不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

38 / 70
人外魔境日本

ーーー北海道。

 

 

 

死地だ。

 

 

美しい花畑の光景は変わらない、穏やかに流れる風のぬくもりも変わらない、花を微笑ましく撫でて日傘をさしている麗人の様子も…何も、変わっていない。

 

 

破壊を伝える音も、命が失われる声も聞こえてはいない。

 

 

 

だが。

 

 

 

 

死地である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「花は、我儘なの」

 

 

 

ピンク色の日傘をさす女の周囲の光景が歪む、点々と青白い光の塊が16方向を取り囲んでいる。

それらは動き出し、空間を削り取りながら…それぞれの引力を持って対象を引き潰そうとしていた。

 

掌印、呪詞を省いた術式の超重複発動。それは威力、持続力に対する消費が割に合わない程に脆弱なものとなるはずだが…一つ一つの光の弾が命中すれば1級呪霊を祓い、特級にも不可逆の深手を負わせられるものになっている。

 

それが16発。狭まる檻が女を殺しにかかった。

 

 

 

「季節によって咲く花は異なるし、開花方法も種によって違う」

 

 

 

ーー青閃が地面から伸びた花の蕾へと吸い込まれる。太い茎が伸び、花開いた筈の花弁が光を包み込むと、破壊を齎す筈の光はそのまま音沙汰なく消え去ってしまった。

 

 

 

「土壌、気温、湿度…根に与える水から、花弁に降り注ぐ日光まで、この子達にとって必要な環境や、必要な何かが異なれば枯れてしまう」

 

 

 

花畑に広がっていた白い花クチナシ、その幾つかの蕾の内の一つを優しく手で覆う為に、敵に背を向けてしゃがみ込んだ。

そうして手を開けば、クチナシの花弁が開いている。

 

白い笑顔が……優しく、微笑みかけてくれて…。

 

 

 

「その上、他者から生きる為のモノを奪い、自分と同じ存在を蹴落として、それでも生き続ける理由が……花を開かせるため」

 

 

 

「万物は自身の性から逃れられない、その中でもこの子達は最も素直で、最も身勝手で、我儘で自分の為に生きている、『自分の為』だけに」

 

 

 

「それなのに……」

 

 

 

人差し指を、白い笑顔へと添わせ…撫でる。

 

 

 

「こんなにも、可愛らしくて、美しい」

 

 

 

ほんの少しの間、開花していたクチナシは茶色に変化し、枯れてしまっていた。

 

枯れた花を地面へ落とすのと同時。振り向きざまに差し出した左腕が背後に到来していた赫い光を振り払う。

 

無傷とはいかない、左手首から先が消し飛んで白い花畑を朱に染めた。

 

 

 

「ーーで?」

 

 

 

消し飛んだ左腕を庇う様子は無い、彼女の身体がふわりと浮いて五条の方向へと引き寄せられた。

拳を振り抜くと共に展開される蒼による引き寄せは、必然的に相手のウィークポイントと、自身のクリティカルヒットを引き出す。

 

 

 

ーーだが、引き寄せが止まる。

 

 

 

術式が切られた訳では無い。残った腕で地面へと日傘を突き立てて、引力に対しシンプルな膂力で対抗しきった。

 

 

 

「だから花の為に、土の肥やしになりたいって事?」

 

 

 

「ふふっ…いいえ?ただ貴方が…花の扱い方を分かっていても、花がどう在るべきかを知らずに求めていたから教えてあげただけ」

 

 

 

「花はね、咲いてるだけで良いのよ…貴方も、皆も、咲いているだけで十分に…世界に応えているの」

 

 

 

「はは!勝手な妄想でもの語ってんじゃねぇよ」

 

 

 

強まる吸引を一切体勢を崩すこと無く受け止めれる力が、その細身の何処から出ているのか分からないが……。

 

 

五条の心が告げているのは、久しく感じていなかった高揚、そして……ーー。

 

 

 

『向き合える』相手だと。

 

 

 

 

「スロープレーも気が済んだかしら?私の話を聞く為に随分と遠回りするじゃない、つまらないわね」

 

 

 

「な〜に言ってんの、お前がザコだからこっちも気を使ってんだよ…虫を踏み潰した所で普通分かんないからさ」

 

 

 

「ふーん?そうやって貴方が気にしている事も、必死に…何時からか纏わりつかれた根っこの為に、『人』を見繕っている姿も、そろそろ憐れ過ぎて笑ってしまいそうだから…私が笑い殺される前に苛めてもいいかしら?」

 

 

 

