不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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誤字脱字報告ありがとうございます。


事情②

 

 

この世界に来て、私の中の空虚な何かが満たされると思っていた。

 

 

 

何の為に戻ってきて、何がしたかったのか。

 

 

 

その答えが見つかると。

 

 

 

ただ……それは、安らぎの中での逃走でしかない。

 

 

 

 

「…内容の無い思考は虚しいだけですね」

 

 

 

人里の家の中を漁らせて貰い、手に入れた鉈に布を巻き付け…。

 

 

 

「2級……1級も居ますね…」

 

 

 

呪霊の気配を感じ、鉈を握る手に力が篭もる。

 

人里に起きた異変は、呪霊の発生と襲撃。

 

 

 

「……」

 

 

 

女性は避難場所へと送り届けている、人里から避難した、言っても殆ど住民はまだ人里に取り残されているらしく、慧音さんも居なかった。

 

避難場所には彼女の塾と深い関係にあると説明された、人里の管理者でもある阿求さんが指揮を取っていたので人里に何が起きたのか話を伺ったが……。

 

 

 

『……申し訳ありません、外来人である貴方には語れぬ事なのです』

 

 

 

『ですが、人里の住民の命が…』

 

 

 

『っ…ーーお答え、出来かねます……』

 

 

 

『……』

 

 

 

案の定、『あの女』から口止めを受けていたのだろう、答えてはくれなかった。

…言いたくない、言えない理由もルーミアから聞かされたあの話と照らし合わせば何となく分かる。

 

 

呪霊が出没してしまう様になった幻想郷から、現世を手に入れる為に数多くの有権者が活動に参加したと。

ルーミア、彼女が言うには…彼女よりも遥か高みに座する強さを持つ、幻想郷の強者が揃いも揃って現世への侵攻に賛成したんだ。

 

 

 

そこで私は、異変のケースを2つ想定した。

 

 

 

1つ、原因が現世にあり、それを取り除けば幻想郷の異変は解決され元通りの状況へと戻るケースと……。

 

 

 

既に幻想郷内の異変解決が不可能であるケース。

 

 

 

今人里に起きている事が何であれ、口止めされているという事は『あの女』と現世が関わる事象なんだろう、そこで幻想郷の人間の立ち位置、価値を思い返してみれば……彼女が、阿求さんが人里の管理者としてこの事態の解決に取り組まない姿勢は、彼女なりの人里の住民が生き残れる様に『これから』を守るやり方(支配者に従う)なのかもしれない。

 

 

何故なら、もし、もし最悪の場合…私の考える2つ目のケースだった場合……。

 

 

 

人里は、既に捨てられている(価値を失った)

 

 

 

(糧である必要が失われれば有り得る話です、幻想郷の人里も、思ったより状況が緊迫していたという訳ですね)

 

 

 

全ては予測に過ぎないが、ルーミアが『侵攻』と称す所からも可能性は高い、現世を幻想郷が手中に収めれば逆に人里は邪魔なものになる。

 

 

 

「最優先事項は…」

 

 

 

『夫を頼みます!!』

 

 

 

「……」

 

 

 

「急がなければ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1級呪霊。

 

 

 

それは術式を所有し、高い戦闘能力を保有する。

 

 

 

規定として測った場合は戦車があっても心細いとされる。

 

 

 

単独、又は犠牲無く複数人で1級呪霊を祓える様になれば呪術師として成熟したと言っても差し支えないが……。

 

 

 

まず、忘れないで欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ゛ッ……ぅぅ゛…」

 

 

 

寝そべって横に見える顔が妻の笑顔だったらどれ程幸せだっただろうか。

今すぐにでも泣き出したい、今すぐにでも憎悪を滾らせて立ち上がりたい。

 

 

 

「ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛…」

 

 

 

足先から咀嚼される感覚を、嫌という程味合わされる。

 

 

腕を食われ、妻を首だけにされ、子供が殺された。

 

 

なのに、私にはもう抗える手段が残っていない。

 

 

寝そべる隣にあるのは、妻だったものだけだ。

 

 

 

 

「ぁ…」

 

 

 

