「こんにちは、与幸吉」
……頼む。
「……お…ま…っ夏油…傑…!何をしに来た!!ぐっ、ゲホッ…」
頼む、逃げろ、今の内に…。
「何叫んでんの、大丈夫だって君の身体を治しに来ただけだから…真人〜」
「はいはい、よっ、覗き見してた奴だよな?お前」
とてつもない邪悪、悪の気配を感じる。特級呪霊にしても上澄みの怪物……俺が履行日を生き残る為に観察し、研究し続けてきた呪霊。
俺の身体を治せる唯一の存在。
ーー
「……」
「め、盟友…ーーもしかしてヤバイか…?」
無為転変、魂に干渉する奴の術式は河童にとって致命的な可能性がある、共鳴りが仮初の肉体を貫通して河童にダメージを与えた所を見るに…。
予想されるのは、奴に触れられれば、河童は幻想郷に帰れる事無く終わるという事。
「……逃げろ、いや…逃がす、必ず帰れ」
出口はアイツらの後ろ、動かせる傀儡はこの場では30体、究極メカ丸の起動は身体を治してからでないと無理だ。
五条悟への通信手段は?確保出来ていない。
縛りを破棄するのか?無理だ、お前らには俺を消すメリットよりも縛りを破るデメリットの方が大きい。
考えろ、河童をここから逃がす方法を……ーー先に、殺すか?河童は普通に死ねば幻想郷に帰る、殺せば…。
「……履行日までは…まだ、日にちがあるだろ?」
「そうだね」
「…縛りを破ればお前と、そこの呪霊にも災いが降り掛かる、契約の内容は重い、お前の計画も相当な『何か』の災いでご破算になるぞ」
「まぁ、うん」
「ーーだからズルをしよう」
夏油傑の背後、暗闇を飲み込む黒が現れる。
強い呪霊の気配、特級呪霊はあるだろう呪力を感じる。そして暗闇からぬるりと誰かが引きづられ、現れた。
その間にも彼は考える、友を、盟友を幻想郷に帰し、己がここで生き延びる方法を。
生き延び無ければいけない。
生きて帰らねばならない。
生き延びる、死なない、死ぬものか!生きて、戻って、京都校の皆と……ーー。
(どうする?どうする、何をしてくる?縛りを通り抜ける事は不可能だ、真人では治せない、真人以外でも治せない)
必死の思考。
既に傀儡は今すぐにでも動かせる、だが戦力不足だ…!足りない、こいつらから逃げ切るには足りなさすぎる。究極メカ丸と『アレ』を動かせなければ死ぬ。
どうする、何をする、こい、来てみろ……!
「ーーおっとと、イテテ……髪の毛引っ張って持ってくんなよ、お疲れ様真人、けん…夏油」
「ーーぁ」
「特級仮想怨霊カシマレイコを使った長距離間ワープ、どうだい実用性は」
「うーん、…まぁまぁかな、隙が大きい、領域展延必須…でないとこうなる、まぁでも気を付ければ輸送としては完璧じゃないか?」
「あ〜…これ一人しか対象に出来ないんだよねぇ」
「十分だろ、憂憂みたいな便利術式は数少ないんだからさ」
愉快げに話し、全身をグチャグチャで血肉の塊のような状態から完全に復帰させるのは…。
現代最強の師、最悪の呪詛師の師、勝算は0に等しい。
「藤原…」
「久しぶりかな、メカ丸」
「何故貴様が…何故だ、理由が無い、何故なんだ」
考えてはいた、予想はつけていた、仮定もしていた。だがどれも有り得ないと想定して動いていた。
有り得ない、理由が無い、夏油傑を手に掛けた女だぞ、何故今になって再び味方をする。
見てこなかった訳では無い、ある程度の不審な動きはあった、だが何故
「不思議がってるな、まぁ悪い事は特に何もしてなかったから気付くのも難しいと思うが」
「……そうだ、貴様は…何も…」
「…ぁ、アイツの心臓貫いたのは置いといて…それじゃ身体治すぞ〜」
ニコニコとこの場に似合わない笑顔を浮かべながら、炎を身体に浮かべこちらへとジリジリ近づいてくる。
「ーー治す?」
