不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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命の価値

ーー価値が欲しい。

 

 

 

『ねぇ、順平ちゃ〜ん…俺らさ、難しい事は言ってないよねぇ〜?』

 

 

 

『あのクソ女を、差し出せって言ってるだけなんだけどさ?それも出来ないのかなー?お前みたいな能無しはさ』

 

 

 

 

命の価値は平等か?

 

 

 

価値は、等しい物なのだろうか?

 

 

 

『……』

 

 

 

『黙ってちゃ…ーー分かんねえって言ってんだろ!!!』

 

 

 

鳩尾に入り込んでくる拳の痛みは、いつまでたっても慣れない。

 

 

人間に心は無い。

 

 

あの人の言葉に僕は救われた。

 

 

……そして同時に…。

 

 

 

『がっ…ぅ、おぇッ…』

 

 

 

『たまんねぇ〜、やっぱりお前サンドバッグの才能あるよ』

 

 

 

人間にはきっと、心はあるんだとも思う。

 

 

僕が魔理沙さんを庇わなくても、あの人なら勝てるだろうし何も問題は無い。ならどうして僕は……こんな惨めな目に遭っている?

 

 

……それは、僕が僕自身を否定したくないからだ。

 

 

僕が失われて欲しくない、穢れのない魂を持つ人達に顔向け出来る人間でありたい、逃げたくない、諦めたくないんだ。

 

 

僕だけの価値が欲しい。

 

 

弱い自分に残っている価値を知りたい。価値は欲しくても降ってこない、自分の過去に、現在に、未来に埋もれているものだから。

 

 

だから……。

 

 

 

『だから…!』

 

 

 

『あん?』

 

 

 

『はは、ゲロで靴汚れてるけど…大丈夫?』

 

 

 

『……チッ!余裕そうな面してるお前の顔で拭いてやるよ、しーっかり綺麗にしろよな!ははは!!』

 

 

 

僕は、穢れていないものだけを人と認めよう。

 

 

コイツらは人じゃなくとも、母さんや魔理沙さんが綺麗な魂のままでいる限り、その魂を穢さない人間でいたい。

 

 

 

ーーそんな人間である為の、価値が欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ、順平」

 

 

 

「…母さん」

 

 

 

あれだけ飲んでいたのに、朝によく起きれるものだ…余裕そうにも見えるけど、二日酔いが酷いだろうに。

 

 

昨日胸に抱いた強烈な違和感と恐怖心は、的はずれなものとして消化された。

 

 

 

「魔理沙ちゃんはまだ寝てるみたいだから、起こさないであげてね」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「行ってらっしゃい、順平」

 

 

 

「行ってきます、母さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

学校という場所は大嫌いになった、されてしまった。

 

 

額に残るタバコの火傷跡がジクジクと痛むのだ。

 

 

でも今日は…ーー随分と、静かな日。

 

 

 

「………」

 

 

 

人が少ない訳でも無い、誰かが騒いでない訳でも無い。でも僕にとっての日常と比べると…静かだと思える。

 

 

この前初めてアイツらに反抗して…無意味に終わった。更に激しいイジメを受けるんじゃないかって思いながら学校に来たけど…。

 

 

 

「…もう3時間目か」

 

 

 

本当に静かな日だ。

 

 

…。

 

 

 

静か過ぎる。

 

 

 

「……」

 

 

 

「……?」

 

 

 

空に…黒い、膜?

 

 

 

「あれって…」

 

 

 

「…ーー帳?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーお昼時

 

 

 

いつものように、あの呪霊の痕跡を探し、町一帯を探索し続けていた時の事。微かな残穢を追い続け、辿り着けた小さな生活スペースを発見した。

 

二徹目で少し体調を崩しかけていたものの、ようやく見つけた最後の小さなアジトらしき場所へと足を踏み込んでいた虎杖の携帯が鳴り響く。

 

 

 

「《伊地知さん?こっちは…ーー》」

 

 

 

ようやく手がかりを見つけたと報告するいと間もなく、伊地知からは衝撃の情報が伝えられる。

 

 

 

《虎杖くん!緊急事態発生!吉野順平が通っている高校に帳が降ろされました!!更にそれを中心として周辺地区に大量の改造人間が地下水道から出現!それに伴い死体?らしき呪霊か何かが街中に大量出現中!》

 

 

 

「…!《調査済みの箇所からも!?》」

 

 

 

《ええ、それに死体らしき何かの方は日常生活を送っていた人間が突如暴走を始める形になったと報告されています、虎杖くんは吉野順平の元へ行きながら道中の敵の排除を!それ以外の場所はこちらで処理します》」

 

 

 

