明日以降、ガチガチの私情で更新遅れます……ごめんなさい…。
「永琳」
屋敷の敷地内へ足を踏み入れると、ちょうど満月を眺められる縁側にポツンと気力のない目をした白髪の女性が座っていた。
永琳、そう呼ばれた女性は気だるげに声がした方向を向いてため息をつく。
「紫…何用かしら」
「昔話をしに来たの」
「……貴方ねぇ…」
「いいじゃない、あのいたずらウサギも今はお休み中でしょ」
「……」
「はぁ、そこのご客人が計画の一部ってことか…まぁ良いわ、少しこっちへ来なさい」
手招きをして、己が座っている縁側へと2人を誘い込む。傍に置かれてあるみたらし団子や三色団子は誰が作ったものだろうか……それに手を付けてはいない、食べる為というよりは供え物……だろうか?
今も皆を照らす月明かりに添えて、誰かの為に供え置いてある。
「八意永琳、それが私の名前よ…その女の策略に巻き込まれてしまった哀れな旅人さん」
「七海建人と申します、宜しくお願い致します」
「ええ、宜しく」
着物の裾をまくり上げて、紫と永琳に挟まれる形となった七海。どう考えても居心地が良いはずの無い場所で……ゆっくりと呼吸を挟む。
周囲1面の竹の匂いが肺に満たされて、差し出されたみたらし団子を会釈をして串を持ち、彼女の言葉を待つ。
「……」
「今日も月は美しいわね」
遠い空を見つめる目に生気は無く、枯れ果てた木の様にさえ思える程に声もか細かった。
「さて……七海建人、貴方がこの場に来てしまったという事は、既に一挙手一投足がその女に操られているものだと考えなさい」
「……はい」
「そしてこの話を聞かされるという事は更に過酷な役目を任されるという事、下手をすれば死後さえも自由にさせてはくれないわよ…ーー今なら何も知らず、人を呪霊から助けるだけでいい」
「ですがそれは……唯の逃走と放棄に過ぎません」
「私は、後悔ある死を受け入れます…ですが、後悔を託す生き方をしたくありません…私が果たせる役目を、別の誰かに」
視線は相も変わらず月を見上げたままだが、纏う雰囲気が少し変わる。その言葉を聞いてなのか、返事がどうであれ聞かせることが確定していたのかは分からないが……七海自らの選択に、賢者は答えを返した。
「それじゃ、これを飲みなさい」
懐から取り出されたのは、真っ黒色の液体が入った小瓶。
「紫、アンタも」
「はいはい、『ツアー』ね?」
「ええ」
何の効果があるかは分からないが、既に受け取ってしまったし、この場に居座る以上は全てを受け入れるしかない。
「…先に聞いておきたいことがあります…ーー妹紅先生が不老不死とは一体どういう事ですか?」
先生という単語を聞いて、永琳は僅かに表情を歪めるが何事も無かったかの様に黒い液体を飲み干して、七海と遂に視線を合わせた。
「…ふふっ、そうね…託された者として、話しておきましょうか……彼女は蓬莱人、決して死ぬ事も老いる事も無い…『蓬莱の玉の枝』を口にした人間」
「兎にも角にもそれを飲みなさい、少し長くなるわよ」
「分かりました」
小瓶の縁に唇を付け、一気に飲み干す。
酷い味だ、味であるかどうかも分からない何かの雑味が喉を伝って胃に流し込まれていく。
気を失いそうになる程の苦味を超えて……ーー瞬きを挟んだ。
■
「……」
「地球?」
一瞬の瞬き、気が付けば……目の前に、青い星が浮かんでいた。
「ここは……」
「月よ、これは私の記憶の追体験」
「!?」
宇宙空間で呼吸が出来るし、声も響く。身体にかかる重力も変わらず、手先には感覚が無い。
そんな状況で、後ろを振り返れば八雲紫と永琳が月のクレーターに腰掛け、地球を眺めていた。
「貴方の身体は今もあの屋敷の縁側にある、追体験と言っても見れるだけだから安心しなさい」
「…もう何があっても驚かないと思っていたのですけれど……これは、流石に……」
「ほら、ボーッと突っ立ってないで…こっちに来なさい」
誘われるままに月のクレーターへと腰掛けて、再び両者に挟まれる形となった。
「少し……歴史の勉強をしましょうか」
