不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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さようならは届かない 其ノ参

 

「領域から反応が消えたな?夏油が言ってた簡易領域か!」

 

 

 

(既に手の内はバレている、不意打ちはもう無理だ、簡易領域の維持もそう長くは出来ない…!ストックは残り二本、十分だ、一本だけで殺しきれる!)

 

 

 

ーーだがどうする?死に体とはいえ奴には普通の方法で簡易領域をぶち込む事は難しい、身体の自由自在な変化、下手を打てば簡単に一本を無駄にしてまう。

 

 

思考する時間すら口惜しい、着々と簡易領域は剥がされてきている、悩む時間だけ行動の幅と残り寿命が縮むな…!

 

 

 

「盟友」

 

 

 

「一機だけなら動かせる、私の手持ちだけどね」

 

 

 

「偶然だな、俺も一体残ってる」

 

 

 

拳を握り締める、残りの七か月分の出力をどう使うか。

 

 

 

「……」

 

 

 

生きて帰る。

 

 

ーー生かして帰る?

 

 

目の前の感情を優先すべきでないことは分かっていて、己の選択で何万何十万の死者が産まれる可能性があった。

 

 

簡易領域は残り二本、一本分で帳に穴を…。

 

 

…帳。

 

 

ーー夏油がまだ死んでいない、俺は既に選択を誤った。

 

 

 

「…ーー行くぞ」

 

 

 

「あいさ!」

 

 

 

機体の残り駆動時間、この損傷に耐えながら動くには…三十秒が限界。

 

 

 

「んふふふうふぅぅう!!まぁだ動かせたんだぁ!ソレ!」

 

 

 

「押し潰れろ…!」

 

 

 

「あはははは!ん゛ううんッ!!」

 

 

 

振り上げられる巨腕が真人を押しつぶさんと加速を以て振り下ろされるのを、真人は身体をゴリラをベースとした様々な動物の混合で受け止め切り、逆にねじ切った。

 

ねじ切られる勢いのまま横倒しにされ、メカ丸は己の自重での崩壊を余儀なくされてしまう。

 

 

 

「盟友!全部つぎ込め、それが最後のチャンスだ!!」

 

 

 

「ッ、その後は!?」

 

 

 

「私が何とかする!いいから早く!」

 

 

 

地面に倒れこむより前に、メカ丸の左腕が動いた。真人からはちぎった右腕によって視界が遮られているが、二人側からはそうではない、晒されたこの少ない時間の中での唯一の隙。

 

 

残り全ての年月を左手へとチャージを開始する、真人の真上、赤く赤熱した左手の発射口が投げ捨てられるように落ちていく。

 

 

 

目の前にまで手が落ちてきた刹那の瞬間に、この自爆攻撃に対しての真人が下した判断は……。

 

 

 

「アハっ、ハハハハハハァハハ!!!

 

 

 

暴力的な肉体増殖による正面突破。

 

 

遂に衝突する左腕の自爆による爆炎に包まれながらも、無為転変を前に二人ができる行動の選択肢は限られている。

 

 

ならば余計な読み合いを排したこの形態での直進が、この状況に最も適していると思考した。

 

 

 

「ぶはぁッ」

 

 

 

爆炎が身を包み、そして晴れた後…。

 

 

 

「うぉぉおおおお!!」

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

(左右同時の挟撃!仕留めるべきは…ーー)

 

 

 

傀儡を纏う与幸吉と機械を背に接近する河童が視界に入る。

 

 

 

(俺に致命打を与えらえる妖怪、お前の方だ)

 

 

 

それにこっちから殺した方が、きっと面白い光景が見れるだろうし♡

 

 

 

「まずは、こっちから…ーー」

 

 

 

膨張する身体を壁にしながら、河童の命を奪わんと右手で心臓を貫こうとしたとき、脳内に駆け巡った違和感が身体を硬直させる。

 

ーー簡易領域外で活動をしている二人に対しての違和感を理解する前に、胸に棘のようなものが突き刺さった。

 

 

 

「残念ながら、その二択に答えは無い」

 

 

 

「情報不足だったね!呪霊のお兄さん」

 

 

 

元より二人は簡易領域が展開された座席からは移動ができなかった、それは真人が簡易領域を本人ではなく抽出により手に入れたのものだと知らなかった故の直撃。

 

 

挟撃したのは二人が残した最後の傀儡と機械だった。

 

 

 

「ばッ、ぁ、あああ゛っ…」

 

 

 

「終わりだ真人」

 

