不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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幼魚と反逆

 

 

 

『私達の手札は少ない』

 

 

 

『というよりは、手札になり得るものが少ないんだ、どうしてか分かるかい?』

 

 

 

『そりゃあっち側(幻想郷)が強すぎるからでしょ、夏油だって真正面からやり合えば100%負けるって言ってたじゃん』

 

 

 

『それもあるし、基本的に幻想郷は呪術師の味方をする、殲滅が向こう側の目的でも無い』

 

 

 

『結局はね、日本を第2の幻想郷に出来れば満足するんだよ、何も知らない一般人を日本という囲いの中で繁栄させ、天元の空性結界を崩壊させる事によって呪術の歴史を1からやり直し……再び妖怪全盛の時代を取り戻す』

 

 

 

そしてこの提案を天元は受けるしか無い、絶対的な力を持つ存在がわざわざ殲滅を選ばずに共存という名の保護を選んでくれるからね。

 

旧態依然をやり直しても、先の未来には1000年を超える人間の安泰が約束される。呪術師は過酷な任務に就かずとも済むし、妖怪は全盛の時代を謳歌し、一般人は新しい『社会』を手に入れる。

 

 

まぁただ……上が変わって下が従うというだけだ。

 

 

 

『……今とあんまし変わってないじゃん、それ』

 

 

 

『ね、本当嫌になる』

 

 

 

『それで〜?結局手駒問題どうすんのよ』

 

 

 

『ふふっ、実はね…■■■■なんだよね』

 

 

 

『え?マジ?』

 

 

 

『大マジ』

 

 

 

『だからね、真人…問題は…ーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「5」

 

 

 

「4」

 

 

 

 

 

価値が、欲しかった。

 

 

 

「321〜」

 

 

 

人間が、人間の為に、人間であるが故に必要だったもの。

 

 

 

蛹は夢を見るだろうか、蝶は月を目指すだろうか。

 

 

 

ーー身を滅ぼしても止まらない未来(価値)を、己を蝕んでいく過去(価値)を、その始発点を人間以外は持っていない。

 

 

 

「10人目だ、凄いね〜」

 

 

 

生物として人間は矛盾する時が多々ある、正しさと相反する時がある。

 

 

 

『死』に誇りを見出す事があったり、自分自身を支えているものを破壊し尽くす事もあるのは……生物としてどう考えても正しくは無い。

 

 

 

人間は生きる事だけを求めなくなった。

 

 

 

だからこそ価値が、必要なんだ。

 

 

 

「今度は1人じゃないよ、これを見て」

 

 

 

「ここに映ってるのはね、()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

 

 

「さっ、選んで」

 

 

 

自分を肯定出来るほどの価値が。

 

 

 

「ふひ、アハハハハ!凄いね!順平にとって、母親は幸せな家庭1つよりも重いんだ!へ〜」

 

 

 

……人を肯定出来る価値が。

 

 

 

「それじゃぁ次は〜…」

 

 

 

「この子!」

 

 

 

こ…の…行為を…。

 

 

 

肯定…出来る、価値。

 

 

 

「ヒヒ、あ〜…」

 

 

 

「飽きたな、そろそろ虎杖悠仁も来るだろうし」

 

 

 

そんなもの…。

 

 

 

そんなもの、存在する訳が無い。

 

 

は、はは…何人、何人死んだ?何人殺した?僕が選んだ、僕が殺したんだ。母さんを死なせたくないがために殺して…。

 

 

わ、わかんない…命の価値、命の価値って………こんなに苦しんで、何にも分からなくなって……。

 

 

 

「最後にこの子、いってみよっか」

 

 

 

「……」

 

 

 

「……ーー魔…理沙…さん…?」

 

 

 

クラスメイトを全員捨てた(殺した)後、もう僕に命の価値を正常に測る事は出来なくなっていた。

 

ただ母さんを救いたくて、母さんが死んで欲しくなくて……。

 

それで、幾つもの家庭を壊し殺した。

 

 

 

「ちょっとね、協力してくれてる奴がもうコイツ要らなくなったって……もう空っぽらしいけど、順平にとっては価値ある人間の内の一人なんじゃない?この子」

 

 

 

 

ーーずっと勘違いしてたんだ。

 

 

僕は…何かになりたい、何かを成したい、そうする事で価値を得て漸く自分を肯定出来るって。

 

 

だからこそ肯定してくれる真人さんに縋って、依存して、信じて…『人に心は無い』って思ってきた。

 

