不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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役割という名の価値は幾らか

 

 

ーーーいつからか、ずっと不思議な夢を見る。

 

 

 

 

いらっしゃい。

 

 

 

「……」

 

 

 

今日も見ていくの?

 

 

 

「ああ」

 

 

 

飽きないね、あの少しの箇所しか見れないのに。

 

 

 

「その少しが奇跡みてぇなもんだからな」

 

 

 

ーー沢山の泡が浮いた真っ暗な空間で、寝巻き姿の少女と出会い…会話をする。数多くの、自分じゃない誰かの夢を見せてくれる彼女は何故か自分の味方をしてくれている。

 

 

気絶してもこの空間に迷い込んでしまうから、宿儺による経験値レベリングをして意識を失っている間にも何度も来たものだ。

 

 

名前は教えてくれない、どういった存在なのかも、ここがどういう場所で…何がどうなってるのかも教えてくれない。

 

 

ただ、毎回彼女は言うのだ。

 

 

 

『貴方の槐安が、輝きを失わない限り』

 

 

 

『私は貴方の安らぎになりたいのです』

 

 

 

そんな夢の中、何か俺の疑問が解決する訳ではなかったが…。

 

 

 

 

 

ーーいらっしゃい。

 

 

 

「……」

 

 

 

「今日も、宜しく頼む」

 

 

 

勿論

 

 

 

「……」

 

 

 

ーー灰の夢。

 

 

何もかもが灰になった世界。

 

 

そこでただ1人佇む彼女を、俺は見る度に涙を零す。

 

 

 

「……」

 

 

 

何故悲しいのか、何故俺の手は血に濡れているのか、何故頬が濡れて乾かないのか。

 

 

あらゆる全てが枯れ落ちたのに、涙は灰へと落ちていく。

 

 

必要なのは、手と口だけ。

 

 

 

「もこねぇ」

 

 

 

顔を歪める、彼女の慟哭は届かず、聞こえず。

 

 

 

この夢で分かることは……。

 

 

 

ーー枯れた地へ流れる涙に、限りが無い事だけ。

 

 

 

何時しか日常となった光景に、心が麻痺していく。夢であるはずなのに…俺は、この光景を心に刻み付けなければならない気がするんだ。

 

 

 

この夢を見せてくれる彼女は、その度に悲しそうな顔をする。

 

 

 

目的も何も無く、ただこの光景を心に、脳に、瞳に刻み続ける毎夜を過ごす度…妹紅と過ごした毎日の記憶も想起していく。

 

 

赤ん坊の頃からずっと一緒で、祖父の家と行き来する事もあったがそれでも彼女と一生の殆どを過ごしたと言ってもいい。

 

 

 

「……」

 

 

 

じいちゃんが亡くなった時も、泣いて泣いて、泣いた後に向き合えたのも…妹紅が一緒に居て、どうやって受け止めるかを教えてくれたからだ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

価値が欲しい、と彼女は嘆く。声は届かずとも、それを感じ取る。

 

 

価値が欲しい(生きる目的)価値が欲しい(嘆く理由)

価値が欲しい(悲しむ為の何か)価値が欲しい(赦されたい)

 

 

自分が赦される程の、嘆いて良い程の、逃げてもいい理由の、明日を望める希望を、手放した全てを。

 

 

身勝手でいいから、自分勝手で、愚かで、そんな価値なんて一切合切無くたっていいから。

 

 

 

ーー手放したもの(死ぬ権利)が、欲しい。

 

 

 

「駄目だよ、もこねぇ」

 

 

 

そうやって願っていいのは……。

 

 

 

貴方が奪った全てを、取り返して、治して、赦して……。

 

 

 

赦されて(祓われて)からなんだから。

 

 

 

俺、何度でも祓うよ。

 

 

 

何度生き返っても、何回呪いが巡って、廻っても。

 

 

 

必ず。

 

 

 

 

 

 

「…………ーー寝てた?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「あ゛」

 

