不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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幼魚と葬送

 

 

現在、虎杖悠仁は神奈川に起きた事件の解決に就いている。

 

 

報告にあった変死者、失踪者。ここら最近はそれが爆発的に増えている、悪質な呪詛師の仕業か、呪霊か。

 

 

それに相次いで報告される化け物による一般人への被害。既に死傷者も出ていた。

 

 

 

「ふぅ〜…」

 

 

 

呪力を廻し、身体へと循環させ続ける。呪力は別に自分の身体にだけ流れている訳では無い、他人に、呪霊に、自然に建物に……。呪力は巡っている。

 

 

 

「イサナンメゴ」

 

 

 

泣き叫ぶ様な声を発しているのは、腕を逆さまに付けられて……そのまま腕で走っている異形。

 

 

 

「……」

 

 

 

「イサナンメゴ!! イサナンメゴ!!」

 

 

 

異形の生物が俺を殺そうと全速力で走って向かってきた。1ヶ月、たった1ヶ月でどれだけ死ぬ様な目に何百回会ってきたか、それに比べればまだ…。

 

 

 

「…そういう話でも無いな、ごめん」

 

 

 

怪物の突撃を受け止める。鋭い爪、人を殺しうる馬力、異形の身体…。

 

 

だけど、人間なんだ。

 

 

 

 

『人だね、コレ』

 

 

 

『……』

 

 

 

依頼の活動中、出会ってしまった呪霊。祓ったと思った後に…一般人に目撃されていた事、身体が消えなかったのを不思議に思い、家入さんの所に運んで行って貰った。

 

 

 

『呪霊じゃない、体組織が人だ…見た目を変えられてるだけ』

 

 

 

家入さんは見た目を変えられた時点で、その命は失われていたと言っていた。術式の作用か無理矢理弄られた肉体によって死ぬ事は確定していたと。

 

 

 

『…悪趣味が過ぎるだろ、もこね…妹紅先生は何か言ってた?』

 

 

 

『魂に干渉されてるってさ、魂の形を変えられてこうなってる、相当格が高い術式だ…気をつけて』

 

 

 

術式によって、その命の在り方を変えられてしまった人間を…俺は、殺さなきゃならない。

 

 

 

「……もう、大丈夫だから」

 

 

 

「イサナンメゴッッ!!!」

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

虎杖の顔面を殴り続け、心臓に爪を、首に噛み付き続ける異形。無理矢理引き出されている人の限界、魂の磨耗を代償とした、火事場の馬鹿力を出し続けて、死ぬ。

 

 

介錯を施す様に、腕に力を込め…優しく背骨を折る。

 

 

 

「ァォ…」

 

 

 

「……」

 

 

 

異形の手が、最期に虎杖の頬に触れた。

 

虎杖悠仁の身体には、異形の抵抗による傷は付いていない。攻撃の威力は確かに命を奪えるものであった筈、最期の抵抗に振られた爪も、頬へ跡すら残してはいない。

 

 

 

「……埋葬、出来るかな」

 

 

 

…出来ないと思う。この見た目になった人のご遺族が…この人を、墓に埋めてくれるだろうか?

 

 

……きっと、行方不明として処理されるだろう。

 

 

 

「…必ず、アンタをこんな風にした奴には…報いを受けさせるよ」

 

 

 

元凶の目処は、ゆっくりと割り出せてきている。

 

 

 

『……変死体が出た箇所のマッピングは済んでいるかい?』

 

 

 

『教わった通り、地図見ながら印付けてます』

 

 

 

『本来は伊地知と窓の仕事だが…見せてみな』

 

 

 

『……素晴らしい、良いねちゃんと出来てる…それじゃ、次被害が出ると予測される場所に丸をつけてご覧』

 

 

 

『……』

 

 

 

『ここ、っすかね』

 

 

 

虎杖が指を指し、地図に書かれたその場所へ円を描く様に指をなぞらせた。

 

 

 

『…』

 

 

 

『正解だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏場の寂れた映画館、その出入口に足を運ぶ。

 