「《了解!》…こっから真上に出れるか…?」

 

 

 

天井にハマってあったマンホールを殴り抜け、地上へと這い出でる。

通行人が通ることの無い小さな交差路であった為、全速力で順平の高校へと向かい始める虎杖。

 

 

だが……。

 

 

 

「…!」

 

 

 

道中、改造人間に襲われている一般人を発見した。即座に駆け寄り、拳を振るう。

 

轟速で振り抜かれる拳は改造人間の頭部を破裂させ、一般人へと手を伸ばした。

 

 

 

「大丈夫か!」

 

 

 

「え、ええ…ありがとうございます!」

 

 

 

「ここら一帯にさっきのヤツがうじゃうじゃ居る、直ぐにここから離れて…ーー」

 

 

 

 

カチッ。

 

 

 

 

「……あの、これ、渡してって…」

 

 

 

救助した一般人、だと思っていた存在は…。

 

 

その腹を自らの手でちぎった。

 

 

 

「ッ!!?」

 

 

 

血が流れでないモツの中から、収めてあった爆弾を起爆させて自爆。虎杖はその衝撃を受けきれずに石垣へと吹き飛ばされた。

 

 

 

「ゲホッゲホッ…ーークソっ、今のは…あの呪霊に改造された奴じゃない!なんだ、何の術式だ…」

 

 

 

額が切れ血が流れでる、呪力を込め止血してダメージが深刻であるガードに使った腕へ制服を破いて巻いた。

 

 

 

(表皮が焼けただけだ、まだ動かせる)

 

 

 

立ち上がって進もうとするも……あちこちから聞こえる悲鳴に、鳴り響く伊地知さんからの犠牲者の報告に思考が淀みかける。

 

今の自爆も思考の邪魔をし続ける、見た目がどう見ても唯の人であったのにも関わらず自爆してしまった、何か洗脳の類の術式が相手にいたのか…?

 

 

 

「助けてぇッーー!!」

 

 

 

「…クソ…!!」

 

 

 

鳴り響く悲鳴は止まらない、救助に向かうにも…先に高校へ向かうか?どうする?どうにかしないと…!!

 

 

 

…と、悩む虎杖に喝を入れたのは、最近聞き慣れた声だった。

 

 

 

「悠仁ちゃん!!」

 

 

 

「っ…、妖夢さん」

 

 

 

「遅れてごめんなさい、報告は聞いているわ……私なら、普通の人間とそうでない者を見分けられる、手を貸すわね」

 

 

 

「分かった!ならさっきの悲鳴は!!」

 

 

 

「死人よ、これから先の道には3人だけしか生存者は居ないみたい」

 

 

 

「3人…了解、背中乗れますか?背負って行きます」

 

 

 

「OK!頼んだわ、悠仁ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ぅ…。

 

 

 

 

ぅぅ、ん…。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「……?」

 

 

 

「真…人…さん?」

 

 

 

「やっほー、順平」

 

 

 

…あれ……身体が動かない…ここ学校なのに、真人さんが何で…?

 

 

足が…手も動かない、喋れはするけれど…。

 

 

 

「ちょ〜っとだけ、順平の身体を弄って動けなくさせてもらったよ」

 

 

 

「…どうしてですか」

 

 

 

「んふ、どうしてだと思う?」

 

 

 

体育館にて、椅子に座らせられている順平の目の前で、壇上に上がりニコニコと大きな布を被らせた何かに肩を預けている。

 

痺れる舌を動かして、真人へと話しかける順平。

 

 

 

「……遊び、だと思います」

 

 

 

「おー!正解、ご明察だね〜」

 

 

 

「…あは、順平はさ、命の価値の話は覚えてるかな」

 

 

 

「ええ、真人さんの言葉に…救われた部分がありますから」

 

 

 

「な〜ら〜…ーー」

 

 

 

壇上にて踊り、夢を語る様な愉快さで被せてあった布をガバッと捲り上げて……ーー。

 

 

 

吉野順平が目にしたのは……自分自身の母親。

 

 

 

吉野凪の姿だった。

 

 

 

 

「……ーーえ」

 

 

 

「母さん!!?」

 

 

 

「ーー…ん……順平…?」

 

 

 

黒い目隠しがされてある。手を伸ばす事は出来ず眺めるだけしか出来ない。

 

 

そして、その隣には自分自身を虐め抜いていた生徒が居た。2人とも椅子に座らされ、目隠しをされ…声だけが届く様になっている。

 

 

驚く順平を他所に、携帯をニタニタと眺めながら真人が順平の傍にまで降りていった。

 

 

 

「さて、それじゃ復習の時間だね」

 

 

 

「…な……にを…?」

 

 

