不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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加筆修正致しました。


誤字脱字報告ありがとうこざいます!


狂気

 

 

 

「やはり…黒幕は、貴方と言って、良いんでしょうか?紫さん」

 

 

 

緊迫と圧迫感で上手く言葉を話せない…それほどの存在感がある。

 

 

 

「いいえ?黒幕等といったモノではありませんよ?」

 

 

 

「私は既に表立って幻想郷の代表者であると、貴方達の代表者である天元に明言しています、黒幕というものは己の利益のみを求め、舞台裏からその『欲』を叶えんとする存在の事」

 

 

 

「貴方達には話せない事が多くありますが、それでも私は互いに利益を追求したい…ーー人間にも、妖怪にも等しく幸福を……それに偽りが無いよう、貴方にも姿を見せましょう」

 

 

 

「……」

 

 

 

妖艶。その言葉が相応しい女性だった。

 

 

 

紫陽花が咲いているような、華やかで美しい女性。流れるような金髪、ふわりと常世離れしている様なイメージを持たせる衣服。

 

 

 

「信用、して頂けますか?」

 

 

 

「…いえ、貴方にはまだ…ーー」

 

 

 

 

気を取られるな。

 

 

天元様と既に接触済みか……何故天元様は何も仰らない、縛りで口止めを?それとも何か目的があってか?

それに……何故かは分からないが、それが例えば全てが真実であったとしても…人間にとって良い結果になるとは思えないのは何故だろうか…これが胡散臭さというものでしょうかね。

 

 

 

「その言葉を信じる信用が貴方には足りていません、現に人里に起きる被害を阿求さんと共に黙認していた」

 

 

 

「それも思い違いというものです、私はただ幻想郷を守りたいだけ…詳しくお話は出来ませんが、この情報を人里に与えて待っているのは混乱と破滅だけ……信じて欲しいとは言えません、確かな犠牲は出てしまっていますもの」

 

 

 

「ですが確実に言えるのは、これが『最小限』である、という事だけです」

 

 

 

「………」

 

 

 

「私は妖怪、判断と決断に情をかける存在でもありませんが…ーーそれでも、私はこの幻想郷を心の底から愛しています、幻想郷に居る全てを、等しく」

 

 

 

「それと同時に貴方達外の世界の事も、幻想郷を成り立たせる重要なパーツですので…本当に大切に思っているのですよ?決して蔑ろにも、無下にも致しません」

 

 

 

「その全てを踏まえた上で、私に言えることは…全力を尽くしてなお、幻想郷の現状が酷い状態であるという事です、貴方達の世界に迷惑を掛けてしまうほどに」

 

 

 

「全てにおいて『最小限』であり『最適解』の選択を歩んでいる所だというのを……理解し、信じて頂きたい…これからの『不幸』な犠牲にも呪術師であるからこそ、心を痛める事の無いようお願いします」

 

 

 

……ーー魔性の女だ。

 

 

頭がクラクラする、言葉の全てが真実とも虚実とも捉えられる様な、その境界線に立っているかのような甘言。犠牲を憂う様な一つ一つの仕草、視線、声の音色に幻想郷を守りたい心が籠った真剣な表情までもが私の判断を鈍らせる甘い毒。

 

この世の偉人、美女、魔性と呼ばれるものも今の彼女を前にすれば等しく稚児に等しいだろう、ことも無く犠牲を容認し、その事について決意と決断、真摯な思いを込める……というのを『使っている』からこそタチが悪い。この女に対しては、心を読まない限り真実を模索する事は絶対に出来ないと思わされてしまう。

 

胡散臭い、なんて言葉で表せれる相手じゃない。妖怪ではなく人間だったとしても絶対に関わり合いたくない存在だ。

 

 

 

「……だからこそ、私には真実が必要です、貴方の言葉を信じ得る確かな真実が」

 

 

 

「幻想郷が危機的状況なのは見て取れます、それ以上の事態になっていても何ら驚きません…ーーですが、それらの『対応』だと言って情報の一部しか述べない相手を私は信頼できませんので」

 

 

 

「…ーーふふ、あらあら…サラリーマンの時の経験かしら?」

 

 

 

「……お答えしかねます」

 

 

 

 

 

「それならば、何も知らぬ貴方にお教えしましょう」

 

 

 

 

 

「無知であるのもまた罪というもの」

 

 

 

 

 

「藤原妹紅という存在(狂気)について、貴方達はまだ何も知らない」

 

 

 

 

 

「知らな過ぎる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏の終わりを思い出す。

 

 

湿気が減り、秋に移り変わろうとしていた時のこと。

 

 

 

『灰原の事、まだ受け止めきれんか』

 

 

 

私は未だに灰原の死を受け止めきれなかった。

 

 

深く膿んだ傷がずっと心に残っている。

 

 

 

『…私には、その傷は癒せん…死と同じ様に、人個人が抱く感情や苦しみは…他人は解釈が出来ても理解は出来ない』

 

 

 

『お前の中の傷はお前だけのものだ』

 

 

 

励ましや激励でも無く、妹紅先生は寄り添ってくれる方だった。まだ学生の私はその温かさに支えられていた。

 

 

その後の呪術師活動を…彼女が呪術師を辞めるまで続けていたのも、ずっと彼女に頼っていた所がある。精神の支柱を失えば容易く折れてしまう弱い自分が居た。

 

 

 

 

『……』

 

 

 

『七海』

 

 

 

『もし■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 

 

 

ーーあの時、何と言われた?