 

 

何もかも、お前が最初からこっちを侮ってくれてなきゃ負けてたよ。

 

 

それに最後の最後まで人間の呪霊でいてくれて…。

 

 

 

「ありがとな、消えろ」

 

 

 

「あああぁぁぁ゛!゛!!」

 

 

 

真人の身体は膨張をさらに繰り返し、最後には破裂してしまう。

 

 

 

ーー最後の断末魔が空に響く頃には……領域が崩壊した。

 

 

 

帳に遮られながらも、確かに届いてくる青空が心まで届いてくる。

 

 

 

 

「土壇場での逆転勝利こそ、巨大ロボットの浪漫だな!盟友!」

 

 

 

「ふ…それも、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体力の使い過ぎで、死の淵を彷徨っているにとりを背にし、頭部座席から降りる与幸吉は、踏みしめる土の感触をしっかりと味わいきりながら、帳の端へとゆっくり歩みを進めていた。

 

 

小さな鼓動、伝わってくる体温の低下、荒い息づかいと脱力感。

 

 

今すぐにでも消えてしまいそうな命を背に、歩いている。

 

 

 

「あ~…」

 

 

 

「薬の効果、どんだけきつかったのさ…死にかけだなんてつもりは無かったのに…」

 

 

 

「当たり前だ、死人ですら無理矢理動かすような奴だからな」

 

 

 

「かふッ…、ほんと、化学の方も最近は凄いね、是非とも幻想郷でそっち方面も研究してみたいものさ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「帳のぎりぎりにまでお前を連れて行ったら、そこで殺す、時間は稼ぐから藤原妹紅が蘇生させるより前に魂を幻想郷に戻せ、それと俺の味方をするというなら……侵攻した時に京都校の皆を守ってくれるか」

 

 

 

こいつさえ帰せれば、今ここで五条悟に連絡を付ける必要性は無い、例の計画もにとりが伝えてくれる。

 

 

だからもう俺が生きて帰る必要性は無くなった。

 

 

 

「それじゃあ、盟友は?」

 

 

 

「此処で死ぬだろうな、もう、生きて帰れる保証はない」

 

 

 

「ーーそれじゃダメだ、私には盟友を生きて返す責務がある」

 

 

 

「再度聞くが、何故だ?帰る場所がないなら俺が作ってやる、京都校の皆はお前をきっと受け入れてくれるだろう、今俺が生き残るより、お前が皆を生かせ」

 

 

 

「…」

 

 

 

暗く沈む表情に肯定の意思は見えない、腹に据えかねた何かが彼女の中でうごめいているのが分かる。

 

 

ふと、戦闘中に放った言葉を思い出した。生き残ったら故郷の話をしようと誘われたはず、ならここで話して貰おうと背中で浅い呼吸をするにとりへ催促をする。

 

 

 

「……ーー幻想郷にある故郷に居る皆はね、呪霊のせいで殆ど死んじゃったんだ」

 

 

 

「呪霊…呪霊だと?」

 

 

 

「ああ、発生原因は分かっちゃいない、お偉いさん方はぜーんぶ隠してうんともすんとも言わないし、河童の里の外の人は河童が絶滅しかけてるなんて誰も知らないしで、意図して隠されてるから誰も知らないまま終わりを迎えようとしてるんだ」

 

 

 

突如現れた呪霊により、彼女の故郷は壊滅的なダメージを負っていた。それも修復不可能な傷をだ。

 

 

幻想郷は最早楽園ではなく、沈没を前にする泥船と何ら変わりはない、そうなれば優先されるのは優秀な少数の存続、そして少数派が生き残るために必要なモノのみになる。

 

 

 

「幻想郷そのものの命もそう長くは無い、だから日本を新天地として新しい幻想郷を作るのが私たちの目的なのさ」

 

 

 

「…余計に結論から遠のいたな、俺の味方をする理由も、人間そのものに味方をする理由すらもない、間接的にお前達を滅ぼしているのは人間だぞ」

 

 

 

そんな風に問いを投げかけると、『まだ分かってなかったのか、やれやれ』なんて胸を張って元気に言う余力は無いので、軽く笑いながら…。

 

 

 

「それはね、盟友」

 

 

 

「私たちが…ーー」

 

 

 

「『盟友』だからさ」

 

 

 

「ーー…」

 

 

 

醜いも美しいも、残酷も希望も共にするのが盟友なんだ。

 

 

そこに偏りが生じたとしても……それでも私たちは盟友で、同志だ。

 

