死にゲー世界の転生者   作:るるるる

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ゲームスタート

魔王城より遥か彼方のビギンズエンドにて、全ての属性に適性を持つ八重奏者のアマノゾラ・リンネ。そして評価規格外''神聖調伏''を宿しているレイン・シャングリア・ソティラスが出会った。

 

そしてこの二人が出揃ったその瞬間、突如として魔王軍が敗北する確率が0%から1%へと変動した。

 

微差ではあるが、それは''この世界の魔王軍''にとっては余りにも起こり得ない、有り得ない現象であった。

 

ここに至る1000年もの間、どれほど優秀な戦士や魔法使いが生まれてこようとも魔王軍が敗北する確率は不動の0%だった。

それがここに来て、突如驚くべき変化が引き起こったのだ。たったの1%だが、それを無視する事はできないだろう。

 

何故なら、無と有の違いは非常に大きいのだから。

 

つまり彼女達の邂逅によって、この先の未来、魔王軍が倒される可能性が''無''から''有''へと変わったのだ。

 

だがそれを感知した魔王はこの事態を危険視する訳でもなく、寧ろ逆で、狂喜と歓喜に満ち溢れていた。

魔王は待ち望んでいたのだ。自身の幹部を全て打ち倒し、己の前に現れる''本物の勇者''とも言える存在を。

 

魔王の目的はただ一つ。本物の勇者、つまり最強の人類種を己が手で完膚なきまでに叩き潰し、世界によって定められていた''魔王は何れ勇者に打ち倒されるべき者''と言う概念を覆す事である。

その為にいつでも世界を滅ぼせるにも関わらず、未だ人類種は魔王軍によって殲滅されてはいなかったのだ。

 

「ククク…フハハハハハハハッ!!!遂に来たなッ、我が宿敵よ!!フハハハハハハハハハッ!!!!」

 

魔王の笑い声は狂乱の如く響き渡っていた。どこまでもどこまでも恐ろしいほどに。

 

「……魔王様。今宵は随分と楽しそうでございますね」

 

王の傍には、人間離れした美しい容姿を持つ黒髪の女性が佇んでいた。

彼女の名はマリア・ヘルポイズ。魔王城にただ一人だけ存在する人間だ。

 

「フハハ…ん?まあそうだな。なにせ、漸く待ち望んでいた存在が現れたのだからな。そりゃあ気分も上がるであろう?」

 

そんな王の問い掛けに彼女は……。

 

「はぁ…そうですか……それは良かったですね」

 

特に同調するでもなく、どうでも良さげに答えた。

 

それに対し王は特段気分を害すわけでもなく、相変わらずだなと言う風にどこか呆れた顔で彼女に視線を向けていた。

 

「貴様は…少しは魔族らしく振る舞う事は出来んのか?そら、嗤ってみよ。俺が赦す」

「嫌です」

 

真顔で即答する女を冷めた目で見つめながら、かぶりを振る魔王。

 

「遊び心を知らんヤツめ…まあ良い。それより朗報だ。今すぐ魔王軍幹部第一席から第七席までの全員を此処に集めよ」

「はっ、即座に」

 

命令を受け迅速に動く彼女を見届けながら魔王は思った。

 

''それ程の忠誠があるのなら道化位演じろよ''と。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

魔王城最奥の玉座の間にて、魔王の目の前に跪いている二人の存在。

 

一人はドス黒い甲冑を身に纏い、禍々しい魔力を噴出している巨大な騎士。

 

もう一人は長く美しい月夜の様な銀髪と、血潮の様に深く綺麗な、紅き瞳を携えた絶世の美女。

 

「ふむ…俺は幹部連中全員を集めよと命令した筈だが……貴様ら二人だけか?」

 

命令が遂行されなかったことに対する怒りではなく、不思議そうな顔で尋ねる王に対して、どこか不機嫌そうに言葉を発する騎士。

 

「はっ、申し訳ありません魔王様。…何分奴ら、自身の趣味嗜好を満たす為にこの城に常駐していない事も多く……全く不敬な奴らです」

 

彼の名は魔王軍幹部第一席・ゾルディアース。死した者達の王、アンデッドナイトキングの称号を持つ、''死''そのものの具現である。

 

「相変わらず真面目ねぇゾルディアース」

 

そう返すのは数多の吸血鬼の真なる女王。

 

トゥルーヴァンパイアクイーンにして魔王軍幹部第三席・ルナティック・ナイトメア・オメガブラッド。

 

「私達は魔族なのよぉ?それが好き勝手しないでどうするの?ふふふ」

 

「なんだと?」

 

そんな彼女の魔王様を軽視した発言を諌めようとするゾルディアースだったが、当の本人によってそれは中断されてしまった。

 

「フハハハハッ!確かに、ルナの言う通りだ!我々は魔族なのだからなッ!自身の欲の赴くままに行動すればそれで良いのだ!フハハハハハハハハハッ!!!!珍しく良い事を言うではないか、ルナよ!」

 

そう楽しげに話す魔王を恍惚とした表情で見つめるルナティックと、困った様に佇むゾルディアース。

 

そしてその状況を冷めた目で一瞥するマリア。

 

魔王城の最奥は、割と楽しそうだった。

 

「光栄ですわ♪魔王様♪」

「魔王様……」

 