 

 

 

……思い出せない。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

『灰原の笑みを、お前と築いたあの夏を…ーーお前が失った全てを』

 

 

 

『その傷は、それで埋まるか?』

 

 

 

でも、その問いには首を横に振った記憶がある。この世界に存在するのは…何も灰原だけじゃない、私もいつかはその傷んだ記憶と共に婚約者を見つけるかもしれないし、大切な何かを再び得るかもしれない。

 

 

 

『そうでないなら、割り切れ…ーー灰原をお前の呪いにするな、呪術師なら悔いの無い死は無い…お前がいつか、誰かの後悔に、呪いになるぞ』

 

 

 

それが嫌だから、積み上げた『何か』が全て呪いになってしまうのが嫌だから…。

 

 

 

私の呪術師としての根幹は、あの時に定まった。

 

 

 

 

 

「七海建人さん」

 

 

 

「……!」

 

 

 

声を掛けられてハッとする。

 

 

 

「少し疲れましたか?」

 

 

 

「……少し、人里の事が気になりまして」

 

 

 

「それなら安心して下さい、貴方の心配する上白沢慧音も、パン屋の店主も今は安静にしていて容態も良くなってきています、片腕になってしまった事に対しても店主さん直々に『気にしないで欲しい』と」

 

 

 

「…そうですか」

 

 

 

現在は彼女に連れられて、人里の離れの『迷いの竹林』という場所を案内されていた。…今日はよく女性に手を引かれる日だ、既に月が出ている夜、丁度満月の月明かりが夜道を導いている。

 

 

 

「…妹紅先生の事を、貴方は何処で?」

 

 

 

「何千年も前からです」

 

 

 

「……?」

 

 

 

何千年も前?

 

 

 

「彼女は不老不死である事も皆さんへ話していないでしょう」

 

 

 

「ーー不老不死」

 

 

 

不老不死…………不老不死?

 

 

 

「…………………」

 

 

 

「驚きましたか?」

 

 

 

「……ある程度は、ですが…妹紅先生に驚かされる事はこれが初めてではありません……ーー不老不死、彼女が高専入学当初の生活能力の欠如はそれが要因でしたか」

 

 

 

「うふふ、中々気苦労なさっている様子で」

 

 

 

「…………」

 

 

 

七海が余りの情報量に苦悶の表情を浮かべながら目元を摘む。

 

 

迷いの竹林を歩く中で、その歩みは止めていないが…明らかに七海のスピードが落ち、それに合わせてゆっくりと付き添う紫。

 

 

親切心か何かか、分かりはしないが七海の顔色をしっかりと伺って……その上で、またぽつりと言葉を紡ぎ出した。

 

 

 

「皆…彼女の罪を知らない」

 

 

 

罪という単語を妹紅へと与える紫、七海は自身の恩師であり人生で最も世話になった人物に対しての言葉である為か少し複雑そうな表情を浮かべる

 

 

だが、罪というのなら何を犯したというのか。

 

 

罪人と呼ぶのなら、それに相応しい何かがある筈だと耳を傾ける。

 

 

 

「私の、永遠を謳う幻想郷を崩壊へと導き、世界を破滅させ…数多くの命を…ーー魂すら穢し貪った怪物」

 

 

 

 

だが、聞いているうちに心がざわめいた。

 

 

ーー果たして私は、真実を知って……。

 

 

生きて、帰れるのだろうか。

 

 

 

そして、帰った後に…ーー。

 

 

 

彼女と目を合わせられるだろうか?

 

 

 

 

 

「そして、それら全ての尊厳を奪い去った存在」

 

 

 

「七海さん、貴方がもしーー」

 

 

 

 

瞬間、恩師の言葉が脳内から溢れ落ちる。

 

 

 

 

「『大切な人と再び共に居れるとして』」

 

 

 

 

「その欲望の成就の為に、全てを犠牲にする覚悟はありますか?」

 

 

 

 

その言葉にどれ程の重みが込められているのか。

 

 

先程まで嘘か誠か何も分からない、飄々とした雰囲気だった彼女の纏う『ソレ』が様変わりする。

 

 

この問いが『真実』の足掛かりであるのが分かってしまった。

 

 

 

 

「…私には…その様なものは…ありません……貴、方…は?」

 

 

 

「私にもありません、私にも全てを犠牲にして会いたい人も居る…ーーそれでも、それでも私はこの幻想郷を守りたい…会えずとも、です」

 

 

 

「大切なものと、大切でないものなんて区別は人それぞれでしょう、ですが大切なもの等ただ1つを定義する事は出来ない……全てを犠牲にして得た『大切なもの』は、それを構築する全ても破棄している」

 

 

 

「故にこの問いは本来解答すること自体間違っています……ーーそう、間違っているのですよ」

 

 

 

月明かりが、脳髄を刺す。

 

 

目的地に向かっている筈なのに、足は一向に私を前へ進めてはくれない。

 

 

 

「約120億1598万」

 

 

 

「……」

 

 

 

「この数字が何か、分かりますか?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「…いいえ」

 

 

 

「これは…ーー」

 

 

 

「藤原妹紅が穢し(殺し)、生贄にした全ての犠牲者の数です」

 

 

 

「…ーー」

 

 

 

「さぁ……着きましたよ、目的地へ」

 

 

 

「『永遠亭』今は亡き永遠の月姫、その遺し人(遺産)が住まう屋敷」

 

 

 

「守るべき墓は在らず」

 

 

 

「墓守としても、従者としても、全ての選択を見届けた賢者に話をして貰いましょう」

 

 

 

 

 

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