不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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事情①

 

 

虎杖悠仁が吉野順平に接触しようと動き始めた時。

 

 

 

そこで時は巻き戻る。

 

 

霧雨魔理沙、幻想郷在住である彼女が現世へ訪れる理由になったとある幻想郷での異変。

 

 

 

真人と虎杖が衝突する以前よりさらに前。

 

 

 

一か月の修業期間が始まる要因にもなった幻想郷侵入。

 

 

 

ーーが始まる前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「会いたかったんだよ〜?お兄さん?」

 

 

 

七海建人とルーミアの会遇にまで遡る。

 

 

虎杖悠仁の幻想郷との接続が断たれ、その瞬間に現れた彼女に対し全神経を集中させ、警戒を続けていた。

 

 

 

「案外早く再会したね」

 

 

 

「私としては不本意ですが」

 

 

 

「あ!メガネ外してる〜!そんな目をしてたんだ……とっても、とっても美味しそうな綺麗で暗い目を…」

 

 

 

(……鉈も無い、対策も未だ分かっていない…クソッ、ここまで早く出会う事になるなら慧音さんから対処方法を聞いておけば良かった)

 

 

 

後ろずさりながら、七海が拳に呪力を溜める様子を見てルーミアは愉快げにそれを笑い飛ばす。

 

 

 

「…ふ、ふふっ…あははは!大丈夫だよ、お兄さんを食べに来た訳じゃないからさ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「わはー……全然信じて貰えないのだ…」

 

 

 

「当たり前でしょう」

 

 

 

「んー…なら、教えて貰った縛りを結ぼー?私はお兄さんを絶対傷付けないし、誰かに頼んでお兄さんを殺させたりしない、何があっても…お兄さんの命に関わることがあれば私はお兄さんの事を守るよ、命に代えてもね?しかも無条件で!」

 

 

 

「……」

 

 

 

急な提案…意図も理解出来ない、何の為に?何か目的があってか?

 

 

……なら、逆にこの場は踏み込むしかないか。

 

 

 

「……分かりました、期限は?」

 

 

 

「やったー!えっと、幻想郷内でずっと!」

 

 

 

「……(その縛りを無条件で…)それと、以前もお伝えしましたが私の名前は七海建人です、縛りを結ぶ際は相手の名前を提示して行って下さい」

 

 

 

「分かったのだ……あ〜…それと!お兄さんがあの男の子に話そうとしてた通り、今頃幻想郷の色んな人達が現世に侵入してる頃だよ〜」

 

 

 

「だから♡手遅れだし気にしなくていいのだー」

 

 

 

「…そうですか…」

 

 

 

侵攻は既に始まっていたか…だが更に重大な事実を知ってしまった。

縛りの結び方を聞いた、やはりあの時の襲撃は此方の世界の誰かが裏で手を引いていましたか。

任務と重ね合わせた様な彼女の出現、以前から幻想郷の存在を知っていた誰かが彼女を導いたのだろう。

 

 

……幻想郷と向こう側を行き来できる存在に加え、私達側にも黒幕がいるとは…。

 

 

 

「わは〜!よし、これで出来たかなー?」

 

 

 

縛りの成就が終わった瞬間に、私の手を取って何処かへ連れ出そうとする。

 

 

 

「……貴方は、私が貴方の事を祓うとは考えていないのですか?」

 

 

 

「んー?考えてるよー?お兄さん、幻想郷に来てから随分と調子が良くなってるみたいだし、縛りが無くても負けちゃうと思ってるからさ〜」

 

 

 

「では、何故」

 

 

 

「七海お兄さんを幻想郷の隅々まで案内してあげる為〜」

 

 

 

「……訳が分かりません」

 

 

 

「そう言わずに、ほら!着いてきて〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を引きづられ、人里のさらに遠く離れた山奥。

 

 

美しい川、輝く様な煌めきを持つ小川の滝、人が介入していない影響か丸々自然そのものが残っている山中へと連れられた。

 