「根拠が無い自信を見せびらかすの辞めてくんない?」

 

 

 

「まだ『私』を何も見せていないわ、焦らないで」

 

 

 

いつの間にか再生されていた手をヒラヒラと舞わせる。

蒼による吸引は止まってはいないが、何の支えも無い状態、ただの地力で術式に打ち勝っていた。地面から傘を引き抜くとそれを優雅に構え、閉じたまま五条へと。

 

 

何かが変わった雰囲気を感じ取り、五条も目隠しを外した。

赤い目が細まり、五条の顔を見る。

殺意にまみれていた口から零れ落ちるのも、褒め言葉になる端麗な顔、人として産まれた筈が人では無い何かに見えてしまう程の儚げな顔。

 

 

そんな顔を見て、言葉をポツリ。

 

 

 

 

「桜…」

 

 

 

「……?」

 

 

 

「桜は一言にいっても多様な色があるの、けれど一様に咲き誇れば凄まじい生命力と一瞬で散りゆく儚さを覗かせる、地上に咲く花はその鮮やかさから生の象徴であるしら死の象徴でもある…不思議よね」

 

 

 

「……術式反転、赫」

 

 

 

蒼い光と共に、五条の背後に赫色の光が現れる。

 

 

 

「桜はね…地上の雲と呼ばれる程、密度の高い花、桜は『天』から地上に降りてきた物なのよ、そして桜の花は散り、いつか天に戻る……」

 

 

 

また1本のクチナシの茎を折り、咲かせると……風に乗せて五条の方へと漂って、無下限に阻まれながら空中で止まった。

 

白い花の笑顔は、今度は五条に向けて魅せてくれる。

 

 

 

 

「……あぁ…こんなにも死の香りが濃いというのに、貴方はまだ地上に咲いたまま」

 

 

 

 

「貴方に絡みついた、その醜い根を焼き切ってあげる」

 

 

 

 

ーー極光。

 

 

 

 

「虚式」

 

 

 

「百花繚乱」

 

 

 

 

極彩色の光と、紫電の光が空間を満たす。その光は両者ともに万物に死をもたらす破壊の閃光だ。

命を奪い合っている光景。それがこんなにも華々しく飾られ、見るものを魅了する。

 

 

花を愛する女の瞳の中に、花以外のものは存在してはいない、強き者、己を超える者、弱者…それら全てが種類が違うだけの綺麗なお花。

 

 

 

ただし、彼女と惹かれ合うのは決まって強者だ。それはきっと……。

 

 

 

 

ただそこに在るだけの、美しく咲いた笑顔に魅力されて堪らないからだろう。

 

 

 

 

「茈」

 

 

 

「マスタースパーク」

 

 

 

 

破滅の光の衝突は……互いの実力の痕跡を僻地へと残す。

茈に衝突した極彩色のビームはその紫電に飲まれ切られるも弾け飛んだ一部が周囲の山を破壊。

 

 

けれどそれは五条にとっては予想外の事だ、出会った時から六眼で相手を上手く認識出来ない事、相手は妹紅の様な存在であり、連れていた謎の少女2人と似ている。

 

 

しかも花に包まれた蒼が消滅していたことから術式関係ではない術式を消滅できる力を有していると予測を立てていたのだが……。

 

 

目を見張ったのは、赫を素手で弾いたあの瞬間だ。『弾かれた』、打ち消されるでも無く効果を発揮し切るでもなく。あのやり方で赫の威力を逸らされたのは……『天逆鉾』以来の事。

つまり素の能力に何か秘密がある、蒼をわざわざ花で包んでいたのはそう思わせるため……かもしれないと。

 

 

 

(どっちにしろ、ここで手持ちの札を切らなきゃ死ぬ、ずっと待機してるあの2人組も不気味、狙いも分かって無い……っ!?)

 

 

 

突き進む茈を視界に、その奥の女を見つめていると……。

 

 

 

ーー腕を、茈の光へと突っ込んだ。

 

 

 

その瞬間に六眼が見た事も無い現象を捉える。

 

 

 

「良い、まさか打ち負けるとは思って無かった」

 

 

 

(術式が…解れた!?)