目の前に映る地球は、今よりもずっと原始に近い大陸の形をしている。
「まず、私は月人と呼ばれる存在……宇宙人や神とでも思っておけばいいわ」
「人の生命の流れ、循環……『老いる』という穢れを捨て去った神々は穢れが充満する地球を離れ、月へと移り住んだ」
ーーそれが、人間の原型たるホモ・サピエンスすら産まれていない時代の事。
「……」
「つ……まりは……貴方の今の年齢は……」
「詳しく教えてはあげられないけど、ざっと1億歳以上ね、恐竜がどんな見た目をしていたか語ってあげましょうか?」
「……いいえ、結構です」
脳みそが反転しそうな衝撃に耐え、傍聴に徹する。
「月人は地球を捨てた後、月に帝国を築いた……そして地球からは絶対に干渉も観察も出来ない結界を張る事で、最早別次元に身を隠したと言える程になったの、だから月へ手を伸ばした人類でも未だ私達は見つかっていない」
「月人は基本呪力を持っていないとも付け足しておくわね、呪力はいわば穢れの結晶でもあるし」
変化を忌み嫌い、永遠を基とする穢れ無き生命体『月人』。
神とも宇宙人とでも、好きなように呼べばいい……私達という存在の解釈は貴方に任せるわ。
「目の前の地球は丁度ジュラ紀、少し時を飛ばすわよ」
指を鳴らすと周囲全ての者が無くなり、宇宙空間の無を漂う事になる。何が来ても、もう慌てる事はないと落ち着けていた心がこの無常な空間の不安感に押しつぶされそうになりそうな時に……ちょうど風景が変わった。
今度は円形の乗り物、その縁に座っていた。
「……UFO?」
「これは月人の技術によって作られた宇宙船、私と…姫が追放された時の映像ね」
姫…。
屋敷に足を踏み入れる前に、紫が言っていた今は亡き永遠の『月姫』という単語からある程度は予測できる。
墓守、従者……紫は彼女をそう称した、永琳には仕えていた月人が居たという事。
「私はね、月人の帝国を築いた第一人者だったの……その身分故に私は『蓬莱山輝夜』……姫を……」
「……」
「姫…を……」
映像がぶれ始め、世界の形が無茶苦茶になり始める。
「永琳」
「……」
「すまないわね、紫」
だが、紫が一声掛けた事で風景の歪みは無くなった。
「時に、七海建人…貴方は時間をどう捉えているかしら?」
「…難しい問いです、ただ脳内に浮かんだものとしては……時間という概念をを切り分けて私達は『時間』として使っている、とでもいいましょうか…」
「ふふっ、社会人らしい答えね……時間、そう…時間の正体について教えてあげましょう……」
ーー時間とは、『須臾』の集合体、認識不能の時間の最小単位が紡ぎ鎖状になったものである。
それらはその密度故にあらゆる穢れを弾き、その刹那秒は絶対不変の性質を併せ持つ。
「蓬莱山輝夜、月ノ姫は2つの力を持っていたの……『永遠』の魔法と、『須臾』を操る能力」
「永遠の魔法は文字通り、全ての未来と変化を拒絶し……絶対存在であり続ける歴史の否定者である事、須臾という刹那よりも短い時間を操り、誰にも認識出来ない時間の中で生きる事が出来る『月人』だとしても余りに大きすぎる、強大すぎる力」
「特に、須臾の時間を利用した技術は月人に革命を起こしたと言っても差し支えないわ、穢れと変化を忌み嫌う種族が、穢れと変化を一切発生させないモノを手に入れた」
「ま、作ったのは私だけど……取り敢えず、姫は月人の中でも特別な存在だった、月の頭脳と呼ばれた私が専属の従者になるくらいにね」
再び指を鳴らし、UFOが動き始める。
美しい黄金色の光を纏いながら、地球へとどんどん近づいていっているのを、そのUFOに乗りながら七海は眺めていた。
「ある日、姫は大罪人になった」
UFOはスピードを上げ、地球へと落下する。
物凄いリアリティで見せられてはいるが、記憶でしか無いのでその衝撃を受けることも無く……落下地点のUFOから、言葉では言い表せない程の美しさを持った少女が降りてきた。
「……あぁ、姫…」
「……」
