Fate/parallel singular   作:暁桃源郷

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召喚

 日本の何処かにあるとある街、夏水市。

 その街でちょっとした賑わいを見せるアーケードの一角にある人形浄瑠璃の舞台座でちょうど上演が終わったのか出入り口は人でごった返している。

 

「中々面白かった」

 

 舞台座の入り口に貼られたポスターを眺めながら、俺こと安原真はこともな気に呟いた。

 

 今日、行われた演目は和歌山が舞台の安珍清姫伝説と言う話だ。

 安珍と言う旅の若い僧侶が止めて貰った家の娘清姫に迫られ参拝が終われば帰ると言う約束をしたものの帰って来ず、騙されたと気付いた清姫が怒り狂い龍となって鐘に隠れた安珍を焼き殺してしまうお話だ。

 

 本当、女は怖いなぁ。

 何て肩を窄めながら思っていると目先にキレイなお姉さんが飛び込んで来る。

 俺は急いでお姉さんに近付いて話しかける。

 

「お姉さん、良かった俺とお茶しませんか」

「結構ですぅ」

 

 俺の誘いに心底鬱陶しそうに断って足早に去るお姉さん。

 男は潔い方がモテる。

 そんな哲学を持つ俺はそうそうにお姉さんを諦めて逆の方へと歩き出す。

 

 今日は日曜日だ。やるべき課題はやってあるし、特段冷蔵庫の中身が無いなんて事も無かったので暇潰しに人形浄瑠璃を見に来ていたのだ。

 

 さて、アーケードを出てしばらく家に向かって時折店にふらっと入りながら歩いていれば、気付けば辺りは暗くなり始める。

 この辺りは住宅街ではあるが山が近く該当も少ない。下手をすれば一寸先は闇なんて状況の場所もある。

 それでも俺は軽い足取りで道を進む。

 何度も通った道だ。今更怖気付く事もない。

 

 その山の山頂には一つの大きな武家屋敷がある。そこの家主が山の持ち主で、山を石垣に準えてその武家屋敷を遠坂城ともこの辺りの住民からは呼ばれている。

 

 ………俺の家でもあるあの武家屋敷が、だ。

 

「ただいま戻りました」

 

 山を登りきって屋敷の中へと入りながら帰りのは挨拶をする。

 勿論建物の中に入る人達に聞こえることもなく、挨拶なんて帰ってくるはずもない。

 

 俺は門と玄関が一直線に繋がった石畳を進む事なく、中庭の方へと足を運ぶ。

 中庭には鯉が数匹泳いでいる大きな池があり、真ん中にある柳の木が生えた小さな島を繋ぐように石橋が左右にかけられている。

 

 その池を挟んだ縁側の向こう側には一つの古びた離れが存在する。

 そいつこそが俺の我が家だ。

 

「ただいま〜」

 

 離れの鍵を開けてそう言っても、返してくれる人は誰もいない。

 

 ………つくづく寂しい人生だなぁ。

 

 目尻に涙を浮かべながら離れの電気を付けて、作り置きしておいたカレーを更に盛り付けてレンジにぶち込む。

 後は風呂の用意をしようと足を動かした時だった。

 

 プルルルルル

 

 離れ中に電話がけたたましく鳴り響く。

 玄関の電話台にある二つの電話を見る。

 

 内線電話?

 

 どうやらなっているのは内線電話の方であり、俺に用があるのは母屋の人間らしい。

 

「………もしもし?」

 

 落ち着いて受話器を取れば、受話器の向こうから胡散臭そうな男の声が聞こえてくる。

 

『例の儀式の準備が完了してございます。マスターがお呼びですので早急に。いつでも儀式は始められます故』

 

 ガチャりと一方的に要件を語り一方的に電話を切る本当に失礼な男。

 とは言え、この屋敷の家主が俺を呼んでいるのなら赴かない訳には行かない。

 

「カレーは………温め直しだな、こりゃ」

 

 カレーをお預けされたのは口惜しいが、とにかく今は母屋へと赴く。

 

 名前からして察せると思うが、俺はこの家の人間と血が繋がってはいない。父と母が交通事故で死に、引き取り手のなかったら俺にこの家の家主が手を差し伸べてくれたのだ。

 

 しかし、ただ俺を引き取っただけでは無かった。

 この家に来て初めに教えられたのは、この家はどうやら魔術の家柄らしく、俺を引き取ったのは家が十世紀ほど続く魔術師の家系だからと言う。

 

