不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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懐玉ー弐

旅行二日目

 

 

 

 

「……長いこと…生きてるが」

 

 

「水族館、初めて来たな」

 

 

薄暗く、青色の蛍光灯が…『お魚ロード』とやらを照らしている。

 

 

「……凄っ…どうなってんだこれ…」

 

 

壁と空、両方共にガラス張りで海の中にいるみたいだ。

 

 

「……」

 

 

何年生きてても、海の雄大さは変わらない。

 

 

海、というものとは今日まで触れ合う事は少なかった、殆ど無かったと言ってもいい。

 

だからこんなに大きな生物が海で泳いでいることも知らなかった。

 

現代文明になって、少しは触れておこうと思って数百年。一次、二次世界大戦の間は結界で引きこもってたし、江戸の時代はそもそも漁業はともかく、泳げるリゾート地だとか発展してなかったから川魚位しか魚は知らないし。

 

日本の後期発展は自然が死んだ、公害汚染って奴だったか……その間も身を隠してたし…天元の事を引きこもりなんて、私も言えないなぁ。

 

 

「とにかく…色々見てみるか」

 

 

五条達とは一旦別れて、1人遊覧中の時、衝撃的な生物を目にする。

 

 

 

「デカっ…」

 

 

水槽の下についている案内板を見て、説明に手を触れながら見比べた。

 

 

「ジンベイ、ザメ…サメなのかこいつ…にしては可愛いな……歯が無いのか、本当にサメか…??」

 

 

「ジンベイザメの歯は退化してるんだよ、妹紅」

 

 

案内板に触れる手が1つ増えた、後ろから伸びてきた手が、暗くて見えなかった案内板の解説を指でなぞって声で言ってくれる。

 

 

「…ん?おぉ、リコちゃん……口調どうした?後五条と夏油、黒井さんと一緒じゃないのか?」

 

 

「抜け出してきちゃった、妹紅が1人で回ってるって聞いて」

 

 

「…なるほど、それ学校での素の口調か……ありがとな、気を使ってくれて」

 

 

「ううん、全然」

 

 

 

……星漿体、天内理子。

 

 

天元と同化予定のうら若き少女か。

 

 

 

「……」

 

 

 

歩きながら思考する。

 

 

天元は術式の効果で寿命による死が無かった、だが人としての域を超えて長生きをし続けていたせいで半異形化、天内理子と同化しなければそのまま呪霊の様な存在になる。

 

 

羂索は護衛任務に私を向かわせたくなかった、私なら天内理子を守り切れる、誰が、どんな相手が来ようと。つまり同化されて異形化を解除されたくなかった。

 

 

羂索が欲しいのは夏油の術式、呪霊操術……か…。

 

 

思い出す、あの言葉。

 

 

『天元を使って』

 

 

 

「なるほどな」

 

 

「……?妹紅?」

 

 

 

大体把握出来た、日本の9割に及んでいる天元の空性結界、確かに呼び水としての基礎として十分だが、それだけで実現出来ることじゃない。

 

結界そのものを利用する訳でも…ないな。天元を使って………ふむ…。

 

 

「……」

 

 

「…………」

 

 

「…ッ!?」

 

 

まさか、か?まさかそんな、強引な……。

 

 

「……」

 

 

…試させてもらうぞ、羂索。お前の計画がこんな事で挫折しない事を。

 

 

そしてもし、もしも…私の思い描く未来が到来するのだとしたら。

 

 

栄華を謳歌する日本は、これから地獄と呼ばれるかもしれない。

 

 

 

「リコちゃん」

 

 

「1つ、いいか?」

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懸賞金解除まで

 

 

後10時間。

 

 

 

 

夕暮れの花道、妹紅の背丈丁度まで両脇の道から花と草が伸びてあかるあぜ道を、5人が歩いていた。

 

 

ただし、黒井と天内を2人きりで前方に歩かせて、だが。

 

 

何か特別な事は起きてはいない。だが天内理子の人生にとって、最後の夕暮れを迎えている事には違いない。

それを誰もが言葉には出さず、ただこの一時を楽しんでいる。

 

 

「2人の、最後の時間ですね」

 

 

「…そうだな、あの2人の最後の青春だ」

 

 

「朝帰りの便、今度はもこせんの分も予約しとくから、プライベートの方は帰らせとけよ?」

 

 

「あぁ」

 

 

遠く前方で手を繋ぎ、この時間を最後の最後まで惜しむようにゆっくり歩いている2人。

 

 

ゆっくり歩いた所で時間は遅く進まない、到着が遅れるだけだ。

 

 

…でも…今だけは……。

 

 

今だけは、特別な意味を持つ歩みだろう。

 

 

 

「所でさ、バカ生徒2人」

 

 

 

ーーがっしりと2人の肩を握り潰す様に捕まえる。

 

 

 

 

「何か、企んでないか?」

 

 

 

「「……」」

 

 

 

「例えばさ、例えばだぞ?理子ちゃんが同化を選びたくないのなら連れて逃げるだとか」

 

 

「「……………」」

 

 

「…考えてない?」

 

 

そんな妹紅の圧に対して、限界を迎えたのか冷や汗を垂らしながら五条が術式の発動準備をする。

 

夏油も不可侵の強制を課す女の呪霊、そして虹龍の排出の前準備を完了させていた。

 

 

「やっぱりそうか」

 

 

「ったく、なんだよ…もこせんにはバレてんじゃねぇか」

 

 

「なんで分かったんですか」

 

 

「未来に希望を持った顔をし過ぎだガキ共、大人に読み合いが通じると思うなよ」

 

 

「……で?もこせんはどうするのよ、俺達ボコって天内連れて帰んのか?」

 

 