 

呪霊に襲われて命を落とす瞬間に助けてくれた少年がいる、名前も知らない、偶々里に遊びに来た少年。

 

 

何十年付き添った盟友ならわかる、私と恩や縁がある盟友ならわかる、だけど私を救ったのは見ず知らずの少年で、私はその少年の命を使って生き延びてしまった。

 

 

それは…長い時の中、人間と醜いも美しいも、残酷も希望も共にしてた中で、最も理解しがたく、最も共感しがたく、最も…ーー。

 

 

 

人間が人間である答えを教えられた時だ。

 

 

 

あの時の地獄(故郷)には、確かに答えがあったんだよ。

 

 

 

「意味が分からないって、おぇっ、顔をしているけど、そういうもんだって受け取っときな、盟友ーーそれで、盟友が生き残れる具体的なプランだけど…げほっ」

 

 

 

私の命は本来ならば、あそこで終わっていた。

 

 

なら、託されたものとして、次へと託す。

 

 

 

「盟友を幻想郷に誘拐する、この義体に組み込まれた式の強制送還に、盟友も巻き込んで逃げる」

 

 

 

「ーー可能なのか…!?」

 

 

 

「可能だね」

 

 

 

「い、いや、不可能だ、魂だけの送還に肉体的な要素を付け加えるのにどれだけ…」

 

 

 

「まぁその点でいうと不可能かな」

 

 

 

「……!!」

 

 

 

「だから、私の代わりに帰るんだ」

 

 

 

「私の肉体、私の命、盟友に託すよ」

 

 

 

「…ケホッ……ーーどんな姿になっても、帰らせる、可愛い少女の肉体だ、死に体よりはマシだと思って欲しいね」

 

 

 

ーー絶句。

 

 

瞳の裏に浮かんでいた京都校との再会、その光景から河城にとりが消えていく。

 

 

別の案を模索しようにも、どちらにせよここで河城にとりを幻想郷に返すには……ーー。

 

 

 

「ほら、早く」

 

 

 

背中から降りて、与幸吉の右手を優しく引っ張ると…その手を胸元に押し当てた。

 

 

 

「盟友」

 

 

 

「……………」

 

 

 

「ーー与幸吉」

 

 

 

「いい、名前だと思う」

 

 

 

幸せや吉を与える、だなんて。

 

 

 

本当に素敵な名前だね、盟友。

 

 

 

「………これを握っておけ」

 

 

 

制服のポケットに手を突っ込むと、彼から単三電池を手渡される。

 

 

 

「ん、ナニコレ」

 

 

 

「『思い出』だ、お前に片方渡しておく」

 

 

 

「そう、ありがたく冥途の土産にしておくよ」

 

 

 

「……」

 

 

 

最後に残った武装、京都校の生活でプレゼントしてもらった短刀を握り締め、河城にとりの胸元へ近づけた。

 

 

…刃が心臓に入り込む前に、さようならのその前に

 

 

一言。

 

 

 

「盟友」

 

 

 

別れの言葉は無くていい、無い方がいい。

 

 

 

さようならはもう聞きたくないから。

 

 

 

その一言が今は一番心に染み渡る。

 

 

 

 

ーー冷たい刃が、温かみをもって滑り込んできた。

 

 

 

 

だから、身体に広がるのも冷たさや後悔なんかじゃないのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはぁ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったか」

 

 

 

「ん~」

 

 

 

「聞き耳立てておいてなんだが、どうしよっかな」

 

 

 

妹紅の視線の先。

 

 

ーー与幸吉が泣きはらしながらこちらに向かってきている。

 

 

先ほどまでの激しい戦いとは打って変わって、ただ真っすぐに、ただ実直にこちらに向かって走ってきていた。

 

目元を赤く腫らしながら、転んでも進み続けている。筒のようなものをもって、春先に散る桜の様な気配を漂わせて。

 

 

 

「……」

 

 

 

「ううむ、どうしようか…」

 

 

 

悩むなぁ。

 

 

 

「…ーー100%の、0%を選びに行く立場に立たされた時…」

 

 

 

「ふと、虚しそうだな~って思う事は多々ある、その選択をした人間も沢山見届けてきた」

 

 

 

例えば宿儺に戦いを挑んだ平安の術師たちは、勝てる未来がほんの少しでもあると思っていたから挑んだんだが、私からすれば勝算は0だった。

 

といっても眼に見えない確率というものは主観によって作用が変わるくせに、その答えが正答だとは誰も教えてくれないのって残酷だよな。

 

