リンとともにレセプションルームに到着すると、
そこには四人の少女の姿があった。
「ちょっと待って!みつけた、待ってたわよ!
連邦生徒会長を呼んできて!…うん?隣の方は?」
紺色の髪の少女。
「主席行政官。お待ちしておりました。」
大きな翼をもつ背の高い少女と、その隣に佇む白髪の少女。
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、
今の状況について、納得のいく説明を要求されています。」
そして尖った耳の、眼鏡をかけた少女。
──何かあったようだ。
「あぁ…面倒な人たちに捕まってしまいましたね。」
リンはため息をつきながらその口を開いた。
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。」
「こんな暇そ…大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よくわかっています。今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために…でしょう?」
(…意外と毒吐くなこの子)
そんなことを独りごちながらも、会話の中で挙がったいくつかの単語に思考を走らせる。
(”風紀委員会”に”生徒会”…「学園都市」というだけあって、学園が行政を担っているらしい。)
「そこまでわかっているならなんとかしなさいよ!
数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、
一部が脱走したという情報もありました。」
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています。」
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」
「……。」
矢継ぎ早に投げかけられる抗議にリンは口を噤む。
というか、想像以上に状況は酷いらしい。
(あの時のジグラットを思い出すな…)
思わず遠い目をしてしまう。もっともかの賢王であれば、この状況も造作なく対処してしまうのだろうが。
「こんな状況で、連邦生徒会長は何をしているの?
どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」
「……連邦生徒会長は今、席におりません。
正直に言いますと、行方不明になりました。」
「「「「……!!」」」」
「結論から言うと、『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。」
つまるところ、現在起きている異常事態の原因は、行政の要たる人物の失踪にあるとのだという。
「先ほどまで、認証を迂回できる方法を探していましたが、ようやく光明がみえました。」
「それでは、今は方法があるということですか、
主席行政官?」
「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれる筈です。」
「へ?」
完全に蚊帳の外だと油断していたため、突然の名指しについ間の抜けた声が漏れてしまった。
「「「「「……」」」」
リンの言葉により向けられた視線が怪訝なものに変わっていくのを感じ、慌ててその動揺を取り繕う。
「初めまして、私は藤丸立香。
今日からこのキヴォトスに赴任した先生だよ。」
「あなたが先生?……
私たちとあまり変わらない年齢に見えるけど…。」
――痛いところを突かれてしまった。
英霊は、その全盛期の姿で顕現する。
そして藤丸立香の全盛は、享年である18歳。
青年の姿であり、完全に大人とは言い難い姿であった。
「問題はありません。こちらの藤丸先生は、
連邦生徒会長が特別に指名された方ですから。」
「よろしくね。」
(助かった、ここはリンのフォローに乗っておこう。)
「そしてこの先生は、連邦生徒会長が立ち上げた、
連邦捜査部『シャーレ』という部活の顧問担当として迎えられたのです。」
「『シャーレ』とは、単なる部活ではなく、一種の超法規機関。キヴォトスに存在する全ての生徒たちを制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区における戦闘行為も行うことができます。」
「主席行政官、それは……」
「はい、一組織に与えるには過剰すぎる特権、私もその点については大きな疑問を抱いています。しかし、今は緊急の要件があります。」
「というのも、ここから30㎞ほど離れたシャーレの部室に、連邦生徒会長が遺した、『とあるもの』がありまして。」
「まずは先生を、そこにお連れしなければならないのです。」
そう言って、リンは通信機器をとりだした。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど…。」
『……………………』
「……うん?」
『……………………………』
「ちょっと待っ…『ガチャン』」
会話の内容はよくわからなかったが、
何やらトラブルがあったことが伺える。
「…………」
どうやらお怒りのようだ。
「深呼吸でもする?」
「──大丈夫です。…少々問題が発生しましたが、
ちょうど各学園を代表する、立派そうで暇そうな方々がいるので、私は心強いです。」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。」
「行きましょう。」
随分な物言いではあったが、もはやその怒りを隠そうともしない彼女の凄みに、逆らえるものは居なかった。