 

でも違った。

 

 

 

『おー!晩御飯に松茸とは、センスあるな順平!』

 

 

 

『…ん?どうした、そんな暗い顔をして…ーーって、そりゃ居候が1番喜んじゃいけねぇわな…すまんすまん』

 

 

 

『ーー違う?聞きたいことがある?』

 

 

 

『“人生で挫折した時?”』

 

 

 

『ん〜…』

 

 

 

『あるさ、山ほどな、いや地獄を埋めても足らねぇ位に』

 

 

 

『まぁでも…』

 

 

 

『諦めねぇよ』

 

 

 

『諦めてたまるか、死んでも、死んだとしても諦めねぇよ私は』

 

 

 

『劣等感も、苦しみや悔しさも…人生全部否定されるような出来事があっても、それを目の前にして諦めずに肯定し続けられんのは…』

 

 

 

『……』

 

 

 

『自分、だけだからな』

 

 

 

 

 

 

「じ……ぶんが…」

 

 

 

「正しい……って」

 

 

 

そう思っていたかっただけなんだよ。

 

 

だって、ずっと逃げて諦め続けていいんだから。

 

 

正しくない事(人殺し)正しくない理由(身勝手な願い)で選び続けて……。

 

 

 

結局、正しさが自分を支えてくれていた事に気づいた。

 

 

 

「何か言った〜?」

 

 

 

「……」

 

 

 

「…ま、もう壊れちゃってるか、指だけは何とか動かしてね〜?そうじゃないとどっちも殺さないとだし」

 

 

 

 

もっと早く、向き合えば良かった。

 

 

 

 

「それじゃ、5」

 

 

 

もっと早く。

 

 

 

「4」

 

 

 

もっと、強くあれたら。

 

 

 

「3」

 

 

 

もっと……。

 

 

 

「2」

 

 

 

そんな自分(抗える自分)に。

 

 

 

「1」

 

 

 

価値を見いだせたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

「ぜ〜…ーー1……ん?」

 

 

 

真人のカウントダウンが止まる。

 

 

 

いや、0から逆に数え始めた。幾らカウントを進めようとしても0の1歩手前で口が勝手にカウントを巻き戻して数え始めてしまうのだ。

 

 

自身の意志とは真逆の行動、魔理沙と吉野凪の肩から手を離し…身体が何故か壇上からゆっくり降りようとしている。

 

 

 

「2………あ〜…そゆことね」

 

 

 

()()()()()()

 

 

これは、この術式……いや、能力は…!

 

 

 

「目当てが漸く来たって事かな」

 

 

 

想起される夏油の言葉。夏油が幻想郷を相手に立ち回る際に最重要視していた事は……。

 

 

 

『問題は、彼女達が自由過ぎる事だ、私でも居場所を突き止めるのは難しい』

 

 

 

『でもそれは同時に利点でもあるんだよ』

 

 

 

『妖怪であるが故に、彼女達は目的や目標があってもその性に逆らえない、だから真人にはこれから私が目当てを付けた人物と接触してもらって……幻想郷の住民の行動を制限させるんだ』

 

 

 

『東風谷早苗と火焔猫燐、日下部篤也と射命丸文、藤原妹紅と博麗霊夢、高麗野あうん……スカーレットの一派は私が何とかするけれど、取り敢えず彼女達を観測し続けられる基点が必要なのさ』

 

 

 

『ーーん?()()()は出てくるのかって?』

 

 

 

『必ず、必ず現れる、何せ彼女は生粋の…ーー』

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、吉野順平」

 

 

 

 

体育館の扉が開け放たれる、誰も居なかった筈で太陽の光は帳で暗く落ちているというのに……逆光が順平を貫いた。

 

 

 

「ずっと見てたぜ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「返事をしろ、吉野順平」

 

 

 

「やってみるか?」

 

 

 

「己の価値を取り戻す為に、今お前が捨てた全てを取り戻す為に、私の手を取れるか?」

 

 

 

額には2本のツノが、奇天烈な服装をした白いメッシュが髪の毛に加わっている女の子。逆光により順平にはハッキリ見えていないようだが…。

 

 

真人にはその姿を()()()()()()()()()()、試しに複腕を作りそこから目玉を形成して覗いてみるも影でしか分からないようで、自身1人を対象とした術式である事が分かる。

 

 