 

 

目を覚まして、周囲を見た時に視界に飛び込んできたのは…。

 

 

 

「順平…本当にごめん」

 

 

 

酔いつぶれた凪さん、葬儀屋、魔理沙の3人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……悠仁さん、後片付けまでしなくていいですよ」

 

 

 

「いや、お邪魔させて貰ってるからな、これ位なら」

 

 

 

虎杖悠仁が先ほどから目まぐるしく動いて食卓を片付けている、食卓に並ぶのは料理などではなく、酔っ払い3人組。

 

伊地知さんに無理言って買ってきて貰った大瓶の日本酒もまさかの空になっている、そこまで飲んでしまえば…もう誰も立つことは出来ないだろう。

 

 

 

「……」

 

 

 

「ーーはぁ、結局アンタの目的は何なの?呪術師」

 

 

 

「目的……そうだな、順平に会いに来たのはとある呪霊と関わりを持ってるんじゃないかと思ってな、青髪ツギハギの青年、そんな見た目をした呪霊と出会った事はないか?」

 

 

 

「無い」

 

 

 

「映画館の変死体、そこに順平は居た……なら犯人と出会ってるんじゃないかなって少し心配になっただけだ、呪いはどこまでいっても呪い、さっき祓った蝿のような見た目をした奴と本質は同じ」

 

 

 

「ただ、狡猾にその悪意を隠せれるだけ、順平が呪霊を認識出来てしまうのなら、もしかしたらがある」

 

 

 

「……だったら、なんでおとなしくウチで夕ご飯を食べてんの…殺人現場にいた容疑者が目の前にいるじゃないか、その呪霊って奴が犯人と確定はしてないんだろ?」

 

 

 

「いや、犯人らしきやつはもう見つけて、ソイツで間違いないんだろうし……それに順平が犯人だと思えないしな」

 

 

 

「なんで」

 

 

 

「凪さんを見てたら…そうだな、何となくだけど…順平を疑う必要は無いかなって」

 

 

 

…何を言ってるんだ?母さんを見ていたら…?

 

 

 

「邪魔して悪かった、片付けが終わったらすぐ帰るよ」

 

 

 

「…そうして欲しい、もう関わらないでくれ」

 

 

 

「分かってる…順平も、二度とあの呪霊には会わないでくれ」

 

 

 

「だから知らないって」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

それ以降は無言で食卓を片付け続け、きれいさっぱり先ほどまでの酒乱の光景が無くなった頃。

順平は母を、虎杖は酔いつぶれた2人を背中に抱えようとしていた時……。

 

 

 

そう、虎杖が霧雨魔理沙を抱えようとしていた時だ。

 

 

 

「よいしょ………っ…?」

 

 

 

胸の内に痛烈な痛みが走る。同時に虎杖の頬に宿儺の口が現れてイラつきながら虎杖の名を呼んだ。

 

 

 

「おい小僧、その小娘から手を離せ」

 

 

 

「…!」

 

 

 

心臓が破裂してしまうかのような痛み、言われた通りすぐ様手を離すとその痛みも和らいでいき、宿儺もため息をつきながら己の生得領域に戻っていく。

 

 

痛みと共に発生していた身体の熱も失われ…いつも通りの状態へと戻った。

 

 

 

「……なんだ、今の、つかやべ…!」

 

 

 

ほんのちょっとした時間ではあった、そして宿儺が出てくるとも予想出来なかった為か今の瞬間を順平に目撃され……母を背に、驚きと懐疑の目線を送られていた。

 

 

一瞬の発露だが、呪霊を認識できるようになっていた順平からすれば、おぞましい何かが虎杖の中に巣食っていることを理解してしまう。

 

 

 

「今の…ーーお前、本当に何なんだ?」

 

 

 

「あ〜…ちょい色々あってな」

 

 

 

「……」

 

 

 

「えーーっと…呪霊を祓う任務に当たった時、変な呪物を飲み込んでこんな感じに…」

 