だが一個人がその選択の天秤に立たされた時には、自分を『0』には振り分けないんだよ。

 

 

 

ーーだが、そうすることなく『0』を選ぶ時には、0を選ぶ事で得るものがあるんだ。

 

 

 

「むう…」

 

 

 

「私にはそういうやつを虐める趣味は無いんだよなぁ、宿儺とかは平気で笑い飛ばすだろうけど、本当にどうしたもんか」

 

 

 

夏油が生きていた時、高専から出ていって、呪詛師になって、私と五条に勝って呪術界を変える、なんてハナから考えてなかっただろうに。

 

あの村から引き取った二人の事より、呪詛師になって集った仲間より、全てを振り切って呪詛師になって、家族を殺して得た『呪詛師としての理想の姿』より…。

 

 

アイツは、0%を選ぶ事を、選んだ。

 

 

それすなわち、己の中にある『何か』の終わりを目指していたからだと思う、アイツが無理に乙骨を狙いに行く理由は勝算を上げる為だとか何だとか言ってたが…。

 

 

 

「…ーー私の炎を見てあんな顔してた奴が、どうして終わりに安寧を求めていないって否定できるだろうか……ってな、どう思う?メカ丸って、本当にお前と真人を倒して帰るなんて事、想定に含んでいたと思うか?」

 

 

 

背後の茂みに声を掛ければ、羂索がひょこっと無傷で出てきた。案の定だな、最初から手傷を追うつもりなんてなかったか。

 

 

 

「さぁねぇ…この戦いが個人の感情によるものなのか、計画的なものなのかは分からない、まぁ一撃位受けてあげたら?」

 

 

 

「まぁお前にしても妖怪二体使わされてんだし、上から目線だけど報酬って感じでそれもいいな」

 

 

 

「それに中々良い練習台になったんじゃないか?最後、妖怪使って攻撃避けてただろ?『強力過ぎる呪霊は縛る』っつってたのに……まさかあの青髪の女の能力でレーザーまで穴空けれるとは」

 

 

 

「羨ましい、私も呪霊操術の事もっと研究しとけば良かったなぁ」

 

 

 

「あはは、アニメの影響かい?ロボット系と召喚系への愛着が以前にも増してるのは」

 

 

 

「いやな、お前と夏油見てたら…だな」

 

 

 

「分かるよ、私だって夏油くんの事見てたら…コレ、やりたくなるもん」

 

 

 

日常会話を交わす二人、この場で、この状況で呑気に会話をするものだと誰かが見れば注意をするものだろう。

 

だがそれは、与幸吉を脅威だと思っていないからではなく、むしろこの結果が彼の手によってどう変わったとしても…。

 

きっと、彼だけが得れる何かの為であって、自分達には関係ないものだと理解しているからだろう。

 

 

 

「幻想郷の内部分裂はどんな感じになってるんだ?末期のソビエト位?」

 

 

 

「比喩が悪くない?……あ〜…いや、最近は逆に纏まり始めている…ーー外来の人間、七海建人が人里の英雄として祭り上げられてるんだよね」

 

 

 

「うっわぁ…」

 

 

 

「各地での呪霊討伐の成果を元に、彼を主格とした組織まで作り上げられているし、ちょっと大変な事になってる」

 

 

 

「月の敵対者の仕業か、政治まで出来るのは聞いてないぞ」

 

 

 

「そりゃ人外魔境の統治者だもん、それより…ほら、彼がそろそろ辿り着くよ」

 

 

 

内情についてあーだこーだ話している内に、彼との距離は縮んでいた。

 

 

憎しみとも悲しみとも、何とも取れないぐちゃぐちゃの顔を浮かべ、叫んでいる。

 

 

 

「ぁ゛ああああアアア゛!!

 

 

 

彼の手元には簡易領域のストックの二本と、河城にとりの帽子が握られているが……。

 

その帽子には、赤黒く変色した血が塗りたくられていた。

 

 

 

「河童の子は死んだのか…ーー羂索、良いのか?」

 

 

 

「あそこまで弱りきってしまえば回収したとて媒介になり得ないからね、それに残り二体の予定は埋まっているし」

 

 

 

「……はぁ、そうか」

 

 

 

結果的に言えば、詰めを誤った、とも言えぬ戦略の面での決着。

 

 

河城にとりは本懐を遂げることなくその命を散らしたのだ。

 

 

 

『あんな瀕死でさ、アレ喰らったら死んだと思ったでしょ?』

 