攻撃も自分自身を殴ってしまうし、鋭い殺意と悪意もどんどん萎えていく。

 

 

 

 

「さぁ!牙を研げッ!!意志を穿らせろっ!!!」

 

 

 

「どん底のどん底、そのまたどん底に落ちに落ちたゴミクズのお前が取れる選択肢は1つだッ!!」

 

 

 

「死ぬか、反逆(抗う)か」

 

 

 

「選べッ!吉野順平ッ!!」

 

 

 

「……………」

 

 

 

「お前が奪われたもの、全て取り戻せ」

 

 

 

 

 

『ーー生粋の、アマノジャク(強者の敵)だからね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲の民家が爆発する。

 

 

爆煙、爆炎の中を突っ切り……その破壊に巻き込まれる筈だった家族全員を抱えて虎杖悠仁が転がりでた。

 

 

()()()()()()()()()()による自爆テロが始まり数分、魂の選別を行える葬儀屋を背に走る虎杖は一刻も早く学校に向かう為に……ーー少しでも早く人命救助を行っていた。

 

 

 

「次!」

 

 

 

「曲がった先の民家!」

 

 

 

「了解」

 

 

 

完全に足止めだ、自分が高校に辿り着けないようにその経路全てに自爆テロを行う死体が配置されてある。

 

 

一般人に識別は不可能、今は葬儀屋にしか頼ることが出来ず後手後手に回るしかない状況で……高校へと辿り着かなくてはならない。

 

 

 

「クソっ、死体を操作してる奴を見つけださなきゃ終わんねぇ!」

 

 

 

「それも難しいわ、死体に術式を掛けているのかと思ったけれどその痕跡が見当たらない、完全に独立した自立式の呪骸ね」

 

 

 

「…それ、学長がやってる奴か…なら無理だ、あの人が作るのは見た目が人形だから学長のって分かるけど…」

 

 

 

「「……」」

 

 

 

被害を無視すればすぐにでも高校へと到着出来るだろう、だがしかし失われる命は救える命だ、虎杖の手が届く、()()()()()()()()()()()()()()を彼は見捨てない。

 

 

見捨てられない、人一人分の命の重みは人一人分を越えられないんだ。

 

 

選べるならば、せめて……手を伸ばせるギリギリまで。

 

 

 

「改造人間は私が手を下す、だから悠仁ちゃんは救助最優先でね」

 

 

 

「分かってます」

 

 

 

「迷っているなら進み続けなさい、若いんだからがむしゃらに救い続けて、走り続けて?それ以外は大人の私に任せていいのよ」

 

 

 

「……頼みました!」

 

 

 

「分かったわ、それじゃ…ーー《もしもし?妖夢ちゃん》」

 

 

 

携帯を取りだして、何故か自身の名前をちゃん付けで呼んだかと思うと……。

 

 

 

「《ちょっと大変な事になっちゃって、そっちから来れる?》」

 

 

 

「《うん、そう……手が足りないの、え?今晩御飯の買出し中?向かうからじっとしておいて……あ〜…えっと…』」

 

 

 

「《と、取り敢えず早めに来て欲しいの!晩御飯の量減ってもいいから!》……よし、コレでOKね」

 

 

 

(何がよし、なんだ…)

 

 

 

「後は真っ直ぐ突っ走りなさい!残りは全部やっておく………ーー前に、もう1つ、厄介事が出てきたわね」

 

 

 

虎杖の背中から降り、センスを広げ…暗幕の下から太陽を眺める葬儀屋。その視線の先には大量の黒い影が映り込んでいる。

 

 

死体、死体、死体の波。

 

 

どれもこれも生きてはいないが、生きているかのような動きで山となり波となり通路の先から押し流れてきていた。

 

 

 

「……!」

 

 

 

「ここは任せて上を飛び越えていきなさい、悠仁ちゃんの脚力ならいけるでしょう?」

 

 

 

「あぁ、任せた」

 

 

 

「順平ちゃんにも伝えておいて、夕ご飯の礼だって」

 

 

 

屋根を伝い死体の波を飛び越えていこうとする虎杖。その瞬間、空をかける虎杖に向けて一体の死体が飛びかかった。

 

 

なんて事は無い攻撃ではあった為、蹴り飛ばそうと構えると…。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「こんにちは、虎杖悠仁」

 

 

 

「お前…!」

 

 

 

「早速ですが、サンプルを頂いておきますね」

 

 

 