「『蓬莱の玉の枝』世間ではそう言われている不死の薬を私が作り、そして私と姫が服用した、月人の世界ではそれは大罪にして最大の悪行なの、その罰で奈良時代の地上へと追放という流れ………」
「……ーーそして、全てが始まった時でもあるわ」
ーー脳内に、記憶がなだれ込んでくる。
■
「ね〜永琳〜……地上ってこんなに退屈だったのね…」
何処かの屋敷で、足をパタパタとさせながら十二単を纏う少女が欠伸をする。
「だから言ったじゃないの、そこまで良いものでは無いって」
「う〜ん…まぁ、月よりは良いから及第点って所だけど」
目の前の無礼講極まる少女は、その立ち振る舞いがあっても全てを許容してしまう可憐さがあった。
ピコピコと電子音を鳴らして遊んでいるのは……ゲームだろうか?…奈良時代にはあまりにも似合わない物品ではあるが、月人なら何でもありだという思考がそれを受け入れさせた。
「……」
今日も今日とて姫の暇つぶしを思想し、何をしようか考える。適当な人間に姫を『竹の子』として認識させて……金を支援し、屋敷を作らせて都暮らしにさせたのは良いが……今の文明レベルでは特に良い案が思いつかない。
「…輝夜、少し話したい事が……ーーって、また急に消えるんだから…」
振り向けば姫は光るゲームを置いて何処かへ行っていた、いつもの事だからと畳から立ち上がって屋敷内を探しに行く。
「輝夜〜」
「輝夜〜?」
居ない、居ない……何処にもいない、屋敷内のどこもかしこも探し回ったが見つからない。
玄関を見ると、草履も無ければ地面に着物の摩った跡があった。
「……」
「輝夜ー〜??」
少しお説教する気持ちで、その跡を追い裏山へと入っていく。
木々が生い茂る夏、別に汗をかいたり汚れたりは一切しないが……あの格好で山をズカズカと歩いていると、見られた時に流石に怪しまれるので少し駆け足で姫を探していた。
「むー…」
「輝……ーー」
……そして。
私は、私は……ーー。
ーー最大の過ちを犯す事になる。
「かぐ……や…?」
「そう、ほうらいさん かぐや 呼んでみなさい?」
「ほうらいさん、かぐや」
幼く、小さな少女をここで魂ごと殺さなかった事を…
今でも悔やんでいる。
「蓬莱山輝夜!」
「言えたじゃないの、可愛い子ね…何処から来たの?」
「わかんない」
「名前は?」
「わかんない!」
「うーん…お母さんは?」
「わかんない」
「……」
「よし!決めたわ!アンタ…ウチの子になりなさい」
「まだ名はあげられないけど、命位は何とかしてあげる」
「……?うん!蓬莱山輝夜!」
「輝夜と呼びなさい、輝夜と」
「輝夜……輝夜?輝夜ってなーに?」
「うっわ……なるほど…ーーそもそも概念が無いのね、いいわ、名前も知識も何もかも私が一から仕込んであげる」
「わかんない!」
「その言葉も意味を理解してないのね、雛鳥の様に……ただ反復しているだけか」
2人がじゃれている背後に、1歩1歩歩み寄っていく。
目の前がブレる、頭が痛い、何かをしろと叫んでいる。
「わかんない!わかんない!」
「んもう、可愛いんだから……その笑顔、私以外に向けちゃダメよ?返事は『分かった』」
「分かった」
「ふふっ……そうねぇ、まずはちゃんと私の名前を『呼ぶ』事から始めましょうか」
「分かった!」
真っ白に染まる脳内。
伸びる手を……ーー幼子へ……。
パンッ。
「……」
「七海建人、目を覚ましなさい」
「……ーー今のは」
「ごめんなさい、私の意識が深く入り込み過ぎた、紫…能力で『私の意識と記憶の境界線』を弄れるかしら?」
「出来るわよ」
「なら頼んだわ、私はもう見る事すら出来ない、アレを前にしては薬の効果の維持すら難しい」
……今の、少女は…………。
「顔に出てるわよ、そうね…今の幼子が藤原妹紅…と言っても、良い」
「……いえ、どうなのかしら…アレは結局最後まで理解出来なかった」
「『アレ』が一体何処から来て、どんな存在で、どの様な経緯があって『アレ』として産まれたのかすら分からない…月の頭脳が情けないわ」
「……続けましょう」