「……」

 

 

「妹紅先生はどう思っているんですか、理子ちゃんの存在意義が同化だけだとでも?」

 

 

「……」

 

 

「なぁ、俺らの問に答えろよ、もこせん」

 

 

 

「……」

 

 

 

「はいゲンコツ」

 

 

 

「「がッ…!!」」

 

 

 

頭にぶち込まれる拳、遂に敵対する時が来たかと焦り、飛び退いて妹紅の顔を見た2人は……唖然とする。

 

 

 

「…ぷっ!あははは!冗談冗談!今のは勝手にやろうとした罰だ、というか、私の方が謝らないといけないかもしれない」

 

 

「…どういう事だよ」

 

 

自前の白髪を指でくるくると絡め取りながら、申し訳なさそうに両手を合わせる。

 

 

 

 

 

「…その、すまんな!先に私が言ってしまった!ごめん!」

 

 

 

 

 

 

その発言で妹紅が何をしたのか、凡そ悟ってしまった2人が顰めっ面をし、夏油が目頭を指で押えながら妹紅の顔面をアイアンクローしにかかる。

 

五条も五条で拳を妹紅の頭に後ろから両手挟み込んだ。

 

 

 

「あいた!?いたたた!!ごめん!ごめんって!」

 

 

「……」

 

 

「ちょ、やめ…おぐぅぅぅ……」

 

 

「妹紅先生、お説教です」

 

 

「いやでも!お前らバカ2人の作戦が…あいたたた!!?」

 

 

これが2人の人生で、初めて妹紅へのダメージを与えられた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ、リコちゃん』

 

 

『もし…同化する必要なんて無かったら…もっとマシな人生を歩めたと思うか?もし同化なんてものが無かったら、もっと良い人生になったと思うか?』

 

 

『お前は東京に帰ってしまえば同化して、そこで人生が終わる』

 

 

『そんな残酷な運命が初めから無かったとしたら、天内理子の人生はもっと良くなると…お前自身は思うか?

 

 

 

私が思っていたより、天内理子は『人間』だった。

 

 

 

『うー…ん、思わないかな』

 

 

『何故?』

 

 

『こんな運命でも、黒井に会えた』

 

 

『…きっと同化の時間になると、もっと悲しくなって…泣いちゃって、もし同化しなくていいって言われたら……泣きながら黒井と帰る』

 

 

『もっとみんなと一緒に居たい』

 

 

『……でも、初めから同化なんて運命が無かった方がいいって思わない、黒井にも学校の友達にも、こんな幸せな体験に…も出会えな…かったから…』

 

 

『……だから…こそ……こんなに、幸せなのに……』

 

 

『……』

 

 

『ごめんね……妹紅…』

 

 

 

話している内に、ポロポロと心情が漏れだしてしまったのか涙を流す理子が私の胸に顔を埋める。

 

 

涙を流す、普通の女子高生。

 

 

だからこそ、この人間を私は生かしたいと思ったんだ。

 

 

『天内理子』

 

 

『…も、妹紅?』

 

 

『お前が、もし最後の選択を迫られる時が来た時は…』

 

 

『何を選んでもいい、そして私を頼れ』

 

 

『命位までは、なんとかしてやる』

 

 

 

 

 

 

 

「……てな感じだな」

 

 

「「……はぁぁ…」」

 

 

「本当にすまんかった…!」

 

 

今思うと、この任務は初めから羂索の出来レースだったな。

 

このバカ2人(最強2人)が天内の事に納得して引き下がるわけ無い、天元が2人を指名した時点でこの展開は予測できてたんだろう。

 

天内が死んでも、生き残って戻ってもアイツにとってはどうでも良かった、非情で淡々としてるよ…本当に。

 

 

 

「…もこせん、天内呼べ」

 

 

「話すのか?」

 

 

「アンタが言っちまったんだからな!?…俺らを置いてってんじゃねぇよ、もこせん」

 

 

「貴方1人に背負わす為に、私達は任務の終わりまで黙っておこうとしていた訳じゃ無いんで」

 

 

「……ふふっ、それもそうだな、私は少し退いとくよ…おーーい!2人ともーー!!五条と夏油から話があるってさーー!!!」

 

 

 

声をかければ、それに気づいてくれたのか笑顔で2人が走ってきてくれる。これは大切な話だ、五条と夏油の覚悟、その馬鹿さ加減を教えてくれた…私は1歩退いて、それを見るだけにとどめる。

 

 

夏油が主軸になって話を進め、そして彼らなりの『天内理子』としての命をどう思っているのかを語る。

 

 

話せば話すほどに黒井と天内の涙の量は増えていき……。

 

 

遂には、2人に飛びついてしまった。

 

 

 

「私っ!もっともっと…みんなと…!みんなと居たいっ!!」

 

 

「任せとけ、天内」

 

 

「任せてくれ、理子ちゃん」

 

 

「「俺達(私達)、最強だから」」

 

 

 

それは奇しくも、護衛任務に向かう途中で五条が語った言葉と同じ…。

 

 

そして、今度こそ互いに確信をもって、告げた言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

我ながら良い生徒を持たせてもらった、あの2人ならこれからの日本の呪術界の中心となって生きていけるだろう。

 

 

 

「おい、透明」

 

 

 

満点だ、アイツらの歩んだ選択は満点のハッピーエンドだ。

 

 

 

 

「最後は、私に」

 

 

 

 

全て羂索の用意した答案用紙の上でだが。

 

 

 

 

「…ごめんな」

 

 

 

ごめん、ごめんなさい、まだ…まだなんだ、まだ私は

 

 

 

『妹紅』

 

 

 

月が見てくれていないから。

 

 

 

「その術式、貰うぞ」

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