ふと目が覚める。まず感じたのは光だった。…眩しい。そう思いつつ辺りを見回す。木、木、木。どうやら森?の中に居るらしい。意識を失う前までの記憶を掘り起こす。何時も通り起きて、そして朝の準備。そして家を出た。其処までは覚えている。しかしそれ以降の記憶が曖昧だ。
「…取り敢えずは…か」
何処かは分からない。だが森の中でウロウロしているのは危険だろう。なので森を抜ける。それを当面の目標として自分は行動を開始した。
歩く。歩く。今歩いている道が森を抜ける道かは分からない。とはいえ勘以外に頼るものは無し。なのでテクテク歩いていくしかない。何の道しるべすらなくてもだ。そうして1時間ほど歩いただろうか、目の前に光が見えてきた。どうやら自分の勘も馬鹿には出来ないようだ。
「草原…?」
森を抜けたかと思えば、其処は辺り一面草だらけ。森はまだしも、自分が住んでいた場所には草原はなかった。知らない場所へと飛ばされたのか?普通ならばあり得ない想像だが、此処まで見た事がない景色ばかりだ。森を散策している途中、カラフルな植物も見つけた。あんな虹色に光る植物は初めて見る。まあ単純に、自身が無学なだけなのかもしれないが。
「また歩くしかないか…」
何にしろ、寝床は欲しい。だだっ広い草原で大の字に寝れるほど、自分の神経は図太くはないのだ。先程まで歩きっぱなしなのに、更に歩く事になった。流石に憂鬱だ。だが動けるうちに動かなければ、いざという時に困るだろう。なので今は我慢。
「お?」
そうして歩く事数時間。何やら村らしき光景が見えてくる。数キロくらい先だが、人が歩いているのを見かけた。
「ん?あんたは?」
「すまない…此処は何処だろうか?」
「ああ…旅の人かい?」
「いや、そういう訳では─」
村の中へと入る。すると目の前を通った老婆へと声を掛けた。見かけない顔に不思議そうな表情を浮かべる老婆。話していくと、自分も事を旅人と勘違いしたのか、泊まれそうな場所を紹介してくれる。旅人ではないのだが…そうは思ったが、寝床を探していたのは事実。自分は老婆へと礼を言うと、紹介された宿屋へと足を運ぶのだった。
「いらっしゃいませー!」
宿屋の中に入る。すると看板娘なのだろうか。年若い少女が受付をしている。空き部屋はあるか。そう彼女へと尋ねた。気になる事は沢山あるが、今は休める所が欲しい。すると少女は目録に目を通した。
「はい、大丈夫です!」
良かった…これで外で寝るという最悪の自体は─
「あの…何ですか、これ?」
……どうやら自分の持っていた通貨は使えないらしい。海外にでも飛ばされたのか?
「次は──を掃除して!」
「分かった」
金がない。これでは宿屋に泊まる事は出来ない。そう嘆いていると、少女…いや今は雇い主様か。ユーリカは自分に働く事を対価に、最低限の部屋を用意すると持ちかけた。渡りに船。そんな言葉が頭を過る。しかし自分でいうのもの何だが、何処の誰かも分からない奴を雇っていいのか?
