「妹紅は五条悟に姿を見せるだけでいいよ」
羂索から私への命令は、それだけだった。
何をしろ、何かを成せという訳じゃない。五条悟と会うだけで役目は終わってしまっている。
「それだけでいいのか?何で?」
「あ〜…えっとねぇ、これを説明するのに五条家と星漿体の因果、それに伴って引き合わされていく運命の事とかが…」
「単語3つ」
「魂が見える目!友達に呪霊を操れる術式!その術式欲しい!…OK?」
「OK、魂が見れる目ってあれか六眼か…懐かしいな、いつだったか1人発狂させてる、だから会うのやめてるんだけど…五条悟は大丈夫なんだな」
「あぁ、彼の精神性なら耐えられるよ、きっとね…というか今の君じゃ見えないと思うよ?年々大きくなってるし、【ソレ】」
「……」
腹部を触る。
そこには眠っているものがある。それは私の原罪、私の愚かさそのもの。
絶えず燃え盛り、絶えずその呪いの強度を増していく。生命という呪力の根源であり、『生きている』という熱によりそれは自然に炎の形を取る。
私に反転は必要無い、術式も存在していない。
『命』とは呪いであり『死』に歩みを近づける程に呪力を増す。
だが何故、呪いの根源である『命』から『死』へと離れているのに呪力が増していくと思う?
「……なぁ、羂索」
それは、『死』に歩みを近づける事が本能であり、生きたいという意志であり、明日を望む力そのものだからだ。
「お前の計画がもし失敗して、ズタボロになって、もうダメだって…」
私達の未来には、『死』が待ち受けている。どんな超人も怪物も、どんな凡人にも、最期に辿り着くのは『死』という運命。
でも、それでも私達は最期まで足掻き、明日を望み、未来へ手を伸ばす。
「そんな事になっても、絶対に私がお前を迎えに行く」
つまりは、『死』に向かうという事それ即ち……。
『命』を元とした、『生きる』為の行為である
「そしたら、私はお前の口の中に」
「私の肝をねじ込む」
『拒絶しても、死のうとして逃げても、どんな事をしてもな』
私の長い人生の中で、これが呪力の定義何じゃないかと思っている。
なら、私は……ならば、私は……ーー。
「妹紅」
「勿論、喜んで受け入れるよ」
「君をもう1人にはしないから」
ならばッ!
私はッ!生きてはいない…ッ!!
「…ごめん、羂索」
「謝らないでよ、私から君に計画を持ち込んだんだから」
「私の言ってることって殆ど八つ当たりだぞ?受け入れるなよ…」
「逃がさないって言ってるくせに」
「……」
「……悠仁抱かせて…」
不死という呪い、不老不死という人類の悲願。
それは、『生きる事』を失わせた。
『死に生き歩くもの』
私は、永遠の命を得たと同時に死を失い、生きる事を奪われたんだ。
「あぅ…ぁぅあ……ぅ…」
夢を見ているのかな、軽くぐずっていた。
「……」
小さな命が、いつかは死ぬ命がこんなにも温かいのに。
「可愛いな、お前は…」
私の燃え盛る様な命が、永遠を持つ烈火の生命の炎は…
どうして、こんなにも冷たいんだろう。
「……」
「センチメンタル状態、終わった?」
「顔見せんな、悠仁と連想する…最悪…なんでお前の子なんだよ」
「酷くない??」
それが【不死】という呪いに縛られ続け、それ故に無限の呪力を持つ…
呪いそのものである、私の話。
■
「もこせん…」
「……なんだ?」
「いや、妹紅先生…お願いがあります…!」
「……」
「お金貸して☆」
「はいゲンコツ」
妹紅の拳が五条の顔面に突き刺さり、そのまま教卓を破壊しながら床に頭を突っ込ませる。
「ブベッ……ごれ…げんごづじゃねぇょ…」
「まーーーた冥ちゃんの所で有り金スったんだろ!悪ガキに貸す金は無い」
鬼の形相になって昼休みに私の所へ来たと思ったら、キュルン顔でこんな事を言うもんだから思わず手がでてしまった。いっつもこうだ、コイツに対して無性に手を出したくなる。
「うわぁー…やっぱお前顔良いだけだよな」
「そうだぞ顔面偏差値、家入はこんなに良い子なのにな〜」
「お前も良い子では無いだろ……!?」
「はいゲンコツ」
「グガッ!?」
家入は良い子に決まってるだろ、昼休みに私と一緒にお昼ご飯食べてくれるし、学校の基本を教えてくれるし、職場のアイツに似てる。
優しい、面倒見がいい、私にとってこれ以上無い良い子だ。
「ぃっでぇ……良いじゃんか、もこせん冥さんより金持ってるって聞いてるよ?俺の本家より金持ってる冥さんより金持ちってどんな富豪だよ」
「はぁ…どこで知られたんだ…いや、冥ちゃんからか」