 

何を意図しているのか、何が目的なのか、何故私をこの世界へ連れて来たのか……黒幕の質問含め、彼女に問いかけてものらりくらり躱されてここまで来てしまった。

 

 

 

「……」

 

 

 

「1つ目の案内場所到着!」

 

 

 

パッ、と手を離し、川の水の中へと飛び込んでいくルーミア。

夏の日差しのせいで黒色の服に集まる熱によって蒸されていた身体を足首から冷やしていく。

 

 

水遊びのためだけに来たのか…?と疑問に思ったのもつかの間、その飛び込み音を聞きつけて……。

 

 

 

「誰だー?って、ルーミアか」

 

 

 

「うん!水浴びに来たよ!」

 

 

 

「そこの人間さんは?」

 

 

 

「私の遊び相手〜」

 

 

 

川の上流から、釣竿を持った少女が現れる。

 

 

 

「そうかい、溺れんよう気を付けてな」

 

 

 

「はーい」

 

 

 

2人を見届けた後は普通に森の奥へと帰って行ったのだが……。

 

 

 

「…今の方は?」

 

 

 

「河童だよ、私と同じ妖怪」

 

 

 

「今の少女も妖怪なんですか」

 

 

 

「うん、それに1人だけじゃない、ほら、あっちも見て」

 

 

 

ルーミアが指を指す方向へ視線を向けると、数十人の緑の帽子をかぶった少女達が釣りや水遊びに励んでいた。

 

 

皆、夏が本格的な活動時期なのか生き生きとしている。

 

 

 

「河童達もね、人里の様に集落を作ってるんだ」

 

 

 

「集落…規模は」

 

 

 

「人里より数倍大きい位、河童たちは独自の技術力で…貴方達現代の数倍の技術力も持ってる、戦闘機だって作れちゃうらしいよ」

 

 

 

(……妖怪、ここへ来た時から感じていましたが、彼女らは殆ど人類の進化種とも言って差し支えない)

 

 

 

(心を糧とし、環境を害してまで生きる手段を見つけなくていい、人という絶対的に必要な家畜さえあればそれ以外に追い求めるものは無い)

 

 

 

この不自然な幻想郷における人間の状況を見ても…私は、この世界を美しいと感じている。あのパン屋のように、ここは人の善性を色濃く映し出す。

 

 

あの家族に起きたことは、妖怪による理不尽だ、それでも…。

 

 

 

「…あの集団は、所謂…」

 

 

 

「うん、家族ごっこをしてる河童達だね、自然から発生する妖怪に家族なんてものはないけれど、人間の影響を強く受けた河童達だからこそあんな感じになってるんだ」

 

 

 

「……河童達は妖怪の中でも社交性が高い種族だということですか」

 

 

 

「そうなのだー、そして…」

 

 

 

 

 

 

「集落の河童、その四割はもう消滅してる」

 

 

 

 

 

 

「…は」

 

 

 

 

「異変のせいでね、水浴びも済んだし次の場所に行こっか、七海お兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(次は……山…)

 

 

 

人里の周囲を囲む山、その中でも物々しい雰囲気を醸し出す大きな山へ案内された、頂上付近には霞がかかっており、相当な高度であることがうかがえる。

 

 

森の中にも上空にも沢山の動物に妖怪たちが駆け回り飛び回っていた。

 

 

 

「ここは沢山の妖怪たちが根城にしている妖怪の山の入り口、周囲一帯の山の管理者たちが住まう中核でもあるし、力の強い妖怪が町を作ってる所でもある」

 

 

 

「今は山の住人以外の立ち入りを禁止にしてて、人間以外も足を踏み入れられないようになってるの、立ち止まっている此処がぎりぎりのラインかな」

 

 

 

「…先ほどから上空から視線を感じたのは門番の方が居たからでしたか」

 

 

 

「そうね、プライドばっかり高いカラス天狗の手羽先ちゃんたち」

 

 

 

「酷い言いようですね」

 