「…今は人が居ないからね」
ユーリカの顔に影がかかる。訳あり、という訳か。此処で何日か過ごしているが、自分とユーリカ以外の従業員を見なかった。つまり、この宿屋はユーリカ1人で切り盛りしているという事になる。親はどうしたと聞こうと思ったが、
「・・・」
(…成る程…そういう事か…)
時折悲しそうに写真を見つめるユーリカを見て、大体の事は察した。とはいえ自分もいきなり知らない場所へと飛ばされた身。可哀想だとは思うが、今は自分の事で精一杯だ。…せめて自分が此処に居る間くらいはしっかりと働こう。
そうして幾日かが経った。宿屋が仕事がない時、自分は村を散策する。此処が何処なのか。村人達に聞いて回るが…
「知らない単語ばかりだ…」
王国やら帝国やら。自分が住んでいた場所では聞き馴染みのない言葉ばかり飛び出てくる。訳が分からない…此処は日本…もしくは外国辺りではないのか?王国の名前も、帝国の名前も、聞いた事がないものばかりだ。
はぁ…と溜息を1つ。謎に解決するかと思えば逆に増える。調査の結果は芳しくない。一体何時になったら、自分は我が家へと帰れるのか。そう思いながらも今の家である宿屋へと向かう。
ん?と違和感を覚えた。何やら騒がしい。扉を開ける前から怒鳴り声が聞こえるのだ。何事かと思い扉を開けようとする。しかしその前に扉は生雄開かれた。
「じゃあな!ユーリカちゃんよ!」
「次が最後だからなぁ!」
体中にキラキラとした宝石を身に纏う、筋肉質な男達が出てきた。扉を開けた時にぶつかった自分に詫びすら言わず、ズカズカと去って行った。感じの悪い奴らだ。そう思いつつ宿屋の中に入ると、
「くぅ……!うぅ…っ…!」
「ユーリカ!?」
「!あ、あんた……帰ってきたのね…」
「……何があった?」
「…あんたには関係のない事よ」
荒らされた宿屋の内装。見れば宿屋の金庫も荒らされている。中身はすっからかんだ。流石にこれを見過ごすほど、自分も薄情ではない。何があったかユーリカに聞くが、彼女は頑なに話そうとはしない。
「…片づけ手伝って」
「…分かった」
涙の跡を拭いながら、ユーリカは自分へと命令した。ユーリカからは聞けそうにない…か。その後、宿屋の掃除を行い、ユーリカから食料を受け取ると、自分は空き部屋へと足を運んだのだ。
(何かはある…しかしユーリカは話さない…)
ならば村の人々へと聞くだけだ。これだけ派手にやらかしていれば、噂の1つ2つはあるだろう。ユーリカに出かけてくると伝えると、自分は夜の村へと消えていった。
お父さんとお母さんの忘れ形見。それがこの宿屋だ。私がまだ幼い頃に2人は居なくなっちゃったけど、それでも支えてくれる人達が居たから、何とか今までこの宿屋を続けていく事が出来た。寂しくはあった。だけどこの宿屋があるうちは、お父さんとお母さんが見守ってくれてる気がして、何とか耐える事が出来た。だからこの宿屋は大切な宝物。私に生きる勇気をくれる目標なのだ。
「立ち退け」
それが崩れ始めたのは、あいつ等が来てからだった。横柄に命令するガーシュ。この村を管理する貴族様だ。そしてその横に居る、護衛決闘者のハルバ。勿論最初は反対した。私の宝物をこんな奴らに渡す事など認めらないから。私以外の従業員も協力してくれた。だから大丈夫だと思ってた。あの日までは、
「…辞めます」
「え…?」
古株の従業員が宿屋を出て行った。何かあったのかと聞いたが、彼は答えてはくれなかった。その後からだ。1人また1人と、私の宿屋から従業員が居なくなったのは。そうして残ったのは私1人だけ。沢山居た従業員が居なくなり、1人だけの寂しい宿屋へと私達の宿屋は姿を変えた。
「随分と寂しいなったな〜」
「あ、あんたは…!?」
ニヤニヤとした表情を浮かべ、私の宿屋へと入り込むガーシュ。そのニヤけた面に私は全てを理解した。怒りがこみ上げる。私はその怒りに身を任せてガーシュへと勝負を吹っ掛けた。
「う…そ……」
「LP0。お前の負けだな、ユーリカちゃんよ?」
ハルバを代理として、ガーシュは私の挑戦を受けた。勝てると思ってた。だけどハルバのデッキに私は成すすべもなく負けるのだった。LPを1ポイントも削る事すら出来ずに。
「つーわけで、ユーリカちゃんの宿屋はうちのもんな?」
「くっ……!!」
決闘で決められたルールは絶対。これは国王ですら逃れられない世界のルールだ。私は怒りに身を任せて、大切な宝物を担保に掛けてしまった。涙が出る。自分の浅はかさに。自分の弱さに。