 

 

 

消滅でも無く、同程度の威力による打ち消しでも無く、術式の構築が『破かれる』異常事態。

女の身体の右半身を消し飛ばしながらも、茈が呪力を使用していない、ただの素の肉体に食い破られた。

 

 

 

「あの脳筋……!妖力も肉体もここじゃ出力は同じじゃないって再三注意したのに……」

 

 

 

「楽しそうだから良いんじゃない?」

 

 

 

遠く向こうで紅茶を楽しんでいる2人の内1人から歯噛みした様な声が聞こえる。

 

 

光を殴り抜け、茈が破壊されると共に肉体は再生。拳を振り抜いた風圧が地面を抉り込み大きく穴を開けた。

 

 

 

「そういえば、名前を言ってなかったわね…風見幽香、花が大好きな妖怪よ」

 

 

 

「見せてあげる、呪いの流れに身を預ける人間と、呪いに生きる妖怪の違いというものを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中に光が現れては消え、消えては現れるが繰り返されている。

 

 

 

聞こえてくるのは、肉と肉がぶつかり合う音。

 

 

 

「無下限の術式頼りかと思えば、殴り合いも上手いのね」

 

 

 

「…そーゆー単語(無下限術式)も知ってんの?」

 

 

 

「ええ、知見は広く深く持っていた方が良いから……うん、やっぱり私はこっちの方(殴り合い)が好き」

 

 

 

何の理由もなく、無下限の壁を突破してくる拳。そこに込められた膂力は凄まじく……。

 

 

 

「あら」

 

 

 

蒼による引き寄せが拳の軌道をズラし、地面へと縫い付けると…地面を叩いた拳が金属音のような音を発した。

 

 

 

「カー〇ィかよ…w」

 

 

 

「…えっと、外界のゲームの事だったかしら?」

 

 

 

拳が叩き込まれた箇所から亀裂が広がり、そこら一帯の地面がひび割れ、断裂し断層が生まれた。

地震が起きてもこうはならない、強く深い衝撃は、札幌の大地を根元から砕き始めていた。

 

 

 

「…組手、近付かれない術式を持っておきながら本当に上手くいなすものね?誰の教えかしら」

 

 

 

拳が届く距離ではあるが、五条の肉体に届かせるには『遠い』。近距離は絶対的な防御を持ち、術式も遠距離攻撃を基本なのにも関わらずその近接戦闘能力は目を見張るものがある。

 

頬に向かって拳を喰らわせようとするも、微細な蒼の引き寄せと高度な柔術によって完全に威力を逃される。

服をつかみに行けば、拳が届く前、その間に赫による反発が手を引き剥がした。

 

赫の光を掌で握り潰し、距離を取らせもせず、振り払われるのも防ぎ五条に拳を叩き込み続けている。既に拳の威力は空を切るだけで雲が散る程だ。

 

 

 

「似たような脳筋インテリゴリラが身内に居てるからな」

 

 

 

「私の事、そう思ってるの?」

 

 

 

「ノーコメント」

 

 

 

ただ…今の状況も五条にとっては本気を出さない状態にある、殺し祓うには違和感と謎が多い。

呪力を用いず無限の壁を突破している事から、やはり術式の消滅効果には何か仕掛けがあるはずだが…術式自体の影響は激しく受けているのだ。

 

 

蒼による引き寄せ、赫による反発、風見幽香の肉体にはどれも影響を与えていた。

 

 

 

(結界術でも、妹紅の展延でも無いな、何だ?)

 

 

 

蹴りと蹴りが交差する。発動しておいた赫を幽香はそのまま蹴り飛ばし、五条の顔面を狙う蹴りに対して後ろ蹴りで対処を行う。

 

張り合えば足が消し飛ぶ、そう感じとった五条は自身の真後ろに蒼を展開、体勢を無理矢理立て直した。

 

 

 

「懸命な判断ね…でもーー」

 

 

 

蒼の引き寄せを、今度はそのままに影響を受け五条が引き寄せられる方向へと共に追いかけ拳を構えた。

安易、そう指摘しようとしたのつかの間。

 

 

 

風見幽香の目の前に、土の球体が浮かび上がる。

 

 

 

「…!!」

 

 

 

「やっぱりな、お前…オートマじゃなくてマニュアル(自己判断)だな?」

 

 

 

その正体は地面の花と土を巻き込んでいた蒼、咄嗟に構えを解いて土の塊を握り潰す。

 

 

シンプルな作戦である見た目の偽装、ただしそれが蒼であると判断が遅れた事により生まれた確実な隙。

 

 

 

「【位相 黄昏 知恵の瞳】」

 

 

 

後追い詠唱によって、背後で吸引を続けていた蒼の威力が強まった。術式自体を破壊できても、それから生み出される影響に抵抗が出来ない事は分かっている。

 

 

晒した隙のまま、幽香が引き寄せられるは五条の拳。必中のクリティカルヒット、それが引き出された。

 

 

 

ーーガコンッ!!!