 

 

「呪物…」

 

 

 

気まずそうに目線をそらしながら、手を離してしまった魔理沙を目配せで順平へ頼み、いそいそと葬儀屋を抱え出ていく。

 

 

 

「それじゃ!本当にすまんかった!」

 

 

 

別れの挨拶だけを告げ、順平に手を振り家から出る。

虎杖が彼に与えてしまった思い付き、それは知られることなく去っていく。頭の中は先程の激痛と吉野順平への監視を伊地知さんに頼む事で埋まっていたから。

 

 

吉野順平はあの呪霊との関わりを断固として認めてはいないが、元より隠し事が下手なのか会話の態度によって…あの映画館で何か接点を持ったと考えられる。

 

 

 

「《もしもし、伊地知さん?吉野順平は多分報告した呪霊と関わりを持ってる、誰か付けれない?》」

 

 

 

《出来ますよ、窓を通じて派遣しておきます》

 

 

 

「《おっけーっす、後葬儀屋が酔っ払って潰れちゃったから送り迎えもお願いします》」

 

 

 

《分かりました》

 

 

 

携帯の通話を切って、背中に背負う葬儀屋の寝言を聞きながら夜道を歩く。ミステリアスで聡い視点を持った麗人だと思っていたが…。

 

 

 

「…むにゃ…おねがーい…お風呂沸かしといて〜……」

 

 

 

「……この人こんな感じだったのね」

 

 

 

「あと晩御飯と晩御飯のデザートと夜食も〜……」

 

 

 

「すっげぇ食べるな!?」

 

 

 

色々と一晩で印象がクルクルと変わってしまった人だが、今襲撃があれば守り切れる自信もない。警戒を最大限張り巡らせて伊地知からの送り迎えの車を待つ。

 

 

暫くしていると黒塗りの車が歩く道先の曲がり角で止まり、窓が開かれこちらへ向かって手を振っているのが見える、伊地知さんだ。

 

 

 

「お疲れ様です、虎杖くん」

 

 

 

「早いっすね、周り見張ってました?」

 

 

 

「ええ、あの呪霊の襲撃があれば即報告出来るように」

 

 

 

「…伊地知さんも、あんま危ない橋渡らないで下さい」

 

 

 

「いえいえ…虎杖くんだけがあの呪霊を祓える以上、大人である私が背負わなければいけない部分が多々あります、責務であり義務ですので」

 

 

 

「……押忍!ありがとうございます」

 

 

 

「それでは私は西行寺さんを送り届けますので、虎杖くんは……」

 

 

 

「少し辺りを探ってから帰ります、根城が近くにあるかもしんないんで」

 

 

 

「分かりました、それでは」

 

 

 

(…上の名前西行寺っていうのな…)

 

 

 

車を見送り、夜道を歩きながら……話しかける。

 

 

ーーその相手は宿儺、内に巣食う悪魔を相手に話しかけた。

 

 

 

「なあ」

 

 

 

「俺の頭ん中覗いてるなら分かってるかもしんねーけどよ」

 

 

 

「お前も、同じだからな」

 

 

 

「……ケヒッ」

 

 

 

「奪うってなら奪い返す、お前が自分の為だけに生きて…自分の為に他の全てを無いように扱うなら…ーー」

 

 

 

「必ず認めさせてから、殺してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー価値が欲しい。

 

 

霧雨店から、あのクソ親父から逃げ出した時に求めたもの。

 

 

価値が欲しい、見返せる位の力が欲しい。

 

 

価値が欲しい、1人でもやっていけるんだって思わせれる功績が欲しい。

 

 

価値が欲しい、霊夢に負けない強さが欲しい。

 

 

価値が欲しい、私が私で居て良いって何かが欲しい。

 

 

価値が欲しい、周りに埋もれず『自分はここに生きている』って証拠が欲しい。

 

 

自分を肯定する、なんて事は大した事じゃない。嘘でも何でも励まして前を向いて、逃げ出しても諦めず…次は必ず勝って超えていくだけ。

 