「じゃあな!ユーリカちゃんよ!」
「次が最後だからなぁ!」
私はこの日。全てを失ったのだ。
「成る程な」
自分が居ないうちに起きていた出来事を聞いた。一部始終見ていたらしく、漏れ聞こえた言葉等も話してくれた。自分はその村人にお礼として酒を振る舞うと、その場を後にする。ユーリカには一宿一飯。いやそれ以上か、沢山の恩がある。ならばその恩に報いる時なのだろう。
「お前がガーシュか?」
「何だ貴様は?」
ガーシュの屋敷に忍び込む。そして奴の目の前に立った。近くには護衛のハルバが居る。ハルバはガーシュの近くに寄り添うと、自分へと警戒の目線を向けた。
「おい、
「はあ?何言ってんだお前?」
「勿論ただでとは言わないさ、これを俺は担保として出す」
「ん?……!?そ、それは!!?」
「あ、あり得ない!!何故そのカードを!?」
懐からあるカードを取り出す。良かった。どうやらこのカードは自分の常識と同じく、激レアのカードとして認識されているようだ。
ブラックマジシャン。レベル7の効果を持たないカード。しかしそのプレミア価格は億でもまだ足りぬ。これをチラつかせると、ガーシュは目の色を変えて自分の話を聞く気になった。
「…何が欲しい?」
「ユーリカの宿屋」
「ぶっ!?ハハハ!!あんな小娘の為にそのカードを出すか!馬鹿な男だな!!」
「それで?やるのか?やらないのか?」
「ハルバ」
「畏まりました。」
交渉は成立だ。後は決闘で蹴りをつけるのみ。自分はガーシュの屋敷から去るのだった。
「あ、あんた!!あいつと決闘するって本当なの!?」
「噂は早いな」
「む、無理よ…!ハルバ…あいつには勝てないのよ!?何で其処まで…!!」
「お前には恩がある。それだけだ」
ユーリカはその言葉に目を見開いた。ただ住む場所を提供しただけだ。なのにこの男はそれだけで自分の為に戦ってくれるのか?
「時間だ、じゃあな」
「あ…」
去りゆく背中に何かを言おうとした。しかし言葉が上手く出ず、ユーリカは黙る事しか出来なかった。
「これより、ハルバ様とチャレンジーの決闘を行う!!」
『うおおおおお!!!』
自分で逃げないよう、代々的に決闘を行うらしい。それほどまでにブラックマジシャンを手に入れたいようだ。ガーシュは。
「チャレンジーの要求はユーリカの宿屋!そしてその要求に応える為に用意した物は、な、何と!あのブラックマジシャンだーー!!!」
『な!!?』
まさかそんな激レアのカードが担保として出されているとは思わなかったのだろう。観衆は驚きの声を上げた。
(ブラックマジシャン!?わ、私でも知ってるカードじゃない!?)
何でそんなカードまで出して自分を助けてくれるのか、ユーリカには理解出来なかった。そんなユーリカの動揺を余所に、とうとう決闘のゴングが鳴ったのだ。
「決闘開始ぃぃぃ!!!」
『
ハルバ LP4000
チャレンジー LP4000
審判の宣言に応え、両者共に掛け声を出した。先行はハルバ。デッキからカードを一枚抜き取る。
(ふっ…勝ったな…!)
自分の手札にはエースモンスタを呼び出す為のカードが並んでいる。ハルバはニヤリと笑うと、この決闘の勝利を確信するのだった。
「俺は手札から魔法カード融合を発動!」
(…チェーンは出来ないか)
自分の手札には融合を防ぐカードはない。なのでハルバの融合を見逃すしかない。
「手札にあるビッグ・コアラ!デス・カンガルーを素材とし、融合召喚!現われろ、マスター・オブ・
マスター・オブ・OZ レベル9
攻撃力 4200
守備力 3700
『こ、攻撃力4200!?』
効果はないが、その攻撃力は凄まじいの一言。観衆は見た事もないその攻撃力の高さに腰を抜かした。
(で、出た…あのモンスターに私は……)
マスター・オブ・OZに完膚なきまでぶちのめされたのを思い出し、ユーリカは体を震わせた。あのモンスターが出る前なら…そんな淡い期待を抱いていたが、最早それも叶いそうにない。
(…でも、ありがとうね……あんた…)
最後まで自分の為に戦ってくれた。それだけでもユーリカは嬉しかった。
「へへ!サレンダーするなら今のうちだぜ?」
「…さっさとターンを進めろ」
「…けっ!いけすかねぇ野郎だぜ!俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!ほら!お前のターンだぜ!」
(まあ…次のターンで終わりだがな!)