 

 

 

「かっっっ…た」

 

 

 

分かっていた事だが、凡そ人の体を殴った時に出る音では無い。

鋼よりも硬い……金剛を殴った気分だ。

 

確かなダメージがあったかどうか判断する前に、腹へ叩き込んだ腕を掴まれる。

 

 

 

「うわ〜怖っ…」

 

 

 

「捕まえた…っ…?」

 

 

 

ギラリと獣の様な表情を晒し、心臓を抉り取ろうと貫手を放つ……が、空振り。

しかし、腕を握っている手の感覚は変わらない。外すはずの無い攻撃だ。

一瞬の困惑が脳を突き抜けるも、何が起きたのかも一瞬で理解しきる。

 

 

 

「それも対策済み」

 

 

 

「自切か、貴方も人寄りってだけね」

 

 

 

「自覚はあるさ」

 

 

 

妹紅の指導によって鍛えられた近接戦闘、その動きに組み込まれる『思考』はとうに人を脱している。

片腕を自ら失ってもいい、という判断等…常人に行えるはずもない。

 

 

 

「ん〜」

 

 

 

右腕を反転で治しながら考える。

肉弾戦では致命傷をどう頑張っても与えられない、術式以外でのダメージは薄い。蒼も赫も、茈も殺し切るに至っていない事も思考を邪魔していた。

 

でも…試せることは試そうと天に腕を掲げ、2度目の引き寄せが始まる。

 

 

 

「んまっ、やってみるか…【位相 黄昏 知恵の瞳】術式順転 蒼」

 

 

 

「1度見た技の繰り返しは芸が無いわね」

 

 

 

放たれた光が地上から伸びた花によって捕食、消滅させられる。

 

 

 

「ははっ!騙されてやんの」

 

 

 

「んっ…」

 

 

 

足に走る激痛、力を込め直していた身体に傷をつけられるのは出力を高めた赫と茈だけかと思っていたが……何をぶつけられた?

 

 

 

「…なるほど」

 

 

 

「物は試しって奴だね」

 

 

 

「呪詞を省いてよく…」

 

 

 

視えたのは、極小の茈。

 

 

五条悟は妹紅との実践により、既に術式反転の発動過程を出来る限り省く術を得ている。死角から放たれた蒼と赫が混じりあっていたのだ。

 

 

……妹紅の傍に出来るやつ(羂索)が居たことも一因だろう。

 

 

何はともあれ、遠隔で相手のリソースを削る術を手に入れた五条に戦況は大きく傾く事になる。

 

 

全ての行動に、その新しい方程式が当てはめられ……拳に、足に、不利であった筈の近接戦闘は手足の先と、拳が向けられる先への『受け』として展開される茈によって幽香の肉体は削がれていった。

 

 

 

「どうすんの?もう勝ち目は無いんじゃない?」

 

 

 

「……」

 

 

 

「さっきから術式の消滅もやんなくなったし、呪力切れ?」

 

 

 

「ふふっ…ふ、あはは…!」

 

 

 

唐突な高揚を感じ取れる笑い声と…もう一段階変わった『何か』に五条は目を見開く。

 

 

 

血で顔を洗い……。

 

 

 

呪いすら、怯える顔を…その本性を殻から剥く。

 

 

 

 

「呪力切れ…ねぇ」

 

 

 

「少し、本気を出してあげるわ」

 

 

 

 

大地を踏みしめる足踏みさえも、その暴力性と狂気が伝わってくる。

 

 

右腕を伸ばし、周囲の花がそのおぞましい『何か』によって枯れようとしていた。

 

 

 

ーーその瞬間。

 

 

 

 

「領域展開」

 

 

 

 

世界が、塗りつぶされる。

 

 

 

 

「無量空処」

 

 

 

 

必中必殺、呪術の頂点、領域展開。

肉眼を用いる彼と同じ世界の見え方を、同じ『処理』を強制する最強にして最悪の領域。

 

虚無の世界が、風見幽香に牙を向く。

 

 

 

「終わりっと…コレ防げないなら最初っからやれば良かったな〜…まっいっか」

 

 

 

俯く幽香に、命を奪うため歩みを進め、虚空の世界には足音だけが響く。

 

 

 

「結局あの2人もずっと干渉して来なかったし、アイツらもさっさと祓って終わりにして…」

 

 

 

貴重な情報は手に入れた、目下の課題である妹紅の裏切りとそれに付随するであろうタヌキと鬼みたいな奴に対して、今得た知識が活かせるといいが……ーー。

 