 

「命の価値を…履き違えちゃいけないよ、順平」

 

 

 

「世の中の多くの存在に善悪は無い、等しく無価値から抜け出す為に……己の価値を見出す為に足掻くものさ」

 

 

 

「その中でも人は、自分自身に皮をかぶせてその魂の本質を隠そうとする」

 

 

 

「……まって、真人さん」

 

 

 

真人の手が、椅子に座る順平の肩に触れた。

 

 

死の予感…信じていた相手である筈なのに、悪寒が止まらない。

 

 

 

「だ〜か〜ら、これも俺の余興に過ぎないからさぁ…」

 

 

 

「間違えないように、気をつけようね?順平」

 

 

 

何が、何を、今これはどういう状況なんだ?帳が降ろされた所までは覚えている、でも何で体育館に居て…母さんが居て、真人さんまで居るんだよ。

 

 

何をしようとしている?何で、何でこんなに怖いんだ?

 

 

 

「っ、澱月!」

 

 

 

術式を発動させようとするも不発。

 

 

 

「あ〜駄目だよ順平、もう君は術師じゃない」

 

 

 

「元に戻しちゃったからさ」

 

 

 

「……ーー」

 

 

 

真人が壇上へと再びあがると……吉野凪と、クラスメイトの肩へと手を置いた。

 

 

 

「順平、好きの反対に存在していた悪意を身に受けていた君はさ…こっちの子、許せるかな」

 

 

 

肩を握りしめるのは、順平の額にタバコを押し付け火傷跡を作ったクラスメイト。

 

 

 

「…ゆる…せは、しません」

 

 

 

「じゃあ、殺したいって思う?」

 

 

 

「……思う事はあります、でもきっとソイツは僕の事を嫌いじゃなくて…どうでもいいって思ってる」

 

 

 

「だから僕はその無関心に、殺意は抱けません」

 

 

 

「……ふーん?ちょっと変わったね、順平…あの金髪の女のせいかな?」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ん〜取り敢えず!さっさと始めちゃおっか!」

 

 

 

真人にとっての余興が始まろうとしていた、悪意に濡れた悪夢、虎杖悠仁を否定したいが為に行われる意味の無い遊びが。

 

この時点で吉野順平に対する評価は…手駒ですらない遊び道具へと変化しており、順平自身はそれを未だ知らず話し合いでの解決を望んでいる。

 

 

 

「順平もね、君が話してた馬鹿の内の1人だよ?」

 

 

 

「だからこんな目に遭う」

 

 

 

ーー真人が、壇上の2人の肩へと手を置いた。置いてしまった。

 

 

 

 

 

「順平」

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

ーー脳裏に通り過ぎる映画館の変死体。

 

 

 

「……ーーは」

 

 

 

「5、4、3」

 

 

 

「ま…まって下さ…ーー」

 

 

 

「2!」

 

 

 

「ぁ…ぅっ…!」

 

 

 

「1!」

 

 

 

「母さんッ!!母さんだけはッ…ーー」

 

 

 

喉が張り裂ける程に叫び、その拒絶の意思が伝わったのか…。

 

 

 

「ガポッ…」

 

 

 

変形しその命を終えたのはクラスメイトの方だった。

 

 

 

「フーッ、フーッ…」

 

 

 

死んだ。死んでしまった、殺したのか?死んだのか?分からない、でも…今、アイツの死体が僕の足元に転がってるのは事実だ。

 

 

本気だった、真人さんは本気で僕に死なせる方を選ばせた。

 

 

何故?何でこんな事を……ーー。

 

 

 

「ねぇ、順平」

 

 

 

「命の価値は平等かな」

 

 

 

「……」

 

 

 

「君の選択で、君の母親の価値を測ってみよっか」

 

 

 

「さぁ、次だ」

 

 

 

「ーー次?」

 

 

 

「うん、ほら次連れてきてー」

 

 

 

物音がする方を振り向けば……暗闇で気づけていなかったが、クラスメイト全員が目隠しと手足を縛られ放置されている。その集団の中からまた1人、引きづられるように壇上へと上げられていく。

 

 

 

「さて」

 

 

 

再び、吉野凪とクラスメイトの肩へと手が置かれた。

 

 

 

「……ぅ゛…」

 

 

 

「5」

 

 

 

「…ぁ」

 

 

 

「4」

 

 

 

「何で!何でこんなッ!!」

 

 

 

「3」

 

 

 

「2」

 

 

 

……ぁぁ……そうか…。

 

 

あの顔、見た事ある。

 

 

 

僕で遊んでいる(クラスメイト)の顔だ。

 

 

 

「1」

 

 

 

「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!゛!゛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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