 

 

「異変が起きてからいの一番に引きこもった子たちだからね、被害の実態を理解したえらーい上の人がすぐに封鎖しちゃったんだ」

 

 

 

「……」

 

 

 

先ほどの告白、河童たちの集落の異変についてはあの言葉以降語られることは無かった。そして私もそんな異変があったとは慧音さんから聞いていない。

 

 

彼女が妖怪たちの存亡にかかわった『何か』について意図的に隠しているとは思えないが……だが、そろそろ彼女が、ルーミアが縛りを結んでまで私をあちこちに連れまわして何を見せたいのかが分かってきた。

 

 

 

「山のコミュニティはとっても広くてね~?それこそ、貴方達の世界の『県』だっけ、それくらいは広いのだー」

 

 

 

「…ここでも何か異変が?」

 

 

 

「うん、力の強い妖怪…それも鴉天狗を治める上の人だったり、見回りの鴉天狗の子達が異変の影響で死にかけちゃってね、それで今も生死の境を彷徨ってるみたい」

 

 

 

「なるほど、それでここまで物々しい…」

 

 

 

(異変…先ほどから出てくるその単語、この幻想郷に何が起きた?)

 

 

 

(恐らく、その内容が今回の現世への侵攻に関連がある筈)

 

 

 

「…ルーミアさん」

 

 

 

「まーだダーメ、焦らないで?」

 

 

 

「いえ、結構です…ここで真実を話してください」

 

 

 

「あと一か所だけだからさ~お願いなのだ―」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後だと言われて連れてこられたのは、墓地の様な場所。

 

 

 

人の影、妖怪の影どころか生命の影すら感じ取れない寂れた場所へと。

 

 

 

 

「私ね、よくここでご飯探ししてるの」

 

 

 

「ここは外からのモノが流れ着く場所、人でも物でも何にでも……だから迷い込んできた人間さんもお腹空いてたら食べてたんだ」

 

 

 

「……ーー外からの、モノが流れ着く…」

 

 

 

ここに来て、予想していた事が当て嵌ってしまう。

 

わざわざ外との繋がりがある場所へ来させられて、見せられたもの……それは……。

 

 

 

「何故、呪霊がこれ程に…!!」

 

 

 

墓地にワラワラと湧いて歩き回っているのは、4〜3級程度の呪霊。それが墓地を埋め尽くすように練り歩いている。

 

呪霊は何かに遮られているのか、一定のラインからは外へ出れない様になっていた。

 

 

 

 

「賢者達が足を揃えて霊脈を変え、地脈を整え、元々は幻想郷全体に出没していた彼らをここへ閉じ込めた」

 

 

 

 

「閉じ込めた…?」

 

 

 

 

「そう、呪霊が幻想郷に齎した被害は計り知れない…ーー第一の異変、呪霊の出現」

 

 

 

 

「第二の異変、呪霊の澱み…呪いの循環が持ち込まれた事による旧地獄と冥界の崩壊」

 

 

 

 

「第三の異変、呪霊による妖怪と妖精の消滅」

 

 

 

 

「もうとっくに、幻想郷は現世へ攻め入る理由がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『呪霊はね、強さは脅威でもなんでも無いんだ、問題はその存在自体が妖怪や妖精にとって猛毒だったって事』

 

 

 

『人間の負の感情、不純物の集合体である呪霊……人里周辺には出現しなかったから、チルノちゃんや大ちゃんは知らないけど、旧地獄や冥界、妖怪の山や河童の集落に現れた彼らは即刻駆除された、弱いからね』

 

 

 

『低級妖怪や弱い妖精でも勝ててしまう程、ここでは彼らの存在は脆弱だった……だから最初は皆、大した事の無い軽い異変だと思っていたんだ』

 

 

 

『呪霊によって、その身を呪いで侵されるまではね』

 

 

 

「……」

 

 

 