 

雨が降っていた。出入口には大勢の警官と窓の人、張られてた黄色のテープの向こう側へと通り抜ける。

 

 

 

「お待ちしていました、虎杖悠仁さん…話は伊地知さんから聞いています、中へどうぞ」

 

 

 

「あざっす」

 

 

 

事件はミミズ人間3の上映中に起こった。同じ手法によって、この映画を見に来ていた3人の高校生が殺されている。

 

 

 

「……」

 

 

 

映画館内に放置された、異形の死体に触れる。

 

 

暫くの間、目を閉じ、黙祷。

 

 

 

 

「3人」

 

 

 

また死んだ、また殺されてしまった。これで何人が殺された?

 

 

 

「……」

 

 

 

「…残穢、しかもスゲェ雑に隠されてる奴と、隠してすらいない奴…」

 

 

 

恐らくこっちの隠すのが雑な方は誘ってるな、もこねぇのガイドブックにも書いてあった。

けど、こっちは……完全な一般人、か?

 

 

……そろそろ相手の活動地点も割り出せて来たって時に、協力者が居るって可能性がもう1つ増えてきた。

 

 

 

 

「……防犯カメラも見ておかないと、伊地知さんに頼まなきゃ…ーー」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「なんて、惨い」

 

 

 

 

 

 

…桜の香り?いや!それよりも!!

 

 

 

「っ!」

 

 

 

匂いが漂う方を振り向く。

 

 

 

「…ーー誰もいない?」

 

 

 

「ごめんなさい、少し触れさせてもらうわ」

 

 

 

「!?!?」

 

 

 

声のする方向が変わる。振り向く前の位置、死体の方向から声が聞こえた。

 

 

もう一度振り向けば、喪服の様な黒い服、顔が見えない様にされている黒いレースのチュース、薄いレースの手袋を身に付けた女性が死体へと触れていた。

 

 

敵意は無い、というより俺に気を配ってすらいない。

 

 

 

「……」

 

 

 

女性が死体に触れ続けていると、死体の歪に、異形に変化させられていた肉体が蠢く。

 

 

ーー肉が流動的に動くと、それらは元の人の形を取り戻し、安らかな顔をして漸く永遠の眠りにつけた様な安堵が死体の表情に浮かんでいた。

 

 

その目の前の女性から伝わってくる妙な安堵感、それが余計に虎杖悠仁の緊張を高めている。

 

 

 

「……アンタは」

 

 

 

「安心して下さい、呪術師さん」

 

 

 

「私は葬儀屋、こうやって歪められた魂を…亡霊を導き、正しい死の循環へと送る管理者です」

 

 

 

「…ガイドブックには書いてなかったな……えっと、呪詛師って訳じゃないよな?」

 

 

 

「ええ、フリーの呪術師と考えて貰えれば幸いよ」

 

 

 

「…どうやって中に」

 

 

 

「窓の方とは話をつけています」

 

 

 

おっとりとした話し方に、柔らかな雰囲気に拳を振るう気が失せる。携帯を使って窓の人に連絡を取り、この人からの申請があった事が事実なのは分かった。

 

 

葬儀屋、という存在については把握していないらしく、フリーの呪術師である事しか分からないが……身分はしっかりと証明していて、怪しい点も無い為通したと。

 

 

拳を下ろして、異形死体の修復を続ける葬儀屋へ声をかける。

 

 

 

「葬儀屋さん、確認は取れたんだけど……窓の人はそんな役職を知らないっつってるって…」

 

 

 

「うふふ、それも仕方ない事なんです…私は本当に一般の家庭の、普通の葬儀屋なんですから」

 

 

 

「…それじゃ、その術式は?」

 

 

 

「私の術式は魂の形を修復し、肉体を治す事が出来る…と言っても、死後に限られるの、そして葬儀に送られる人の全てが綺麗に保たれた死体という訳でも無い」

 

 

 