転がった妻の、死んだ頭の目と目が会う。

 

 

 

「ごめ…ーー」

 

 

 

 

ゴリュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

七海建人が、家屋の扉へ手をかける。

 

 

 

気配があった先の家屋で、目にした人を喰らっていた呪霊は……。

 

 

 

3()()

 

 

 

 

「……ーー」

 

 

 

己の握力で手が壊れてしまう程に、力を込め鉈を握り締める。

 

 

通常、呪霊を死の淵に立つまで認識出来ない人間にとって3級の呪霊ですらその命を貪られるには容易い。

 

 

 

「ァエ。ァア……ゥア……」

 

 

 

呪霊が喰らっていたのは、朝に食材を買わせてもらった野菜屋の店主だ。

 

 

 

「ァァァ…ーー」

 

 

 

一閃。術式が発動するまでも無く、素の膂力によって頭蓋を破壊された呪霊。

 

 

ーーは前座であり、それを囮として次なる獲物がやって来るのを待ち構えていた人と蜂が混ざった様な2級呪霊が天井から七海を襲おうとしていた。

 

 

ニタニタと愉悦の感情が伺える嗤い声を上げて、己の自慢の毒針を突き上げる。

 

 

 

「ギヒッ…ギギギギ…」

 

 

 

「…ーー気付いてないとでも?」

 

 

 

「ギヒッ!? ゴキャッ!!?」

 

 

 

鉈を手放し片手で毒針を、片手で首を掴む。冷静に、冷血に首を絞める手に力を込めて……。

 

 

 

「ガ…グッ……ゲェッ…」

 

 

 

「ァ…」

 

 

 

へし折った。

 

 

 

「……」

 

 

 

一切術式を用いず、素の肉体能力だけで2級を祓いきれるのが1級術師であり、七海建人は一切の油断を排していた。

 

 

 

転がって塵になる呪霊の頭を踏みつぶす。

 

 

 

手足と頭を失った男性と、首から上を失った子供、そして頭しか無い女性の遺体を全て並べ……民家の屋根を見た。

 

 

 

「…………」

 

 

 

「ぁあ…」

 

 

 

空虚な筈の私の中身が、人の死によって埋まっていく。

 

 

ここに来たのはたった3日だ。あの男性も買い物で少し話し合っただけ。

 

 

でも、私が居たら死ぬ事は無かった。

 

 

心に重く何かが積み重なっていく、それは元からずっと…私の中で、永遠と積まれてきた何かだ。

 

 

 

 

「……先程の蜂の呪霊」

 

 

 

「人を使って、繁殖している」

 

 

 

 

「あの首の無い身体は……この奥さんの…」

 

 

 

 

 

本音は……リゾート地で何も気にせず適当に預金で余生を過ごしたい。

 

 

でも、その人生を別の人が歩んでも何も変わらない。

 

 

だから……代わりが居ても、ほんの少しは『何か』が変わる呪術師を選んだ。

 

 

 

 

「破壊しておかなけれ…ーー誰かが戦っている?」

 

 

 

「…あの呪霊の親玉か、2級を量産できるとは…」

 

 

 

 

私は何をしたいんだろうな、灰原。

 

 

『何か』が変わる事を求めるだけの男に、人の命を救う資格はあるか?

 

 

お前がいなくなっても何も変わらなかった世界に尽くしても、五条さんが居て、妹紅先生が居るこの世界じゃ何も変わらない。私の奮闘は何一つ報われる事は無い。

 

 

 

 

「どちらを優先する…海斗さんか、恐らくは特級の呪霊か」

 

 

 

「……最優先事項は…」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

『その何かに、意味を求めるか?七海』

 

 

 

灰原が死んだあの日。その時の恩師からの言葉が脳に跳ね返る。

 

 

 

『…お前もいつか変わる…その時に気付くさ』

 

 

 

『お前が積み上げた何かの意味を、その答えを追い求める為に呪術師を続けるんじゃなくて……』

 

 

 

『積み上げた何かが、意味を果たすまで呪術師を続けるんだ』

 

 

 

『悩む必要は無い、終わりを迎えるその時に…ーー』

 

 

 