 正直、そこら辺は俺にとったらどうでもいい。

 この家は路頭に迷いそうだった俺を引き取ってくれた命の恩人だ。その恩に報いるために今の俺がある。

 

「真、ただいま到着いたしました」

 

 母屋で一番大きな部屋である、当主の間の前で正座をしながら声を掛ける。

 

「入りなさい」

「失礼します」

 

 すると、年季の入った女性の入った声が聞こえて俺は襖を開ける。

 

 部屋の奥に目を向ければ、ポツンと机が置いてあり、そこに女性、遠坂速子が座っている。

 

「………ついにこの時が来ました」

 

 俺が彼女の前に座るや否や、不意に彼女が喋り出した。

 

「聖杯戦争………。勿論、知っていますね?」

「はい」

 

 あらゆる願いを叶えるとされる万能の願望機、聖杯の所有をめぐり、七人の魔術師と七人のサーヴァントと呼ばれる英霊達が争う儀式。それが聖杯戦争だ。

 

「私、娘、そして貴方の右手の甲に刻まれた呪印。それは聖杯に選ばれた者の証。我々は聖杯戦争への参加権を得たのです」

 

 右手に浮かぶ赤い三画の印。サーヴァントを使役するマスターの証であるそれをチラッと見ながら、俺は頭を縦に振る。

 

「既に奥様とお嬢様のサーヴァントのサーヴァントの召喚に成功されていると言うのに、私の未熟故お手数をお掛けして申し訳ありません」

 

 頭を深々と下げならがら謝罪する。

 

「構いません。我々は勝たなければなりません。その為の手間をどうして惜しめましょうか」

 

 慈愛ある声で喋る彼女に少しだけ胸が軽くなる。

 

「元よりこの命は奥様に拾って貰った物。命に変えても、勝利を遠坂家次期当主の手に」

「フフ、期待していますよ」

 

 話も終わり、俺は一礼して部屋を出る。

 するとそこに居たのは二百はあるだろう高身長で、ガタイもいい白黒の髪をした男。

 

「………何の用だ、キャスター」

「これは真殿。そうツンケンしないで頂きたく。拙僧マスターより案内を仰せつかった人畜無害なサーヴァントなれば」

「どうだか」

 

 俺はキャスターに外方を向きながらサーヴァントを召喚する為の儀式の場所へと歩を進める。

 

 俺の記憶が正しければ、遠坂家で真っ先に召喚されたのはコイツ。キャスターだった。

 真名は知らないが、いつの間にか奥様が召喚されたらしい。

 

 ところで、サーヴァントは人類史に名を残す英霊である為、本来ならば使い魔にするには手に余る存在だ。

 だからこそ、憑依する器としてそれぞれの能力や逸話に応じて七つに分けられる。

 

 騎士のサーヴァント、セイバー。

 弓兵のサーヴァント、アーチャー。

 槍兵のサーヴァント、ランサー。

 騎兵のサーヴァント、ライダー。

 魔術師のサーヴァント、キャスター。

 暗殺者のサーヴァント、アサシン。

 狂戦士のサーヴァント、バーサーカー。

 

 遠坂の陣営が現在従えているサーヴァントはセイバーとキャスター。

 他のマスターがどのサーヴァントを使役しているかまだ不明であるから、可能性としてアーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、バーサーカーの誰かとなる。

 

 どのサーヴァントが来てくれるのか、胸を踊らせながら儀式場所である今へと辿り着く。

 

「あ、やっと来ましたね先輩」

 

 そこには着物姿で凛々しく座る黒髪長髪の少女の姿があった。

 彼女こそが、遠坂家次期当主遠坂紅葉その人であり、セイバーのマスターだ。

 

「………お嬢様。あまり俺を先輩と呼ぶのはどうかと思います」

「先輩も、お嬢様はやめてください。戸籍上は兄妹なんですから」

 

 互いに軽口を言い合いながら、俺は準備が終わった召喚陣へと目を移す。

 

「キャスター、触媒は?」

「こちらに」

 

 後ろでンンン、笑いながら差し出してきたのはガラス瓶に入った赤い液体。

 俺はその液体の入った瓶を手に取って召喚陣に撒き散らす。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する。――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 魔法陣が輝き出して部屋に光が満ちる。

 

 その光が収まり、中から出てきた()()に俺は目を疑った。

 

 ………あぁ。これは運命なのかもしれない。

 

 何故そう思ったのか、俺にはてんで分からなかったが、少なくともお嬢様と同じように着物が似合うかのお姫様が俺のサーヴァントである事は間違いない事実なのであった。

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