 

でもな、それには燃料が必要なんだ。激しく燃えて、凄まじいエネルギーを生み出す燃料が。

 

 

ーーそれが、自分の価値。

 

 

意志の炎に焚べて、燃やし猛り、その光を指標に歩み続ける。だからな価値ってのは……いつしか失われて塵になってくもんなんだ。

 

 

だから求め続ける、新しい明日をくれと、生きる為の目標をくれと、苦しみを乗り越える力をくれと。

 

 

 

『霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ』

 

 

 

それは自分自身にかけた呪い。

 

 

特別になり得ぬ私が、アイツ(博麗霊夢)の隣に立つ為の。

 

 

 

『……はは』

 

 

 

『まぁ、諦めなきゃいつかは超えれるさ』

 

 

 

そんな(未来)を語った自分の顔は…。

 

 

有り得ない事()を話しているみたいだった。

 

 

 

 

「……ーー」

 

 

 

「らしくもねぇ夢見たな」

 

 

 

昨日の晩の記憶が薄い。

 

 

 

「凪さんは…出掛けたか、順平もだな」

 

 

 

こっちの世界で偶然出会った親子には、とても親切にして貰った。幻想郷に帰ったら紫を霊夢と一緒にボコボコにしながら事情聞き出して、凪さんと順平にマツタケでも送ってやらなきゃなぁ。

 

 

 

「……うーん、本当に申し訳ない」

 

 

 

昨日の酒の席が嘘のように家の中は綺麗に整っている、私が酔いつぶれた後に片付けてくれたんだろう、物凄く申し訳無かった。

 

 

時計を見ればもう昼時だ、どれだけ寝てんだよ私…。

 

 

 

「さて、こっちの世界には霖之助も送られて来てんだよな」

 

 

 

アイツに私の手持ちを換金して貰えれば、ここでの生活費も返せっかな〜?連絡連絡っと…。

 

 

 

『幻想融合計画』なんて物騒な名前聞いた時は驚いたが、維持が難しくなった幻想郷を現世へ降ろして観光地にするなんて…ーーよくもまぁ、あの頑固共が賛同したな。

 

 

 

「《あ〜もしもし?紫に渡されてあったコレ使ってるけど、聞こえてるか?》」

 

 

 

《聞こえてるよ、魔理沙》

 

 

 

「《よしゃ、霖之助って今何処に住んでんだ?手持ちの魔道具と現世の現金を交換したいんだけど》」

 

 

 

《昨日紫さんから連絡があったよ、客人に余計な事を漏らそうとして強制送還されたんだって?全くもう…それと、お金なら紫さんが魔理沙が入り浸ってる家に後から渡すってさ》

 

 

 

《後住んでる場所は秘密、バレると色々駄目な所だから》

 

 

 

「マジか!すまんすまん、話したかった事はこれだけだし…まぁ、暇があったら教えてくれよな」

 

 

 

《……教えられないって言ってるだろう…》

 

 

 

「ははは!それじゃ、また!」

 

 

 

《またね》

 

 

 

「……よ〜し、そろそろ私も動かにゃならんな、羂索…真人、陀艮、花御に…漏瑚?だったか、ソイツらを何とか見つけ出してぶっ飛ばす…つってもなぁ」

 

 

 

見た目が確か、こっちの世界で呪術師って奴らの中でも大罪人らしいし……。呪霊を従えてるってのも厄介だ。

 

 

 

「むむむ…」

 

 

 

「よし!呪術師って奴らに情報貰うか!それで羂索って奴をさっさとぶっ飛ばして、凪さんと順平にお礼をしよーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼んだかい?霧雨魔理沙」

 

 

 

 

 

 

箒を片手に、玄関へ立とうとしたその時。

 

 

後ろから彼女の肩を叩いて、名を呼ぶ男を瞳で捉えた後…。

 

 

霧雨魔理沙は、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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