『七海、きっとお前の前に意味は現れる』

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「即刻祓除させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぶね!!クソっ、何だって霊夢が居ない時にこんな…」

 

 

 

空を駆ける白黒の魔法使い、霧雨魔理沙。彼女はとある理由で魔法の森を離れ、帰り際に人里の様子を見に来ていた途中の事だ。

 

 

霊夢の大規模な出張、幻想郷各地の大妖怪、有権者の現世への渡来…それにより起こる幻想郷の混迷を平定して貰う依頼を受けていた。

 

 

異変の解決を行えないもどかしさ、被害が広がり続ける幻想郷の現状、そこへ降って来た様な異変解決の目処に賛成しない理由も無く……現在は偵察で現世へ渡っている妖怪達と代わり代わりで現世へと渡来する約束をしている。

 

 

その話し合いが終わり、妖怪達の現世への渡来を見届けた後……人里がやけに静かだった為、地面へ降りようとしていたのだが…。

 

 

 

「喰らえ小分けマスパ!!」

 

 

 

空中にウジのように湧いている呪霊の群れへ向けてビームを放ち消滅させるも、人里の家屋から再び現れ、魔理沙に向けて毒の玉を発射。

 

千を超える4級呪霊からの攻撃は、雨のように…弾幕のように空を埋めつくした。

 

 

 

「へへっ、隙間だらけだな!」

 

 

 

それがどうしたと言わんばかりに毒の玉の嵐を抜け、星型のエネルギー弾を呪霊の群れで爆発させると…今度は自身の頭上、空の上から降ってくるハエの呪霊に向けて八卦炉を構えた。

 

 

 

「薙ぎ払うぜッ!!恋符【マスタースパーク】!!!」

 

 

 

全てを断ち焼く虹色の熱線は、空を埋め尽くす呪霊の群れを一掃。

 

 

 

「うぐぐっ…真上に向かって撃つもんじゃねえってのに…!」

 

 

 

凄まじい反動を小さな身体で受け止めて、虹色の光が空の全てを薙ぐと同時にその背後から毒針が迫っていた。

 

 

それすら予測していたのか、くるりと反転して八卦炉を丁度毒針を受け止めるように構える。

 

 

カツン、と子気味いい音が響いた瞬間に…背後から襲っていた蜂型の呪霊が焼き払われる。

 

 

 

「分かりやすいんだよ!霊夢が居ない分張り切らせてもらうぜ!」

 

 

 

「……」

 

 

 

「に、にしても…」

 

 

 

魔理沙の視界に映るのは、再度現れる蜂型呪霊の群れ。

 

 

その規模は……先程の2倍程度。

 

 

 

「多くないか!?」

 

 

 

(これだけの数……あんだけマスパで焼いてまだこれなら、何か仕掛けがある筈だろ…恐らくは…)

 

 

 

群れを従えている、大きな蜂の呪霊。

 

 

 

(アイツの仕業だな?貫通させられるか……?)

 

 

 

(先に湧いてる所を潰した方が良いんだが……だとしても、家屋にマスパぶち込む訳にも…)

 

 

 

グツグツと頭が湧き上がる程考え込むが、取り敢えずもう一度空を黒く埋め尽くす大量の呪霊を焼き払おうと……。

 

 

 

「ギャギャッ」

 

 

 

「あん?」

 

 

 

「ギャッ」

 

 

 

小さな小さな、虫の幼体の様な呪霊が……魔理沙が一旦箒に置いていた八卦炉をコツンと小突いて落下させる。

 

 

 

「…ーーお前ぇぇ!!??」

 

 

 

すぐ様星型弾幕で呪霊を潰してから落下した八卦炉を追いかけるも、空から降り注ぐ大量の毒液を躱しながらの回収は困難を極める。

 

 

 

「くっそぉ…!あんのクソ虫、人の顔張り付けた気持ちわりぃ見た目してやる事もウザイ…!!」

 

 

 

(舐めるなよ!八卦炉だけが私の火力じゃねぇんだ!!)