死体の顔面を蹴り飛ばした体勢のままに、仙女の手が穴から伸びる。細身に見合わぬ剛力が虎杖の足首を掴み取り切断しようと手刀を振り下ろした。

 

 

だが…そうする手前で、仙女の額に脂汗が浮かぶ。

 

 

足首から手を離し、全力で体を捻って『通り過ぎようとする何か』から身を交わした。

 

 

 

通り過ぎたのは……紫に輝く蝶。

 

 

 

虎杖はこの状況での支援は葬儀屋しか居ないと考え、振り返らずに死体を踏み越え先へと進んで行った。

 

 

仙女はそれを勿体なさそうに眺め、そして負の感情が燻る顔をして攻撃の主へと視線を向けた。

 

 

 

「……真人さんの改造人間をどうやって戻しているかと思えば、貴方でしたか」

 

 

 

「ええ、初めましてかしら?紫のお客さん」

 

 

 

「初めまして、幻想郷の裏切り者」

 

 

 

西行寺幽々子の背中から大量の死蝶が湧き出てくる。死体である筈のキョンシー達が蝶に触れる度、糸が切れたかのように脱力、一切の動きを止めその場へと倒れ込んでいった。

 

 

 

「裏切り者、ねぇ…紫がそう言ったの?」

 

 

 

「会議の際に決別したと言っていたので、今はそういう立ち位置になってますよ?」

 

 

 

「ふ〜ん」

 

 

 

「その証拠に計画の邪魔をしているじゃない、私がアレのサンプルを手に入れれるのはあの瞬間しか無かったのだけれど」

 

 

 

「それは貴方の目標でしょ?計画なんか興味無いでしょうに……失敗しようと日本が妖怪の世界になろうと、貴方は自分の権威と力を誇示したいだけ」

 

 

 

 

「それの何が悪いのかしら」

 

 

 

 

ーー仙女に悪意は感じ取れない、皮肉では無く、訪れるであろう混沌の中でも自己の利益しか求めていない。

 

 

 

「……紫にも言ったのだけれど」

 

 

 

「私はこちら側で何千年も生きてきて、瞬きの命が幾つも散る光景を見てきた」

 

 

 

「呪術師だけじゃない、唯の人であろうともその命を全うする事は中々に難しいものよ」

 

 

 

「人間は『連なり』で出来ているの、個人個人が独立して好き勝手に生きている私達妖怪と違って、人間はその短い一生を積み重ね続けている」

 

 

 

「だから人間の方が尊いものだと?」

 

 

 

「違うわ、例えば…紫が支配する世界にも人間は居て、『人間』と呼ばれ、人間として生きている生命が居たとして…ーー」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「飛ぶための羽をもがれた鳥が、いつしか飛び方すら忘れてしまう、空を駈けていた事も忘れて……鳥達は、自分が鳥である事も忘れるのよ」

 

 

 

 

「人間の翼は、長い長い歴史の中紡がれてきた」

 

 

 

 

「その羽を、人間以外が手を出す事を私は許容できないだけ」

 

 

 

ーー西行寺幽々子。

 

 

その能力により幻想郷の冥界での魂の管理、冥界自体の管理を任されている『亡霊』、その肉体はとうの昔に失われており、現代で言うところの幽霊である。

 

 

彼女の力は…()()()()()()()()()()もの。

 

 

魂そのものに干渉する力であり、死者であっても抵抗は出来ない。

 

 

 

「貴方、人間と食卓を囲んだ事はある?」

 

 

 

「全く」

 

 

 

「それは残念、貴方にも知って欲しかったのだけれど…ーー」

 

 

 

材料(人間)と食事するなんて馬鹿らしいじゃない?」

 

 

 

「ーー…悠仁ちゃんを貴方と戦わせなくてよかった」

 

 

 

西行寺幽々子。

 

 

それは、その存在は呪術における頂点でもある。『死』という純粋、『死』という極地を漂う怪物。

 

 

幻想郷勢力であるものの、唯一人間の世界に与し、現世に数千年身を置く異端者であり、人間の『死』と向き合い続けた防人でもある。

 

 

だからこそ、それ故に…ーー。

 

 

 

「貴方では無い、貴方によく似た誰かさん(真人)にも教えて上げたのだけれど……」

 

 

 

「貴方達」

 

 

 

「今、虎の尾を踏んでいる自覚はあるかしら」

 

 

 

人の死の尊さを穢される事に、憤怒を抱ける優しい女性である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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