「交通事故や工業機械による死は、遺体の損傷が激しい……でも、最期にもう一度、遺族には顔を見せてあげたいって思っていたら、いつの間にかこの力を手に入れていた…と言えば信じて貰えますか?」

 

 

 

「…いや…有り得ない、って話でも無いと思うんで…」

 

 

 

ましてや葬儀屋だ、一般の方よりも人の死に近く、1番呪術関連に出会う可能性が高い存在。

 

 

術式の自覚時期とかはまだ習ってないけど、身分も証明されてるなら受け入れるしかないか。

 

 

…納得しやす過ぎるってのも違和感があるが、戦闘能力がある様には見えない。

 

 

 

「良かった、今私は…この変死事件を追っていて…そうしていたら、貴方と出会ったとだけ、取り敢えず、宜しくお願い致しますね?」

 

 

 

それに……そんな哀しそうな顔をして、死体を元に戻している姿を見ていると…どうも、悪い人に見えないから。

 

俺だけが宿儺の指を取り込めるように、姿形を歪められた人を元に戻して遺族に渡せるのもこの人だけだ、邪魔はしないでおこう。

 

 

 

「宜しくお願いします、葬儀屋さん」

 

 

 

「うふふ…礼儀正しいのね、虎杖悠仁ちゃん」

 

 

 

「……俺、名前言いましたっけ?」

 

 

 

「ふふ、気にしなくていいわぁ…それよりも、屋上に連れ添って下さいな」

 

 

 

「まだ、囚われてる子が居るみたいだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎杖悠仁は、幻想郷襲来以降の1ヶ月間に……。

 

 

両面宿儺と、優に何十回以上も入れ替わっている。

 

 

 

 

『私が思いついた天才修行法を教えよう』

 

 

 

『…嫌な予感しかしないんだけど?』

 

 

 

『名付けて宿儺爆速レベリングだ』

 

 

 

『名前が最悪過ぎない!?!?』

 

 

 

現状、指をもう1本取り込んだと言えど、宿儺に妹紅の記憶消去に抗う術は無い。虎杖悠仁自身もその消去に巻き込まれない特異な存在となっている。

 

 

羂索と月の敵対者の采配により作られた虎杖悠仁という存在は、『要』であるが故に万全を期された。

 

 

それを逆手に取り、宿儺を顕現させては妹紅が取り押さえ、その度に記憶を消去するという荒業を取る事に。

 

 

 

『…これ、今も宿儺は聞いてるんじゃない?』

 

 

 

『いや?大丈夫だ、この前悠仁を宿儺の生得領域から引っ張りあげた時に休眠させてある』

 

 

 

『だから静かだったのね!?』

 

 

 

畜生と外道を超えた戦法、到底使用していい訓練方法では無いが…。

 

 

 

『宿儺はな、最強の術師だ』

 

 

 

『………五条先生が居ても?』

 

 

 

『それ前にも議論したんだがな…私的には…今の五条と完全体宿儺で五分五分だが……ん〜…うん、完全に五分、戦うまで分からん』

 

 

 

『なのに最強って…』

 

 

 

『呪術師としては、この世界で1番戦いにおける呪術に対する理解が深い、縛りの活用、結界術、術式の応用に戦略戦法も優れてる』

 

 

 

『技量だけで言えば、死ぬ様な努力してる五条の上を行ってるんだ……んで、ここからは私の研究の成果と言えば成果なんだが…』

 

 

 

『ーー1つの身体に2つの魂を同居させている場合、片方の経験は片方の魂にも刻み込まれる』

 

 

 

子供が、自転車を乗れる様になるのはいつ頃だろうか。

 

 

親の手を借り、何度も練習し、そして親の手を借りずとも走れる程に努力を重ね……それは、未来永劫自身の糧になる。

 

 

大人になって、子供の時に自転車に乗れた人が乗れなくなるケースは少ない、乗れなくなるのも身体的な事情が殆どで、乗り方を忘れる人は居ないと言って差し支えないだろう。

 

 

何十年も期間が空いても、人は自転車に乗れる。

 

 

 