辺り一帯に蔓延る呪霊の頭を砕いていく、言っていた通り殆どが4級程度の呪霊。手こずるはずもなく、ここに来て格段に呪力出力が上がっている私にとってはほぼ作業だった。

 

 

 

『呪霊を駆除した妖怪達は、直ぐに身体に変調を齎したの…祓った事によって、ある種呪い返しのような現象が妖怪達の身に起きて、恐怖を糧とする様にそれを飲み込んじゃったら……パンッ!ってね』

 

 

 

『呪霊は不純物過ぎたんだ、あ、呪力は違うよ?七海お兄さんみたいに呪力を操ってる場合は、恐怖と同じ純粋な感情エネルギーに近いから』

 

 

 

『呪霊を私も食べちゃって…偶然体質と合ってたから何とか飲み込めたけど、封印が軽く解けちゃったし』

 

 

 

『結果対処に当たった妖怪の殆どが死亡、又は意識不明、事態を重く見た賢者の1人が即刻霊夢に異変解決を頼み込んだのだけど…あちこちに発生する呪霊の対処を彼女1人では賄えなかった』

 

 

 

『その結果、様々な妖怪の住処は荒らされ…さっき七海お兄さんと訪れた各所と、その他の場所も壊滅的な被害を受けたんだ』

 

 

 

 

「…」

 

 

 

「…ふんッ!!」

 

 

 

拳に力を込めて、数十体の呪霊を一振りで祓う。

 

 

私のこの世界での好調は、この世界に満ちていると言われている『恐怖』の感情によるものだった。

空間に呪力を供給できるタンクがある様なもの、この世界に居る限りは出力は底上げされ、呪力量も元とは比にならない。

 

 

 

『原因が分からない』

 

 

 

『博麗霊夢が居て、何故異変が解決しなかったのか』

 

 

 

『それは、呪霊の発生を留める事も、呪霊の発生源を潰す事も出来なかったから』

 

 

 

 

最後の呪霊の腹をぶち破って、数千体居た呪霊を祓い終えた。数だけの有象無象でかすり傷一つ負わなかったが……後味が悪い。

 

 

 

「これで、全て祓い終えました」

 

 

 

「お疲れ様〜お兄さん、これで幻想郷の英雄になれたね〜」

 

 

 

「…冗談は辞めてください」

 

 

 

「冗談でもなんでもないよー?」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

『そこで、1人の大賢者…いちばーん偉い人が提案したんだ〜……まるで、何もかも事前に分かっていたように、全ての解決策は現世にあるって』

 

 

 

『その提案に幻想郷の有権者、大妖怪達は賛成、現世の不純物な呪いに耐える為、魂が無いけど動く死体を使って現世での活動義体が作成された』

 

 

 

『私はあの女から最初に提案を受けたテストユーザーって感じ〜』

 

 

 

これで、私が連れてこられた理由も分かった。

 

 

 

「貴方が私をこの世界に連れてきた理由は…ーー全てが終わるまで、この世界を私に守らせる為ですね」

 

 

 

「正解!人里の人達は呪霊を死ぬ寸前まで認識出来なくて、博麗霊夢は『もっと大きな事』を対処中、呪霊の発生は完全に制御されてるわけじゃなくて時たまに、この『無縁塚』以外の場所にも発生する」

 

 

 

「私が食べてもいいんだけど、封印が完全に解けちゃったらもーーっと大変な事になるから〜……七海お兄さんをここへ呼んだのだ〜」

 

 

 

「…どうやって?」

 

 

 

「あの女の掌に踊らせ続けられるのも癪だから、偶然こっちに来てくれた接続端子の子…七海お兄さんがさっき会ってた子をこっそり摘み食いして、機能を解析転用しただけ〜」

 

 

 

「上白沢さんの話に聞いていたより、随分と聡明ですね…ルーミアさん」

 

 

 

「ほんの少し、記憶が戻ったからなのだ…それにしても、永遠の楽園を謳う幻想郷がこの有り様なんて…あの女は分かって受け入れてたのかなぁー……」

 

