

 

「ならば私達は天秤だ、力を失おうと神として、規定された全てを…人間と妖が築き上げてきた全てを秤へと乗せている」

 

 

 

「貴様の世界との重みを比べる天秤として、私達はここに立とう、女狐」

 

 

 

「……」

 

 

 

「天秤……その役目は貴方達には務まりません」

 

 

 

「何?」

 

 

 

「壊れた天秤は、気付かずしてその秤を重りによって固定している」

 

 

 

「貴方達はその比較に結果を求めている、計る事自体が天秤のあるべき姿……計った後の結果を求める意味は無い」

 

 

 

「そしてその裁定者足り得る存在は、既に存在しています」

 

 

 

「…ケロ……」

 

 

 

「…その者の名は」

 

 

 

顔が無い女と見つめ合う。

 

 

 

しかして、それから徐々に首から上が現れはじめた。流れるような美しい金髪を携えた、大きな赤いリボンが着いている帽子をかぶった女。

 

 

 

言葉を紡ぐ頃には、2人に全てを見せていた。

 

 

 

 

「博麗」

 

 

 

「博麗霊夢」

 

 

 

「完成された天秤、楽園の守護者」

 

 

 

「そして、今は絶対の裁定者よ」

 

 






次回: 試されるのは北海道の大地だけじゃねぇぜ!沖縄の豊かな自然に破壊が訪れる!
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