 

 

 

「【スターダストレヴァリエ】!!【ノンディレクショナルレーザー】!!」

 

 

 

箒に乗る魔理沙から放たれる、5色のレーザーと花開く様な光の弾幕の嵐。

 

 

確かにそれらは呪霊の群れへ直撃したのだが……。

 

 

 

「……」

 

 

 

「ダメだ全然減らねぇ!!!!!」

 

 

 

千を殺しても二千が湧いて出てくる状況。マスタースパークでないと範囲が足りていない。

 

 

 

(ミニ八卦炉を回収するにも隙が無いな…どうしたもんか)

 

 

 

その間にも豪雨の様に襲いかかる毒液を躱しながら考える、この程度の弾幕ならば普段の弾幕ごっこよりも生温いものだ。

だが……人里の被害は広がるばかり、早く駆除しないとどれだけの被害が……ーー。

 

 

 

「ーー手を貸します」

 

 

 

地上から声が届く、男の声だ。

 

 

 

「ん!?人間か…!?」

 

 

 

目を細めれば、地上に金髪の着物を着た男性が見える。

 

 

 

「クソっ!おーーい!!お前〜!!逃げろーー!」

 

 

 

「お前が何か出来る相手じゃーーなぁっ…!?」

 

 

 

着物の男が、人里の地面に手を突っ込むと……。

 

 

 

岩盤ごと、地面を捲りあげる。

 

 

 

「十劃呪法」

 

 

 

「【瓦落瓦落】!!」

 

 

 

持ち上げた岩盤を殴り飛ばすと、硬い岩盤は粉砕され石礫となり…その1粒1粒に呪力が込められ、強力な散弾と化す。

 

 

勢い良く散る石礫は、勢いを衰えることなく空へ黒い膜を張る呪霊へ直撃し……その大部分が壊滅した。

 

 

 

「なんだアイツ!!?ゴリラの親戚か!?」

 

 

 

再び見た目から想像できないほど、腹から込められた声が届く。

 

 

 

「ーーー民家に、蜂の呪霊の巣があります」

 

 

 

「全て潰して回るので、粘っていてください」

 

 

 

「……!!オッケー!ゴリラのオッサン!!」

 

 

 

ハンドサインを返し、互いの役回りが決まる。

 

 

 

「つまり出来るだけ目立っとけって事だな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの少女が引き付けてくれている間に終わらせなければ…」

 

 

 

空に浮かぶあの巨大な蜂……1級程度の強さがありそうな気配がしているが、術式は3、4級程度の同型呪霊の操作か、又は術式無しか。

 

 

アレを倒せば状況が良くなる……とは思えない。何故かというと…。

 

 

 

あれは、雄蜂だ。

 

 

 

「呪霊は見た目にも…その能力を指し示す特徴がある」

 

 

 

蜂で産卵、増殖が行えるのは雌だけ、あの巣は2級程度の奴に守られていた。

 

 

恐らくは上空の呪霊に意識をさかせている間にも、どんどん人里の家屋に残った人間を襲っているのだろう。

 

 

 

「っ、ここも…!」

 

 

 

微かに残る痕跡を追いかけ、巣にされてしまった人達を見つける。

 

 

 

「……申し訳ありません」

 

 

 

ーー破壊して、見た目を整える事を放棄し…近場に残る痕跡を追い続ける。

 

 

 

「この術式の強力さ、そしてヘイトを分散し、痕跡を隠す狡猾さ…特級はありますね」

 

 

 

巣は設置物であるが故に十劃呪法を当てやすい、護衛は……。

 

 

 

「……」

 

 

 

「ギャギャッッ!!!!!」

 

 

 

近付いてくる七海に向けて、毒針を突き刺そうとする呪霊。

 

 

それを受け入れ、着物を貫通する毒針は…ーー。

 

 

 

「!!???」

 

 

 

七海の身体に一切の傷を付ける事無く、逆に刺した側が針を粉砕される。

 

 

 

 

「無視で良さそうですね」

 

 

 

死体を弄ぶ呪霊を、私情では祓いたい。

 

 

でもそれは効率的でも無ければ……。

 

 

今ある命を守る事には、繋がらない。

 

 

 

「……」

 

 

 

「必ず、祓います」

 

 

 

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