伏せたカードは奈落の落とし穴だ。モンスターを召喚してもこれで対処出来る。そうすれば次のターンで終わりだ。ハルバはニヤニヤとその時から待ち続けた。
「俺のターン。ドロー!……先ずはその罠を消すか。ハーピィの羽箒を発動!」
「なにぃ!?」
ハーピィの羽箒
通常魔法
相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。
(奈落の落とし穴か)
掃除は大事だ。一枚の伏せカードと侮ってはいけない。ハルバは伏せた罠を破られ、悔しげな表情を浮かべる。だがこのターンで自分のエースモンスターを超える攻撃力を持つモンスターを出すのは不可能だ。未だハルバの余裕は崩れない。
「俺は手札から
攻撃力 1600
守備力 800
(
知らないモンスターに眉を顰めるハルバだが、自分のモンスターに遠く及ばない攻撃力を見て、ただの雑魚モンスターと判断した。
「この瞬間!手札から
「ちっ…!雑魚モンスターばかり増やしやがって!」
「そして、自分フィールドにサイファーモンスターが存在する場合、このカードは特殊召喚出来る!現われろ!
攻撃力 1000
守備力 2000
攻撃力 1400
守備力 1200
『おお!!何か分かんねーけどすげぇ!!』
(1ターンでモンスターを3体特殊召喚だと!?馬鹿な!有り得ない!!)
「す、凄い…あんなに沢山……で、でも…」
怒涛の連続召喚にギャラリーが湧く。しかしモンスターの攻撃力は低い。これではただ肉壁を増やしただけだ。ハルバも驚きはしたが、全員薙ぎ払えば良いと展開された3体のモンスターを甘く見ていた。だが、
「
「これで同じレベルのモンスターが揃った!」
「チッ!だからなんだって言うんだよ!!レベルを上げた所で雑魚は雑魚!俺のモンスターには勝てねえぜ!」
「それはどうかな?」
「なにぃ?」
苛立つハルバ。自分はハルバへと不敵な笑みを浮かべると、ある召喚方法を唱えた。
「俺はレベル8の
「な、何だ!?エ、エクシーズ召喚!?そんなもの聞いた事ねぇぞ!?」
2体のモンスターが光の塊になる。そして渦巻く地面の中へと消えていった。そして眩い光が辺りを照らす。其処に現れたのは…
「エクシーズ召喚!ランク8!
攻撃力 3000
守備力 2500
「綺麗……」
星空の光を想わせる光輝くドラゴン。その幻想的な姿に誰もが目を奪われたのか、言葉1つ発しなかった。
「ハッ!だ、だが!テメェのモンスターは攻撃力3000!俺のモンスターには及ばねえぜ!!」
「焦るなよ」
「ま、まだ何かあるのか…?」
「その通り。
|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》ランク9
攻撃力 3200
守備力 2800
「ま、まだ─」
「先に言っておく。このモンスターには効果がある」
「──ッ!?」
「オーバーレイユニットを1つ取り除き、効果発動!1ターンに一度、エクシーズ素材を取り除く事により、フィールドのカード一枚を対象として発動出来る。そのカードを破壊する!」
カードの破壊。それが意味する事を理解したハルバは顔を青褪めさせる。指差したカードは勿論、ハルバのエースモンスターであるマスター・オブ・
「う、うわあああああ!!!」
自分のエースモンスタを容易く屠った
「バトル!2体のモンスターでダイレクトアタック!!」
「ぐわあああああ!!!!」
ハルバLP4000→0
「…しょ、勝者チャレンジー!!」
『う、うおおおお!!!すげぇえええ!!!』
「ば、馬鹿な…ハルバがやられただと…!?し、しかも1ターンで…!」
「か、勝った…!」
驚き、愕然、喜びあらゆる感情がこの決闘場に渦巻く。ユーリカは彼の下まで走り寄ると慌ただしく話し掛けた。
「い、今の何したの!?」
「何って…ただエクシーズ召喚しただけだぞ?」
これは異世界に迷い込んだある決闘者のお話。
最後はこの言葉で締めたかった。ていうかこの言葉を思いついたから書いた。異世界のカードプールは遊戯王GXくらいかな?