 

 

「……」

 

 

 

肉体を観察し、心臓を抉り出そうと手を伸ばす。

 

 

何も違和感は無かった、何であれ呪力を用いる行動には脳の稼働が必要。

 

 

慢心でも油断でも無い、だけれども無知は隙であり罪である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ーーわざわざ貴方の方から来てくれて…」

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

「ありがと」

 

 

 

 

 

妖怪。

 

 

 

 

ーー妖怪とは、呪いに生きるもの。人の恐怖を、負の感情を糧とする存在。

 

 

 

術式とは、呪力が回路を通り、形を変えて効果を発揮しているものだ。大元は唯の呪力でしかない。

 

 

 

そして、呪力とは……ーー。

 

 

 

負の感情によって、産み出されているもの。

 

 

 

瞬きすら許されない刹那の時間。

 

 

 

 

五条の瞳に、指が届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あうんは何処から来た子なんだ?」

 

 

 

「えーっと、えーっと…その、遠い所からですよ!」

 

 

 

「ふーん……パピコ食べる?」

 

 

 

「食べます!」

 

 

 

真夏の日差し照りゆく沖縄は、殺人級の暑さだ。

 

 

喉元を通る冷たいチョコ味がやけに美味しい。

 

 

 

「さっきの子供達はここで知り合ったのか?」

 

 

 

「はい!沢山遊んできてって、楽しんできてって言われたので……ハッ!あ、遊びに行っていいってお母さんが!」

 

 

 

「そっかぁ…可愛い…

 

 

 

あの後子供達は親が迎えに来てしまって、夕焼けが過ぎる中…あうんを肩車して神社の石階段に座っている。

 

 

 

「お母さんは、いつ頃帰って来いとか言ってたりするかい?」

 

 

 

「うー…ぁ〜…えっと…」

 

 

 

掘り下げれば掘り下げる程ボロが出てくるのが面白くて、分かっておきながら少し意地悪をしてしまう。

 

 

 

「ごめんごめん、見知らぬ人にそんな事話したくないよね」

 

 

 

「お、お姉さんは!もう友達ですから!……ぅ、でもその…」

 

 

 

おやつカルパスを口に入れてあげる、反射でもぐもぐと食べ進める姿が愛おしい。

 

 

 

「ん〜…まぁいいか、お姉さんもそろそろ帰らなきゃいけないけど、1人で帰れるか?あうん」

 

 

 

「えぇ!?帰っちゃ……ーーごめんなさい、当たり前の事に驚いちゃって…大丈夫です!これでも狛犬なので!」

 

 

 

「うん、それなら良かった…それじゃ残りのお菓子はあげるから、ゆっくりこの世界を楽しんでな」

 

 

 

「はい!……って、この世界って…!!あの、お姉さーーモゴゴゴゴ…」

 

 

 

ーーふと、後ろから気配がした。

今、あうんの口を手で塞いでいる存在、その気配。

あうんを可愛がりながら、気を張ってはいたのに…一切気づかなかった。

 

 

 

「あ!霊夢さん!」

 

 

 

「駄目じゃない、あうん…知らない人から貰ったものを口にしちゃ」

 

 

 

「うぅ…ごめんなさい…」

 

 

 

振り向けば、派手な色をした巫女服を身に纏う少女が居た。

 

 

 

「あ〜…すまん、保護者か?この子が一人で居たもんだから、つい遊んで貰ってただけだ」

 

 

 

「保護者って訳じゃ…ーーいや、ま、そんな所ね」

 

 

 

向こうの世界からの門限が来たみたいだし、あうんも帰らなきゃいけない時だろう、肩から降ろして霊夢さんに渡してあげて…。

 

帰ろうとした時、後ろから……。

 

 

 

「ーー藤原妹紅」

 

 

 

フルネームを、呼ばれた。

 

 

 

「おかしいな…私ら、何処かで会ったか?子供達にしか言ってな…ーー」

 

 

 

「不死の大罪人、届かぬ月に手を伸ばす愚者……道を違えれば、身を滅ぼすわよ」

 

 

 

「…ーー届くさ」

 

 

 

「いえ、貴方は月に届かない」

 

 

 

「ははっ、なら…」

 

 

 

「どうして、あんなにも月が綺麗なんだろうな?」

 

 

 

「さぁ?我儘だからじゃない?」

 

 

 

「違う」

 

 

 

「月が、私を見ているからだ」

 

 

 

 

妹紅の背中に、炎の翼が生える。

 

 

 

もう1つの決戦が、早々に始まろうとしていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。