それは自転車に乗る上で必要な知識を覚え続けているからだろうか?ペダルに足を乗せる角度、サドルに座った時のバランス.……そう言ったものを、人は単純な知識としてでは無く…。

 

 

肉体の知識、肉体に刻み込まれた経験として、覚えている。

 

 

 

 

『呪力操作、術式運用……今の宿儺が幾ら全盛期に程遠くても、技術は全盛期…というか、いつも通り』

 

 

 

『そして宿儺の技量、その経験は魂を同居させる悠仁に蓄積し続ける、まぁ本当は黒閃を経験してからの方が良いんだけど…やっちゃおっか』

 

 

 

『……ほんっっとうに、本当に色々不安あるんだけどさぁ…もこねぇがそんないっぱい焼いちゃって、大丈夫なの?』

 

 

 

『んまぁ、その為にも壊れない様につくっ…ーーあいや、五条が1000年掛けて壊せない呪物だって言ってただろ?大丈夫大丈夫』

 

 

 

『………押忍!宜しくお願いします!!!』

 

 

 

それからというものの、2日に1回のペースで入れ替わって、目が覚めては地面に叩き伏せられているし、目が覚めた後に数時間の実践訓練を行って、死んだ様に眠る生活を繰り返している。

 

 

過去に五条と夏油に行っていた訓練もメニューに追加され、地獄の方がまだマシだと思える毎日を過ごしていた。

 

 

 

その結果……。

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、随分と…ーー強いのね、悠仁ちゃんは」

 

 

 

「…色々、頑張ってるんで…」

 

 

 

無傷で改造されてしまった人間複数体を鎮圧。抵抗を受ける事無く捕縛しきった。

 

 

 

「この人達を元に戻してくれ」

 

 

 

「勿論よ」

 

 

 

捕縛している間に、葬儀屋が改造人間に触れる。

 

 

肉体は流動し、裸の人間へと戻っていった。

 

 

本当に、眠っているだけの様な…静かな表情で、皆その生涯を終えたのである。

 

 

 

「……」

 

 

 

黙祷を捧げる2人。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

「こちらこそ、戦いはめっきりダメだから…貴方が居てくれて良かったわ、遺体は窓の人へお願いするわね」

 

 

 

「了解っす、それと葬儀屋さんはこれからもこの事件と…?」

 

 

 

「ええ、関わる事になるわね…私は、この日本が大好きなの…そこに住まう人々も含めて、日本を愛している、それをこんな風に穢されていたとは、出てくるまで分からなかった…」

 

 

 

「それを正したい、せめて死んだ後に正しい死の循環へ迎えさせてあげたかったの、ありがとう悠仁ちゃん」

 

 

 

優しく黒のチュースの下に微笑む笑顔が虎杖に向かって届けられる。

 

 

 

「押忍、俺もこの人達を、せめて埋葬出来る状態にしたかった」

 

 

 

「だから…本当にありがとうございます、葬儀屋さん」

 

 

 

「…私、貴方の様な優しい人は大好きよ?どうかしら、これから晩御飯を用意しているのだけれど、御一緒なさらない?」

 

 

 

「俺はこれからこの事件の元凶を追いに行きます…今回の事で目処が付いたんで、すみません…食事はまた、別の機会に」

 

 

 

「そう…頑張って下さいな、悠仁ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防犯カメラに映る映像を、食いつく様に確認する。

 

 

 

「吉野順平17歳、この殺害現場に居た少年です」

 

 

 

「この子について、まずケースその1は無関係の人間、ケースその2は呪詛師であり主犯と手を組んでいる、ケースその3はこの少年が主犯……は有り得ないので省かせてもらいましょう」

 

 

 

「虎杖君の選択肢は2つ、これから敵のアジトに乗り込むか、それより前にこの少年がどの様な存在であるのかを調べに行くか」

 

 

 

「どちらを選ぶかは、虎杖君に任せます」

 

 

 

「……」

 

 

 

「伊地知さん」

 

 

 

「敵の、居場所は?」

 

 

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