 

 

戦闘開始が万全であった為のモノだった、領域展開後……あの場に立っていたのは真人本人では無く、身体の変形しか行えない偽物。

 

本人は足元から地中へとモグラになって潜み、簡易領域の注入を偽物へと仕向けさせたのである。

 

一度囮での攻防を挟んでしまった事で、次の手を読まれた二人は真人の破裂を死亡と断定。

 

 

 

『ぁ……』

 

 

 

『……ーーにとり…?』

 

 

 

ーー河城にとりの胸に突き刺さる短刀と同時に、地中から彼女の魂を破壊した。

 

 

 

肉体は破裂し、与幸吉の手に残ったのは……彼女の帽子だけ。

 

 

 

「ぅう、ぅぅ゛ぅ……」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ふじ……わらッ…夏油…傑ゥッ…!!!」

 

 

 

「ーー来い」

 

 

 

「ぁ…アア゛゛ァァァ!!゛」

 

 

 

簡易領域のストック二本を振りかざす。最早殴り掛かるどころか身体ごと飛び込んでいている。

 

 

ーーそれを抱き締めるかのように受け止め、妹紅の身体に二本分の簡易領域が注入された。

 

 

『再生の術式が打ち消された状態での内部破壊』

 

 

与幸吉が用意した、最後のシナリオが発揮される。

 

 

 

「……ぁ…」

 

 

 

ーーしかし。

 

 

 

「な、んだ…ーーそれ、は…?」

 

 

 

藤原妹紅に変化は無い、無いと言っても一部分だけは変化しているが……頭髪が黒に変わっているだけで、ダメージを負う様子は無い。

 

 

それよりも、敏感に感じ取るのは目の前の存在の規模だ。

 

 

 

「ぉ…ぁ……ぇ、オェェェッ゛…」

 

 

 

呪力そのもの、呪力の本流、藤原妹紅が視界に映り込んでくるだけで脳が壊れる錯覚をする。

 

 

ーー化け物なんていう言葉では足りない、人間でも、呪霊でも無い、ましてや神でも無い。

 

 

呪いだ。

 

 

呪いそのもの、他者を、自己を、等しく呪い呪う。負の感情だけでは無い、他者を愛する事で産まれる呪い、自分を否定することで産まれる呪い、正反対にありながらも『呪い』は共にある。

 

 

正と死の混在。

 

 

目の前に、輪廻そのものがあった。

 

 

 

「……月が見えるか?」

 

 

 

「つ…き……?」

 

 

 

吐き気と恐怖でボヤける視界の中、何か光り輝くものが瞼の裏に感じ取れる。

 

 

 

「…な…に、を」

 

 

 

「やっぱり、私の中にあったか、さて…メカ丸」

 

 

 

「教師として付き合った経験もあるし、私はお前を殺す気は無い、だがこのまま帰す気も無い」

 

 

 

「……」

 

 

 

「だからな、私は…ーー」

 

 

 

ーーーーーーーー。

 

 

与幸吉の耳に、その言葉が飛び込んできた時。

 

 

 

「ーーぁ?」

 

 

 

彼の心は、折れてしまった。

 

 

 

「それじゃ、また」

 

 

 

炎の繭が彼を包み込む。

 

 

呆け、脱力した手、彼が握っていた筒と共に……。

 

 

ーー緑の帽子が、繭の外へと落ちていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いねぇ、殺してあげなよ…それにーー気づいてたんだ、何時からだい?」

 

 

 

「少し前からな、やけに昔の記憶が蘇って仕方なかったんだ」

 

 

 

一呼吸置き、過去を思い出す。時折蘇る彼女との記憶には、自分が経験したことの無い筈の…ーー平安時代よりも前の記憶があった。

 

そして…ーー彼女ならそうするだろうという結論を持って、言葉を口にした。

 

 

 

「蓬莱山輝夜の肉体は、呪物になって私の中にある」

 

 

 

自分でも否定してしまう有り得ない結論、蓬莱の玉の枝により魂が物質化した者はその肉体全てが魂そのもの。

 

 

分離等、出来るはずが無い。

 

 

それに過去の記憶とも矛盾を起こす、輝夜は月の連中に連れ去られたのに、何故アイツの肉体が呪物になって私の身体に入っているのか。

 

 

 

「五体の妖怪、五人の末裔、お前の言う通り月から引きづり下ろすのは…」

 

 

 

「ーー輝夜の魂か」

 

 

 

「ご名答」

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