「私ならお前の身体治せるぞ?」
「ーー…天与呪縛の肉体は反転のアウトプット如きで治せるものじゃない、お前の再生の術式も他者には施せない筈だ」
「
「……」
「細かい事はほっといて、私がお前を治せば縛りは破棄される、どっちにも害の無い形でな」
「『夏油はお前の身体を真人の術式で、規定日に治す事、それまで互いに危害を加えない』が縛りの内容だ、詳細を除けばこの本筋が崩れれば縛りはご破算になる」
「つまり…部外者の私がお前の身体を治せば、『治す身体が存在しない』事で縛りは矛盾を起こし、崩壊する」
「だからまぁ、その、なんだ」
「お疲れ様、ありがと……ゆっくり休め」
「ーー藤原妹紅ォォッ!!!!!!」
湧き出る傀儡、控えさせておいた傀儡が稼働し、与幸吉と妹紅、二人の間に壁を作る。
襲ってくる訳ではなく、ただ二人を隔てるだけの傀儡の壁。あれほど激昂しても冷静に別の狙いを定めていた、めんどくさそうに一撫でで傀儡を溶かしきると…。
ーー残った傀儡の一体が、河童の少女の胸を貫いていた。
与幸吉の目には希望と喜びの感情が浮かびあがり、残る己の命を…。
「それはダメ」
「ーーなっ、いつの間に…!」
瞬間で河童の少女を傀儡から奪われ、胸から流れ出す命を塞き止める形で妹紅の炎が傷を包み込むと…失われた心臓が一瞬で復活し、欠損何一つ無く復帰する。
「…かはッ…」
「大丈夫か?」
復帰した河童の目に映るのは、本当に心配している風に見える白髪の女、明確に与幸吉に死ね、と宣言した上で、このような表情が出来てしまえる存在に背筋が凍る。
炎に包まれている筈なのに、暖かく…冷たく、眠く、落ち着ける。何故か目の前の化け物の様な存在に安心感を持たずにはいられない。
「アン…タ…」
「死んでも無駄だ、その義体の仕組みは分かってるからな、傀儡操術と夜蛾さんの呪骸に似た様なもんで助かった…モノとして復元すればいい」
「どうする?お前が諦めればメカ丸は死ぬぞ?」
「……じゃあ離してくれないかな、アンタの炎は…少し、気味悪い」
「酷い言い草だなぁ、ほれ、降りろ」
よろける身体を支え、焦燥の表情をする盟友の傍にまで歩き……彼が浸かる浴槽へと身体を預ける。
……彼を見捨てる、なんて選択肢は毛頭なかった。
彼の不幸を知っている、だから今の状況も彼の不幸によるもので…本来は味合わなくて良い絶望だ。
不幸の終わりを求めた少年の、その始まりが絶望に染まって終わるのを見たくは無い。
「ふぃ〜…はは、盟友…」
「起動準備は出来てるかい?」
「ーーあぁ」
「盟友、生きて帰るんだ、生き延びて、どんな状態になっても生き延びて……京都校の皆に会いに行きな、盟友の『始まり』はそれからだ」
「両手両足、皮まで失ったとしても生きて戻れ、仲間の元に………きっと、今より酷い状態になっても明るく迎えてくれるからさ、ちゃんと秘密も全部話すんだぞ」
「分かってる…」
ーーセリフだけだと淡い、良い青春だな……今から壊すのがしのびない…事もないか。
誰も彼もを裏切ってから、また迎え入れられるなんて甘い話、ありはしないのだから。
「はぁ、ブーメランだな…それじゃ治すぞ〜、一瞬チクッとは…しないか」
妹紅の手が与幸吉の身体に触れる、たちまち触れた箇所から炎が漏れ出し、与幸吉の身体を包み込み発光していく。
天与呪縛は天から与えられた呪縛であり、魂の形そのものが歪み狂っている為に反転が機能しない。
生半可な術式でも治癒は行えず、魂の形を変える等という力は真人にしか持ちえぬものだ。
ーー但し、妹紅は呪いそのもの、魂が露出している唯一の存在。
無限の生命を切り分け、歪んだ魂そのものを補修できる。炎の繭から現れた与幸吉は……。
「……ふぅー」