 

 

凡そ事態は把握出来た、提案を掲げた大賢者、幻想郷の管理人…ルーミアが話す『あの女』こそが、現世と幻想郷を行き来する能力を持つ者。

ルーミアが感じ取るには、『あの女』は幻想郷が変わってしまうことを知っていたかのような立ち回りをしていた。

 

 

ルーミアが縛りを教わったのは、携帯越しでの連絡……携帯等という物を所持している事には驚いたが、それも『あの女』に渡されたものだという。

 

 

通話相手は不明、だが幻想郷の住人では無い事は確定だと。

 

 

 

 

「でもね、あの女…私にはなーんにも教えてくれなかったのだ…ご飯食べ放題って言われて着いて行ったら実験体になっちゃった」

 

 

 

「…?何も?」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「では先程の話は誰から聞いたんですか?」

 

 

 

「うーん、強いて言うなら…幻想郷の現状と、起きた事と…一時的な幻想郷有権者の消失を踏まえた…ーー」

 

 

 

「私の妄想、かな?」

 

 

 

「………………そう、ですか」

 

 

 

一気に信憑性が無くなってしまったが……恐らく、かなり正解に近い。

 

 

何より呪霊と接敵したチルノさんと大妖精さんの反応も彼女の話があれば納得出来る。力のある妖精ですら今は近付かれるだけで悪影響を齎されているという現状で、妖怪達に何も無い筈がない。

 

 

 

「七海お兄さんはさ、私の事殺したいんだよね?」

 

 

 

呪霊の居なくなった無縁塚、流れ着いている現世のソファーにボスんと座って、上目遣いで七海へと話しかける。

 

 

 

「…まだ決めていませんが、郷に入っては郷に従え…私はこの世界での妖怪の在り方を受け入れます」

 

 

 

「なので、貴方の事も今は祓いません」

 

 

 

「ふーん?」

 

 

 

「但し、それは貴方達にも守ってもらう事です、現世へ足を踏み入れるのならばこちらの事情で貴方達を祓う」

 

 

 

「いいよ、それで」

 

 

 

「そして貴方は私をこの世界の守り人にさせたいようですが、私は帰らなければならないのでそれも却下です」

 

 

 

「別にいいけど、多分お兄さんは自分から帰らない選択を取ると思うよ?それに帰る目処は着いてるのかな?」

 

 

 

「…話は以上です、それでは」

 

 

 

踵を返し、無縁塚を後にする七海を見届けるルーミア。

 

 

赤い瞳が更に鋭く、獲物の首を狙う捕食者の目へと…細まり、変化していく。

 

 

 

「ふふっ、それじゃまた会おうねー!七海お兄さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

里へ帰る道を走る。小走りに、何かに急かされるように。

 

 

 

『多分お兄さんは自分から帰らない選択を取ると思うよ?』

 

 

 

第六感か、何か分からないモノが背中を押す。

 

 

 

頭の中に蠢く何かが心を刺激する度に、足はどんどん早踏みしていき、走る理由も無いのにいつの間にか息を切らすほど勢いよく土を踏み締めていた。

 

 

 

『な、なんだアイツ…!?』

 

 

 

…無縁塚と呼ばれる場所に呪霊は封じ込められた。

 

 

 

ならば、何故…ーーあの場所に呪霊が居た?時たまに呪霊が溢れ出すとはいえ、無縁塚から遠く離れた人里には呪霊の発見報告も今まで一切なく、チルノさん大妖精さん2人にも初見のように思えた……。

 

 

これが元々発生していた場所なら分かる、だがあそこは殆ど人里だぞ?発生原因は完全なランダムなのか?