ルンルンしているルナティックとは対照的に、『本当にそれで宜しいのですか?』と視線に乗せて諫言しているゾルディアース。

 

そんな真面目な騎士を見て王は……。

 

「まあそんな目で見るなゾルディアよ。……有事の際にもこれであるなら、俺とて流石に罰を下すさ。

だが今はそうではない。……分かるな?」

 

「……無論、承知しております。差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした」

 

不敬であるなら罰を受けることさえ厭わない。

 

そう事態を重く見ているゾルディアとは別に、王はあくまで軽かった。

 

「良い良い。貴様の様な真面目な部下は中々得難い貴重な存在だ。特に、魔族の中ではな。

 ……その心根を見込んで、お前には勇者と最も最初に戦う''第一席''を授けたのだ。これからも頼むぞ?ゾルディアース」

 

「ッ……ハッ、このゾルディアース、魔王様の為に全てを捧げる事を此処に誓います!!」

 

騎士の誓い。それは決して破ってはならぬ命の誓約。

 

善なる騎士も悪なる騎士も、そこだけは揺らぐ事はない。

 

改めて偉大な魔王様に忠誠を誓う彼を見てその場にいる三人は……。

 

「……相変わらず重いな貴様は」

「相変わらず重いわねぇゾルディアは」

「………おっも」

 

割と引いていた。

 

因みに上から魔王、ルナ、マリアである。

 

「騎士としては当然だと思うのだがッ!?魔王様まで何を仰られるのですか!」

 

対等な立場であるルナティックやマリアはともかく、敬愛する魔王様にまでドン引かれてゾルディアは結構ショックを受けていた。

 

「フハハっ、すまんな。ジョークだジョーク、その忠義は有り難く思うぞゾルディアース」

「ま、魔王様……!!」

 

王の言葉に一々大袈裟に反応するゾルディアを『バカねぇ……』と思いながら見ているルナティック。

マリアに関しては言うまでもない。

 

「……さて、ではそろそろ本題に入ろうか」

 

弛緩していた空気が、魔王のその一言で一気に緊迫したものとなる。

 

それは今まで何処か軽かったルナティックとマリアが、即座にその場に跪いた事から伝わってくる。

 

魔王が、口を開いた。

 

「遠い地に、俺を倒し得る可能性を秘めた幼子が一人…いや二人か?が現れた」

 

「なっ!?それは真でございますか!?」

 

信じ難い王の言葉に、思わず冷静さを忘れて立ち上がり、詰問するゾルディアース。

態度には出さなかったものの、ルナティックとてそれは同じ。

 

''魔王様が倒されるなんて有り得ない''

 

それは魔王軍にとっての共通認識だからだ。

 

だからこそ、魔王様の言葉が信じられなかった。

 

「で、では…我々が集められた理由は成長しきる前に其奴らを狩ってこいと……ッ!?」

 

硬直していたルナティックとは違い、王に言葉を投げ掛け続けていたゾルディアの身体が、突如発された凄まじい殺気により固まる。

 

王の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

王は一言、こう言った。

 

「抜かせ」

 

これは不味い、長い付き合いだからこそ分かる。王は今本気でキレていると。

このままでは何が起こるか分からない。下手をすればこの場で全員殺されてしまう。

魔王様のお役に立てず死ぬ事などあってはならない。

 

そう判断したゾルディアースは即座に首を垂れてその場につくばった。

 

「も、申し訳ありませんッ!私としたことが魔王様の意にそぐわぬ事を口にしてしまって……!!」

 

人の子が踏み入れば一瞬で精神を破壊されるかの様な殺気に満ちた空間が数秒続いたが、暫くするとそれも霧散し王の怒りは鎮まった。

 

「……一度は赦す。だが二度はないぞ?分かっているな?ゾルディアース」 

 

「ハッ!至らぬこの身に過ぎたご厚情、感謝いたします」

 

反論したが最後、その瞬間自身の首は彼の王によって刎ねられるのだろう。

彼は、魔王なのだから。

 

「ふん…では話を戻すが、奴らが育ち切るまで大凡7〜8年は掛かるだろう。故に、それまで手を出す事は俺が許さん。

 ……彼奴らこそ、俺が待ち望んでいた本物の勇者だ。そんな勇者をこの魔王城にて俺手ずから葬り去る。

 ……それで漸く、この下らん呪縛からも解き放たれると言う訳だ。……まあ、俺の元に辿り着くまでに我が幹部に殺られたらそれはそれだ。……その時こそ、人類種はこの世から消えて無くなるだろうな」

 

そう語る魔王の顔はずっと欲しかった玩具が手に入ったかの様な、嬉しそうで楽しそうな物だった。

 

「マリア。俺が今此処で語った事を、他の幹部連中にも伝えておけ。……件の女二人の人相描きと名前もな」

「はい。分かりました。魔王様」

 

王の逆鱗に触れても、マリア・ヘルポイズはいつも通りだった。

彼女にとっては殺気も恐怖も関係なく、ただ魔王様に尽くす、それだけが生きる原動力だったからだ。

 

王はルナティックとゾルディアースの畏怖の視線を受けながらも、何処か遠い''ナニカ''に向けて宣言した。

 

「さあ、ゲーム開始(スタート)だ。……アマノゾラリンネ」

 

そう呟く彼の顔は悍ましい程に歪んでいた。

 

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