「…冥さんの事、冥ちゃんなんて呼べるのアンタ位だよ、マジで」
『貯金ゲーム』していた時にあの子とは面識を持った。互いが互いに利益を生み出す形で商売をしたからな…ここに来た時冥冥の顔を見た時が1番驚いたよ。
「それに、そもそも私はこれから仕事だ」
「仕事仕事って…もこせん書類仕事一瞬で終わらせてるじゃん、化け物みたいな速度でさ、それでまだ仕事あんの?」
「私はこの世界の事に対して無知だからな、このガイド本で学んでる……日々の仕事とは別にやっとく事があるんだよ」
「…ガイド本???」
妹紅が棚から取り出した分厚いファイル。そのファイルの表紙には…。
『羂ちゃんの!今日から始める呪術生活!』
「「……何それ」」
「私の友人が作ったガイドブックだ」
「……もこせんってさ」
「もしかして俺が思ってるより、変人?」
「ゲンコツ…ーー」
「ヒェッ!…申し訳ありませ〜ん…」
■
昼下がり、五条、夏油が実習に向かっている間に私も廃ビルの前に立つ。
微弱だが…目の前のビルから大量の呪霊の気配を感じた、こんなに明るく太陽が差し込む綺麗な場所にも呪霊は湧いているのは…本当に昔と違うんだな、と思う。
それ程までに、日本という社会は呪霊が発生しやすく、呪いが澱む場所となっているんだな。
『あ、そうだ…君に教師とか長期任務なんて無理だと思うからさ、コレ渡しておくよ』
「……」
貰ったファイルには可愛らしい装飾が施されていて、正にママ友同士の交換日記の様な見た目だ。
可愛くデフォルメされた香織in羂索のイラストが私の日々すべき事をリスト化されている場所を可愛く指示していた。
「本当に…いつの間にこんなもの…てか絵上手すぎるだろ、私もやってみたが…デフォルメがこんなに上手く書ける才能が羨ましいよ」
毎日のデイリータスク、教師としての心得、呪術の教え方…etc…。
これを4級術師に渡せば何時かは準1級にはなれそうな素晴らしい教材だ。
「さて」
私に回される依頼も『窓』を通じて羂索が管理してくれている。
無茶無謀…というよりは、知識の問題で出来ない依頼は回ってこない。
「や、闇より……えーっと?『闇より出でて闇より黒く』『その穢(けが)れを禊(みそ)ぎ祓(はら)え』……」
…なんでこんなルビ振りまで丁寧に書いてんだよアイツ…!
元々読めるから大丈夫っちゃ大丈夫だけど…ここまで懇切丁寧で気遣ってくれてるのが逆にキモイ、なんで優しさまでキショくなるんだアイツ。
「お、お〜!こんな便利なモンがあったとは、もっと早く知りたかったな…これがあれば野営も呪霊退治も楽だったのに」
暗い膜…幕か?幕が降りてビルの周囲に降りた。外と中を遮る結界、あの天元ババアのお陰らしいが、縛りも可変できるらしく…。
『まずは外から中を見えなくする、そして外と中を隔てる結界として意義を持たせて張ってみよう』
可愛いマスコット羂ちゃんが指さし棒を持って指示してくれている。
「……」
「…なんか、嫌だな」
「まぁいいか、取り敢えず肩慣らしでも…ッと!!」
ヤクザキックをビルの硬く閉ざされた扉にぶちかまして侵入。
階段を上がり、ビルの4階へ。
太陽からの日差しが窓から差し込み、設置されているソファーはボロボロで苔むしていた。
「……」
「呪霊〜?」
「呪霊いるか〜?」
さっきは気配を感じたのに、中に入ると途端に感じなくなった。
「えーっと」
ソファーにぼふんと腰掛けて、羂索のガイドブックを開き呪霊関連のページをペラペラと確認してみると…。
『呪霊にも格があるよ!……まぁ君には問題無いけど、一応《知識》や《知恵》を使ってくる呪霊からは2級、術式を持っていたら1級か特級、それ以外は雑魚と覚えておこう』
『呪霊の住処に侵入するという事はその呪霊の領域に踏み込むという事』
『気配を察知出来なくなったら、そこは生得領域内だと考えていい、君はその対策は覚えているかな?』
『出来たら□に✓を入れておこうね』
「生得領域か、なるほど…チェックチェックと」
ーー領域展延
「…ーー」
「なんだ、後ろに居たのか」
「繝壹繧縺ョ譁…■■■!!!!」
異形の見た目をした化け物、肉腫の塊のような醜悪な身体から、腕が伸び妹紅の心臓目掛けてその手を貫かせようと…。
「喋れなくて知能無し、それ以外の雑魚か、チェックチェックと…」
ーーより前に、展延に触れた瞬間燃え尽き、炭となった。
「…肩慣らしにはならないけど、ありがとな…さ〜て次々っと」
戦闘とは呼べない、ただの一方的な虐殺が始まってしまった。