 

 

 

……。

 

 

 

………ルーミアと幻想郷の各地を回ったのも高々数時間、何処も人里から遠く離れた場所とはいえ何か起きた訳でも無いのに。

 

 

 

足を駆け出す速さは、どんどん早くなっていく。

 

 

 

「ふっ…」

 

 

 

川を一足で飛び越え、借り物の着物に泥が跳ねて汚れるのも気にせず走る。

 

 

 

「はっ…はっ……はっ…」

 

 

 

息を切らして、数十分で人里の門まで辿り着いてしまった。どれほど急いで走っていたのだろう、それすら分からない。

 

 

 

「…門衛の方が居ない?」

 

 

 

「……」

 

 

 

門は固く閉ざされ、外敵を拒んでいた。門に拳を押し当てて、無理矢理破壊して人里へと入る。

 

 

 

「…静か過ぎる」

 

 

 

余りにも静かだ、夕方とはいえこれ程人里に人気が無い時があっただろうか?

 

 

 

「何が起きた…?」

 

 

 

1度人里の外に出る。

 

 

外周から人里の様子を見ようと森の中を走っていると……。

 

 

 

「っ…」

 

 

 

「まさか…!」

 

 

 

私の狭い呪霊感知範囲、それに一体…引っかかった。

 

 

 

人里に近い森、その中から呪霊の気配がする。

 

 

 

同時に、森の中から劈くような高い声も。

 

 

 

 

(呪霊に襲われている!間に合え…!!!)

 

 

 

瞬間的に足に力を込めて走る、現世では絶対間に合わないであろう距離でも、今なら…!

 

 

 

「……ーーーれか!」

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

七海建人の視界に、爪を振り上げる呪霊の姿が映る。

 

 

 

 

「誰か!助けて!!」

 

 

 

 

見えた!!あの人は……パン屋の、奥さん…!!呪霊は2級、問題無いが…素手ではミートポイント(十劃呪法)がズレる、だが一撃で仕留めねば奥さんの命は無い。

 

 

 

 

「ふぅ…ーー」

 

 

 

 

出力が上がりすぎる身体でも制御しろ!歌姫さんの術式と同じだと思えばいい!

 

 

 

「ォォォ オキャクさまの、オキャ、オキャク……」

 

 

 

「ぁ…」

 

 

 

呪霊の爪が、女性の顔へ被さっていく。

 

 

 

「オキャクサマのォォオォォ!!!!!」

 

 

 

「【十劃呪法】!」

 

 

 

「オキャ…ーー」

 

 

 

振りかざされるその一瞬に拳が間に合った。一撃で身体が崩壊し、その勢いのまま全身から血を吹き出しながら森の奥へと吹き飛んで行った。

 

 

 

「ふぅー…!!」

 

 

 

(…間に合った……)

 

 

 

「な、七海さん!」

 

 

 

「海斗さんの奥様……どうしてこんな所に、人里で何が?」

 

 

 

「わ、分かりません…でも、避難の指示が阿求様から出され、人里の皆は今博麗神社へと避難しています」

 

 

 

「それで……避難途中、夫とはぐれてしまって……危険は承知で人里へ戻っている最中に…ーーうぐっ…」

 

 

 

「…負傷しているんですね……避難場所は博麗神社でしたか、そこへ貴方を送ります」

 

 

 

「っ、待って下さい…!夫が避難場所に戻れてないんです、だからまだ人里の中に…!!」

 

 

 

脇腹に滲む血を抑え、それでも懸命に七海に縋り付く。

 

 

 

「ですが、このまま貴方が人里の中へ行っても無駄死にをするだけです」

 

 

 

「無駄死に……なら!夫はどうしろと…!!!」

 

 

 

「私が行きます、貴方は避難場所で安静に」

 

 

 

「……ーー」

 

 

 

「た、退魔師でも無い貴方が行っては…ーー」

 

 

 

 

「安心して下さい、以前にもこういった仕事には就いていて、馴れています…最善は尽くしますので、ここは私に」

 

 

 

 

「っ…」

 

 

 

それでも納得出来ない女性に向けて、優しく微笑み……そして、一言。

 

 

 

 

「退魔師ではありませんが、私は……」

 

 

 

 

「呪術師ですので」

 

 

 

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