肉体を完全に取り戻す、痛みの無い身体、機能する嗅覚、取り戻した腕と足。
その感動の余韻を残し、河童の手を握った。
「め、盟友…中々のイケメンじゃないか」
「言ってる場合か、やるぞ河童」
「勿論!」
その声を聞いた、後ろで退屈そうにしていた真人が妹紅に交代の合図を送り、『戦い』の顔を浮かべて二人に歩み寄る。
虎杖悠仁との戦いで真人は急速に成長した、彼にしか持ちえない悪辣さ、人間の呪いとして、成長しない呪いという枠組みにありながら未だ成長を続ける彼の羽化の時は近い。
構え、呪う。
愉悦に浸り、ただひたすらに今は…全身全霊で生き延びようとする目の前の人間に笑いを浮かべた。
「それじゃ、やろっか」
「お兄さんだけかい?後ろの二人は見とくだけで良いと?」
「俺だけで十分さ、人間一人と妖怪一体、狩りになるかすら分かんないよ」
「あっ…そ!」
部屋の隅に置かれていた緑色の大きなリュックサックが突然弾ける、河童の持ち物であろうか、弾け飛んだリュックサックの中からは大きなプロペラと腕が付いた機械が飛び出してくる。
小さな三脚のロボットもワラワラと現れ、天井、壁、床までロボットが埋めつくす。
「見せてあげる、科学の力を!」
河童が指を鳴らせば部屋の様子が一瞬にして変わった、木々がせせらぎ、川が穏やかに流れる山中へと姿を変える。
真人の目の前に広がるのは完璧な自然の風景だ。
匂いも、風も、身体に当たる太陽光も自然のモノとしか思えず、あまりの変わり様に領域展開の可能性が脳裏によぎるが、その様子は無い。
気が付けば目の前に居たはずの二人の姿も無い。
「領域…って訳じゃなさそうだね」
「おお!凄いなこれ…現代でも中々見れない全方位ホログラムか」
「夏油〜!これどうなってんのー?」
「唯の映像技術だよ、部屋の大きさは変わってない、腕を振り回してご覧?」
身体を変形させ周囲を破壊し尽くす真人。
だが、何事か…映像技術とは思えない程に周囲の風景は自然な形で破壊され、元々の部屋の奥行きを超えても手は延ばせれる。
なんと天井であった筈の空にさえ、天井であった部分は消失しており、岩を破壊する感覚、水を通り過ぎる感覚、風が身体を撫でる感覚は全て完全に山の中としか思えない。
……ーー暴れ回っていると突如、風景の一部がコンクリートとなり、真人を巨大なブロック状のコンクリが押し潰した。
「…夏油〜?」
「アハハ、ごめんごめん…少し舐めてたかな、こんなオモチャを用意してたとはね」
「へ〜…ふーん?凄いなコレ、周囲一帯から傀儡操術の残穢を感じる、全部ロボット……傀儡だ」
「持って帰っとく?妹紅好きでしょ、こういうカラクリを捏ねくり回すの」
歓談をしている二人に呆れながら、真人はその視界に魂の輪郭を捉え相手の位置を補足しようとしていたが…。
(二体……三体、四体五体…位置を誤魔化す為に何か細工をしてるな)
(…うーん、したいのは狩りじゃなくて勝負だったんだけど)
「ーーお?」
ーー足元の空間が消え去る。
真人の足元、そこだけがポッカリと穴が空き、狙い済まされた策は彼だけを夏油と妹紅から引き剥がす。
暗い地の底から更に底の底、落下し続ける真人は鳥の姿に変化し穴から飛び立とうとするが、上空から差し込む光が消えていき、押し潰すように上から穴が閉鎖されていた。
仕方ない、と落下を続け、穴の出口…底の底を突き抜けた真人の視界に映りこんだのは……。
「ーーうっはぁ!こんなモン作ってたんだ!!」
一面に広がる地下帝国。地盤はどうなっていると突っ込むのも野暮な程の巨大な空間が広がっていた。
その空間の中央に座するのは…。
ーー巨大な、ロボ。
「「
「良いじゃん良いじゃん!そうこなくっちゃ!!」
「まずは